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変人の巣窟

「まあ。当主の選考基準はいつも、どこかおかしいんだよ。凡人には無理‥とかなんじゃない? おかしいっていえば‥今みたいに選考になる前は、本家の世襲制みたいだったけど、初めて選考が導入された時は、その時の当主の魔性の息子の色仕掛けに唯一耐えられた人がなったみたいだよ」

 和彦のにわかには信じがたい発言に

「‥色仕掛け? 魔性の息子? 」

 森本が眉をしかめた。

 ‥何それ怖い。

(※因みに、四朗の事。しかも‥伝わり方がちょっと間違ってる)

「それまでは夫婦でしていた当主業を廃止して、今の様に職員って形をとる様にしたのもその時が初めだったらしいしね」

 森本に頷いて、和彦が言葉を続けた。

「当主の息子が選考の手助けをしたってこと‥? その息子が後を継いだわけではなかったんだね。しかも、それまで世襲だったのに、その息子が継げってことにはならなかったのかな? 魔性の息子ってことは‥何か素行に問題があったってこと? 」

 和彦に、宮田が首を傾げた。

 自分もそれを聞いた時はそう思った。と和彦が宮田に同意した。

「そういう意味では無いらしい。言葉の通りだよ‥、魔性の美しさを持つ息子‥だったらしい。その息子が一人息子でありながら西遠寺を継がなかったのは、西遠寺側の一方的な事情により夫婦の婚姻を解除することを承諾するにあたって、旦那さん側の家族が出した『条件』だったらしい。桜さん‥ああ、その当主の名前は桜さんって言ったんだけど‥を西遠寺に返すことは承知しますが、大事な跡取りである子供の親権はこちらが持ちますって」

「ん? 婚姻の解除? 西遠寺側の事情って? 」

 森本が首を傾げる。

「ああ、不幸が続き後継者候補が彼女以外に居なくなったらしいね。それで、西遠寺が急遽、唯一残った彼女を迎えに来たというわけらしい。当主は、‥西遠寺で教育を受けたものしか務まらないからね」

 それはそうだろう。西遠寺の当主なんて誰にでも務まるものでは無い。‥としても、なぜ離婚する必要があったのだろうか?

 森本はそこら辺が引っかかった。

「旦那さんの方が西遠寺に入り婿に入ってはくれなかったんですね」

 さっきも、大事な跡取りって言ってたし。

 首を捻りながら気になったことを尋ねると、

「そう言うことになるね」

 和彦が頷いた。

「西遠寺にそんなに強く言えるっていうことは‥お相手の家も結構な名家だったってわけですかね」

 森本はさっきから、疑問がいっぱいという顔をしている。

 だけど、宮田の方は、そういう事情については森本程興味がないらしく、森本と和彦の話を「へえ」と相槌を打ちながら聞いているだけだった。

「いや、それは桜さんの希望も大きかったみたいだよ。せめて子供だけでも愛する男性の家の跡取りにしたい‥って。その為だけにこの子を今まで育てて来たからって。桜さんは、西遠寺に戻っても再婚をすることもなく生涯独身のままだったようだね」

「悲しいですね。じゃあ男性の方も‥」

 ほう、

 森本がため息をつく。「なんか分かる気がする」って呟いたが、宮田は別にそれもどうでもよかった。

 つまり、何でもかんでも西遠寺の言いなりにはならないぞ、今まで自分のことなんて放って来たくせに、どういう面下げて迎えに来たねん。せめて、これ位の我儘は通してやる!! 桜さんの意地って奴だね。それこそ「分かる」だよ。

 宮田の自分なりの解釈だが、間違ってはいないと思っている。(※あくまで宮田の解釈です)

「男性の方もそれ以降再婚しなかったんでしょうかね」

 何かのドラマを見る様な目をして、森本がすこしうっとりとした顔をした。

「さあねえ。それは‥知らない」

 さして興味もなさそうに和彦が答えた。

 まあ。ぶっちゃけ、興味はない。それは、宮田にも言えた。

 ロマンを全く解すことのない和彦と宮田には、桜がどれ程四朗父を愛しており、四朗をどれ程臣霊としか見ていなかったってことなんて、想像すらできない。

 寧ろ宮田には

「それで‥その息子をなんで西遠寺の選考の際に連れて来たんだろう‥。それって、よくわからない」

 それの方が気になる。

 関わらせないって言ったのに自分が連れてきてどうするって思った。

 和彦も頷き

「ああ、「当主のただの戯れ」って言ってたな」

 と言った。

 戯れ、ねえ‥。

 宮田は、「私みたいな凡人には分かりかねますねぇ」ってちょっと馬鹿にした様な顔をした。

 ‥戯れなんかじゃない。戯れって、当時桜は春彦に言ったかもしれない。

 だけど、本当は‥真実はそうじゃない。

 桜が生涯を通して、四朗父を愛していた。それは真実。そして、確かに離婚当時は、桜が愛していたのは四朗父だけで、四朗のことは臣霊としか見ていなかったけど、‥彼女も変わった。

 彼女の息子と接していったことによって、彼女にも思うことはあった。そして箱入り娘だった彼女も成長して人の親になった。‥少しは、四朗のことをただの臣霊としてだけでなく、血をわけた息子として見る様にもなった。‥そして、当時の裏西遠寺から彼の命を守り、親戚中に彼のことを認めさせるために、あの場に呼んだ。

 そして、彼女の息子は桜の期待に応えた。

 実力で、自分を認めさせ、後継者の見極めを手伝った。

 そんなことを知っているのは、桜たちだけで、和彦にも宮田にもそれは一生分かることは無い。

 ‥桜は寧ろ誰にも分からなくてもいいと、思っている。

 それはそうとして、やけに和彦は詳しいし‥

「言ってた? 」

 さっきの言葉が気になった宮田が和彦に確認した。

 和彦が頷く。

「ひい爺さんなんだよ。西遠寺 春彦氏。‥魔性の息子の色仕掛けに唯一耐えられた人」


「へえ‥」

 まさかの身内。

 宮田と森本は驚いて和彦を見た。

「変わった人だったよ。「あの魔性の目は未だにマスターできない」ってよく言ってた。なんでも、目を合わせた者は、すべからく正常な感覚を保てなくなっていた‥て言ってたから。‥どんな呪いだ。邪術師か。って子供心に怖かった。

 因みに、ひい爺さんが無事だったのは、当時ひい爺さんが子供だったからではないかなって言ってた。子供に色仕掛けは効かないよね」

 当時のことを思い出したのだろう。和彦はどこか懐かしそうに、楽しそうに言うとちょっと笑った。

「ってか、子供には色仕掛けを仕掛けないな」

 宮田はちょっと呆れた顔をして、

「やっぱり‥とんでもない素行不良息子ですよね」

 森田は、苦笑いをして

「だから、後継者にって当時の年寄りが強く勧めなかったんですかね。清廉潔白なイメージと真逆にいる感じですもんね」

 言葉を続けた。

「きっとそうだな」

 宮田も納得して頷いた。

 それについては、和彦は、やっぱり自分もそう思ったんだけど、‥ひい爺さんはそんなこと言っていなかったなとも同時に思い出した。

「‥そんな風には言ってなかった気がするんだけどなあ‥ただ、凄い麗人だったって。あと、話術がとんでもなく上手くって、人あしらいの天才だったって。彼には一生敵わなかったって‥。何もかもが完璧で‥人間離れしてたって‥。あ、そう言えば‥ひい爺さんが、「桜様は彼のことを『自分の臣霊』だって言ってた」って「だから、彼に勝てないのはしようがないのよ」って言ってくれたって‥」

 慰めたんだろうが、何て慰め方だ。

 ‥馬鹿にしてるのか?

 生れから違うから、あきらめろってことか? 。

 それにしても、さっきの言葉‥

「臣霊? 」

 森本と宮田が反芻した。

 和彦が森本と宮田の反応を見て、「そうだよな」と納得したように頷く。「気になるよね」って。

 だけど、和彦はここはいったんそのことをスルーして

「あと‥桜さんは、「鏡の秘術」の使い手で、ひい爺さんと一緒に働いていたのが、桜さんの一番弟子だったらしく、「自分も幼いうちから師事できていれば」って悔しそうにつぶやいてた」

 更に、耳になじまない言葉をプラスした。

「鏡の秘術に臣霊‥」

 宮田が眉根を寄せる。馬鹿にしてるのかっていう怒りの顔‥より寧ろ、「胡散臭い」って顔。

 分かる。

 自分も信じてなかった。

 って。

 つい和彦は苦笑いしてしまった。

 あの時‥彰彦が自分に打ち明け話をしてくれるまで、‥自分もひい爺さんの話を全く信じてはいなかった。ひい爺さんには「そうなんですか」って信じた振りをしてたけど、だ。

 ‥ひい爺さんは嘘や冗談なんていう様な人ではなかったのに、だ。

 そして、もう一人、‥彰彦も嘘なんていう子じゃない。

 ‥まさか、彰彦の口からあの言葉を聞くとはねぇ‥。

 そして、まさか、彰彦がその怪しい『鏡の秘術』が使えるとはね‥。

 彰彦はあの時言った


「‥俺の鏡の秘術です」


 って。

 尊君と‥天音ちゃんが『常の人ではないのに』実体があるのは、彰彦の鏡の秘術の為だと。今まで、使えなくなっていたのは、天音ちゃんが術を記憶ごと封印してくれてたからだ、と。

 ‥あの顔は、嘘を言っている顔じゃなかった。‥そして、それはあそこに居た人全員に言えた。

 否、正太郎と房子は何も知らない様だった。

 だから、皆と言っても、尊君と天音ちゃんと、彰彦。あの三人の顔は‥真剣だった。

 そう言われても、‥自分の目で見ても信じられない。

 それ程、天音ちゃんも尊君も普通の人と違わなかった。

 自分に、「そういう能力が全くないから」だろう。

 柳君の研究室から「尊という名前の幽霊」の目撃の報告があった。

 この前会った、どうも只者ではない感じのする楠君は、尊君を「人間ではない、幽霊だ」だと一目で見抜いた。だから、‥能力が彼ほど高ければ、‥分かるようなものなのだろう。

 そして、私が天音ちゃんの話しをしたときの彼の表情‥あの様子だったら、案外それ以上のことを知っているのかもしれない。尊君のことかもしくは、天音ちゃんのことについて、だ。彰彦のことについては、知らないだろう。‥それなら問題はない。

「あるよ。鏡の秘術は。ただの胡散臭い噂でも、子供だましでもない。‥西遠寺の合宿で剣術を学んだ時に「相手の呼吸を読んで、相手と意識をシンクロさせろ」って教わらなかった? あれも、鏡の秘術の一つだよ」

「え‥。そうなんですか? 」

 ‥そんなことを言われても‥あれは苦手で一度として、「相手の意識とシンクロ」出来たことは無い。一緒に習っていた奴が「おお、そう言うことか」って言ったのだって「気のせいだろ」って思ったくらいだ。

 ‥ホントにあるのか? 。鏡の秘術‥。

「魔性の息子の目もそれの一種だろうって、ひい爺さんは言ってた。あと、「あの顔だったから、出来た。平凡な顔した奴じゃ絶対に出来ない」とも言ってた。まあ、鏡の秘術にも通じるなにか催眠状態を利用した‥まあ、やっぱり色仕掛けなんだろう」

 確かに、顔がよっぽどよくなきゃ、目を合わせた相手を催眠術に掛ける程の色仕掛けは無理だよな。

 それは、納得だ。

 宮田は、和彦に見つめられてお願いされて、ポーとなって「いいですよ」って予算を通してしまってた経理課の職員(女性)の顔をふと、思い出した。

 顔がいいってのは、ある意味無敵だよね。


「分かるような分かんない様な」


 首を捻る森本に

「つまり‥当主はいつも変人が成るって話だな」

 何となくゆるく解釈する宮田。

「‥‥‥」

 変人の巣窟の、その中でも当主専属秘書という立派な変人に「変人」と言われる理不尽。 

 ‥言うまい。

 目くそ鼻くそだ。


 つまり、西遠寺は変人の巣窟って話。


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