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七十話


那樹沢が、秘密結社盛運社の日本支部長に激しい暴行を加えている丁度同じ頃。



世界にその名を轟かせている日本を代表する大企業グループ、手野グループ

本社の40階建ての高層ビル最上階にある当主執務室は、重苦しい空気に包まれていた。

この数週間、尚文露店主の無茶という名の牙が手野グループに剥いた。

執務室からは、付近の建物が一望に見渡せたが、尚文露店主の無茶な要求に

対処しなくてはならないため、執務室にいる3人はそれどころではなかった。

心なしか全員が元気がない様に見える。

窓を背にして座る現手野当主は、特にそうした光景を眺める余裕さえなかった。

部屋を快適な温度に保つために天井に設置されたエアコンから乾いた冷気を

吹き出す低い音がしんとした室内に響く。




手野当主は上着を抜いた姿でマホガニーの執務机に両膝をつき、両の手を眉間

辺りで合わせている。

祈るような姿勢のままじっと動かずにいた。

眼鏡の奥の眼はすぜっと閉じられたままだ。

それはついいましがたまで続いた報告が、大企業グループの頂点に立つ人間に

とって、いかに衝撃で深刻なものであったかを知らしめるのに十分な仕草

だった。




「もう一度聞くが、金井塚、尚文さんはさらに臨時戦車修理工場に人員を

増員しろとおっしゃられたのかね」

手野当主はしばらく閉じていた眼をようやく開けると、上目遣いを

金井塚勇露店商担当に固定して静かに尋ねる。

「その通りです。実のところ、まさかここまで戦車修理が多くなるとは

予想だにはしていませんでした。まず第一に、17地区に出現した新種鬼獣の

原因もあると思います。

日本国内でも新種鬼獣が出現については、日本国防軍や在日米軍でも予想は

してはいませんでしたが」

金井塚勇露店商担当は、2度目の質問にそう応えながら、机の上のファイルに

視線を向けながら応える。




「ある国じゃ、自国国内で核兵器を使用する事を予想していなくて、大騒ぎ

だったがな」

手野当主が静かに言う。

「中東戦域ですか」

華尾圭祐戦車修理部長の言葉に、金井塚勇露店商担当は懸念の表情を一瞬だけ

浮かべた。

中東戦域では、鬼獣群へ9700回以上の空爆を行っていた。

しかしそれに関わらず鬼獣群の侵攻は止まらず、中東戦域の防衛軍の苦戦が

続いたため、つい最近核爆弾が使われた。

侵攻速度が停滞したためか、それとも誰かに何かを言われたのか・・・、中東

戦域に地上部隊を派遣するのに慎重だった米国が、ここにいたって大規模の

地上部隊を派遣する動きをみせてきている。




「中東戦域は米軍の介入を受け入れるだろう。もし受け入れを拒否すれば、

露店商、それも尚文さんが直に乗り込むはずだ。

米軍か尚文さんか・・・この2つのどちらかを選べと言われたら米軍の地上部隊

しか選べないだろう」

手野当主が告げる。

「それともう一つの件で、尚文さんから言われた中東戦域から欧州戦域へと後退してくる住民の使い道をどうにかしろと言われているんですが・・・」

金井塚勇露店商担当は、吐息を漏らしながら応える。

「どうにかって・・・」

華尾圭祐戦車修理部長は、貌を引きつりながら告げる。




現状、欧州戦域の各国は中東戦域からの後退住民に対しての支援強化は、

欧州各国が対処できる能力を超えているため、ほとんど出来ない状況だ。

中東戦域から欧州戦域へと後退してきた数は、推定でも約40万人。

特に欧州戦域に向かう後退住民らにとって最大の到着地点のギリシャは、

その急増に苦悩している。

銃器類の購入などを求め、欧州戦域に向かう中東などの後退住民の玄関口に

なっているためだ。

そのギリシャも、資金不足や中規模鬼獣群との交戦を繰り返しているため、

島々は救助人員や受け入れ施設の確保もままならないでいる。

「ならば、何とかしないといけないな」

手野当主は、溜息を短くする。



本年度の更新は、ここまです(W

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