六十九話
トラブルの元凶になっている秘密結社の名は、盛運社。
この秘密結社は、 「グランド・ゼロ」の期間中、怒濤の如く侵略してくる
鬼獣群からアジア大陸の秘密結社構成員が難民と共に、台湾や香港島に
逃げ込んだ。
逃げ込んだ先で、各秘密結社は縄張りを争って血で血を争う凄絶な大虐殺戦を
繰り広げ、その大虐殺戦に勝ち残ったのが、現在尚文露店と対立している
巨大国際暴力組織の盛運社だ。
那樹沢一行は、マンションに入るとエレベーターで目的の階層まで上がった。
その階層のあるドアの前まで来ると、那樹沢は立ち止まりドアを叩く。
しばらくしてドアが開き、荒んだ眼をした褐色に近い中国系の男性が姿を
見せた。
ドアチェーンはかけたままだ。
那樹沢は、何の躊躇も無くドアを使ってチェーンを引き千切ると、驚愕した
中国系の男性の腹に平手を打ち込んだ。
指先が迷彩服姿の急所に入って男性は小さく呻きながら崩れ落ちた。
那樹沢は、崩れ落ちている男性の髪を掴み寝室まで引きずり込んだ。
その寝室には誰もいなかった。
那樹沢は、中国系の男性の股間を容赦なく蹴る。
蹴られた中国系の男性が意識を取り戻すなり、憤怒の表情で掴みかかろうとしてくるが、那樹沢は、無表情で男性の腹に拳を打ち込んでそれを阻止する。
その一撃で、中国系の男性は床に転がった。
那樹沢は、引き起こして顎に蹴りを叩き込む。
「この近辺で商売するなら、尚文露店を通せ」
那樹沢はブロンクス訛の英語で短く告げながら、初めて笑みを浮かべた。
ただ、声に凄みが滲んでいる。
那樹沢に連れられてきた、厳つい男達は黙ってその光景を見ているだけだ。
那樹沢流は、回りくどい調べ方も尋問もしない事を知っているからだろう。
「きさま・・・こんな事をして――――」
口から滴り落ちる血を掌で拭い、あえぎながら英語で言ってくる。
「馬鹿者」
那樹沢の蹴りが男性の腹に入り、中国系の男性は悶絶した。
那樹沢は、向こう臑を蹴って中国系の男性の眼を覚ませる。
「この地域で、尚文商店を通さずに銃器の販売していた売人が情報を吐いた」
那樹沢がそう言うと、厳つい男達の1人がポケットから数枚の写真を取りだし、
それを血を流している男性の眼前に突きつける。
そこには、4人の若い男達の姿が写っている。
写っている全員が、五体満足な姿をしていない。
何かしらの拷問を受けたような、凄惨な状態だ。
「それとおまえ達が、銃器の他に外国人コールガールなどで荒稼ぎ
しているとはな――――そっちこそ覚悟は出来ているんだな?」
那樹沢は、笑みを浮かべたまま、さらに告げる。
「何の問題が――――」
男性が怒気の孕んだ声で応え様としたが、最後まで言わせてはもらえなかった。
なぜなら、那樹沢の足が男性の右頬を強烈に叩いたからだ。
「問題だらけだ」
那樹沢は短く告げながら、今回、尚文からの指示を思い出した。
『とにかく盛運社に日本国内全域での銃器の販売、その他の非合法な商売を
やめさせろ。人死を出しても構わない。必要とあれは現場の判断で幹部も殺せ』
という、シンプルな指示だった。
もちろん、那樹沢は了承したが、 尚文の言う通りにすれば間違いなく戦争に
なる。
圧倒的に勝ち残るのは尚文露店だが、周囲の被害は尋常ではない。
那樹沢は、現場の判断で痛めつける程度に止める事にした。
「今回はこれで済ますが、次は無いと思え。それと、24時間以内に日本国内での商売を即刻中止し、本国へ帰れ。
・・・・もしこのまま商売を続ければ、おまえ達の本拠地の頭上に核弾頭を
搭載した戦略兵器が落とされることを覚悟しろ」
那樹沢は、そう凄みのある声で告げた。
これは単なる脅しではない。




