六十六話
「・・・助けてもらって嬉しいものじゃないんですか?」
彼はそう尋ねながら、行進している異様な追っかけ軍団に視線を向ける。
拡声器越しの怒鳴り声や地鳴りのような爆音などで、この一帯は騒音地獄と
化している。
「一般人は鬼獣の攻勢から助け出されたら歓迎されるけど、アイドルや芸能人
には面子という障害があるからね。
鬼獣からの命と誇りの守り方はシンプルなものさ」
清納はそう応える。
「(この世界の芸能人やアイドルはヤクザか)」
彼はそう思ったが、口には出さずに微妙な表情を浮かべるだけに止める。
「兄ちゃんが店で雇われる前の話だけど、3ヶ月前にあった東北戦区で開催されていた手野芸能に所属する全てのアイドルグループによる音楽イベントの時は、
今の倍以上の追っかけが救援に駆けつけたよ」
清納がそう応えるが、端正な貌を少し顰めている。
「・・・あの格好の追っかけが倍以上ですか」
彼は、その光景を想像して引きつりながら尋ねる。
「そうだよ、僕も臨時で商品運搬とかしたけど・・・詳しく聞きたいかい?」
清納がそう応えてくる。
「いや、ご遠慮しておきます。所で、鷹谷さんは今まで何処に?」
彼は、特に詳しく聞きたくも無かったので、急いで話題を逸らす様に次の
質問をした。
「ん? あー、美樹たんに呼ばれてトラブル処理のお手伝いさ」
清納は、そう応える。
清納が言った美樹とは、この店の女性露店店員の事だ。
那樹沢美樹という女性店員で、何かと彼の面倒を見ている
1人でもあり、その彼女も露店の暗部に関わっている。
那樹沢は、清納が取り仕切っている情報工作部隊の所属であり、その情報工作
部隊の中にある先遣隊に所属している。
彼女の迅速、的確な合法・非合法な手段で情報収集などの支援により、出店地域での目立ったトラブルはほぼ報告はされていない。
「商品のクレームですか?」
彼は、トラブルと聞いてまずそれを思い浮かべたため、そう尋ねた。
「うーん、似たようなものかな。この18地区近隣で個人で重火器類で商売する
には、何かと許可が必要なんだけど、中には怖い者知らずな輩もいてね」
清納が応える。
「・・・・・」
彼はなんと言えば良いのか迷った。
「そんな怖い者知らずな輩は、いろいろとトラブルを巻き起こすからね。
今回も、その輩がトラブルを起こしたからその処理だよ。
・・・まったく、ただシンプルに薬漬けにしたり、全身を切り刻んだりしても
意味がないってことをさ、 兄ちゃんも美樹たんに言ってくれないかな?
僕が何回もやめなさいっと言っても聞かないし、言っても
『あたしだってこんな事はやりたくないし、したくも無い。
ただ、こいつらは日本国内でまだ販売していない 重火器類を違法な値段で
客に 売りつけていたのが許せはしないだけだ』とか 言うんだよ?
兄ちゃんの言葉なら言うこと聞くと思うしさ」
清納は何処か辟易とした声で告げた。
「本人の前で、その本人口調のモノマネは止めた方がいいですよ」
彼は、薬漬けうんぬんなどに関しては、聞かなかった事した。
――――彼は、このように気軽な口調で、ここにはいない那樹沢美樹とここにいる
静納鷹谷と会話をしているが、おそらく『鬼獣の宴』を共に経験し、一緒に潜り
抜けなければ、接点もなく気軽に話しかけもしなかった事だろう。
戦闘技術だけでも露店内で上位に入っている。
『鬼姫』の那樹沢美樹 と『眠れる狂獣』の静納鷹谷。
系列を含めれば、十数万人を誇る重火器類販売大手のマンモス露店内で
補佐という 役割を担っている2人組である。




