四十三話
彼が重岡に尋ねた質問で、爆笑させている同時刻―――――
12地区緊急防衛指定場所は、17地区緊急防衛指定場所救援及び
17地区ラブホ建設予定地奪還作戦(正式には『隔絶戦闘地域解放作戦』)、
命令のため、最前線と劣らぬ修羅場と化していた。
17地区緊急防衛指定場所の救援に飛び立ったCH-47第一ヘリ団は、現場に
20人の日本決死隊隊員と弾薬類を下ろすと入れ替わりに、重傷者を運ぶ作業を
繰り返している。
しかし、これらの負傷者を地区内の病院に送り込もうにも、道路が大渋滞して
いるため思うに任せられない状態だった。
車を運転している住民は、もちろん避難しているのではなく一刻も早く激戦が続き苦戦している17地区へと向かう人々だ。
老若男女、全ての住民が重火器で完全武装している。
極度の緊張のためか蒼白い貌をしている者、両眼に憎悪の炎を両眼に燃え上がらせている者、家族写真や恋人の写真などを眺めている者、漂う緊張感に
耐えられず、馬鹿話をして盛り上がっている者・・・・様々な光景が広がって
いる。
しかし、誰一人逃げ出そうとする住民はいない。
そんな混雑の中、救急車を呼んでも、救急車が走れるスペースを確保することすら難事な状況になっている。
業を煮やした救急車のドライバーが パトカーを呼んでも、そのパトカーすら
現場に駆けつけられないほど、道路という道路に車がひしめき合い、虫が這う
もどかしさでのろのろとしか動けない。
それほど、激戦が続く17地区へと駆けつける住民が大勢すぎた。
日本決死隊は、やむを得ず12地区緊急防衛指定場所に天幕を張り、一時的な
救護所を張り、隣接する緊急防衛指定場所の建物にも負傷者を収容したが、
17地区から運ばれてくる負傷者で、たちまち一杯となる有様だった
時間が立てば立つほど、さらに17地区へ向かう増援住民は増え続け、17地区緊急防衛指定場所からの負傷者は、次々と運ばれてくる。
さしもの打つ手が無くなりかけていた。
国防軍から12地区戦区長に宛てて連絡が入ったのは、12地区緊急防衛指
定場所全体が修羅場と化している真っ最中だった。
「(・・・伝えたとおり、座標位置********から********一帯には増援及び
交戦規制の通達だ)」
相手は、口ごもりながら切り出した。
「座標位置********から********では、かなりの激戦のため負傷者が出ている
模様ですっ!!それでもですか!?)」
ふざけるな――――と思いつつ、12地区の男性戦区長は応えた。
「(これは命令だ)」
相手は、感情のない声で応えてくる。
「現在、我が12地区は13地区の第一ヘリ団と協力し、座標位置********から********の重軽傷者の救出に当たる一方、座標位置********から********の
交戦地域に弾薬運搬も併せて行っています!。
また、17地区緊急防衛指定場所からは、主に重傷者を中心に退避させており、
12地区の病院に依頼して優先的に手当を受けさせるように手配しています。
ただ、12地区から17地区に向かう人々の車で渋滞しており、重傷者を運びくる作業が思うに任せぬ状態です!」
12地区男性戦区長が怒りの孕んだ声で現在の状態を応える。
「(・・・・繰り返す。これは命令だ。すぐに実行したまえ!)」
相手は、しばらく沈黙してから、何処が苛ついた調子で告げてきた。
命令に従わず、さらに言い返してきた事に苛ついている様でもあった。
「17地区からは、増援要請や弾薬補充要請、重傷者の受け容れ要請がひっきりなしに無線から流れてきているんですよっ!?
また、受け入れた重傷者の中には、再武装して現場に戻ろうとする者もすくなからずおり、一刻を争う状況ですっ! それでも増援及び交戦規制を行えと・・・」
話しているうちに、怒りよりもだんだんと気分が滅入ってくるのを感じていた。
********から********の座標位置は、12地区男性戦区長が伝えたとおり
激戦が行われている。
正確には鬼獣群に防衛軍が包囲され、激しい攻勢を受けて戦力は50パーセント
まで低下している状態だ。
「(これで最後だ。いますぐに増援及び交戦規制を実行したまえ!!)」
相手はそう言い放ってきた。
「・・・・了解しました。この通達が17地区を救ってくださるための迅速な決断と行動であることを望みます」
12地区男性戦区長は何処か嫌々渋々といった調子で応えると通話を切った。