四十一話
「あー かまへん。 その商品やったらあるわ。
そやけど、バリ大和型戦艦は三週間待ちや。 すぐに用意するんは無理やで?」
関西訛でタブレットを操作しつつそう答えるのは、この店の古株店員である
重岡であった。
彼は、重岡を見つけて先ほどの来店客が尋ねた商品を尋ねてみたら、今の
言葉が返ってきた。
「模型も売っているんですか」
彼は、それを聞いて少し意外そうな表情を浮かべた。
この露店に雇われて間もない彼は、銃器類の商品しか見てなかいためか、
そう応えた。
「はぁ?」
彼がそう尋ねると、重岡は唖然とした表情を浮かべて、しばらく沈黙した。
この露店に雇われて間もない彼は知らないことだが、重岡がそんな顔を見せるなど、10年に一度あるかないかの珍事である。
近くに他の店員がいれば、間違いなく驚愕した事だろう。
「やっはっはっ、兄ちゃんはおもろい事ゆうな。なんぼ店長が幅広い商品を扱っとるっていっても、 模型まではなぁ」
笑い転げる重岡だが、雇われて間のない彼の顔を言語に翻訳するのなら『何を言っているんだこの人は?』と言った感じだ。
「……あと、量産型アンドロイドオメガ800とかいう商品も尋ねられていたんですが、何かの宴会用の小道具なんですか?」
彼は少し憮然とした表情を浮かべると、もう一つの疑問についても重岡に
問いかけた。
次の瞬間……。
「ぷっ、ぷぷぷ……ぶはははははは!!
死ぬ! 死んでしまう!!
兄ちゃんは、俺を笑い殺す気かっ!?」
重岡はゲラゲラと笑いながらそう告げて、タブレットを操作をして、画面に写っている商品を彼に見せた。
「?」
笑い転げる重岡の様子を怪訝に思いながらも、彼は頸を傾げながら示された画面に眼を向ける。
「いやー 兄ちゃん、ほんま手ごわいわ。
俺、こんな死にそうな目になったの、鬼獣との戦闘でもようないわ・・・・
これが量産型アンドロイド『オメガ800』ちゅう商品や。 兄ちゃん、よう覚えとき」
重岡は、笑いを必死に押さえながら告げる。
「(……これは!?)」
タブレットの画面に写っていたのは、何度かテレビで見たことのある、有名な映画に出てくるキャラクターだった。
彼の記憶が間違っていなければ、そのキャラは元カリフォルニア知事が主役として演じた人間抹殺用のアンドロイドである。
「通称『エルミネーター』。
対鬼獣抹殺及び軍事作業用アンドロイドや。あらゆる銃器や乗りもんの扱い方にも精通し、対大型鬼獣火器も使用可能。
随時人工知能が状況を判断し、戦術的行動を下す事もできるで。
それだけやない。 調教次第ではギャグを理解してボケと突っ込みをリバーシブルにこなす学習・思考能力を持っとる人気商品や
なんやったら、俺が直々にネタを仕込んでおいてやってもええで?」
重岡は、我がことのように自慢げに語る
そこまでの台詞を一気に垂れ流すと、重岡はいい仕事をしたといわんばかりの
表情を浮かべた。
とりあえず、彼が最初に抱いた感想が『何でそんな商品まで扱っているんだ、
ここは』だった事は当人以外に知る良しも無い。
「(いや、その前に……これ、どう見ても……)」
人間と同様の細胞組織が、チタン合金で覆われている画面に写っているその商品は、彼から見れば『I'll be back』の名台詞を言ったアンドロイドにしか見えなかった。
著作権とか本気でどうなっているのだろうかと、彼はそんなことを思ったが、
その前に、この世界ではこんな物まで開発され、商品として売り出され
ている事に、恐怖を感じた。
「まぁ、この手の商品を買う客のほってんどはアレやな。
戦列艦や大和型戦艦、バリ大和型戦艦やらなんやら購入してて、人手が山ほど必要な船主ばっかりや、兄ちゃん、その意味はわかるやろ?」
重岡の目が、探るように新米の顔に向けられながら、告げてくる。
「ようするに、乗組員の代わりってことですね反乱されたらどうするんだか」
彼は、画面を凝視しながら少し考えて応える。
「ぶははははは!
そらそうや! そんなんなったら、大半の船主はお陀仏やろうなぁ」
重岡は、彼の答えを聞いて、再びゲラゲラと笑う。
「(むしろその口ぶりだと、生き残るものはいるのかよ)」
思わず突っ込みを入れそうになった彼だったが、それを口にしたら重岡が喜びそうな気がしたのでグッと唇を噛み締めて耐える事にした。
もちろん、それだけではない。
重岡の風貌が怖いためでもある。
「あとな、オメガ800の値段は、一体一円や」
重岡は、続いてそう告げた。
「えぇっ! これが1円!?」
信じられないといわんばかりに画面を見ながら、彼が応える。
「おぅ。 特売日やったら1ダース10円で売っとるで」
重岡は、呆然としている彼にそう告げる。
「あの……その戦列艦や大和型戦艦の模型がウチの商品なんですよね?」
あまりのカルチャーショックに目眩を覚えながらも、彼はなんとか気を取り直して重岡に尋ねた。
それが致命的な一撃になるとも知らずに。
そして、これが『あの重岡を戦闘不能にした男』と呼ばれるようになるのは、
わすが数日後である。




