四十話
尚文露店主が異様な闘いを繰り広げている頃、店番(?)をしている彼は別の
意味で困惑していた。
「(こ、この客が何を言っているのか、さっぱりわからない……)」
彼が混乱している原因は、金髪の男性客とスキンヘッドの男性客という二人組。
服装は、どちらも迷彩服なのだが、着こなしがあまりにも自然すぎている。
「(ここは厚木か? それとも沖縄の米軍基地か?)」
彼は、ふっとそう思った。
「あぁ、兄ちゃん。 大和型戦艦と量産型アンドロイドオメガ800セット買いたいんだけど、在庫ある?」
さも当然のように金髪の男性客がそう告げてくるが、彼には何のことかわからなかった。
「(量産型アンドロイドって何? どこのSF?
もしかして、そういう名前のフィギュアか何か扱っているわけ? ここの店って)」
彼は、困惑しながらそう思った。
少なくとも、今まで店内で見たのは銃器類しかみてない。
「それよりも戦艦を購入したい。
理想を言えば、大和型戦艦よりもさらに高性能な同系列の船があれば購入を検討したいと思っている。
たとえば、超大和型戦艦などの扱いはあるだろうか?」
続いてケータイをいじっていたスキンヘッドの男性客が尋ねてきた。
「(あぁ、そういう事ね)」
尋ねてきた言葉に、彼はホッと胸をなでおろした。
大和型戦艦と尋ねられて、彼が自然と浮かべたのは模型だった。
少なくとも、船をたがが露店で購入できるものではない。
・・・しかし、この露店では大量破壊兵器も扱っているため、何処か不安を
感じた。
――――その不安は次の台詞で的中し、安寧は木っ端微塵に消し飛ばされた。
「お前なぁ……そんなの浪漫の欠片も無いものに乗ってインドネシアに
向かうのかよ。
たぶん、馬鹿にされるんじゃね?」
金髪の男性客がスキンヘッドの男性客に視線を向けつつ放った問いかけに
よってだ。
「(はい? 今、"乗って"と仰いましたでしょうか?
ははは、いやだなぁお客さん。 いくらなんでも、玩具の模型じゃ
等身大モデルだったとしても海を渡れませんよ。)」
彼はそう思った。
もちろろん、口には出していない。
「だが、ほかの連中も変わり栄えはしないだろう。
おおかた、17世紀から19世紀にかけてのヨーロッパ諸国が使っていた戦列艦と量産型アンドロイドオメガ800といった辺りが関の山だろうし」
スキンヘッドの男性客がそう告げながら、ケータイをいじる。
「あーでもなぁ……去年、同じ戦列艦でインドネシアに向かった連中は、鬼獣の
波状攻撃でズタボロにされたって話だぞ?
あいつ等もなけなしの財布はたいて最新装備に変えているんじゃね?」
スキンヘッドの指摘に、金髪の男が忌々しげな顔をして応える。
「それだけ戦況が厳しいって事だろうな。
だが心配は無用だ。
俺はアイオワ級戦艦と量産型アンドロイドオメガ800セットを購入する。
ただ、そのせいでお前の出番がなくなるのはしかたがないだろう」
スキンヘッドの男性客は、薄い唇を片方だけ吊り上げてニヤリと笑った
この、獲物を見つけた鮫を彷彿とさせる様な表情が、果たして笑みであればの
話だが。
「(さっぱりわからん。これは、どこの星の話だ!? というより、俺はこの二人に何を売れば良いのだろうか?)」
彼は焦りながら店内を見渡すが、この二人の求める品らしきものは全く持って見つからず、視界に飛び込んでくるのは、銃器類と多忙に動き回っている店員の姿だけだ。
「(いっそ、適当なものをそうだといって売りつけ……る前に頭を吹っ飛ばされそうだな。 主に銃器とか、鉄拳とかで・・・・、よし、 今は専門のスタッフが
不在なので、後ほどお越しくださいといおう。嘘ではないし。)」
彼は、そう思いながら二人の客に向かって口を開いた。
「お客様、実は……」
だが、その台詞が終わる前に、エントランスのドアがバンと音を立てて乱暴に
開かれたため、その先は言えなかった。
そして、何事かとその音の方向を見ると、ソフトモヒカンの男性客が悲愴な
形相を浮かべ、息を切らせながら駆け込んできた。
「おい、右の矢吹丈と左の島村ジョー!! 買い物は中止だっ」
ソフトモヒカンの男は、肩を激しく上下させながら目の前の客二人に向かって大声でそう告げる。
「(えっと、この二人ってそういう名前なの?)」
思わず彼は、客の顔を覗きこんだ。
「誰がボクシング漫画の主人公だっ!!」
金髪の男性客が額に青筋を立てながら右手の中指をおっ立てながら、叫ぶ
「そして俺は何処のサイボーグ戦士だ? よほど命がいらないらしいな」
スキンヘッドの男性客が陰にこもった声でボソリと呟く。
だが、ソフトモヒカンの男性客は、二人の反論を無視しながらこう告げた。
「至急、17地区の座標位置********まで向かうぞっ!」
その声を聞くなり、店内の全ての客の顔に緊張が走り、全ての店員が一瞬だけ
手を止めた。
「座標位置********って……ラーメン屋『中等遊民』前の交差点か」
金髪の男性客は、不機嫌な表情を浮かべつつ誰にとも無しに呟いた。
「あと、あの近くに"住宅から野戦築城まで建設する熊のマークの工務店"でお馴染みの『卯堂』があるよな」
それと同時に、スキンヘッドの男性客も憮然とした表情を浮かつつケータイをいじりはじめる。
ソフトモヒカンの男性客の後から、耳にイヤホンを差し込んでいる店員が入ってきて、幾人かの店員に耳打ち、または、メモを手渡していく。
それと同時に、一気に慌ただしく動き始めていく。
「その場所が激戦なんだよっ!買い物はそれが一段落してからにしろっ」
ソフトモヒカンの男性客がそれだけを告げると、返事を待たずにその場から立ち去っていった。
「あーくそっ、返事ぐらい聞けよクソが!
まぁ、あの行列の出来るラーメン屋「中等遊民」が無くなるのは寂しいしな。
行くかサイボーグ戦士!」
金髪の男性客は、嫌そうにつぶやきながらも早足にソフトモヒカンの後を追う
「工務店も忘れるなよ、それと、誰がサイボーグ戦士だ。こら」
スキンヘッドの男性客は、苦笑いを浮かべつつ同じように立ち去っていった。
「(えーっと、結局、アンドロイドとか戦艦って何だったんだろう? ……後で誰かに聞くか)」
店員である彼は、立ち去っていった客の後ろ姿を呆然と見送りながら、心の中でそう呟く。
竜巻によって何もかもを消し飛ばれた被災者のような虚しさを感じながら。
作品内で出てくる、ラーメン屋「中等遊民」及び工務店「卯堂 」の名前は、
小説家になろうで交流させて頂いている作者様の名前を使わせて頂きました。
ご許可を頂いた中等遊民先生、卯堂 成隆先生、ありがとうございました




