一〇六話
運転手は眼を瞑った
鬼獣群は緊急特急列車に向かって急激にせり上がり、それが視界一杯になって裂けた
それが視界一杯になって 緊急特急列車は虚空に向かってせり上がる
地平線が窓に斜めにせり上がり、九輛編成の緊急特急は一瞬で回転した
十七地区へと向かっている乗客が狭い空間を走っていた
無傷な乗客は誰もいないようだった
意識を失っている乗客、貌や身体を踏みにじられた子供や女性の悲鳴、助けを求める叫び、
怒号が車輛内が入り混じっていた
列車が転覆した事は、大多数の乗客はわかっている様だった
どうにか立つ事ができる乗客は、とにかく外に出て状況を確認するため痛む全身を引きずる様に
ドアへと向かっている
その時、女性の鋭い金切声で何かを叫んだ
その声には傷の痛みとは違う憤怒と憎悪が孕んでいた
割れた窓という窓から、無数の「ソルジャー」と「インベイダー」が激しい勢い
で流れ込んできた
積み重なるようにしてとめどなく侵入する
そしてあっという間に誰彼も引きつった声で叫び声――――いや雄叫びを上げ、
手に持ちている 斬撃武器などで壮絶な接近戦を開始した
マチェーテ系斬撃武器を持った女性住民が雄たけびを発しながら、侵入する
「ソルジャー」 の群れに突撃してはマチェーテ系斬撃武器を振るい続ける
だが、一度に二十体(匹?)以上の「ソルジャー」を相手にするのは無理があった
「やっはっろ――――!!!」
意味不明な言葉を叫びながらマチェーテ系斬撃武器を振り回す
だが、貌、頭、乳房、あらゆるところを「ソルジャー」が食らい付いては
ぶちぶちと引きちぎられる
顔面は血だらけになり、両眼から血が流れている
侵入してくる無数の「ソルジャー」 「インベイダー」 ・・・
必死の接近戦で「ソルジャー」「インベイダー」の死骸も溜まり始めるが、引き倒され
喉笛などを引きちぎられ絶命した乗客も増え始めた
這おうと必死に動いている乗客もいるが、動けず絶命する
太腿、腹、貌――――あらゆるところに皮膚を咬み千切られた乗客の死骸だ
そんな地獄模様でも、乗客達は1人たりとも逃げようとせずに斬撃武器などで応戦する
脱線した緊急特急列車は鬼獣群の中心にあった
車輛が見えないほどたかっていた
這い出てきた男女乗客4、50人いたが、群がる「ソルジャー」と「インベイダー」を
振り切って逃げる 事は出来ずに、雄叫びをあげながらSDM-RやM231 FPWの引き金を絞り
壮絶な死闘を演じている
「なんとかならねえのかよ!!」
SDM-Rの引き金を絞っている男性住民が悲痛な声で叫んだ
だが、なんともなるわけではなかった
数百万、数千万なのか、鬼獣の数は見当もつかなかった
「来るなら来てみろ!! オラオラ!!」
M231 FPWを引金を絞っていた男声住民は血走った眼で叫んだ