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『知らない世界で、前世の知識が武器になる』 ~剣と銃で乱世を生き抜く転生領主の成り上がり~  作者: 相田 ソウ
第五篇 乱世に広がる火

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第二十話 シュヴァルツ伯決戦(中)

三百挺の火縄銃による交代射撃は止まりません。

シュヴァルツ伯軍が予備兵と騎兵を投入する中、アレクたちは千発を超える弾丸を敵中央へ撃ち込みます。

 四度目の一斉射撃を受け、敵の前線が後ろへ揺れた。

 一班が土塁から下がる。

 撃ち終えた兵たちは火縄を手で引き上げ、銃口を敵へ向けたまま後退していく。

 その横を、二度目の装填を終えた二班が進んだ。

「二班、前へ!」

 号令を受け、百人が土塁の射撃位置へ入る。

 白煙が低い風に押され、左へ流れていた。

 敵の姿が完全に隠れている場所もある。

 そこへ勘だけで撃てば、百発を無駄にする。

「右寄りに敵が集まっています!」

 二班を率いる指揮者が声を上げた。

 前進を続けていた敵兵は、倒れた味方と馬を避けるため、比較的地面が空いている右側へ寄っている。

 だが、その先には林と柵がある。

 左右へ広がれず、盾を持つ兵と長槍兵が狭い範囲へ重なっていた。

「右へ狙いを移せ! 煙の中へ撃つな!」

 指揮者の命令が、十人ごとの教官へ伝わる。

 二班が銃口を少し右へ向けた。

 敵の太鼓は鳴り続けている。

 先頭で逃げようとする兵がいても、後続は前進を命じられている。

 下がろうとする者と、進もうとする者がぶつかる。

 その混乱を押し潰すように、敵の指揮官が新しい盾兵を前へ出した。

 盾を重ねれば弾を防げる。

 数を揃えれば、再装填が終わる前に土塁へ届く。

 そう考えたのだろう。

 敵の盾が並び直される。

 一人が持つ盾の端へ、隣の盾を重ねる。

 その後ろへ長槍兵が入り、盾越しに穂先を突き出した。

「火蓋開け!」

 百人が火蓋を開く。

 盾を持つ兵の顔は見えない。

 だが、盾の下には脚がある。

 盾と盾の間には隙間がある。

 すべての弾が厚い木板の中央へ当たるわけではない。

「構え!」

 火縄銃の木台が、百人の肩へ収まる。

 敵の盾列が近づく。

 倒れた味方を踏まないよう足元を見た瞬間、盾の並びが崩れた。

 火槍兵長が上げていた赤い布を振り下ろす。

「撃て!」

 五度目の轟音が響いた。

 白煙が土塁から押し出される。

 百発の弾が、立て直されかけていた盾列へ飛び込んだ。

 厚い盾に食い込み、勢いを失う弾もある。

 盾を貫き、持っていた兵の腕や胸へ達する弾もある。

 盾と盾の間を抜けた弾は、その後ろで密集していた長槍兵へ命中した。

 盾列の中央で一人が倒れる。

 隣の兵が空いた場所を塞ごうとする。

 その隣でも、脚を撃たれた兵が膝をつく。

 二枚の盾が同時に傾き、後ろから押していた長槍兵が前へ倒れ込む。

 盾を重ねた一団は、壁のように耐えたのではない。

 一か所が崩れたことで互いの盾がぶつかり、身動きの取れない塊になった。

「二班、火縄上げ! 後退!」

 兵たちが火縄を安全な位置へ戻す。

 一班は後方で三本目の一発筒を取り、次の装填を始めていた。

 二班が下がると、三班がすぐに通路へ入る。

「三班、前へ!」

 火縄銃を持つ百人が、白煙の向こうへ並ぶ。

 敵の前線は、すでに四百発を受けていた。

 今の第五射を加えれば五百発だ。

 それでも、敵の中央にはまだ大勢が残っている。

 三千人すべてが同じ場所へ立っているわけではない。

 後方には無傷の兵がいる。

 前の者が倒れれば、その兵たちが押し出されてくる。

 火縄銃の音と白煙を恐れているのは、実際に弾を受けた前線の兵だ。

 後方の者には、倒れた味方の姿が十分に見えていない。

 敵の太鼓が鳴る。

 濃紫の旗の近くから、新しい命令旗が上がった。

「敵の予備が動きます!」

 高まりの上にいた味方の見張りが叫ぶ。

 中央後方の約千人が、前へ進み始めていた。

 崩れかけた前線を、数で支えるつもりだ。

 だが、先頭では兵と馬が倒れ、盾と長槍が折り重なっている。

 そこへ新しい千人を押し込めば、動ける場所はさらに狭くなる。

「三班、火蓋開け!」

 敵の予備兵が前線へ着く前に、今いる敵をさらに崩す。

「構え!」

 三班が銃口を向ける。

 敵の一部が撃たれる前に走り込もうとした。

 長槍を捨て、短い剣だけを持って土塁へ向かう者もいる。

 だが、数十人が先へ出ても、その後ろが続かない。

 倒れた馬と盾が道を塞いでいる。

「撃て!」

 第六射。

 百挺から噴き出した火と煙が、朝の空気を震わせた。

 弾は先頭へ出た兵だけでなく、その後ろで密集していた隊列へ飛び込む。

 一人が胸を押さえて倒れる。

 別の兵は脚へ弾を受け、前へ転がった。

 逃げようと振り返った者が背中から崩れる。

 槍を持ったまま倒れた兵へ後続がつまずき、さらに二人、三人と重なる。

 三百挺が、二度ずつ発砲した。

 合計六百発。

 土塁の前に広がっていた草地は、もう最初の形を残していなかった。

 踏み荒らされた土。

 捨てられた盾。

 折れた槍。

 倒れた兵。

 動かなくなった馬。

 その間を縫うように、まだ戦える敵が前へ進もうとしている。

「三班、後退!」

 三班が土塁から下がる。

 敵の弓兵が、これまでより前へ出た。

 盾兵の後ろからでは火槍隊を狙えないと判断し、左右へ広がって弓を構える。

「敵弓兵、射撃!」

 ユリウスの声が高まりから届いた。

 敵の矢が一斉に空へ上がる。

「伏せろ!」

 火槍兵たちが土塁の後ろへ身を低くする。

 槍兵が盾を掲げた。

 矢が降る。

 土塁へ刺さり、柵へ当たり、盾の表面を叩く。

 一本が三班の兵の肩当てへ当たった。

 鉄で弾かれたが、男は衝撃で姿勢を崩した。

 隣の兵が支える。

「動けるか!」

「はい!」

「なら下がれ! ここで止まるな!」

 教官が兵を装填位置へ戻す。

 敵の二射目が来る前に、こちらの弓兵も動いた。

「弓兵、前へ!」

 土塁の左右から、レオンハルト軍の弓兵が進む。

 火槍隊の正面へは出ない。

 火縄銃の射線を塞がない位置で弓を引く。

「放て!」

 矢が敵弓兵へ向かう。

 火縄銃ほどの轟音はない。

 だが、途切れずに降る矢は、前へ出た敵弓兵を盾の陰へ戻させた。

 敵弓兵の射撃が完全に止まるわけではない。

 それでも、火槍兵が装填する時間を奪われずに済む。

 火縄銃が敵へ損害を与えられるのは、弓兵が敵の弓を抑えているからだ。

「敵騎兵、中央右へ!」

 見張りの声が響く。

 歩兵の後方にいた騎兵の一部が、比較的空いている右側へ動いていた。

 倒れた兵を避け、林の手前から土塁の切れ目へ向かってくる。

 数は百騎ほど。

 大軍ではない。

 だが、装填中の射手へ百騎が突入すれば、火槍隊は崩れる。

「中央右、槍兵を前へ!」

 ユリウスの命令が下りる。

 土塁の切れ目に置いた軽い柵を、槍兵が前へ押し出した。

 地面へ固定されていないため、敵に倒される。

 それでいい。

 馬が飛び越えるか、避けるかを選ぶ時間が生まれる。

 敵騎兵が速度を上げた。

 蹄の音が、火縄銃の残した低い響きへ重なる。

 先頭の馬が浅い溝へ前脚を取られた。

 転倒はしなかったが、勢いが落ちる。

 後ろの馬が避けようとして横へずれ、隣の騎兵へぶつかる。

 別の馬は柵を飛び越えた。

 しかし、着地した先には槍兵が待っていた。

「槍、前へ!」

 長い槍が揃って突き出される。

 馬が槍を避けようと首を振る。

 騎手が無理に進ませる。

 槍の穂先が馬の胸へ入り、騎兵が前へ投げ出された。

 別の騎兵は柵の横へ回り、土塁の通路へ入ろうとする。

 そこへ槍兵が二列で立ち塞がった。

 騎兵の勢いは、溝と柵ですでに失われている。

 馬上から剣を振るう者と、盾を構えた槍兵がぶつかった。

 火槍隊の後方では、一班が三度目の装填を終えつつある。

「一班、装填状況!」

「九十七、完了!」

 火槍兵長が答える。

 残る三人も、火縄を掛け金へ留めているところだ。

「騎兵へ撃ちますか」

 俺のそばにいた指揮者が尋ねた。

 右側の騎兵は槍兵が止めている。

 一班すべてを向ければ、中央正面への射撃が止まる。

「中央へ撃ちます。右の十人だけ、騎兵へ向けてください」

「承知しました!」

 百挺のうち十挺を右へ向ける。

 残る九十挺は、前進してくる敵歩兵と予備兵を狙う。

 敵は、こちらの火縄銃を止めるために騎兵を送った。

 だが、騎兵を受け止める槍兵がいる。

 だから、火縄銃の大半を中央へ残せる。

「一班、装填完了!」

「前へ!」

 一班が三度目の射撃位置へ進む。

 これが第七射だ。

 中央では、敵が盾を拾い集めて新しい列を作ろうとしていた。

 予備兵も近づいている。

 前線に残った兵は、後ろから来る味方に退路を塞がれている。

「火蓋開け!」

 右端の十人は騎兵へ。

 残る九十人は中央へ。

「構え!」

 赤い布が上がる。

 敵の盾列が、また前へ動いた。

 何枚も重ねた盾の後ろへ兵が身を縮めている。

 一発や二発なら防げるかもしれない。

 だが、横へ並んだ九十挺が同時に撃てば、同じ盾だけへ弾が当たるわけではない。

「撃て!」

 第七射が響いた。

 中央へ九十発。

 右の騎兵へ十発。

 盾へ弾が食い込む。

 盾を持っていた兵の脚が折れたように崩れ、後ろの者が盾ごと押し倒される。

 盾列の横へ回ろうとしていた兵も弾を受けた。

 右側では、槍兵と戦っていた馬が二頭、ほとんど同時に倒れた。

 別の一頭が銃声に驚き、騎手の命令を無視して横へ走る。

 後続の騎兵が衝突し、土塁へ向かっていた勢いが消えた。

「槍兵、押し返せ!」

 味方の槍兵が前へ出る。

 騎兵は馬首を返し始めた。

 百騎ほどの突撃は、火槍隊へ届かなかった。

 一班が下がる。

「二班、前へ!」

 二班が三度目の射撃位置へ入る。

 白煙がさらに濃くなる。

 風は吹いているが、四百、五百、六百と続いた煙をすべて運び去るほど強くない。

 赤い布が見える距離も短くなっていた。

「各班、旗を見ろ! 見えなければ角笛を待て!」

 二班の指揮者が命じる。

 中央の赤い布が上がる。

 十人ごとの教官も、自分の赤い布を掲げる。

 一番端の兵には中央の布が見えなくても、近くの教官の合図が見える。

 角笛が短く鳴った。

 構えの合図だ。

「構え!」

 百挺が敵へ向く。

 二班が狙うのは、前線へ合流しようとしている予備兵だった。

 後方から来た千人は、まだ火縄銃の弾を受けていない。

 逃げてくる前線の兵を押し返し、再び攻撃させようとしている。

「前の敗走兵ではなく、その後ろを狙え!」

 指揮者の声が飛ぶ。

 前線の兵だけを倒せば、予備兵が押し出される。

 予備兵の密集隊列へ弾を入れれば、前線を支える力を失わせられる。

 赤い布が下りた。

「撃て!」

 第八射。

 百発の弾が、前へ出ようとしていた予備兵へ飛び込んだ。

 まだ隊列を保っていた兵たちが、一斉に崩れる。

 先頭の何人かが倒れ、後続が止まる。

 何が起きたか見えない後方の兵は前へ進み、止まった前列へぶつかった。

 槍の石突きが味方の背中へ当たり、怒鳴り声が上がる。

 隊列を整えるために集まっていた指揮官の周囲でも兵が倒れた。

 旗が大きく揺れる。

 旗手は立っていたが、そばにいた伝令が地面へ崩れた。

「二班、後退!」

 敵の予備兵は前線へ着く前に足を止めた。

 その隙に、三班が前へ進む。

「三班、前へ!」

 三班も三度目の射撃だ。

 これが第九射。

 累計九百発になる。

 正確に数えている暇はない。

 だが、各百人隊が何本目の一発筒を使ったかは、指揮者が記録している。

 三本目。

 まだ一人七本ずつ残っている。

 火縄銃は撃ち続けられる。

 敵の方が先に、前へ出る兵を失い始めていた。

「敵騎兵、中央へ戻ります!」

 右側で槍兵に止められた騎兵が、後退しながら中央へ寄っている。

 逃げるつもりなのか、別の通路を探しているのかは分からない。

 長槍兵と予備兵の間へ馬が入り、さらに隊列を狭くしている。

「三班、騎兵と長槍兵が重なる場所を狙え!」

 銃口が、混雑した一帯へ向く。

「火蓋開け!」

 白煙の隙間を見つける。

「構え!」

 敵の馬が向きを変えようとしている。

 後ろから来た歩兵が避ける。

 横へ逃げようとして、別の馬とぶつかる。

 赤い布が下りた。

「撃て!」

 第九射の轟音。

 百発の弾が、騎兵と長槍兵の重なる場所へ入った。

 馬が悲鳴を上げる。

 一頭が後ろ脚から崩れ、騎手を巻き込んで倒れた。

 別の馬は腹へ弾を受け、前へ暴走する。

 長槍兵の列へ突っ込み、数人を押し倒した。

 騎手を失った馬が、味方の兵を蹴りながら走る。

 長槍兵は穂先を敵へ向けることもできず、自分たちの馬から逃げようとする。

 人と馬が重なる場所へ、後続の予備兵が押し寄せる。

 敵中央は、軍として一つの方向へ動けなくなっていた。

「三班、後退!」

 三つの百人隊が三度ずつ撃った。

 九百発。

 火槍隊の前には、白煙が低い雲のように漂っている。

 火薬の匂いが鼻と喉へ張り付く。

 何度息をしても、煙を吸い込んでいるようだった。

 兵たちの顔は煤で汚れている。

 それでも号令は続く。

「一発取れ!」

「装填!」

 兵たちは四本目の一発筒を開ける。

 火薬と弾を鉄筒へ入れる。

 装填棒で奥へ押し込む。

 火皿へ細かな火薬を置く。

 同じ動作の繰り返しだ。

 その繰り返しが、敵に射撃の隙を与えない。

「左翼から報告!」

 伝令が高まりの裏から走ってきた。

「敵右翼の一部が小川を渡っています!」

「味方は?」

 ユリウスが尋ねる。

「持ちこたえています。敵は川底へ足を取られ、隊列を作れていません!」

 俺たちから見て左側では、敵兵が小川を越えようとしていた。

 水は腰まで届かない。

 だが、川底は泥で、岸も湿っている。

 盾と槍を持った兵が足を滑らせる。

 後ろの者が助けようと手を伸ばし、その後ろが止まる。

 どうにか渡った者も、湿地で速度を出せない。

 そこへ味方の弓兵が矢を射ち、槍兵が少数ずつ上がってくる敵を押し返していた。

「右翼の林は?」

「敵の歩兵が入りましたが、一度に十人ほどしか出てこられません。こちらの槍兵が出口を守っています」

 敵は左右から回り込もうとしている。

 だが、小川と林が、数の優位を使わせない。

 左右の味方が持ち場を守ることで、俺たちは中央へ射撃を集中できる。

 もし敵の千人が林を抜け、火槍隊の横へ出ていれば、三百挺を正面だけへ向けてはいられなかった。

 この射撃は、火縄銃だけで作ったものではない。

 マティアスが地形を選んだ。

 レオンハルトが左右へ必要な兵を置いた。

 槍兵が騎兵を止めた。

 弓兵が敵の弓兵を抑えた。

 そのすべてが、三百挺へ次の一発を撃つ時間を与えている。

「一班、装填完了!」

 四度目の装填が終わった。

 一班が、再び土塁へ向かう。

「一班、前へ!」

 第十射。

 この百発で、累計千発に届く。

 敵の前線では、まだ旗が一本立っていた。

 濃紫の本陣旗ではない。

 中央の部隊を率いる指揮官の旗だ。

 周囲の兵が逃げ始めても、その旗の下にいる者たちは隊列を戻そうとしている。

 旗手が大きく旗を振る。

 指揮官らしい男が馬上から剣を上げ、前へ進めと命じていた。

「あの旗の周囲へ狙いを集めすぎるな!」

 俺は叫んだ。

 一人の指揮官を狙い、百人全員が同じ場所へ撃てば、横から来る兵を止められない。

「中央三十挺、旗の周囲! 残りは左右へ分けろ!」

 火槍兵長が命令を伝える。

 三十挺が旗の周囲。

 左右へ三十五挺ずつ。

 敵の横幅を崩しながら、立て直そうとする中心も撃つ。

「火蓋開け!」

 百人が火蓋を開く。

「構え!」

 敵の指揮官が剣を振る。

 逃げていた兵の一部が振り返った。

 まだ軍を立て直す力が残っている。

 ここで時間を与えれば、予備兵と合流し、再び盾を並べるかもしれない。

 赤い布が下りた。

「撃て!」

 第十射。

 千発目を含む百発が、敵中央へ撃ち込まれた。

 旗の周囲で兵が倒れる。

 旗手の体が揺れた。

 一度は旗を支え直したが、そばへ弾が着弾し、馬が暴れる。

 旗手が手を離した。

 長い旗がゆっくりと傾き、倒れた兵と槍の上へ落ちた。

 馬上の指揮官の姿は、白煙に隠れて見えなくなった。

 左右でも兵が倒れる。

 後ろへ下がり始めた一団へ、前から来た予備兵が衝突する。

 倒れた旗を拾う者はいなかった。

 命令を示す旗が消えたことで、周囲の兵は進む方向を失った。

「一班、後退!」

 一班が下がる。

 俺は高まりの上へ目を向けた。

 レオンハルトはまだ反撃を命じていない。

 敵中央は崩れかけている。

 だが、後方には無傷の予備兵が残る。

 槍兵を前へ出すのは、敵が立て直せなくなってからだ。

「二班、装填完了!」

「前へ!」

 二班が四度目の射撃位置へ進む。

 第十一射。

 これで千百発になる。

 敵前線では、後退する兵が増えていた。

 しかし、後方から来た予備兵はまだ前進しようとしている。

 両者が正面からぶつかり、敵中央の真ん中に人の壁ができていた。

 武器を持ったまま押し合う。

 怒鳴る。

 転ぶ。

 立ち上がろうとしたところを後ろから踏まれる。

 その密集へ、二班が銃口を向ける。

「火蓋開け!」

 敵の一部が白い布を上げたように見えた。

 降伏の合図かもしれない。

 だが、一人だけだ。

 その横では弓兵が弓を引き、別の部隊は槍をこちらへ向けている。

 軍全体が降伏したわけではない。

「白い布の周囲は避けろ! 武器を向けている隊列を狙え!」

 二班の指揮者が兵へ命じる。

 全員を救うことはできない。

 それでも、武器を捨てた者を狙う必要はなかった。

「構え!」

 銃口が、予備兵の密集へ向く。

 赤い布が下りる。

「撃て!」

 第十一射。

 千発を超えた後も、火縄銃の轟音は止まらなかった。

 百発の弾が、前線へ到着する前の予備兵へ飛び込む。

 まだほとんど戦っていなかった兵たちが倒れる。

 前方には逃げてくる味方。

 後方には、さらに押し寄せる自軍。

 左右には小川と林。

 弾を受けなかった兵も、逃げる場所を失った。

 槍を捨て、盾を投げる者が出る。

 倒れた味方を踏み越え、横へ走る。

 その動きが隣の隊列へ伝わった。

 一人の逃走は臆病に見える。

 十人が同時に逃げれば、周囲の兵も敗北したと思う。

 百人が逃げ始めれば、指揮官の命令では止められない。

「二班、後退!」

 二班が下がる。

 敵の中央は、もはや前進していなかった。

 それでも三班は装填を終えている。

「三班、前へ!」

 四度目の第三射。

 戦闘全体では第十二射になる。

 これが三百挺による四度目の一巡を完成させる射撃だ。

 三班が土塁へ並ぶ。

 敵の中には、まだ武器を持って踏みとどまる者がいる。

 逃げる味方へ剣を向け、前へ戻そうとする指揮官もいる。

 後方の太鼓は鳴っている。

 シュヴァルツ伯の濃紫の旗も、まだ本陣に立っている。

「前へ進む部隊だけを狙え!」

 俺は命じた。

 背中を向けて逃げる者ではなく、こちらへ槍と弓を向ける者。

 逃げる兵を押し戻そうとする予備兵。

 騎兵をまとめ直そうとする指揮官。

 そこへ射撃を集中する。

「火蓋開け!」

 三班が火蓋を開く。

「構え!」

 敵の弓兵が最後の一斉射撃を行った。

 矢が白煙を突き抜け、土塁へ降る。

 火槍兵の前にいた槍兵が盾を上げる。

 矢が盾へ刺さる。

 一本が土塁を越え、三班の間へ落ちた。

 兵たちは構えを崩さない。

 敵の槍兵が、逃げる味方へ押されながら前へ出る。

 赤い布が振り下ろされた。

「撃て!」

 第十二射が戦場を揺らした。

 千二百発目までの百発が、敵中央の最後のまとまりへ突き刺さる。

 前へ出ようとしていた槍兵が倒れる。

 指揮官の乗る馬が脚を折り、横へ崩れた。

 周囲の兵が避けようとして隊列を開く。

 そこへ後ろから逃げてきた兵が突っ込んだ。

 旗が倒れる。

 弓が捨てられる。

 盾を持つ者が盾そのものを投げ出し、両手を空けて走り始める。

 敵中央の動きが、後退から敗走へ変わった。

 最初は前列だけだった。

 次に予備兵が下がる。

 さらに後方の兵が、前線から来る味方の顔を見て逃げ始める。

 火縄銃の射撃を一度も受けていない兵まで、黒い煙と轟音から離れようとする。

 前進を命じる太鼓は鳴り続けていた。

 だが、もう誰も従わない。

 太鼓を持つ兵自身が、後ろを振り返っていた。

「敵中央、崩れます!」

 高まりの上から声がした。

 俺の目にも分かった。

 整然と下がっているのではない。

 部隊ごとの旗を見て動いているのでもない。

 前の者が逃げるから、後ろの者も逃げる。

 後ろへ行くほど事情を知らず、何か恐ろしいことが起きたと思って走る。

 三千人の中央部隊が、一つの軍ではなく、大勢の逃げる人間へ変わっていく。

 土塁の前には、数えきれないほどの兵が倒れていた。

 弾を受けて動かない者。

 傷口を押さえている者。

 倒れた馬の下から抜け出せない者。

 味方に踏まれ、立ち上がれない者。

 千二百発すべてが命中したわけではない。

 盾や地面へ入った弾もある。

 白煙の中へ消えた弾もある。

 それでも、火縄銃の弾を直接受けた者だけで数百人に達しているように見えた。

 倒れた味方や馬へ巻き込まれた者まで含めれば、戦えなくなった兵がどれほどいるのか、その場では数えられない。

 三百挺で一万人を倒したのではない。

 中央へ押し込まれた三千人を撃ち続け、その中核を壊した。

 中央が壊れれば、左右と後方の兵も戦う場所を失う。

 火縄銃の射撃が、敵軍全体の形を崩し始めていた。

「今だ」

 高まりの上で、レオンハルトが右手を上げた。

「中央、前進! 騎兵は敵の横を断て!」

 角笛が鳴った。

 これまで土塁の後ろで待っていた槍兵が、通路の柵へ手を掛ける。

「柵を外せ!」

 二人一組で軽い柵を持ち上げ、横へ退ける。

 土塁に残していた四か所の通路が開いた。

「槍兵、前へ!」

 盾と槍を持つ兵が、土塁の外へ出る。

 火槍隊の前を横切らないよう、決められた通路から敵へ向かう。

 弓兵も前進する。

 逃げる兵の背中へ無差別に矢を射るのではない。

 隊列を立て直そうとする敵の予備兵と、こちらへ向き直る騎兵を狙う。

 左右後方で待機していたレオンハルト軍の騎兵が動いた。

 馬蹄の音が、先ほどまでの敵の進撃とは逆の方向から響く。

 味方騎兵は火槍隊の正面を通らない。

 土塁の左右を大きく回り、崩れた敵中央の横腹へ向かう。

 敵は前方から逃げる味方に押され、横から味方騎兵に突かれる。

 後方へ下がろうとする部隊は、無傷の予備兵と衝突する。

 敵の中央が二つ、三つに分かれた。

「火槍隊は前へ出るな!」

 俺は命じた。

 逃げる敵を見れば、追いたくなる。

 槍兵と騎兵が前進すれば、自分たちも勝利へ加わりたいと思う。

 だが、火縄銃を持って走る兵が、騎兵と同じ速さで敵を追えるはずがない。

「土塁を離れるな! 装填を続けろ!」

 一班、二班、三班が五本目の一発筒を取る。

 千二百発を撃っても、弾薬箱にはまだ六本ずつ残っている。

 敵が隊列を立て直せば、再び射撃する。

 火薬の荷車を前へ出さない。

 弾薬を得るために射手が陣地を離れない。

 勝ったと思った時に反撃を受けることは、戦場では珍しくない。

「左翼の敵が後退します!」

 伝令が叫んだ。

 小川を渡ろうとしていた敵兵は、中央が崩れたのを見て岸から離れ始めている。

 川の中にいた兵は、味方より先に戻ろうと争っていた。

「右翼、林の敵も下がります!」

 林へ入っていた敵部隊も、中央の敗走を知った。

 出口を守る味方槍兵と戦い続ける理由を失い、木々の間へ戻っていく。

 中央の三千人が崩れたことで、左右の約二千人も孤立した。

 一万人すべてが死傷したわけではない。

 それでも、軍として一つに動けなくなっている。

「敵本陣を見ろ!」

 マティアスの声が高まりから届いた。

 俺は白煙を避け、高まりの少し上へ移動する。

 敵陣の旗を探した。

 シュヴァルツ伯の濃紫の旗は、まだ見える。

 だが、最初にあった位置より後ろへ下がっていた。

「カスパルの旗が動きます」

 マティアスのそばにいた者が言う。

 中央左寄りにあったカスパル・フォン・ファルケナウの旗が、ゆっくりと後方へ移っている。

 ただ逃げているようにも見える。

 事前に取り決めを知らなければ、合図とは思わないだろう。

「退却準備ですか」

「シュヴァルツ伯本陣の馬が集められている」

 マティアスが答えた。

 遠くて人の顔までは分からない。

 それでも、本陣の周囲で騎兵が動き、濃紫の旗の近くへ馬が集まっているのは見えた。

 後方の荷車も動き始める。

「ロベルトの旗は?」

「あそこだ」

 ロベルト・フォン・リンデンフェルスの旗は、兵糧と軍資金を積んだ荷車の近くにある。

 荷車が一台ずつ、古い街道へ向かう道へ移されていた。

 敗走が始まったから、重要な荷を安全な道へ逃がす。

 敵から見れば自然な行動だ。

 だが、細い古い街道へ荷車が集まれば、後から逃げる護衛騎兵の進路を塞ぐ。

「エイドリアンの騎兵が動きます」

 敵右翼後方にいた若い領主の騎兵が、シュヴァルツ伯本陣へ近づこうとしていた。

 しかし、味方騎兵が敵の横腹へ突入したことで、エイドリアンは馬首をそちらへ向ける。

 シュヴァルツ伯を守るため、接近する敵騎兵を止めようとしているように見える。

 実際には、本陣へ集まるはずだった騎兵を横へ連れ出している。

 敵騎兵同士の間に距離が生まれた。

「ヴィクトルは?」

「まだ動かん」

 ヴィクトル・フォン・ドルンハイムの旗は、敵中央に近い位置へ残っている。

 敗走する兵の流れに飲まれながら、自分の部隊をまとめていた。

 すぐに逃げれば疑われる。

 すぐにこちらへ旗を向ければ、味方だった者から攻撃される。

 ヴィクトルは敵として振る舞いながら、シュヴァルツ伯の濃紫の旗を見ている。

 俺の火槍隊が父親を討った若い領主。

 その兵も、今の射撃へ巻き込まれたかもしれない。

 それでもヴィクトルは、約束された役割を果たそうとしている。

 敵本陣の濃紫の旗が、さらに後ろへ動いた。

 最初はゆっくりだった。

 やがて旗の周囲に騎兵が集まり、西ではなく、東寄りの退路へ向きを変える。

「シュヴァルツ伯が逃げます」

 俺が言った。

「まだだ」

 マティアスはヴィクトルの旗を見ている。

 濃紫の旗が動いただけでは、シュヴァルツ伯本人がいるとは限らない。

 旗だけを先に下げ、こちらの追撃を誘う可能性もある。

 ヴィクトルは本陣に近い位置から、本人の移動を確認する役目だった。

 敵中央の敗走兵が、ヴィクトルの部隊へ押し寄せる。

 旗が一度見えなくなった。

 俺は息を止めるようにして、その場所を見る。

 再び旗が現れた。

 ヴィクトルの旗は、最初に決めていた位置へ移っていた。

 濃紫の本陣旗より少し南。

 旗の向きが、古い街道へ続く側へ変わる。

「合図です」

 マティアスが言った。

 シュヴァルツ伯本人が撤退を始めた。

 最初の条件が揃った。

 だが、俺はまだ動かない。

 敵中央は崩れている。

 味方槍兵は土塁の前へ出た。

 レオンハルトの騎兵も敵の横腹へ入っている。

 残る二班と三班は装填を終えつつある。

 二百挺があれば、敵が立て直そうとしても交互射撃を続けられる。

 シュヴァルツ伯の濃紫の旗は後退した。

 ヴィクトルの旗も合図を出した。

 それでも、まだ足りない。

「角笛を待て!」

 俺は一班へ命じた。

 兵たちは五発目の装填を終え、土塁の後ろで待っている。

 林へ入るため、火縄を安全な位置へ上げていた。

 火を付けた火縄を管理する者だけが、周囲の火薬へ近づかない位置にいる。

 遠くで角笛が鳴った。

 短く二度。

 その後、長く一度。

 事前に決めていた移動命令の合図だ。

 だが、角笛だけでは動かない。

 煙と怒号の中で、別の部隊への合図を聞き違えた可能性がある。

「使者が来ます!」

 高まりの裏から騎兵が一騎、こちらへ向かってきた。

 馬を土塁の後ろで止め、飛び降りる。

 ユリウスが指名した使者だった。

「アレク・ハルトマン殿へ!」

 男は封をした命令書を差し出した。

 俺は封印を確認し、紙を開く。

『一班は林を抜け、古い街道を封鎖せよ。目的はシュヴァルツ伯の生け捕り。正面戦列の指揮は二班、三班の指揮者へ移す』

 条件がすべて揃った。

「命令を確認しました」

 俺は紙を畳み、胸元の袋へ入れる。

 二班と三班を率いる指揮者を呼んだ。

「ここからは、二百挺で交互射撃を続けてください」

「承知しました」

「敵を深追いしない。槍兵より前へ出ない。弾薬箱が空になる前に補充を受けてください」

「火薬の荷車は?」

「前へ出さないでください。射手が取りに戻ります。敵が反撃してきた場合は、槍兵の後ろへ下がって射線を作り直してください」

「アレク様は」

「一班と林を抜けます」

 二班の指揮者が、敵陣と林を見比べる。

「シュヴァルツ伯を?」

「生け捕りにします。ですが、正面が再び危険になれば、こちらを優先してください。私たちを助けるために二百人を動かしてはいけません」

「承知しました」

 勝利が決まったように見えても、敵にはまだ数千人の無傷な兵がいる。

 シュヴァルツ伯を追う百人のために正面を空ければ、戦そのものを失う可能性がある。

「一班、移動準備!」

 火槍兵長が号令を出す。

 アレク直轄の百人が集まる。

 全員が五発目の装填を終えている。

 弾薬箱には、残り五本ではなく六本ある。

 これまで一班が撃ったのは四発だ。

 今、鉄筒へ入っている一発を数えれば、使える弾は七発分。

 古い街道で待ち伏せるには十分な数だ。

「林の中では十人ずつ縦に進む!」

 火槍兵長が命じる。

「前の組との間を空けろ! 転んでも火縄銃を投げ出すな!」

 火縄へ火を残す者は、各十人組に一人ずつ。

 残る兵は火縄を安全な位置へ置き、林を抜けてから火を移す。

 全員が火の付いた火縄を持って走れば、転倒した時に腰の火薬へ燃え移る危険がある。

 支援兵の中から、火種と予備火縄を管理する者、負傷者を運ぶ者、伝令を数人ずつ連れていく。

 大きな荷車は林へ入れない。

 一発筒は各兵が腰の弾薬箱へ入れている。

 修理用の小さな部品と道具だけを支援兵が持つ。

「アレク様」

 火槍兵長が俺を見る。

「百人、準備できました」

 俺は土塁の前を見た。

 味方の槍兵が敗走する敵を押している。

 レオンハルトの騎兵は敵中央を横から分断した。

 二班と三班は土塁の後ろへ残り、次の射撃を準備している。

 シュヴァルツ伯の濃紫の旗は、後方へ遠ざかりつつあった。

「行きます」

 俺は林へ向かう。

「一班、前進!」

 百人が動き始めた。

 横一列ではない。

 十人ずつの列となり、前日に斥候が決めた入口から林へ入る。

 外から見れば、火槍隊の一部が高まりの裏へ下がったようにしか見えない。

 木々の間へ入ると、戦場の光景が見えなくなった。

 代わりに、土と湿った落ち葉の匂いが強くなる。

 地面には根が浮き、昨日避けると決めたくぼみには水が残っている。

「右の布を見ろ!」

 先頭の兵が、木へ結んだ細い布を指す。

 敵から見えない林の中にだけ付けた目印だ。

 百人はその布を追う。

 走りすぎない。

 前の者が倒れれば、後続も巻き込まれる。

 火縄銃を肩へ掛け、根を越え、低い枝を避ける。

 火種を持つ兵は列の外側へ寄り、火の付いた先端を体から離している。

 背後で、再び火縄銃の轟音が響いた。

 百挺ではない。

 残った二百挺のうち、どちらかの百人隊が発砲した音だ。

 木々の間から、白煙が空へ上がるのが見えた。

 正面の射撃は続いている。

 俺たちが抜けても、火縄銃の音は止まらない。

「間隔を詰めすぎるな!」

 火槍兵長が列の後方へ声を届ける。

「足元を見ろ! 前だけを見るな!」

 兵の一人が湿った根で足を滑らせた。

 すぐ隣の者が腕を掴む。

 転倒はしなかった。

 火縄銃も地面へ落としていない。

 兵は短く礼を言い、進み続ける。

 訓練で同じことを繰り返した。

 木製の模擬銃を持ち、林へ入り、指定地点へ着いた後に三列へ並ぶ。

 その訓練が、今は本物の火縄銃と火薬を持つ百人を動かしている。

 敵の姿は見えない。

 シュヴァルツ伯が本当に古い街道へ向かっているかも、林の中からは分からない。

 ロベルトの荷車が予定どおり道を塞いだのか。

 エイドリアンが護衛騎兵を分散させたのか。

 ヴィクトルが合図を出した後、無事に自軍を下げられたのか。

 確かめる手段はない。

 俺たちは、自分たちに与えられた役割を果たすしかなかった。

 後方から二度目の轟音が届く。

 残った二百挺が、交互に発砲している。

 その間に、味方の槍兵と騎兵が敵を押し続ける。

 正面では勝利が決まりつつある。

 だが、シュヴァルツ伯を逃がせば、残った諸侯を再び集めるかもしれない。

 別の場所で兵を募り、同じ戦を繰り返すかもしれない。

 古い街道へ先回りし、生きて捕らえる。

 それが、俺の百人へ与えられた仕事だ。

「林の出口まで、あと半分です!」

 先頭から声が届く。

「速度を保て! 列を崩すな!」

 俺は返した。

 胸の内側で、心臓が速く動いている。

 林を抜けた先に敵がいるかもしれない。

 俺たちより先に、シュヴァルツ伯の騎兵が着いている可能性もある。

 百人の護衛がいれば、三十、三十、四十へ分ける前に戦闘になる。

 それでも進むしかない。

 背後では、火縄銃の轟音が鳴り続けている。

 千二百発を超えても、戦場の火は消えていない。

 俺は前日に確認した木の印を見つけ、その先へ目を向けた。

 林の向こうから、わずかに明るい光が差している。

 古い街道が近い。

「シュヴァルツ伯が来るまでに、間に合わせる」

 俺は剣の柄へ触れ、百人とともに林の出口へ向かった。

第二十話を読んでいただき、ありがとうございました。

累計千二百発に及ぶ射撃によってシュヴァルツ伯軍の中央は崩壊し、レオンハルト軍の槍兵と騎兵も反撃を開始しました。ヴィクトルたち四人の策が動き始める中、アレクは直轄の百人を率いて林へ入ります。次回、古い街道へ逃れてくるシュヴァルツ伯とアレクたちが対峙します。


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