【第四篇の主要な登場人物】
第四篇「乱世に抗う力」の終了時点における、主要な登場人物を紹介します。第四篇の内容を含みますので、物語を読み終えてからご覧ください。
『第四篇 乱世に抗う力』終了時点
第四篇に登場した主要人物をまとめます。
【中心人物】
◆ アレク・ハルトマン
本作の主人公。十六歳。前世は三十歳の日本人会社員・佐藤恒一。現在はマティアス・クレーマーを主君としている。
王都、レオンハルト、シュヴァルツ伯の三勢力が動く中、マティアスとともに商人や領主との交渉へ赴き、兵の数だけでなく、穀物、荷車、街道、橋が戦の行方を左右することを学んだ。ローゼンハイム男爵領では、グリュン川大橋を守るための住民避難や物資の記録を手伝い、上流の浅瀬を巡る夜戦と橋上の攻防にも加わった。
従来型火槍を参考に、槍柄を廃して武器全体を短くしながら、発射筒を長く精巧にした新型火器を構想する。完全な設計図を持っていたわけではなく、ロルフや職人たちと試作と失敗を重ね、肩で反動を受けて照準し、引金で火縄を火皿へ落とす火縄銃を完成させた。
最初の試作品に続き、レオンハルトの命令で十挺を製作。五人二班による二段射撃、一発分の火薬と弾を収めた「一発筒」、携帯用弾薬箱、赤い布を使った射撃合図などを整えた。火縄銃の性能だけでなく、装填、号令、補給、槍兵との連携を含めて一つの戦力にしようとしている。
シュヴァルツ伯軍との最初の実戦では、火縄銃十挺による二度の射撃で敵指揮官を倒し、約四百人の敵兵を撤退させた。ただし、十挺だけで敵兵全員を倒したのではなく、指揮官を失わせることで部隊を混乱させた結果である。
その後の戦闘では二挺が不発となり、最後まで使用できたのは八挺だった。煙による視界の悪化、命令の聞き違い、兵の緊張、移動による隊列の乱れなども経験し、火縄銃があれば簡単に勝てるわけではないことを理解している。
アルベルトやエリーゼとの関係も続いている。エリーゼへの誕生日の贈り物として、林檎の花をかたどった髪飾りを手に入れた。渡すことは既に決めており、次にいつ会えるのかを気にしている。
◆ マティアス・クレーマー
クレーマー商会を率いる商人であり、アレクが自ら選んだ現在の主君。
人、金、契約、商人、荷車、街道、食料を使い、戦が始まる前から勝てる条件を整えていく。レオンハルトとは、兵站や物流を引き受け、必要な資金や物資を用意する一方、その影響力を自らの商売と将来へ利用する関係にある。
シュヴァルツ伯と長年取引してきたバルタザールに対し、過去の恩を捨てるよう強要せず、現在の商会と働く者たちを守るにはどうすべきかを考えさせた。その結果、シュヴァルツ伯へ向かっていた物資の一部を、レオンハルト側や王都側にも流す契約を結んでいる。
ローゼンハイム男爵との交渉では、領地や爵位を新たに与えるとは約束せず、今ある領地、兵の指揮権、橋の通行料を守る条件を示した。言葉だけで信用を求めるのではなく、過去の契約と支払いの記録を見せ、ローゼンハイム男爵自身に選ばせている。
アレクが火縄銃開発の責任を自分で取ると答えた際には、責任の取り方も知らない者が大口を叩くなと叱ったうえで、アレクを信じ、失敗した時の責任は自分が取ると支えた。アレクの知識を利用するだけでなく、それを実現するための金、材料、職人、輸送手段を用意する役割を担っている。
【レオンハルト陣営】
■ レオンハルト・フォン・グランヴァルト
グランヴァルト王国第一王弟。王都の王兄派や地方諸侯と対立しながら、自らを支持する兵と諸侯を率いている。
新しい知識や武器を、作った者の身分や過去だけで判断しない。アレクが提案した火縄銃の可能性を認め、試作品の製作場所と試射場を用意させた。試作品一挺の成功だけで軍を変えることはせず、比較試験を行わせたうえで十挺の製作を命じ、実戦で何ができるかを確かめた。
火縄銃を万能の武器とは考えていない。アレクには、どこへ置き、何を狙い、いつ撃つかを判断させ、実際の装填や二班の交代は火槍兵長へ任せた。火縄銃を使う場を与える一方、結果と失敗の両方を報告させている。
シュヴァルツ伯軍との戦いでは、王都軍と一つの軍になることを避けながら、書状、使者、角笛、時刻を使ってライゼン将軍と動きを合わせた。敵の側面を脅かし、王都軍と同時に進むことでシュヴァルツ伯軍を退けたが、グリュン川大橋が攻撃されたため、敵本隊の追撃よりも橋、倉、兵糧、帰還路を守ることを優先した。
世間では、誰も価値を認めなかった火槍へレオンハルトだけが早くから目を付けたという噂が広がり始めている。実際には、アレク、職人、マティアス、火槍兵たちの働きによって生まれた力だが、その功績は次第にレオンハルトの伝説として語られようとしている。
■ ユリウス・フォン・カレンベルク
レオンハルト直属の家臣。真面目で冷静な人物で、使者、書状、軍議、諸侯との交渉などを堅実に処理する。
ローゼンハイム男爵との交渉では、レオンハルトの正式な使者として書状を届けた。相手の領地と権利を保証し、橋を軍が使用する際には定められた料金を支払い、男爵軍の指揮権も奪わないという条件を伝えている。
マティアスやアレクの常識にとらわれない発言に振り回されることもあるが、その有用性は認めている。レオンハルトの考えを勝手に広げることなく、命令として許された範囲を守りながら動く人物である。
■ ジークフリート・フォン・アルテン
レオンハルトの命令を受け、グリュン川大橋へ援軍を率いて現れた指揮官。
長時間戦い続けて疲弊していたローゼンハイム男爵軍へ加勢し、橋の北半分に残された防衛線を支えた。橋上の敵を押し返すだけでなく、アレクの提案を受けて上流の浅瀬へ騎兵を進め、川を渡って敵の側面へ回り込んでいる。
アレクより年長で経験もあるが、若さだけを理由に提案を退けることはない。現場を確認し、猟師から川の状態を聞いたうえで、実行できると判断した策を採用した。
■ 火槍兵長
レオンハルトの兵から選ばれた火槍隊十人を率いる指揮者。新型火器が極秘であるため、部隊は表向き「火槍隊」とされ、本人も「火槍兵長」と呼ばれている。第四篇終了時点では固有名は明かされていない。
アレクが火縄銃の配置、標的、射撃の時機を判断し、火槍兵長が兵への号令、装填の確認、二班の交代を担当する。訓練では一人ずつ火縄や火蓋の状態を確認し、戦場では赤い布を掲げ、振り下ろすことで発砲の合図を送った。
初陣では敵指揮官を倒す射撃を成功させた一方、兵が命令より先に撃つ事故や、移動後の隊列の乱れにも対応した。戦後の報告では成功だけを語らず、不発、装填の遅れ、聞き違い、煙で合図が見えにくくなったことまで伝えている。
【グリュン川大橋を守った者たち】
● エーリヒ・フォン・ローゼンハイム
ローゼンハイム男爵領を治める領主。領内を流れるグリュン川に架かる大橋と、そこから得られる通行料を管理している。
王都、シュヴァルツ伯、レオンハルトの三陣営から条件を示され、どの陣営を選ぶべきか迷っていた。新しい土地や名誉よりも、現在の領地、領民、兵の指揮権を守ることを重視している。
レオンハルト側へ橋の使用を認めたことで、ヴァルナー伯軍の攻撃を受けた。戦いに備えて橋周辺の住民を避難させる際には、領民の荷だけを置いていかせることをせず、男爵家の家具や酒樽も荷車から降ろさせた。領主の財産だけを守るのではなく、自分も領民と同じ損失を受け入れる姿勢を見せている。
ヴァルナー伯から所領と爵位の保証を条件に降伏を求められたが、客人であるマティアス、ユリウス、アレクを捕虜として渡す要求を拒絶した。自分の客を敵へ差し出して得た平穏では、今後誰からも信用されなくなると考えたためである。
● ハーゲン
ローゼンハイム男爵軍の指揮を任されている人物。短く刈った灰色の髪と、左頬の古い傷が特徴。
男爵軍は五百人ほどしかおらず、その多くは実戦経験の乏しい徴集兵だった。ハーゲンは兵を小さな組に分け、互いに見失わないよう動かしながら、上流の浅瀬を渡ろうとする敵の別働隊を迎え撃った。
グリュン川大橋の戦いでは防衛線の中央に立ち、兵をまとめ続けた。敵の攻撃によって負傷し、治療のため後方へ運ばれたが、最後まで残された守りと敵の動きを伝えようとした。
アレクは、夜の浅瀬でハーゲンが兵を五人ずつに分けて動かした方法を見て学び、後の戦いで活用している。
【商人と職人】
▲ バルタザール・ケーニヒ
西部の宿場町ハルデンに店と倉庫を持つ有力商人。穀物、塩、干し肉、馬の飼料などを扱い、シュヴァルツ伯爵家とは十五年以上の取引がある。
商会が苦しかった頃にシュヴァルツ伯爵家の先代から助けられた恩があり、戦況が変わったからといって簡単に取引を打ち切ることを拒んだ。しかし、現在のシュヴァルツ伯から無理な輸送と後払いを求められ、荷車、馬、御者を失いかねない状況に置かれていた。
マティアスとの交渉を経て、既に代金を受け取った分はシュヴァルツ伯へ運ぶ一方、確実な支払いや担保のない追加契約は断ると決めた。さらにレオンハルト側や王都側にも物資を売り、一つの陣営とともに商会全体が滅びる危険を避けている。
誰かの旗を掲げたわけではないが、バルタザールが荷の行き先を変えたことで、他の商人たちにもシュヴァルツ伯との取引を見直す動きが広がった。
▲ ロルフ・ブレンナー
ローゼンハイム男爵領に工房を持つ鍛冶職人。無愛想で実務的な性格をしており、曖昧な成功を認めない。
アレクが描いた不完全な図をそのまま形にするのではなく、何を実現したいのかを聞き、材料、加工精度、安全性の問題を一つずつ確かめた。鉄筒の長さ、木台、火皿、火蓋、引金、ばね、掛け金、火縄を挟む金具などを試作し、失敗した部品も捨てずに原因を記録している。
自分一人で鉄筒を作るなら月に二本程度だと説明し、十挺すべてを一人で作ることは引き受けなかった。最初の一挺を基準とし、完成品の構造を知らされていない複数の職人へ部品製作を分担させ、集められた部品を検査して十挺を完成させた。
火縄銃の初陣後、西側と中央の戦闘で不発となった二挺が工房へ戻されることになった。成功した八挺だけを見るのではなく、撃てなかった二挺の原因を調べ、次の製作へ生かそうとしている。
【王都軍と敵対勢力】
◇ オットー・フォン・ライゼン
王都軍を率いる将軍。作中では主にライゼン将軍と呼ばれる。
王家への忠誠は厚いが、王兄の判断へ無条件に従う人物ではない。シュヴァルツ伯軍を共通の敵としてレオンハルト軍と協力したものの、両軍を一つにまとめず、王都軍は自分の判断と命令で動かした。
戦場では、レオンハルトから届いた書状をそのまま命令として受け入れず、自軍から見える敵の動きと照らし合わせたうえで行動を決めている。互いに疑いを残しながらも、使者、書状、角笛、決められた時刻によってレオンハルト軍と同時に前進し、シュヴァルツ伯軍を退けた。
戦後も、王都軍が追撃する範囲を自ら決定した。レオンハルトと同じ結論へ至ることはあっても、レオンハルトの配下として従っているわけではない。
◇ シュヴァルツ伯
グランヴァルトの地方諸侯を集める有力者。王都が税、兵、裁判などの権限を集めようとする動きへ反発しているが、自身の勢力を拡大しようとする野心も持つ。
多くの諸侯から兵を集め、王都軍とレオンハルト軍を上回る兵力を用意した。ただし、当初の想定以上に兵が増えたことで、必要な食料、飼料、荷車、御者も増え、兵站へ大きな負担が生じた。
王都軍とレオンハルト軍を別々に戦わせようとしたが、両軍が完全には合流しないまま同時に動いたことで陣形を崩され、撤退した。
第四篇の戦いには敗れたものの、本人は捕らえられていない。主力のすべてを失ったわけでもなく、再びレオンハルトたちの前へ立ちはだかる可能性を残している。
◇ ヴァルナー伯
シュヴァルツ伯を支持し、兵を率いて合流した有力領主。
西部から兵と物資を運ぶ要衝であるグリュン川大橋を奪うため、ローゼンハイム男爵領へ進軍した。上流の浅瀬を利用した別働隊、松明による陽動、橋上での継続的な攻撃などを使い、兵力で劣る男爵軍を疲弊させた。
シュヴァルツ伯軍が退却した際には、再び大橋を攻撃した。レオンハルトが敵本隊の追撃を続ければ、橋、倉、兵糧、帰還路を失う可能性が生まれたため、レオンハルト軍を戦場から引き離す役割を果たしている。
橋へ戻ったレオンハルト軍は、残った八挺の火縄銃を撃たず、敵から見える位置へ並べた。ヴァルナー伯軍は火縄銃だけでなく、槍兵、弓兵、騎兵、橋の守備隊を含めた反撃を警戒し、橋から後退している。
【アルヴェイン大公国】
◆ アルベルト・ヴァレンシュタイン
アルヴェイン大公国を治める大公。アレクの恩人であり、以前の主君。
アレクがマティアスを新たな主君として選んだ後も、敵対も絶縁もしていない。アレクの将来を考え、その意思を理解したうえで送り出しており、現在も手紙を交わせる良好な関係にある。
かつて戦場で使った従来型火槍を、レオンハルト陣営へ貸し出した。交換条件として、新型火器の試作品一挺と、試作品へ至るまでの開発記録を要求している。
従来型火槍は返却され、火縄銃の試作品と開発記録もアルベルトのもとへ届けられた。これによって最初の交換条件は履行されたが、今後の追加製作、購入、技術協力については、改めて条件を決める必要がある。
◆ エリーゼ・フォン・ヴァレンシュタイン
アルベルトの姪。アレクと長い時間をかけて信頼を育てている少女。
アレクがアルベルトには手紙を書いたのに、自分へは書かなかったことを寂しく思い、少し嫉妬を含んだ手紙を送った。アレクがどこで何をしているのか、無事に過ごしているのかを知りたがる一方、自分の暮らしや気持ちをアレクは知りたくないのかと不安を抱いている。
戦の最中に十六歳の誕生日を忘れていたアレクへ、アルベルトを通じて祝意を伝えた。アレクからも誕生日を祝う手紙を受け取り、次に会う時までに贈り物を考えるという約束を交わしている。
アレクはハルデンの商会で、銀細工の林檎の花をかたどった髪飾りを見つけた。以前エリーゼと一緒に食べた林檎と、彼女の淡い金色の髪を思い出し、誕生日の贈り物として購入している。第四篇終了時点では、まだエリーゼへ渡せていない。
第四篇の登場人物紹介を読んでいただき、ありがとうございました。
兵糧や橋を巡る争いから始まった第四篇では、アレクたちが多くの人々の力を結び、火縄銃十挺を実戦へ送り出しました。成功だけでなく、不発や命令の混乱といった課題も残されています。
新たな武器と戦場で得た経験が、アレク、マティアス、レオンハルトたちの立場をどう変えていくのか。第五篇「乱世に広がる火」もお楽しみいただければ幸いです。




