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『知らない世界の知っている物語』 ~剣と知識を授かった平凡な会社員は、異世界の乱世を生き抜く~  作者: 相田 ソウ
第四篇 乱世に抗う力

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第十八話 十挺の音

組み上がった十挺の火縄銃を、アレクたちは再び山中の試験場へ運びます。一挺ずつの安全確認から始まり、一人、二人、五人、そして十人へ。武器が増えたことで、これまで見えなかった煙、音、号令、再装填の問題が姿を現します。

十挺の火縄銃を山中の採石場へ運ぶために、荷車は三台に分けた。

一台目には銃を五挺。

二台目には残りの五挺と掃除道具、交換用の火縄、固定台。

三台目には火薬と弾を載せる。

火薬を載せた荷車は、他の二台との間を空けた。

荷を守る兵にも、隣り合って走らせないよう命じてある。

一台が泥へ車輪を取られても、三台すべてが同じ場所へ集まらないようにするためだ。

火薬と火縄と十挺の銃を一か所へ集めれば、何か起きた時に全部を失う。

一挺だけを運んだ時には考えなかったことだった。

出発前、マティアスは荷車を一台ずつ見た。

「帳面と銃は分けたか」

「開発記録は俺が持っています」

「お前が落馬すれば、銃と記録を一度に失わずに済むな」

「落馬する前提で言わないでください」

「敵がいなくても、人は落ちる」

否定できなかった。

道は平らではない。

荷車の車輪が石へ乗り上げるたび、布に包まれた銃が僅かに揺れる。

一本ずつ木枠へ固定してあるが、工房の作業台に置いていた時とは違う。

運ぶだけでも、固定金具や木台が傷む可能性がある。

先頭には道を知る兵を置いた。

その後ろを銃を積んだ二台が進む。

俺とロルフは二台の間を馬で進み、銃の荷台を交互に見る。

火薬を積んだ三台目はさらに後ろだ。

その前後には、火種を持たない護衛を付けている。

火薬を運ぶ者以外は、火縄へ火を付けていない。

山道へ入る前に、街道から分かれる場所で人数を数え直した。

レオンハルト。

マティアス。

ロルフ。

俺。

選抜された兵たちを預かる火槍兵長。

最初の射手に選ばれた十人。

予備と、火薬、弾、火縄、道具を担当する九人。

火薬を扱う者。

護衛。

山道と採石場の見張り。

名簿では、選抜された十九人は全員が火槍兵だ。

実際に火縄銃を持つのは、そのうち十人だけになる。

表向きの名前だが、警戒区域の内側でも呼び方は変えないことにした。

ここでは火縄銃兵、外では火槍兵と使い分ければ、いつか誰かが外で間違える。

新しい銃を扱う兵も、名簿でも、命令書でも、俺たちの口から出る時も火槍兵。

武器そのものについて話す必要がある時だけ、火縄銃と呼ぶ。

「見張りの数が増えましたね」

俺が言うと、マティアスは山道の先を見た。

「前は一挺だった。今日は十挺と、それを使う兵を見せる」

「全員、口止めしています」

「口を閉じろと言われた者ほど、何を隠しているのか考える」

「では、言わない方がよかったですか」

「言わなければ話す。言えば考える。どちらでも人は動く」

「どうすればいいんです?」

「誰が知ったかを残せ」

完全に秘密を守る方法ではない。

秘密が漏れた時、どこから広がったかを探れるようにする。

山道の最初の見張りは、通った人数と荷車の数を記録している。

次の分かれ道にも別の見張りがいる。

採石場へ入る直前には、持ち込んだ荷を再び数えた。

十挺。

火薬の入った樽。

一回分ずつ分けるための小さな容器。

弾の入った箱。

火縄。

装填に使う棒。

掃除道具。

水桶。

砂。

厚い布。

不発の銃を置く木台。

すべて帳面へ書いた。

帰る時にも同じ数を確かめる。

「火薬は、あそこへ」

採石場へ着くと、マティアスが岩壁から離れた窪地を指した。

前回より射撃位置から遠い。

土を盛り、その向こうへ火薬を置く。

射撃に使う分だけを小さな容器へ移し、蓋を閉じて運ぶ。

樽ごと射手の近くへ持っていくことはしない。

「遠すぎませんか」

俺が尋ねる。

「戦場でも同じ場所へ置くつもりか」

「遠ければ、装填が遅くなります」

「近ければ、火が移った時に全部なくなる」

速さと安全のどちらかを選べば終わる話ではない。

火薬を遠くへ置いたまま、必要な量を必要な時に射手へ届ける方法を考える必要がある。

十挺を一度撃つだけなら、十回分を用意すればいい。

何度も撃つなら、そのたびに誰かが火薬を運ぶ。

銃が増えれば、火薬を置く場所と射手の間を動く人間も増える。

俺は採石場の地面へ線を引いた。

射撃する兵の位置。

その後ろに、予備の兵が待つ場所。

さらに離れた場所に、弾と火縄を置く。

不発になった銃は、射撃線の右端から人へ向けず、専用の木台へ運ぶ。

ただし、火皿だけが燃えた直後には動かさない。

遅れて筒内へ火が届くかもしれないからだ。

「不発の者は、その場で銃口を的へ向けたまま待たせます」

俺は火槍兵長へ説明した。

「どれくらいだ」

「決めた時間が過ぎるまでです」

「何で測る」

砂時計を見せる。

工房で作業時間を比べるために使っていた小さな物だ。

正確に一分、二分と測れるわけではない。

それでも、人の感覚だけで待つよりは揃えられる。

「砂が落ちきるまで、誰も不発の銃へ近づけないでください」

「その間、他の者は」

「射撃を止めます」

「一挺が不発になるたび、十挺すべてを止めるのか」

「今日は最初の試験です」

俺が答える前に、レオンハルトが言った。

「戦の速さを試す前に、十人を無事に帰せるか試せ」

火槍兵長が頭を下げた。

「承知しました」

準備が終わると、十挺の銃を布から出した。

木台には、簡単な印を刻んである。

一本線。

二本線。

三本線。

四本目からは、縦の線へ横線を加えた。

数字を読めない兵でも、印の数と形で自分の銃を見分けられる。

帳面では一挺目から十挺目と記録する。

射手にも担当する銃を決めた。

別の銃を渡されても同じ手順で使えることが目標だ。

しかし今日から担当を入れ替えれば、どの銃で何が起きたのか分からなくなる。

「銃を置いた位置も変えないでください」

俺が言う。

「一挺目は左端。十挺目は右端です」

「兵の並びもか」

火槍兵長が尋ねた。

「今日は固定します」

「戦場では隣が倒れる」

「だから、今日の結果を取った後で入れ替えます」

一度に全部を試さない。

銃の違い。

兵の違い。

配置の違い。

すべてを同時に変えれば、失敗した時に原因を探せなくなる。

ロルフが一挺目を固定台へ載せた。

「始めるぞ」


◇ ◇ ◇


最初の試験は、兵に持たせず、十挺を一挺ずつ固定台から撃つことだった。

一挺目へ火薬を入れる。

同じ型を通った弾を筒口へ入れ、棒で奥まで押し込む。

火皿へ細かな火薬を置き、火蓋を閉じる。

火縄ばさみを半分上げ、火の付いた火縄を挟む。

火縄ばさみごと完全に引き上げ、掛け金へ留める。

固定台へ据え、火蓋を開く。

引金へ結んだ長い縄を、岩陰から引く。

掛け金が外れた。

火縄が火皿へ落ちる。

白い煙と音が採石場へ広がった。

弾は大きな板の中央より右へ当たった。

前に撃った時と近い位置だ。

「一挺目、発射」

俺は帳面へ記した。

「固定金具は」

ロルフが近づく。

火縄は火皿へ落ちたままだ。

遅れて発射しないことを確かめ、火縄ばさみごと手で引き上げる。

火縄を外し、火を消す。

筒が冷めるのを待ってから、木台、固定金具、火皿、火蓋、掛け金を調べる。

「異常なし」

一挺目を下ろし、二挺目を固定する。

同じ量の火薬。

同じ弾。

同じ固定台。

同じ角度。

二挺目も発射した。

弾は一挺目より下へ当たった。

三挺目も発射した。

三つの穴は同じ場所へ集まらない。

筒の内側。

木台の形。

固定金具。

火縄が落ちる位置。

一挺ごとの小さな違いが、弾の飛ぶ場所を変えている。

それでも、三発とも板の内側だった。

四挺目は、火皿の火薬だけが燃えた。

白い煙が少し上がる。

だが、筒は鳴らない。

「動くな」

ロルフが言った。

誰も固定台へ近づかない。

火縄は火皿へ落ちたままだ。

砂時計を返す。

砂が少しずつ下へ落ちる。

音がない時間の方が、発射音より長く感じた。

砂が落ちきってから、ロルフが固定台へ近づいた。

最初に火縄ばさみごと火縄を引き上げ、火縄を外す。

火皿に残った煤を払い、点火孔を細い棒で調べる。

「塞がっている」

「工房では通っていました」

俺が帳面を開く。

「火皿を付ける前にも確認しています」

「筒内を掃除した時の汚れが入ったかもしれん」

点火孔は小さい。

僅かな煤や油でも火を妨げる。

棒を通し、火皿へ改めて細かな火薬を置く。

筒内には、最初に入れた火薬と弾が残っている。

もう一度火縄を付け、固定台から撃つ。

今度は筒内へ火が届いた。

四挺目が発射する。

「点火孔の詰まり。一度清掃後、発射」

俺は失敗した一回も書いた。

五挺目と六挺目は、一度で発射した。

七挺目は、縄を引いても掛け金が外れなかった。

引金は動いている。

だが、途中で止まる。

「引き方が弱かったですか」

俺が尋ねる。

「同じ縄で六挺撃った」

ロルフは固定台から離れたまま答えた。

「引金だ」

火薬と弾が入っている。

火蓋は開いている。

火縄も燃えている。

近づいて調べることはできない。

火縄が掛け金へ留まったままでも、何かの拍子に外れるかもしれない。

砂時計の砂が落ちきるまで待つ。

火蓋を閉じるためにも、誰かが銃へ近づかなければならない。

「俺が行きます」

ロルフが言った。

「俺も」

「一人でいい」

「どこを見るか記録します」

「遠くから見ろ」

ロルフは固定台の横から近づいた。

銃口の前には立たない。

火縄ばさみの後ろを押さえ、掛け金が外れないようにしてから火縄を外す。

火蓋を閉じる。

それから火縄ばさみを僅かに引き上げ、掛け金へ掛かる力を抜いた。

銃を固定台から外さず、引金と掛け金のつながりを調べる。

「軸が固い」

「工房で二十回動かしました」

「運んだ」

山道の揺れで、軸が僅かにずれたらしい。

油を付け、位置を直す。

火縄を付けずに十回動かす。

今度は掛け金が外れた。

火縄と火薬を整え、七挺目を発射する。

一度目は撃てなかった。

だが、調整後は弾を飛ばした。

八挺目は問題なく発射した。

九挺目は発射後、鉄筒を押さえる前側の金具が僅かに浮いた。

木台から外れるほどではない。

しかし、もう一度撃てば緩みが大きくなるかもしれない。

ロルフが金具を締め直す。

「工房の動作確認では、火薬の力はかかりません」

俺は帳面へ書いた。

「撃たなければ分からないことです」

「分かったなら、次から先に見る」

十挺目は一度で発射した。

十挺すべてから、少なくとも一発の弾が飛んだ。

しかし、十挺すべてが最初から同じように撃てたわけではない。

点火孔が詰まった四挺目。

掛け金の軸が固くなった七挺目。

固定金具が緩んだ九挺目。

弾が当たる位置も、それぞれ違う。

俺は的へ開いた穴の位置を帳面へ写した。

「十挺、発射確認」

そう書こうとして、手を止める。

四挺目と七挺目は、一度目に発射していない。

「十挺、調整後を含めて発射確認」

書き直した。

成功したという一言だけでは、次に使う者が失敗を知らない。

「次は兵です」

俺が言うと、レオンハルトが十挺の銃を見た。

「一人からだ」


◇ ◇ ◇


最初に銃を持ったのは、木の練習道具で最も動きが遅かった兵だった。

遅い代わりに、一度も手順を飛ばしていない。

担当は一挺目だ。

厚い上着を着せ、肩には畳んだ布を入れた。

周囲から他の兵を離す。

火薬を扱う者が、一回分を小さな容器へ入れて渡す。

兵は蓋を開けた。

筒口へ火薬を入れる。

空になった容器を、決められた籠へ置く。

弾を入れる。

棒で奥まで押し込む。

棒を抜く。

「棒を見せろ」

火槍兵長が号令を出す。

射手は抜いた棒を体の横へ立てた。

筒の中へ残っていないことを、離れた場所から確認できる。

木の練習道具では必要性が分かりにくかった号令だ。

棒を筒へ入れたまま撃てば、弾と一緒に飛ぶ。

筒を傷めるだけでなく、次の装填もできなくなる。

兵は火皿へ細かな火薬を置いた。

火蓋を閉じる。

火縄ばさみを半分上げる。

火の付いた火縄を受け取る。

その瞬間、兵の動きが止まった。

「どうしました?」

俺が尋ねる。

「火が近い」

火の付いていない紐なら、倉庫で何度も挟んでいる。

だが、今は火縄の先が赤く燃えている。

細い煙も上がっている。

木台には、筒内の火薬と弾が入っている。

同じ手順でも、失敗した時の結果が違う。

「急がなくていいです」

兵は一度息を吐いた。

火縄を火縄ばさみへ挟む。

先が長すぎないか確かめる。

火縄ばさみごと火縄を完全に引き上げ、掛け金へ留めた。

射撃位置へ進む。

火蓋を開く。

木台の後ろを肩へ当てる。

「構え」

銃口が的へ向く。

「撃て」

兵が引金を引いた。

掛け金が外れる。

火縄が落ちる。

発射音が岩壁へ返った。

兵の肩が僅かに後ろへ動く。

足は残った。

火縄は火皿へ落ちたままだ。

兵はすぐに引き上げようとしなかった。

煙が薄くなり、遅れて発射しないことを確かめる。

火縄ばさみごと火縄を手で引き上げる。

火縄を外し、銃口を的へ向けたまま待つ。

「終わりです」

俺が言うと、兵はようやく息を吐いた。

「木より重く感じます」

「重さは近づけたはずです」

「火薬が入っていると思うと違います」

帳面へ書く。

実物では動作が遅くなる。

火縄を渡した後で、さらに時間がかかった。

だが、手順は一つも飛ばしていない。

弾は板の左側へ当たっていた。

狙いは中央から外れたが、最初の一発としては十分だった。

次に二人を並べた。

担当する銃は二挺目と三挺目。

互いの間は、槍を横へ持っても届かないほど空ける。

発射前に火縄が風で流れ、隣の兵へ近づかないようにするためだ。

火槍兵長が号令を出す。

「火薬を入れろ」

二人が小さな容器から火薬を入れる。

「弾を込めろ」

動きには差があった。

左の兵はすぐに弾を奥へ押し込む。

右の兵は棒を抜くまでに時間がかかる。

「棒を見せろ」

左の兵が先に棒を立てた。

右の兵はまだ筒の中だ。

左の兵が次の動作へ進みかける。

「待て」

火槍兵長が止めた。

二人とも動かなくなる。

右の兵が棒を抜き、横へ立てる。

「火皿へ火薬を置け」

今度は二人がほぼ同じ時に動いた。

火蓋を閉じる。

火縄を挟む。

火縄を上げる。

火蓋を開ける。

「構え」

二挺の銃口が的へ向く。

「撃て」

左の銃が先に鳴った。

右の銃は、僅かに遅れて鳴った。

一つの音には聞こえない。

ドン、ドン、と続いた。

右の兵が号令を聞いてから引金を引くまで、左より遅かっただけではない。

火縄が火皿へ落ちてから、筒内へ火が届く時間にも差がある。

「同時に引きました」

右の兵が言う。

「責めているのではありません」

俺は答えた。

「同じ時に引金を引いても、銃が同じ時に鳴るとは限らない。それが分かりました」

二人の射撃なら、ずれた音を聞き分けられる。

十人になれば、誰がいつ発射したか分からなくなるかもしれない。

弾は二発とも板へ当たった。

だが、着弾の位置は離れている。

同じ型を通した弾を使い、同じ量の火薬を入れても、銃と兵の違いは残る。

「次は五人」

レオンハルトが言った。

火槍兵長の顔が僅かに固くなった。

二人を見ていた時と、五人を同時に動かす時では違う。

俺も帳面を閉じ、射撃線の後ろへ移った。


◇ ◇ ◇


五人は、一挺目から五挺目までを持って並んだ。

射手の後ろには予備の兵を立たせない。

今日は交代する時だけ近づかせる。

火薬と弾も、一回分を渡した後は射撃線から下げた。

一人が失敗して火を落としても、予備の火薬へ届かない距離を取る。

「始める」

火槍兵長が声を出した。

倉庫の中より声が大きい。

岩壁へ反響することを考え、一つの号令を短く切る。

「火薬」

五人が容器の蓋を開ける。

筒口へ入れる。

「弾」

弾を入れる。

棒で押す。

「棒を抜け」

五人が棒を抜く。

「棒を見せろ」

四人の棒が上がった。

一人だけ遅れている。

全員が揃うまで待つ。

「火皿」

細かな火薬を置く。

「火蓋」

五人が閉じる。

「火縄」

火縄ばさみを半分上げ、火の付いた火縄を挟む。

五人の前へ細い煙が上がる。

「火縄を上げろ」

掛け金へ留める。

「前へ」

射撃位置へ進む。

「火蓋を開けろ」

五人が火蓋へ手を伸ばした。

左から四人目が遅れる。

蓋の軸が固いのではない。

火縄の先を見ていたため、号令を聞いてから動くのが遅れた。

「構え」

五挺が肩へ上がる。

火蓋を開け終わっていない兵も、隣につられて銃を持ち上げかけた。

「止めろ」

火槍兵長の声が飛んだ。

五人が止まる。

四人目の兵が火蓋を開く。

「全員、火蓋を確認」

兵たちが自分の火蓋を見る。

「構え」

今度は五挺が揃って上がった。

「撃て」

三挺の発射音が近い間隔で重なった。

四挺目が少し遅れる。

五挺目は鳴らなかった。

火皿から白い煙だけが上がっている。

五人の前へ煙が広がった。

風は的の方へ吹いていたが、すぐには消えない。

「その場を動くな」

火槍兵長が命じる。

発射した四人も、再装填へ移らない。

不発の兵は銃口を的へ向け、火縄が落ちた状態のまま待つ。

砂時計を返す。

五挺の発射音が岩壁の間を何度も返り、耳の奥に残っている。

俺は火槍兵長の横にいたが、最初の命令を聞き取りにくかった。

十挺なら、さらに聞こえなくなる。

砂が落ちきる。

ロルフと不発の兵だけが銃を調べる。

火縄の先が崩れ、火皿の端へ触れていた。

火薬の一部は燃えたが、点火孔の周りには燃え残りがある。

火縄を整え、火皿へ新しい火薬を置く。

今度は一挺だけで発射する。

弾は飛んだ。

五挺すべての射撃が終わる。

「的は」

レオンハルトが尋ねた。

煙が流れるのを待つ。

板には新しい穴が四つあった。

一発は外れたらしい。

岩壁のどこへ当たったかまでは分からない。

「五発中、四発です」

俺が答えた。

「一度目の射撃では四挺が発射。命中は、その四発のうち三発です」

「音は」

レオンハルトは火槍兵長へ尋ねた。

「一つには揃いませんでした」

「命令は聞こえたか」

「撃った後の命令は、聞き取りにくいです」

「煙は」

「左端から右端まで見渡せません」

五人だけでも、射撃前とは景色が変わった。

煙の向こうに誰が撃ち、誰が不発なのか見えにくい。

火槍兵長が一人ずつ歩いて確かめれば時間がかかる。

「発射した者は、どうすれば分かる」

レオンハルトが俺を見る。

「手を上げさせますか」

「銃を持ったままか」

片手を離せば、銃口が下がる。

隣の兵へ向くかもしれない。

声で答えさせても、発射音の直後には聞き取れない。

「銃口を的へ向けたまま、火縄を上げた者を発射済みとします」

俺は答えた。

「不発の者は、火縄を落としたまま動かない」

「煙の中で見えるか」

「近づけば」

「近づかなければ分からないのか」

すぐに良い方法は出なかった。

「火縄を上げた後、木台の後ろを地面へ付けます」

火槍兵長が言った。

「銃口は斜め上へ向きます」

「上へ向けた銃が遅れて発射したら?」

俺が尋ねる。

火槍兵長は黙った。

不発か発射済みかを誤れば、空へ弾が飛ぶ。

「発射後も、銃口は的へ向けたままにします」

俺は言った。

「火槍兵長が、左から一人ずつ火縄の位置を確認する。時間はかかりますが、今はそれしかありません」

レオンハルトは頷かなかった。

否定もしない。

「十挺を撃つ前に、もう一度五挺でやれ」

「はい」

二度目の五挺では、発射後の手順を追加した。

引金を引く。

発射した者は、遅れて火が付かないことを確かめてから火縄ばさみごと火縄を手で引き上げる。

銃口は的へ向けたまま。

再装填は始めない。

不発の者は火縄を落としたまま動かない。

火槍兵長が左端から確認し、全員の状態が分かってから次の命令を出す。

今度は五挺すべてが発射した。

音はやはり僅かにずれた。

それでも一度目より近い。

発射後、五人とも勝手に動かなかった。

火槍兵長が左から確認する。

煙の中では時間がかかる。

だが、誰も不発ではないと分かってから再装填へ移れた。

「次は十人です」

俺が言うと、マティアスが火薬の入った小さな容器を数えた。

「一度撃つだけで十個か」

「十発分です」

「五度撃てば」

「五十発分」

「二十度なら」

「二百発分です」

「兵一人が二十発撃てると思うか」

「装填の速さと、火縄が保つ時間も調べなければ分かりません」

「火薬を運ぶ者が何往復するかもな」

十挺の発射音ばかり考えていた。

だが十挺が一度鳴るたび、十回分の火薬と十個の弾が消える。

戦場で何度も撃たせるなら、武器より先に火薬と弾が尽きるかもしれない。

「十挺の準備を」

レオンハルトが命じた。

考える時間は後だ。

まず、十人を無事に撃たせなければならない。


◇ ◇ ◇


十人が射撃線へ並んだ。

左から一挺目。

右端が十挺目。

五人の時より、列が長い。

火槍兵長が中央の後ろに立っても、両端の兵を一度に見ることはできない。

一人ひとりの間隔を狭めれば列は短くなる。

だが、燃えている火縄と火薬を扱う兵を近づけすぎることになる。

「両端まで声は届きますか」

俺が尋ねる。

「届かせる」

火槍兵長が答えた。

「聞こえなければ?」

「隣の動きを見る」

「隣が間違えれば、全員が間違えます」

火槍兵長は射撃線を見た。

「号令を繰り返します」

「それでいきましょう」

一つの命令を、短く二度繰り返す。

「火薬。火薬」

十人が容器を取る。

「弾。弾」

「棒を抜け。棒を抜け」

「棒を見せろ。棒を見せろ」

十本の棒が上がる。

右端の兵が少し遅れたが、全員揃った。

「火皿。火皿」

「火蓋。火蓋」

「火縄。火縄」

十本の火縄へ火が付いている。

細い煙が列の前へ並ぶ。

風が一時的に止まった。

煙はまっすぐ上がる。

「火縄を上げろ。火縄を上げろ」

火縄ばさみごと引き上げ、掛け金へ留める。

「前へ。前へ」

十人が射撃位置へ進む。

左端が半歩早い。

右側の二人が遅れる。

一直線にはならない。

「止まれ」

全員が止まる。

火槍兵長が位置を直す。

「火蓋を開けろ。火蓋を開けろ」

兵たちが火蓋を開く。

俺は左から確認する。

火槍兵長は右から見る。

六挺目の火縄が短い。

燃えた先が火縄ばさみの近くまで来ている。

このまま落とせば火皿へ届くかもしれない。

だが、発射後に手で引き上げる時、火が金具へ近すぎる。

九挺目の兵は火蓋を開けていない。

三挺目の銃口が、隣の的へ僅かに向いている。

「構え」

火槍兵長が言いかけた。

「止めてください」

俺が声を上げる。

「構えを解け」

火槍兵長がすぐに命じた。

十人は銃を下ろした。

引金へ指を掛けた者はいない。

六挺目の火縄を新しい物へ替える。

九挺目の火蓋を開かせる。

三挺目の立ち位置と銃口を直す。

「撃てませんでした」

九挺目の兵が低い声で言った。

「撃たなかったんです」

俺は答えた。

「同じではありません」

「敵の前でも止めるのか」

「味方へ銃口を向けたまま撃つよりは」

レオンハルトが射撃線へ近づいた。

十人の前で足を止める。

「撃てない時に止められる者でなければ、十人を預けられん」

火槍兵長を見る。

「今の中止は誰の命令だ」

「アレクの声を受け、私が命じました」

「次は、お前が先に見つけろ」

「はい」

レオンハルトは射撃線から離れた。

失敗したのではない。

事故になる前に止めた。

そう考えなければならない。

それでも、全員の前に火薬と弾を入れた銃がある状況で中止を命じるのは怖い。

止めた後、どの段階まで進んでいたか分からなくなる危険もある。

今回は全員、火薬と弾を入れ、火縄を掛け金へ留めた状態だ。

火蓋を確認し直す。

火縄の長さを確認する。

銃口の向きを確認する。

最初から装填し直すことはできない。

二重に火薬や弾を入れることになるからだ。

火槍兵長が一人ずつ状態を確かめた。

「全員、射撃準備済み」

「前へ」

今度は十人の足が先ほどより揃った。

「火蓋を確認」

全員が開いている。

「構え」

十挺が肩へ上がる。

列の端まで銃口が的へ向いている。

火縄の煙が風で左へ流れた。

「撃て」

発射音が重なった。

腹の奥を叩くような音だった。

一つの大きな音ではない。

七つほどが短い間に続き、その後へ二つの音が遅れて重なった。

残る一挺は鳴らない。

白い煙が十人の前へ広がる。

岩壁に囲まれた採石場で音が何度も返る。

耳の奥が塞がれたようになる。

火槍兵長が何かを叫んだ。

口が動いているのは見える。

だが、言葉は聞き取れなかった。

煙で右端の兵が見えない。

風が戻り、煙がゆっくり左へ流れる。

「動くな!」

今度は声が聞こえた。

発射した兵たちは火縄を引き上げ、銃口を的へ向けたまま待っている。

八挺目の兵だけが、火縄を火皿へ落としたまま動いていない。

不発だ。

砂時計を返す。

他の九人も再装填を始めない。

煙が薄くなっていく。

火槍兵長が左から一人ずつ確認する。

七挺は近い間隔で発射。

二挺は遅れて発射。

一挺は火皿の火薬だけが燃えた。

砂が落ちきるまで、八挺目へ近づかない。

誰も話さなかった。

十挺の発射音を聞いた後では、普段の声で話しても届かない。

ようやく砂が落ちきる。

ロルフが八挺目へ近づいた。

火縄ばさみごと火縄を引き上げる。

火縄を外す。

火蓋を閉じる。

点火孔を調べる。

「火縄の先が悪い」

金具でも点火孔でもない。

火縄の先が崩れ、火薬へ十分に触れなかった。

先を切り、形を整える。

火皿へ新しい火薬を置き直す。

八挺目だけを発射する。

今度は弾が飛んだ。

「的を見ます」

煙が流れた後、俺と数人で板へ近づいた。

十発のうち、板に当たった穴は六つ。

一発は端を削っている。

残り三発は外れた。

一挺ずつ固定台から撃った時より、命中は悪い。

兵は本物の火薬と火縄を使って撃つことに慣れていない。

反動を恐れて銃口を下げた者もいる。

引金を引く瞬間に目を閉じた者もいたかもしれない。

「六発です」

俺はレオンハルトへ報告した。

「少ないと思うか」

「十挺なら、もう少し当たると思っていました」

「一挺目の時は、当たったことを喜んでいた」

「あの時は一挺でした」

「十挺になれば、十発すべて当たると思ったか」

言われると、自分が同じ間違いをしていたことに気づく。

一挺の命中率を、そのまま十倍へして考えていた。

兵が増えれば、腕の違いが出る。

銃が増えれば、銃ごとの癖が出る。

号令を待つ時間も、隣の発射音も、煙も影響する。

「訓練が必要です」

「音はどうだ」

レオンハルトが火槍兵長へ尋ねた。

「一挺とは違います」

「敵なら」

「近くで初めて聞けば、足が止まる者はいると思います。馬がどうなるかは、実際に見なければ分かりません」

「味方は」

「命令が聞こえなくなります」

レオンハルトが僅かに頷いた。

音と煙は、敵だけを脅かすものではない。

味方の耳と目も奪う。

「もう一度、十挺を撃て」

レオンハルトが命じた。

俺は火薬を運ぶ者の方を見た。

小さな容器が十個、空になっている。

次の十回分を用意する。

火薬を置いた窪地から射撃線まで、何度も往復する。

「再装填にかかる時間も測ります」

砂時計を返す。

「装填開始」

火槍兵長が命じる。

十人が火縄を安全な位置へ離す。

一回分の火薬を受け取る。

筒口へ入れる。

弾を込める。

棒で押す。

動きが速い者と遅い者の差が広がる。

先に終えた兵は待つ。

遅い兵は、待たせていることに気づいてさらに急ぐ。

六挺目の兵が棒を抜いたか確認せず、火皿へ手を伸ばした。

「棒」

隣の兵が言った。

六挺目の兵が止まる。

装填棒は筒へ入ったままだ。

「全員止まれ」

火槍兵長の号令が飛ぶ。

十人が止まった。

「六挺目、棒を抜け」

兵が棒を抜く。

「他の者も確認」

全員が自分の銃を見る。

一人の間違いで、十人の装填が止まる。

戦場なら、その時間に敵は近づく。

だが、棒を入れたまま撃たせるわけにはいかない。

再び号令を始める。

火皿へ火薬を置く。

火蓋を閉じる。

火縄を挟む。

火縄を上げる。

十人が再び撃てる状態になるまでに、砂時計は何度も返された。

「今、騎兵が向かってきたらどうする」

レオンハルトが俺へ尋ねた。

答えは分かっている。

「火縄銃兵だけでは止められません」

「名は」

「火槍兵です」

「なら、火槍兵だけではどうする」

「前を槍兵に守らせます。騎兵なら、柵や溝も必要です。射手が装填する間、敵を近づけない兵が要ります」

「弓兵は」

「火縄銃が撃てない時間を補えます」

「土を盛れば」

「弾や矢から射手を守れます。銃を置く高さも揃えられるかもしれません」

頭の中に、前世で読んだ長篠の戦いが浮かんだ。

柵。

土塁。

騎馬の突撃を受け止める槍。

大量の火縄銃。

交代しながら続く射撃。

だが、この世界の火縄銃は十挺しかない。

兵は今日初めて十人で撃った。

ばねも掛け金も、一挺ごとに違う。

長篠と同じことができると思えば、また火槍を初めて見た時と同じ間違いをする。

「今は、十挺を守る槍兵と、再装填の時間を作る障害物が必要です」

俺は答えた。

「どれだけの槍兵だ」

「まだ分かりません」

「柵の高さは」

「試していません」

「土をどれだけ運ぶ」

「出していません」

「なら、まだ策ではない」

「はい」

レオンハルトは、再装填を終えた十人へ目を向けた。

「だが、考える場所は分かったな」


◇ ◇ ◇


十挺を一度に撃てば、発射後にすべての銃が使えなくなる。

その空白を短くするため、俺は十挺を五挺ずつ二組へ分けることを提案した。

左の五挺が撃つ。

その五人が下がって装填する間に、後ろで待っていた五人が前へ出る。

二組目が撃てば、敵へ次の弾を早く出せる。

頭の中では簡単だった。

地面へ二列の印を付ける。

前に五人。

後ろに五人。

最初の組が撃つ。

「一組目、下がれ」

火槍兵長が命じる。

発射した五人が後ろへ下がる。

同時に、二組目が前へ出ようとした。

中央で兵同士がぶつかった。

銃口が横へ向く。

燃えている火縄が、別の兵の袖へ近づく。

「止まれ!」

全員を止める。

火薬と弾は既に二組目の銃へ入っている。

一組目も火縄を持ったままだ。

前と後ろを入れ替えるだけで、十本の燃えた火縄と十挺の銃が狭い場所へ集まった。

「無理です」

俺は言った。

「見れば分かる」

ロルフが後ろから言う。

「工房と同じことを言わないでください」

「同じ失敗をしている」

反論できなかった。

動く場所を決めずに、前後を交代させようとした。

火縄銃兵だけを見て、火薬と弾を運ぶ者の位置も考えていない。

「下がる道と、前へ出る道を分けます」

地面へ新しい線を引く。

一組目は右へ寄ってから後ろへ下がる。

二組目は左側から前へ出る。

しかし、それでも列の端で動きが交わる。

試験場なら広く使える。

城壁の上。

細い街道。

森の中。

場所によっては同じ動きができない。

「横へ分けます」

俺は二組を前後ではなく、左右へ並べ直した。

左に五挺。

右に五挺。

左の五挺が先に撃つ。

その場で再装填を始める。

右の五挺は火蓋を閉じ、火縄を上げた状態で待つ。

「二組目、構え」

右の五人が構える。

左の五人は火縄を外してから装填へ移る。

「二組目、撃て」

五挺の音が続く。

左の組が装填している間に、右の組の弾が飛んだ。

十挺を一度に撃った時より、次の発射までの間は短い。

だが、問題は残った。

風が右から左へ吹き、二組目の煙が装填中の一組目へ流れた。

一組目の兵は手元を見にくくなる。

右の組が撃った音で、左の組は装填の号令を聞き取れない。

火槍兵長も、左右の両方へ別の命令を出さなければならない。

「左へ火薬、右へ射撃と同時に言うのは無理です」

火槍兵長が言った。

「補佐する者が必要かもしれません」

俺は答えた。

「組ごとに号令を出す者を置けば」

「違う命令を出したらどうする」

レオンハルトが尋ねる。

「全体を預かる者が、二組の時機を決めます」

「声が届かない時は」

「旗か、笛を使います」

「煙の中で旗が見えるか」

答えが止まる。

音が大きいから笛が聞こえないかもしれない。

煙が濃ければ旗も見えない。

命令を伝える方法まで考えなければならない。

「今日は五挺ずつで、二度撃てた」

レオンハルトが言った。

「それ以上を、できたことにするな」

「はい」

「だが、一度に十挺撃つより、次の弾は早かった」

「はい」

「なら残せ」

俺は帳面へ書いた。

『五挺ずつ二組に分けた射撃――前後交代は兵同士が交差し危険』

『左右へ分けた射撃――二組目の発射までの間隔は短縮』

『煙が装填中の組へ流れる』

『発射音により、別の組への号令が聞こえにくい』

『二組へ異なる命令を伝える方法が必要』

撃つ組と、装填する組を分ける。

考え方そのものは使えるかもしれない。

だが、十挺を二つに分けただけで、兵の移動、煙、音、命令の問題が増えた。

三組に分ければ、さらに複雑になる。

銃を増やし、列を増やすだけでは、途切れずに撃てる部隊にはならない。

「終わりだ」

レオンハルトが命じた。

十挺の火縄を外す。

火皿へ燃え残りがないか確かめる。

筒内を掃除する。

不発になった銃は別に調べる。

使わなかった火薬を数える。

残った弾を数える。

空になった小さな容器も回収する。

装填棒が十本あることを確かめる。

十挺の銃へ布を巻き、来た時と同じ二台の荷車へ五挺ずつ載せた。

火薬は別の荷車へ戻す。

試験が終わっても、仕事は終わらない。

採石場から人がいなくなった後、火薬や火縄が落ちていないか調べる者を残す。

見張りは最後の荷車が山道を出るまで配置したままだ。

俺は帰る前に、帳面の最後へ今日の結果をまとめた。

『十挺すべて発射確認』

『十人による射撃――成功』

『一度目は発射前に中止』

『一斉射撃――完全には揃わず』

『七挺が近い間隔で発射』

『二挺が遅れて発射』

『不発一挺』

『十発中、板への命中六発』

『煙により視界に支障』

『発射音により号令に支障』

『再装填中、部隊は無防備』

『五挺ずつの射撃――二組目の発射までの間隔は短縮』

『兵の交差、煙、命令に問題あり』

成功と書けることはある。

十挺すべてから弾は飛んだ。

十人は同じ号令で構え、誰も怪我をせず帰れる。

五挺ずつに分ければ、十挺すべてを一度に撃つより早く次の弾を出せた。

だが、できなかったことの方が多い。

俺は最後に一行を加えた。

『十挺の銃は完成した。火縄銃部隊は、まだ完成していない』

書き終えると、レオンハルトが帳面を覗いた。

「火縄銃部隊か」

「この場だけです。名簿では火槍兵です」

「分かっているならいい」

「次は、再装填を早くします」

「早くするだけか」

「手順を飛ばさず、です」

「それだけでも足りん」

レオンハルトは煙の消えた射撃線を見た。

「撃った後の空白を、銃だけで埋めようとするな」

槍兵。

弓兵。

柵。

土塁。

溝。

火薬と弾を運ぶ者。

命令を伝える者。

不発の銃を下げる道。

一挺の火縄銃を作っていた時には、必要だと思わなかったものばかりだ。

「配置を考えます」

「紙の上だけで終わらせるな」

「試します」

「その前に、今日使った金を出せ」

横からマティアスが言った。

火薬。

弾。

火縄。

荷車。

兵と見張りの食料。

試験場を整える人の時間。

十挺を一度撃つ音の裏で、また多くの物が消えている。

「戻ったら計算します」

「今日中だ」

「工房へ着く頃には暗くなります」

「明日の試験に必要な火薬を、今夜決めるのは誰だ」

「俺です」

「なら今日中だ」

また仕事が増えた。

だが、嫌だとは言えなかった。

一挺の火縄銃が弾を飛ばした時、俺は武器が完成したと思った。

十挺が並んだ時、次は同時に撃てば強くなると思った。

実際に十挺を撃つと、銃と銃の間には人がいた。

違う速さで動く兵。

号令を出す者。

火薬を運ぶ者。

不発を見つける者。

煙で見えなくなった仲間。

音で聞こえなくなった命令。

武器を増やせば、その数だけ強くなるわけではない。

十挺になった途端、銃と銃の間へ、人と命令と時間が必要になった。

第十八話を読んでいただき、ありがとうございました。

十挺すべてから弾を飛ばすことには成功しました。しかし、発射音は揃わず、煙は視界を奪い、一挺の不発が部隊全体を止めます。さらに、撃った後の再装填中には長い空白が残りました。

完成した十挺を戦場で使える部隊へ変えるには、槍兵との連携、障害物、補給、命令方法が必要です。アレクたちの仕事は、銃を作る段階から戦い方を作る段階へ進みます。

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