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『知らない世界の知っている物語』 ~剣と知識を授かった平凡な会社員は、異世界の乱世を生き抜く~  作者: 相田 ソウ
第四篇 乱世に抗う力

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第十五話 弾が飛ぶ

火皿から鉄筒の中へ火を届けることに成功したアレクたち。

第十五話では、アルベルトから借りた火槍と比較しながら、新型銃による最初の実弾試射に挑みます。

一挺の試作品から放たれた弾は、新しい戦の形へつながるのでしょうか。

翌朝、俺は工房の机へ帳面を広げ、昨夜まとめた試射の準備をマティアスへ見せた。

火薬。

弾。

火縄。

的。

新型銃を固定する台。

引金を動かす長い縄。

消火用の水と土。

負傷に備える布。

筒と点火孔を掃除する道具。

見張り。

護衛。

荷車。

参加者と、試験を見た者の記録。

書き出した時には十分だと思った。

だが、マティアスは一番上から順に眺め、最後まで読み終えても頷かなかった。

「これで全部か」

「必要な物は揃っていると思います」

「物はな」

マティアスは帳面を机へ置いた。

「筒が破裂したら、破片はどこへ飛ぶ」

「固定台の周りです」

「どこまでだ」

「分かりません」

「弾が的を外したら」

「採石場の奥にある斜面へ飛びます」

「斜面へ当たらなかったら」

「その先も山です」

「山に人が入っていないと、誰が確かめる」

答えに詰まり、帳面へ目を落とす。

見張りとは書いた。

だが、どこへ何人置くかまでは決めていない。

「前回と同じ二本の山道を塞ぎます。それから、採石場の奥へ人が入っていないか先に確認します」

「発射した後は」

「見張りから合図を受けるまで、次を撃ちません」

「火が枯れ草へ移ったら」

「水と土で消します」

「誰が運ぶ」

「荷車に積みます」

「火の近くまで、荷車を入れるのか」

それでは、火薬を載せた荷車まで燃えるかもしれない。

「火薬を下ろしてから、水を近くへ運びます。火薬を置く場所と、水を置く場所を分けます」

「負傷者が出たら」

「治療のできる者に、採石場の外で待機してもらいます」

「外のどこだ」

「音は聞こえても、破片と弾が届かない場所です」

「そこまでどう運ぶ」

「担架がいります」

俺は帳面に『担架』と書き加えた。

マティアスが指で机を二度叩く。

「撃つための物は考えた。失敗した後のことは、まだ足りんな」

「昨夜は考えたつもりでした」

「考えたことと、足りていることは違う」

「はい」

「それで、誰が最初に撃つ」

「固定台に据えて、岩陰から縄を引きます」

「その後だ」

「何発か撃って異常がなければ、肩に当てて試します」

「誰が」

「俺が」

答えると、作業台で鉄筒を調べていたロルフが顔を上げた。

マティアスは俺を見たまま尋ねる。

「なぜお前だ」

「俺が提案した武器だからです」

「責任を取ると言いたいのか」

「はい」

「責任を取ることと、試作品の隣で死ぬことは違う」

以前にも似たことを言われた。

それでも、誰かが肩に当てなければ、武器として使えるかどうかは分からない。

「他の兵に撃たせて、その兵が怪我をしたら、俺は後悔します」

「お前が怪我をしても、他の者が後悔する」

言い返せなかった。

ロルフが鉄筒の中から細い棒を抜いた。

「肩で撃つ話は、固定台で撃ってからにしろ」

「でも、今日中にそこまで確かめたいです」

「筒が耐えればな」

ロルフは作業台へ鉄筒を戻した。

「一発撃てば、次も撃てるとは限らん。後ろの栓が緩むかもしれん。筒に見えない割れが入るかもしれん。木台が裂けるかもしれん」

「だから、一発ごとに確かめます」

「なら、先の話をするな」

短い言葉だった。

だが、ロルフの言うとおりだった。

俺はもう、肩へ当てて的を狙うところまで考えている。

まだ、この武器は弾を一発も飛ばしていない。

「まず、固定台からです」

俺が言い直すと、マティアスが帳面を返した。

「レオンハルト殿下には俺から計画を見せる。お前は弾を決めろ」

「許可が下りなかったら」

「その時は撃たん」

「今日中には」

「アレク」

声が低くなった。

「急ぐ理由は何だ」

俺は答えられなかった。

早く見たい。

自分たちが作った筒から、弾が飛ぶところを。

それだけだった。

「ありません」

「なら、許可が出るまで待て」

マティアスは工房を出ていった。

扉が閉まると、ロルフが鼻を鳴らした。

「撃つ前から走るな」

「走ってはいません」

「頭の中の話だ」

俺は帳面へ、見張りを置く場所と担架を書き加えた。

◇ ◇ ◇

新型銃の鉄筒に合う弾を決める仕事は、思っていたより難しかった。

アルベルトから借りた火槍の弾は、どれも完全な丸ではない。

大きさにも僅かな違いがある。

火槍の筒へ入るものを選んで作られているため、新型銃の筒には大きすぎるものが多かった。

「小さく削りますか」

俺が尋ねると、ロルフは弾を一つ持ち上げた。

「一発ずつか」

「最初の試験だけなら」

「何発撃つ」

「少なくとも五発は」

「五つ削って、次はどうする」

「型を作ります」

「先に作れ」

ロルフは昨日、火縄の太さを選ぶために作った板とは別に、厚い鉄板を取り出した。

そこへ穴を開け、少しずつ広げる。

筒の内径を測るために作った棒と比べながら、弾を通す穴の大きさを決めていく。

「筒と同じ大きさでは駄目なんですよね」

「入らん」

「まだ煤は付いていません」

「今はな」

一発撃てば、筒の中に火薬の燃えた汚れが残る。

二発、三発と続ければ、弾はさらに入りにくくなる。

筒へぴったり合う弾なら、最初の一発はよくても、次の装填で止まるかもしれない。

だからといって小さくしすぎれば、弾は筒の中で左右へ動く。

そのまま撃てば、毎回違う向きで筒口から飛び出す可能性がある。

「どのくらい小さくしますか」

「分からん」

「昔の本には、少し小さくすると」

「少しとは、どれだけだ」

「そこまでは」

「やはり役に立たん本だな」

「形を考える時には役に立ちました」

「今は弾の話だ」

ロルフは新しく作らせた弾を三つ並べた。

一つ目は筒へ入れようとしても、途中で止まった。

二つ目は棒で押せば入るが、筒を僅かに傾けただけでは動かない。

三つ目は筒口へ入れると、自分の重さでゆっくり奥へ落ちた。

「三つ目は小さすぎませんか」

「撃たなければ分からん」

「一つ目は使えません」

「それは分かる」

ロルフは一つ目を除き、二つ目と三つ目の大きさに合わせた穴を鉄板へ開けた。

「二種類ですか」

「最初から一つに決める理由がない」

弾の重さも量った。

正確な秤ではない。

それでも、同じ大きさに見える弾を左右へ載せれば、どちらが重いかは分かる。

大きさを揃えたつもりでも、重さが違う。

中に小さな空洞があるのか、使った鉛の量が僅かに違うのか、外から見ただけでは判断できなかった。

俺は弾へ一つずつ印を付けた。

大きい方を一から六。

小さい方も一から六。

撃った順番、火薬の量、当たった場所を対応させるためだ。

「弾に文字を書くのか」

「印です」

「撃てば潰れる」

「撃つ前に記録します」

「拾えなければ」

「的に当たった穴を記録します」

ロルフは何も言わず、次の弾を型へ通した。

昼を過ぎる頃、マティアスが戻ってきた。

その後ろには、レオンハルトもいた。

工房へ入ったレオンハルトは、作業台に並んだ弾へ目を向ける。

「随分と小さな物に時間を使っているな」

「これが飛びます」

俺が答えると、レオンハルトは大きさの違う二種類の弾を手に取った。

「違いが分からん」

「こちらが僅かに大きいです」

「どちらを使う」

「両方です」

「なぜだ」

「筒に近い大きさの方が真っすぐ飛ぶかもしれません。でも、大きすぎれば装填に時間がかかります。小さい方は入れやすいですが、筒の中で動くので、どこへ飛ぶか分かりません」

「分からない物を撃つのか」

「分からないから撃ちます」

レオンハルトが弾を作業台へ戻した。

「昨日までより、答えられるようになったな」

「分からないと言っただけです」

「分からない理由を答えた」

隣でマティアスが帳面を開く。

「試験場所は、前回と同じ採石場で許可を得た。ただし、奥の山も先に調べる」

「見張りは」

「二本の山道だけではない。採石場へ通じる獣道にも置く」

レオンハルトが言った。

「前回の音を聞いた者がいるか、周辺の村で調べさせた。山の中で岩が崩れたと思った者が二人いた」

「新しい武器だとは」

「気づいていない。だから、今回も同じ時間に行う」

前回と同じ場所から、同じような音が聞こえれば、採石場で何かの作業をしていると考えるかもしれない。

だが、何度も続ければ疑う者は出る。

「何発までですか」

「十発だ」

「火槍も撃ちます」

「合わせて十発だ」

新型銃だけで十発ではない。

火槍の比較に三発使えば、残りは七発になる。

「少なくありませんか」

「一度に何発撃てば満足する」

「できるだけ多く」

「ならん」

レオンハルトは作業台の鉄筒を見た。

「音を隠すことはできない。煙も、山の外から見えないとは限らん。試験を重ねるほど、見張りに使う兵も増える」

「分かりました」

「運ぶ荷は前回と同じように隠せ。火薬は別に運ぶ。採石場へ入った者と、出た者の数が合わなければ、全員が見つかるまで戻るな」

「はい」

「それから」

レオンハルトが、俺の帳面を指した。

「死ぬな」

あまりに短い言葉で、すぐには返事ができなかった。

「そのつもりです」

「つもりで筒は止まらん。岩陰から撃て」

「固定台で異常がなければ、肩で」

「その判断はロルフに任せる」

俺ではなかった。

マティアスでも、レオンハルトでもない。

鉄筒を作ったロルフが、安全を判断する。

ロルフは不機嫌そうに言った。

「俺に押しつけるな」

「作ったのはお前だ」

「撃ちたいと言ったのはこいつだ」

「止めることができるのもお前だ」

しばらく二人は互いを見ていた。

やがてロルフが視線を逸らし、鉄筒を持ち上げた。

「まず、固定台だ」

◇ ◇ ◇

採石場へ着いた時、太陽は山の間へ入り始めていた。

それでも、日が沈むまでには十分な時間がある。

前回より多くの兵が、採石場へ通じる道と林の中へ配置された。

奥の斜面も先に調べられ、木を切る者も、家畜を追う者もいないことが確認されている。

入口では、入った者の名前と役目が記録された。

俺。

マティアス。

レオンハルト。

ロルフ。

アルベルトから派遣された火槍兵。

火薬を扱う者。

護衛。

見張り。

荷を運ぶ者。

治療のできる者は、採石場から離れた曲がり道の先で待機している。

そこには担架も置いた。

火薬は岩壁から離れた乾いた場所へ置き、その周囲には必要な者以外近づけない。

水を入れた桶と土は、固定台に近い側へ運んだ。

火と火薬を同じ場所へ集めない。

前回より準備に時間がかかったが、マティアスは急がせなかった。

先に撃つのは、アルベルトから借りた火槍だった。

火槍兵は、第十二話の比較試験を終えた後も、借りた火槍を返すまで扱い方を伝えるようアルベルトから命じられ、こちらへ残っていた。

今回も同じ者が撃つ。

新型銃と比べるなら、火槍を初めて持つ兵より、慣れた者に撃たせた方がいい。

的までの距離は、以前の試験より近くした。

新型銃が遠くまで飛ぶかではなく、まず弾が前へ出るかを確かめるためだ。

縄を地面へ伸ばし、同じ距離に二枚の的を立てる。

左が火槍。

右が新型銃。

火槍兵は火薬と弾を筒へ入れ、棒で奥へ押し込んだ。

長い柄の後ろを地面へ置く。

筒を左の的へ向ける。

点火孔へ火縄を近づけると、火と煙が兵の顔の前で上がった。

腹へ響く音が採石場に広がり、山から遅れて返ってくる。

一発目は、的の右端へ当たった。

火槍兵は火縄を確かめ、次の火薬と弾を受け取る。

二発目を撃つまでにかかった時間を、俺は数えた。

焦らせてはいない。

戦場より落ち着いた条件だ。

それでも、筒へ火薬と弾を入れ、棒で押し込み、柄を据え直し、火縄を点火孔へ近づけるまでには時間がかかる。

二発目は的の上を越え、奥の土へ当たった。

三発目は左下。

三発のうち、的へ当たったのは二発だった。

二発の間も広い。

「前より近いのに、真ん中には集まりませんね」

俺が言うと、火槍兵は筒口を上へ向けた。

「近くても、毎回同じ向きに据えるのは難しいです。柄の置く場所が少し変われば、筒口も変わります」

「火薬と弾は、同じものを選びました」

「撃つ者の手までは同じになりません」

火槍兵は、筒の中へ掃除用の棒を入れた。

先端へ巻いた布が黒くなる。

三発だけでも、筒内には煤が付いていた。

「次の弾は入りますか」

「入ります。ただ、最初より重いでしょう」

火槍を撃った結果を帳面へ記した。

三発。

着火は三回とも成功。

的へ二発。

一発は的の上。

装填時間は、二発目より三発目の方が僅かに長い。

火縄兵の顔に近い場所で、火と煙が上がった。

長い柄を据え直すたびに、筒の向きが変わった。

これで十発のうち三発を使った。

残りは七発。

新型銃を固定台へ載せる。

木台を縄で縛るだけではない。

後ろへ動かないよう、固定台の脚を土へ埋め、さらに重い石を載せた。

それでも、火薬の力がどれほど強いかは分からない。

新型銃の後ろには誰も立たない。

左右からも離れる。

引金へつないだ長い縄だけが、岩陰まで伸びている。

ロルフが大きい方の弾を一つ手に取った。

型を通し、表面に大きな歪みがないことを確かめる。

「最初から大きい方ですか」

「小さい方がいいのか」

「筒への負担が少ないのは」

「分からん」

「またですか」

「弾が小さくても、火薬の力は筒へかかる」

ロルフは弾を筒口へ入れた。

自分の重さだけでは落ちない。

棒で押すと、僅かな抵抗を感じながら奥へ進んだ。

弾を入れる前に、少量の火薬を入れてある。

第十四話で筒内だけを燃やした時と同じ量だった。

「少なすぎませんか」

「最初はこれだ」

「弾を押し出せないかもしれません」

「押し出せなければ、次に増やす」

「筒の中で弾が止まったら」

「火が消えたことを確かめてから出す」

ロルフは棒へ付けた印を見た。

弾が筒の奥まで入ったことを確かめる。

火皿へ細かな火薬を置く。

火縄へ火を付け、赤い先端が安定するまで待つ。

最後に、ロルフが固定台の縄と鉄筒の後ろをもう一度調べた。

「離れろ」

全員が岩陰へ入った。

見えるのは、岩壁の向こうにある固定台と、そこへ載せられた一挺だけだ。

火の付いた火縄が、金具へ挟まれている。

風は弱い。

火縄の煙が細く上へ伸びていた。

俺は長い縄を握った。

手のひらに汗がにじむ。

「見張りは」

レオンハルトが尋ねる。

採石場の入口にいる兵が、異常なしの合図を送る。

奥の斜面も、左右の林も同じだった。

誰も近づいていない。

「引け」

マティアスが言った。

息を吐き、縄を引く。

引金が動く。

火縄を挟んだ金具が前へ倒れた。

火皿で火薬が燃える。

白い煙が上がった。

だが、鉄筒は鳴らなかった。

弾も動かない。

聞こえたのは、火皿の火薬が燃えた小さな音だけだった。

「不発」

俺は言った。

すぐに近づこうとはしない。

火皿の火が消えても、筒の中で火薬がゆっくり燃えているかもしれない。

ロルフは時間を数え、火縄を消した。

さらに待ってから、固定台へ近づく。

俺たちは岩陰に残った。

ロルフは最初に火皿を見る。

次に点火孔を細い棒で確かめた。

棒の先には、黒い火薬の跡が付いている。

「火は通った」

「それなら、なぜ撃てなかったんです?」

「中の火薬に届かなかった」

固定台から新型銃を外し、筒口を上へ向ける。

弾が入っているため、軽々しく傾けることはできない。

ロルフは棒を差し込み、弾の位置を確かめた。

「火薬が少なすぎた」

点火孔は、筒の後ろ寄りに開いている。

だが、筒内へ入れた火薬が少なく、点火孔の内側まで十分に触れていなかったらしい。

第十四話では弾を入れず、筒を固定した時に火薬が点火孔側へ寄っていた。

今回は弾を押し込む間に、火薬の位置が僅かに変わった可能性もある。

「点火孔を広げますか」

「広げん」

ロルフは即答した。

「前回、すでに広げた。これ以上広げれば、火が外へ漏れやすくなる」

「では、火薬を増やす」

「少しだけだ」

「どのくらい」

「さっきより多く、火槍より少なく」

「正確な量ではありません」

「だから量る」

火薬を扱う者が、小さな容器へ火薬を入れた。

最初に使った量と並べる。

増やすのは僅かだった。

弾を一度取り出す必要がある。

火が完全に消えていることを確かめ、筒の中の火薬を出し、弾を専用の道具で引き抜いた。

一発撃つより、不発になった一発を安全に片づける方が長くかかった。

「戦場で不発になれば、こんなことはできませんね」

俺が言う。

火槍兵が頷いた。

「敵が来ていれば、火槍を捨てて槍を持ちます」

新型銃でも同じだ。

不発になった銃をその場で直そうとすれば、敵に斬られる。

「不発の時の手順も決めないと」

帳面へ書く。

『火皿だけが燃えた場合、すぐ再点火しない。遅れて発火する可能性あり』

『戦場では後方へ下げ、予備の武器へ持ち替える』

試験の失敗が一つ増えた。

だが、同じ失敗を戦場で初めて知るよりはいい。

二発目の準備が終わった。

火薬は一発目より僅かに多い。

弾は同じ大きさを使う。

今度は装填した後、筒を軽く動かし、火薬を点火孔のある側へ寄せた。

固定台へ載せ直す。

縄と石を確かめる。

火皿へ火薬を置き、火縄を挟む。

全員が再び岩陰へ入った。

残り六発。

俺は長い縄を握った。

一度目は火皿だけが燃えた。

二度目も同じかもしれない。

それとも、今度は筒が破裂するかもしれない。

鉄の継ぎ目。

後ろを閉じた栓。

木台を留める金具。

ロルフが何度も調べた。

それでも、撃つまでは分からない。

「アレク」

マティアスに呼ばれ、顔を上げた。

「はい」

「考えるのは試した後だ」

第十四話でも言われた言葉だった。

「引きます」

縄を引く。

火縄が落ちる。

火皿の火薬が燃えた。

次の瞬間、鉄筒が吠えた。

腹へ響く音が岩壁にぶつかり、山の間を走った。

固定台が土を削りながら後ろへ動く。

筒口から白い煙が噴き出し、的の前を覆った。

僅かに遅れて、土へ何かが当たる鈍い音がした。

山から発射音が返ってくる。

一度。

さらに小さく、もう一度。

誰もすぐには動かなかった。

煙が薄くなるのを待つ。

見張りから異常を知らせる合図はない。

ロルフが固定台へ近づき、火縄を外して消した。

筒の後ろを見る。

木台。

固定金具。

鉄筒の継ぎ目。

一つずつ確かめる。

「弾は」

俺は岩陰から尋ねた。

「出た」

「的には」

火槍兵が右の的を見た。

穴は開いていない。

的の手前に、土が新しく抉れた場所がある。

「下です」

弾は的へ届く前に地面へ当たっていた。

胸の中に生まれかけた喜びが、少しだけ萎む。

「火薬が少なかったんでしょうか」

「固定台を見ろ」

ロルフが言った。

新型銃を載せた台は、前より後ろへ動いている。

土へ埋めた脚の片側が深く沈み、筒口が僅かに下を向いていた。

「撃つ前から下がっていたんですか」

「少しな」

「なぜ言わなかったんです」

「どこへ飛ぶか見たかった」

「危ないでしょう」

「奥は斜面だ。人もいない」

ロルフは固定台の脚を指した。

「火薬を増やす前に、これを直す」

また同じだった。

弾が下へ飛んだからといって、すぐに火薬の量を変えれば、原因が分からなくなる。

固定台の角度だけを直す。

前脚の下へ薄い木片を入れ、筒口を的の中央へ向けた。

横から見て、鉄筒と的の位置を確かめる。

三発目も同じ火薬。

同じ大きさの弾。

変えるのは、固定台の角度だけだ。

火縄を付け、全員が離れる。

縄を引く。

今度は、一度で筒内の火薬へ火が届いた。

白い煙。

轟音。

固定台が後ろへ動く。

煙が流れた後、右の的に小さな穴が開いていた。

中央より下。

右へもずれている。

それでも、確かに的へ当たっている。

「当たりました」

声が大きくなる。

「見れば分かる」

ロルフはそう答えたが、的を見る目は動かなかった。

俺は帳面へ記録する。

新型銃、固定台。

三回目の試み。

二回目の発射。

大きい弾。

火薬は二回目と同じ。

的の中央より右下。

筒、栓、木台に見える異常なし。

次は、火薬の量を僅かに増やした。

今度も弾は同じ大きさを使う。

固定台の角度も変えない。

四発目。

引金を動かす。

発射音は、前より僅かに強く聞こえた。

固定台が大きく後ろへ動く。

石の一つが土の上へ落ちた。

弾は、前の穴より高い位置へ当たった。

中央には近づいたが、左へずれている。

「火薬を増やせば、上へ行くんですか」

「二発だけでは分からん」

ロルフが筒の後ろを調べながら答える。

「固定台も動いた」

火薬を増やしたことで、弾を押す力は強くなったかもしれない。

だが、反動も強くなり、固定台の位置が変わった。

結果だけを見れば中央へ近づいた。

それが火薬の量によるものか、固定台の揺れによる偶然かは分からない。

俺は的に開いた二つの穴を見比べた。

火槍の二発より、互いに近い。

距離は同じだ。

的も同じ大きさ。

風も大きくは変わっていない。

「火槍より集まっています」

火槍兵が右の的へ近づいた。

左の的と交互に見る。

「固定して撃っているからでしょう」

「それだけでしょうか」

俺は新型銃の鉄筒を見る。

火槍より長い筒。

ロルフが何度も作り直し、内側の歪みを減らした筒だ。

火槍は、長い柄を地面へ据えている。

新型銃は、鉄筒そのものを木台へ載せ、固定台へ縛っている。

向きを揃えやすい。

だが、それだけではないかもしれない。

「筒の長さも関係していると思います」

「なぜだ」

レオンハルトが尋ねた。

「弾が筒の中を進む間、鉄筒が進む方向を決めます。短い筒より長い筒の方が、弾が筒口を出るまで向きを保ちやすいのかもしれません」

「長ければ長いほど当たるのか」

「そこまでは分かりません。長すぎれば重くなります。作るのも難しくなる。筒の内側が曲がっていれば、長い分だけ悪くなるかもしれません」

「今の結果だけで言えることは」

「火槍より弾が狭い範囲へ集まった。ただし、固定台から二発撃っただけです」

レオンハルトが僅かに笑った。

「浮かれながら、よくそこまで言えたな」

「浮かれていません」

「声が大きかった」

否定できなかった。

帳面へ書く。

『長い筒と、筒内の加工精度が、弾の飛ぶ向きに関係している可能性あり。ただし試射数不足』

次の弾は、小さい方を使った。

筒口へ入れると、棒で強く押さなくても奥へ進む。

装填は早い。

しかし、筒の中で弾が僅かに動く感触があった。

「撃ちます」

五発目。

火薬の量は一つ前から元へ戻した。

弾だけを変える。

発射には成功した。

弾は的の左端へ当たった。

外れてはいないが、大きい弾の二発より離れている。

「小さい方がずれました」

「一発だ」

ロルフが言う。

「もう一発、小さい弾を使います」

「残りを数えろ」

レオンハルトに言われ、帳面を見る。

火槍が三発。

新型銃は、不発を含めて五回火を落とした。

実際に弾が飛んだのは四発。

許可された残りは二発だった。

小さい弾をもう一発撃てば、肩へ当てて試す分が一発しか残らない。

「次は、大きい弾を肩で撃ちたいです」

「まだ早い」

ロルフが鉄筒の表面へ油を塗り、布で拭う。

筒が冷めるのを待ってから、継ぎ目を指でなぞる。

後ろの栓にも緩みはない。

木台の固定金具は、一つだけ僅かに動いていた。

「緩んでいます」

「火薬を増やした時だ」

ロルフは金具を締め直した。

「肩で撃てば、これが動いた分も肩へ来る」

「固定台より人の体の方が動きます」

「だから危ない」

「でも、肩で支えられなければ、作った意味がありません」

「今日でなくてもいい」

正しい。

今日である必要はない。

一度工房へ戻し、鉄筒も木台もすべて調べてから、別の日に試せばいい。

だが、そのたびにレオンハルトの許可を取り、見張りを置き、火薬と弾を山へ運ぶ必要がある。

危険を減らすために日を分ければ、人と金と時間がさらに必要になる。

俺が言う前に、マティアスが尋ねた。

「ロルフ。筒は撃てるか」

「今の火薬の量ならな」

「木台は」

「割れていない。金具は締め直した」

「肩で撃てると言えるか」

ロルフはすぐには答えなかった。

新型銃を持ち上げ、木台の後ろを自分の肩へ当てる。

頬を近づけ、火皿と点火孔の位置を見る。

引金へ指を掛ける。

火縄は付いていない。

火薬も弾も入っていない。

「撃てる形にはなっている」

「安全か」

「分からん」

「では、どうする」

「火薬は増やさない。大きい弾を使う。厚い上着を着る。顔は革で覆う。撃つ者の周りには誰も立たせない」

ロルフの視線が俺へ向いた。

「一発でやめる」

「はい」

「火が付かなくても、すぐ火皿を触るな」

「はい」

「撃った後、勝手に筒口を覗くな」

「分かっています」

「返事が早い」

「分かっています」

ロルフはしばらく俺を見た後、新型銃を差し出した。

「死ぬなよ」

レオンハルトと同じ言葉だった。

◇ ◇ ◇

厚い上着を二枚重ね、右肩へさらに布を入れた。

顔の右側には、目を塞がない形で革を当てる。

火薬を扱う者が、先ほどと同じ量の火薬を量った。

弾は大きい方。

型を通し、重さを確かめたものだ。

装填はロルフが行った。

火薬。

弾。

棒で奥へ押し込む。

筒の中には煤が付いているため、最初より強く押す必要があった。

「もう入れにくくなっています」

俺が言うと、ロルフが棒の印を確かめた。

「大きい弾だからな」

「戦場で何発撃てるでしょう」

「今、数えることではない」

火皿へ細かな火薬を置く。

火縄へ火を付ける。

赤い部分を確かめ、余分な灰を落とす。

ロルフが火縄を金具へ挟んだ。

新型銃を受け取る。

思っていたより重かった。

工房では何度も持った。

だが、火薬と弾が入り、火の付いた火縄が横にあるだけで、重さまで違って感じる。

木台の後ろを右肩へ当てる。

左手で前を支える。

右手を引金へ添える。

火槍のように柄の後ろを地面へ置いてはいない。

自分の両腕と肩だけで、鉄筒を的へ向けている。

火縄の煙が顔の前を横切った。

「近くないですか」

「火皿へ届くには、その位置だ」

ロルフが答える。

「火蓋は、やはり必要ですね」

「撃ってから言え」

右の的には、すでに三つの穴が開いている。

大きい弾が二つ。

小さい弾が一つ。

どれも中央ではない。

だが、今度は固定台ではなく、俺自身の手で筒を向けている。

腕が僅かに揺れた。

火縄の先が赤く光る。

もし後ろの栓が抜ければ、顔や肩へ飛んでくる。

筒が裂ければ、革一枚では防げない。

怖くないはずがなかった。

前世でも銃を撃ったことはない。

知っているのは本や映像の中だけだ。

自分で作ったわけでもない。

正確には、形を提案し、ロルフたちに作ってもらった。

その最初の一挺を、今、俺が肩へ当てている。

「やめてもいいぞ」

マティアスが、少し離れた岩陰から言った。

「やめません」

「無理をする理由はない」

「無理かどうかを確かめます」

「死んだら答えは聞けん」

「死なないように撃ちます」

「それができれば苦労はしない」

声には、いつもの軽さがなかった。

俺は一度、新型銃を下ろした。

肩で息をする。

無理に急ぐ必要はない。

火縄の状態を確かめてもらい、もう一度構えた。

今度は、先ほどより肩へ強く押し当てる。

頬は木台へ付けすぎない。

点火孔と火皿から少し離す。

右目で筒の先を見る。

照準に使える突起は、まだ小さなものが一つ付いているだけだ。

前と後ろを合わせる、本格的な照準具ではない。

それでも、火槍より筒がどこを向いているか分かる。

「撃ちます」

返事を待たず、引金へ力を込めた。

金具が動く。

火縄が火皿へ落ちる。

ぱちり、と火薬が燃えた。

ほんの僅かな間があった。

次の瞬間、肩を強く押された。

音が耳の奥を叩く。

筒口から吐き出された煙で、的が消えた。

顔の横にも熱を感じた。

後ろへ倒れそうになり、一歩だけ足を引く。

それでも、新型銃は手から離さなかった。

「動くな」

ロルフの声が聞こえた。

耳が詰まったようになり、遠く感じる。

火縄を挟んだ金具は、火皿へ落ちたままだ。

赤い火は残っている。

俺は引金から指を離した。

金具を起こし、火縄を火皿から離す。

ロルフが近づき、火縄を外して消した。

その後で、新型銃を俺の手から受け取る。

「肩は」

「痛いです」

「腕は」

「動きます」

「顔は」

革を外す。

火が直接当たった跡はない。

ただ、点火孔から漏れた煙の匂いが髪と頬に残っていた。

「的を見てください」

俺が言うと、マティアスが呆れたように息を吐いた。

「先に自分の体を見ろ」

「怪我はありません」

肩へ入れた布を外す。

上着の下まで破れてはいない。

強く押された場所が熱い。

明日には痣になるかもしれない。

だが、骨が折れたような痛みではなかった。

ロルフは鉄筒と木台を調べている。

後ろの栓は抜けていない。

筒も裂けていない。

締め直した固定金具は、僅かに動いたが外れてはいなかった。

火槍兵が右の的へ向かう。

煙はもう薄くなっていた。

「当たっています」

その声を聞いて、足から力が抜けそうになった。

的の中央より左上。

固定台から撃った二発より離れている。

それでも、的の内側だった。

俺が肩へ当て、筒を向け、引金を引いて放った弾が、狙った的へ届いた。

「本当に?」

自分で歩いて確かめる。

的には四つの穴があった。

一番新しい穴の周囲から、木の細い破片が外側へ出ている。

裏へ回ると、弾は板を一枚抜き、二枚目へ深く食い込んでいた。

火槍の弾と同じ鉛だ。

火薬の量は、火槍より少ない。

それでも、弾は板へ食い込んでいる。

「飛びました」

俺は穴へ触れず、その前に立った。

「肩で支えて、狙った場所へ」

「中央ではない」

ロルフが後ろから言う。

「的には当たりました」

「一発だ」

「一発でもです」

「次も当たるとは限らん」

「分かっています」

そう答えても、声が笑っていた。

レオンハルトは火槍の的と、新型銃の的を見比べていた。

喜ぶ様子はない。

驚いた顔もしない。

ただ、的に開いた穴の位置を一つずつ確かめている。

「火槍より良いのか」

尋ねられ、俺はすぐに答えそうになった。

だが、帳面を見直す。

火槍は三発。

新型銃は、固定台から三発の弾が飛び、俺が肩から一発撃った。

不発も一回あった。

距離は同じ。

火槍の的へ当たったのは二発。

新型銃は、弾が飛んだ四発のうち三発が的へ当たった。

最初の一発は、固定台が下を向いていたため手前の土へ落ちた。

数字だけを見れば、新型銃の方が良い。

しかし、固定台から撃った結果と、人が構えて撃った結果を同じにはできない。

「今の試験では、新型銃の方が狭い範囲へ集まりました」

俺は答えた。

「ですが、撃った数が少なすぎます。火槍は慣れた兵が撃ちました。新型銃は三発を固定台から撃っています。これだけで、いつでも新型銃の方が当たるとは言えません」

「運ぶなら」

「新型銃です。火槍より全長が短く、一人で持てます」

「撃つ速さは」

「まだ大きく変わりません。新型銃も、火薬と弾を筒口から入れる必要があります」

「雨なら」

「どちらも撃てない可能性があります。新型銃には、まだ火蓋もありません」

「兵に持たせるなら」

俺は肩を回した。

鈍い痛みがある。

「訓練が必要です。火縄の扱い、装填、引金、構え方、不発の時の動き。知らずに撃てば、自分か隣の兵を傷つけます」

「弓に勝てるか」

「今は勝てません」

レオンハルトの眉が僅かに動いた。

「理由は」

「弓兵は、もっと速く何本も射られます。音と煙で前が見えなくなることもない。新型銃は一発ごとに火薬と弾を入れなければならず、火縄も保たなければならない。数発で筒が汚れます」

「では、これは何に使える」

「弓を長く学んでいない兵でも、訓練すれば鎧を着た敵を倒せる可能性があります。火槍より狙いやすく、一人で持って動けます。何より、同じものを揃えられれば」

そこで言葉を止めた。

同じもの。

今、目の前にあるのは一挺だけだ。

ロルフが何日もかけ、失敗した鉄を積み上げて作った一挺。

弾も一つずつ型へ通した。

火薬も小さな容器で量った。

火縄も太さを選んだ。

一挺を撃つだけで、これだけの人と時間が必要だった。

レオンハルトが尋ねる。

「同じものを十挺作るのに、何日かかる」

俺はロルフを見た。

ロルフはすぐには答えなかった。

新型銃の鉄筒を布で拭い、点火孔へ細い棒を通す。

「筒だけでも、今のままなら一月で二本作れるかどうかだ」

「一人でか」

「ああ」

「他の職人を使えば」

「同じ筒になるとは限らん」

「十挺なら」

「筒を作る者を増やす。木台を作る者を分ける。金具も別だ。だが、最後に全部が合うかは分からん」

「百挺なら」

ロルフは答えなかった。

代わりに俺を見た。

百挺。

鉄筒を百本。

木台を百本。

火皿、火蓋、火縄を挟む金具、引金、固定金具。

同じ大きさの弾。

同じ量の火薬。

百人の兵。

教える者。

修理する者。

火縄を用意する者。

火薬と弾を運ぶ荷車。

撃った後に筒を掃除する道具。

一挺を百回作ればいいわけではない。

百挺を、同じように動く武器として揃えなければならない。

「今の作り方では、百挺は無理です」

俺は答えた。

「できないのか」

「作り方を変える必要があります。部品の大きさを決め、別の職人が作っても組み合わせられるようにする。使える筒と使えない筒を測る道具も必要です。弾と火薬も揃えます」

「それで作れるか」

「まだ分かりません」

レオンハルトは新型銃を持ち上げた。

火薬も弾も入っていないが、火槍より短いとはいえ軽くはない。

木台の後ろを肩へ当て、俺がしたように筒を的へ向ける。

火縄は付いていない。

引金を一度動かす。

金具が火皿へ落ちた。

「一挺の珍しい武器では、戦は変わらん」

レオンハルトは新型銃を下ろした。

「同じものを作り、同じ弾と火薬を渡し、兵に同じ動きをさせられるなら、初めて軍になる」

その言葉は、的へ当たった喜びを冷ますものではなかった。

むしろ、目の前が急に広くなったように感じた。

俺は一挺を完成させることばかり考えていた。

筒を作る。

火皿を付ける。

引金で火縄を落とす。

火を筒の中へ通す。

弾を飛ばす。

そこまで来れば、火縄銃になると思っていた。

だが、レオンハルトが見ているのは、その先だった。

十挺。

百挺。

それを持つ兵。

戦場で動かすための命令と補給。

「残り一発は撃ちませんか」

俺が尋ねると、レオンハルトは新型銃をロルフへ返した。

「今日は十分だ」

「小さい弾を、もう一度確かめていません」

「その一発で何が分かる」

「少なくとも、最初と同じようにずれるか」

「一発目と違う場所へ飛べば、さらに分からなくなる」

「それは」

否定できない。

「次に試す条件を決めてから撃て」

レオンハルトは火槍の的へ目を向けた。

「火薬も弾も、音を聞かれる機会も、無限ではない」

「はい」

「次は一挺の続きを考えるな」

「では、何を」

「二挺目だ」

胸の奥で、何かが動いた。

二挺目。

一挺目と同じものを作れるか。

それができなければ、今日の成功は偶然作れた一挺だけで終わる。

◇ ◇ ◇

試験が終わると、火薬を扱う者が残った量を確かめた。

使わなかった一発分も含め、革袋へ戻して封をする。

弾は、撃たなかったものを種類ごとに分けた。

的へ食い込んだ弾は、板を壊して取り出した。

鉛の丸い形は失われ、片側が平たく潰れていた。

どの弾だったか、撃つ前の記録と的の位置を照らし合わせる。

火槍の弾も回収できるものだけを拾った。

地面へ入った一発は、深く掘っても見つからなかった。

新型銃の筒内を掃除すると、布はすぐ黒くなった。

大きい弾は、試験の後半になるほど押し込む時の抵抗が増えていた。

小さい弾なら装填しやすい。

だが、一発だけとはいえ、大きい弾より外側へ飛んだ。

どちらを選ぶかは、まだ決められない。

木台の後ろには、俺の肩へ当てた跡が僅かに残っていた。

固定金具にも緩みがある。

点火孔の周囲には煤が付き、顔に近い場所へ火が漏れる危険も確認できた。

成功したことより、直す場所の方が多い。

それでも、昨日までとは違う。

昨日は、筒内の火薬が燃えただけだった。

今日は、その火が弾を押し、的へ穴を開けた。

新型銃を布で包み、木箱へ入れる。

火槍も別の布で包んだ。

どちらも、外から見れば修理道具を入れた箱にしか見えない。

見張りの兵から、試験中に近づいた者がいなかったことを一人ずつ確認する。

入った人数と、出る人数も同じだった。

採石場には、的の破片も、火縄の燃え残りも置いていかない。

撃った場所の土をならし、固定台を荷車へ載せる。

山道を離れる時、俺は一度だけ採石場を振り返った。

もう煙は残っていない。

音も消えている。

右の的も荷車へ載せたため、新型銃の弾が開けた穴を見ることはできない。

それでも、肩には鈍い痛みが残っていた。

夢ではない。

工房へ戻る頃には、空が赤く染まっていた。

レオンハルトは途中で城へ戻り、見張りと試験の記録を持ち帰った。

火薬は管理人へ返された。

アルベルトから派遣された火槍兵は、借りた火槍の状態を確かめてから宿舎へ向かった。

ロルフは工房へ入ると、新型銃を作業台へ置いた。

今日のうちに分解するつもりらしい。

「休まないんですか」

「お前は休め」

「記録があります」

俺は机へ帳面を広げた。

火槍、三発。

新型銃、不発一回。

固定台から発射三回。

肩から発射一回。

大きい弾は、小さい弾より筒へ入れにくい。

小さい弾は装填しやすいが、一発目は的の外側へ寄った。

火薬を増やすと固定台が大きく動いた。

長い筒と内側の精度が、命中に関係している可能性。

数発で煤がたまり、装填が重くなった。

固定金具が緩んだ。

点火孔から火と煙が漏れた。

肩へ強い反動を受けた。

発射後の煙で的が見えなくなった。

一発目の不発では、火皿だけが燃えた。

書くことはいくらでもあった。

机の端へ、的から回収した潰れた弾を置く。

朝には丸かった鉛が、今は平たく形を変えている。

この弾が飛んだことは、成功だった。

だが、同じ条件でもう一度撃ち、同じ場所へ飛ぶかは分からない。

同じ新型銃をもう一挺作れるかも分からない。

俺は帳面の新しい頁を開いた。

今日の日付を書く。

その下へ、レオンハルトの言葉を思い出しながら一行だけ記した。

『次に作るもの――二挺目』

第十五話をお読みいただき、ありがとうございます。

今回は新型銃による最初の実弾試射を行い、固定台とアレクの肩から弾を飛ばすことに成功しました。

しかし、一挺の試作品が動くだけでは軍の武器にはなりません。

次回は、同じ銃をもう一挺作るため、部品の規格化と量産の問題へ進みます。

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