第十三話 エルツェンの戦い(下)
ついにエルツェンへ到着したレオンハルト軍。
援軍の姿を見たことで、守備側には希望が生まれます。
しかし、シュヴァルツ伯はそこで退きません。
むしろ残されたわずかな時間へ全てを賭け、南西壁、南門、西壁へ最後の攻撃を仕掛けます。
守る側も限界に近づく中、アレクは自分一人で全てを動かすのではなく、兵、民兵、工兵、それぞれに役割を任せながら最後まで城を持たせようとします。
援軍が見えているからこそ、あと少しが長い。
エルツェンの戦い、決着です。
ドォォォォン――!
十二門の砲が再び火を噴いた。
南西角塔が崩れたことで、シュヴァルツ伯軍の狙いは明らかになっていた。
砲撃で守備側の足場を壊し、そこへ歩兵を集中させる。その一方で南門と西壁への攻撃も続け、こちらに兵を集めさせない。
「梯子来るぞ!」
西壁から声が上がる。
「正規兵は前! 民兵は後ろから槍を!」
「おおっ!」
俺も剣を構えた。
城外では六百ほどの敵兵が再び斜面を上ってくる。そのさらに向こう、北西にはレオンハルトの軍勢が見えていた。
銀の旗は確実に近づいている。
それでも、まだ遠い。
「あとどれくらいだ……」
思わず呟くと、隣にいたフェリクスが北西を見ながら答えた。
「ここまで来れば半刻も掛からないでしょう」
「半刻か……」
普段なら短い時間だ。
だが今は、とてつもなく長く感じる。
五分あれば何人死ぬか分からない。十分あれば城壁の一部が崩れるかもしれない。半刻もあれば、戦場そのものがまるで違う姿になっていてもおかしくなかった。
「アレク殿!」
「何です!」
「敵弓兵、前進!」
「盾! 壁から顔を出さないで!」
直後、大量の矢が西壁へ飛んできた。
バシュッ! バシュシュッ!
石壁や盾へ矢が当たり、カンッ、ガンッと乾いた音が続く。
「うわっ!」
一人の民兵が尻餅をついた。
「大丈夫!?」
「盾に当たっただけだ!」
「なら、そのまま伏せて!」
敵弓兵の狙いは、こちらを倒すことだけではない。
矢を浴びせて城壁から頭を上げられなくし、その間に梯子を持った兵を接近させるつもりなのだ。
「来るぞ!」
ガンッ!
一本目の梯子が掛かった。
少し離れた場所へ二本目、さらに三本目が続く。
「梯子三本!」
「中央から押さえる!」
正規兵たちが動く。
俺も中央へ走ろうとした。
その時だった。
ドガァァァン!
南西側から、また大きな音が響いた。
足元から城全体が揺れ、俺は思わず振り返った。
土煙が上がっている。
崩れた角塔のさらに下、南西壁の一部が煙に覆われて見えなくなっていた。
「アレク殿!」
フェリクスも同じ場所を見ている。
「今のは……」
「分かりません」
城壁がさらに崩れたのか、それとも砲弾が近くへ落ちただけなのか。ここからでは判断できない。
確かめに行きたい。
だが、西壁を離れることは出来ない。
「こっちを見ます」
俺は自分へ言い聞かせるように言った。
「南西はカール殿に任せる」
「はい」
フェリクスも短く答える。
直後、敵兵の頭が梯子の先から現れた。
「来た!」
「槍!」
民兵三人が並んだ。
「一人で倒そうとしないで!」
「分かってる!」
一人目の敵兵が城壁へ手を掛ける。
「今!」
三本の槍が同時に突き出された。
「ぐあっ!」
敵兵が梯子から落ちる。
だが、すぐに次の兵が大型盾を頭上へ掲げながら上がってきた。
「盾だ! 槍を一度引いて!」
民兵たちが槍を戻す。
敵兵が城壁上へ身体を乗り出した瞬間、正規兵が前へ出た。
ギィン!
剣と盾がぶつかる。
「横から!」
「おおっ!」
民兵の槍が盾の脇へ突き出された。
敵兵がそれを避けようと身体を捻る。
「押せ!」
その瞬間、城兵が盾ごと体当たりした。
「うわっ!」
敵兵は梯子へ押し戻され、そのまま城壁の外へ落ちていった。
「次が来るぞ!」
誰かが叫んだ。
俺ではない。
さっきまで怯えていた民兵たちが、自分たちで声を掛け合い始めている。
その光景を見て、少しだけ安心した。
俺が全てを指示する必要はない。
むしろ、いつまでも俺が指示しなければ動けない状態の方が危険だ。
「右の梯子!」
「分かってる!」
「二組、こっちへ来い!」
さっきまで一緒に戦っていた年配の男が、周囲の民兵を動かしている。
「アレク!」
「はい!」
「中央を見てろ! 右は俺らでやる!」
一瞬だけ迷った。
だが、任せることも必要だ。
「分かりました!」
俺は中央へ視線を戻した。
また敵兵が上がってくる。
剣を握り直し、城壁へ足を掛けた敵へ向かった。
◇ ◇ ◇
南西壁では、西壁以上に激しい戦闘が続いていた。
「穴が開いたぞ!」
「塞げ! 槍兵前へ!」
砲撃によって南西角塔の上部が崩れ、その隣の城壁も大きく損傷している。
城壁そのものが完全に崩落したわけではない。
だが、人間が通れるほどの裂け目が一か所出来ていた。
そこへシュヴァルツ伯軍の兵が殺到している。
「うおおおおおっ!」
「入れ! 城内へ入れぇ!」
崩れた石を乗り越え、盾を持った敵兵が次々と迫ってくる。
「押し返せ!」
カールは自ら先頭に立っていた。
ギィン!
敵兵の剣を受け、そのまま身体ごと押し返す。
「槍!」
後ろから城兵の槍が突き出された。
「ぐあっ!」
一人が倒れる。
しかし、その後ろからすぐに次の兵が現れる。
「袋を積め!」
工兵長が叫んだ。
「今積んでる!」
使っているのは、城壁の裏へ運んでいた土嚢だった。
倉庫の麦を木箱へ移し、空いた袋へ土や細かな瓦礫を詰めたものだ。
砲弾を防げるほど頑丈ではない。
それでも崩れた部分へ積み上げれば、敵兵が一気に城内へ流れ込むことだけは防げる。
「もっと右だ! そこじゃない! 裂け目を狭くしろ!」
工兵たちは敵兵が迫るすぐ近くで袋を積み上げる。
城兵が敵を槍で押し返している僅かな時間に土嚢を積み、敵が再び迫れば作業を止めて身を伏せる。
戦いながら城壁そのものを作り直しているような状態だった。
「カール副将!」
「何だ!」
「南門からです!」
「言え!」
「外板二枚目破損! 破城槌が閂へ届き始めています!」
「予備隊を回せ!」
「残り三十です!」
「二十回せ!」
「西は!?」
「西はアレクに任せた!」
「しかし!」
「任せたと言った!」
「……はっ!」
伝令が走っていく。
カールは再び裂け目へ向き直った。
敵はまだ来る。
何人倒しても、その後ろから次の兵が現れる。
「副将!」
工兵長が叫んだ。
「何だ!」
「このまま砲を受ければ、もう一度崩れるぞ!」
「分かっている!」
「なら、どうする!」
「どうしろと言う!」
工兵長も答えられなかった。
敵の砲撃を止めるには、城外へ出て砲兵そのものを叩く必要がある。
こちらにも砲は三門ある。
だが、数でも射程でも不利だった。
「レオンハルト殿下は!?」
「もう見えている!」
「あと少しです!」
「だから持たせろ!」
カールは剣を振り上げた。
「あと少しだ! ここを抜かせるな!」
その声に、疲れ切っていた城兵たちが再び槍を構えた。
◇ ◇ ◇
北西。
エルツェンへ迫るレオンハルト軍の先頭へ、一騎の騎兵が戻ってきた。
「殿下!」
「状況は」
「エルツェン南西壁、崩壊を確認!」
レオンハルトの表情から笑みが消える。
「完全に落ちたか」
「いいえ! 守備隊が裂け目を塞ぎながら戦っております!」
「南門は」
「破城槌による攻撃が継続中! 西壁にも敵兵約六百!」
レオンハルトは馬上からエルツェンを見た。
城の南西側から黒い煙が上がっている。その手前には、城を包むようにシュヴァルツ伯軍が展開していた。
「急げば城へ入れます」
隣を走るユリウスが言った。
「どこから入る」
「北東門です。一部の兵ならすぐに」
「駄目だ」
レオンハルトは即答した。
「殿下?」
「城へ入れば、シュヴァルツの思う壺だ」
「……どういうことでしょう」
「奴が今、一番欲しがっているものは何だ」
ユリウスが一瞬考え、敵陣を見る。
「時間ですか」
「そうだ」
レオンハルトは前方を見たまま続けた。
「我々が城へ入るなら門を通らなければならん。そこで隊列が崩れ、城内でも配置を整える必要がある。その間にコンラートは攻城部隊を下げられる」
「では、城へは入らず外から叩く?」
「ああ」
レオンハルトは地図を開いた。
指が北西から西壁の外側へ動く。
「まず、ここだ」
「西壁を攻めている六百ですか」
「こいつらを潰す。城壁に張り付いている今なら、こちらが近づくまで逃げるのが遅れる」
「その後は?」
「南西へ回る」
「敵本陣を直接狙わないのですか?」
「行かん」
「なぜです」
「コンラートは、それを待っている」
ユリウスが黙った。
「こちらが本陣へ一直線に向かえば、奴は攻城部隊を捨てて後退する。そうなれば城を守っている兵への圧力は最後まで残る」
「では、城を助けることを優先する」
「ああ」
「敵本隊を逃がすことになります」
「構わん」
レオンハルトはエルツェンを見た。
「今日の目的は、コンラートの首ではない」
そして静かに言う。
「エルツェンを残すことだ」
「承知しました」
レオンハルトが剣を抜いた。
「先鋒騎兵三百!」
「はっ!」
「敵西翼へ回れ! 西壁を攻める部隊の退路を断て!」
「はっ!」
「歩兵はその後ろへ続け! 敵が下がっても追いすぎるな!」
「承知!」
伝令が駆けていく。
「行くぞ」
ブォォォォォ――!
角笛が鳴った。
銀の旗が一斉に前へ傾き、レオンハルト軍がエルツェン西方へ向けて進路を変えた。
◇ ◇ ◇
「敵騎兵!」
西壁から声が上がった。
「どこ!?」
俺は城外を見る。
北西から接近していたレオンハルト軍の先頭から、騎兵隊が分かれている。
「こっちへ来る」
フェリクスが言った。
「城に入るつもり?」
「違います。あれは……」
騎兵は城門へ向かっていない。
西壁を攻めているシュヴァルツ伯軍のさらに外側へ回り込もうとしている。
「後ろを取るつもりだ」
「はい」
俺たちにも分かった。
敵もすぐに気づいた。
西壁を攻めていた兵たちが一斉に振り返り、隊列が乱れ始める。
「下がるぞ!」
「撤退! 梯子を捨てろ!」
さっきまで城壁へ上がろうとしていた兵たちが、梯子を放置して後退を始めた。
「追え!」
正規兵の一人が叫ぶ。
「待って!」
俺はすぐに止めた。
「でも逃げるぞ!」
「城から出ないで!」
「なぜだ!」
「わざと下がってる可能性だってある!」
実際に罠なのかは分からない。
可能性は低いかもしれない。
だが、それ以上に問題なのは、こちらには戦い慣れていない民兵が大勢いることだった。
「ここには民兵も多い! 城壁を出たら正規兵と同じようには戦えません!」
「……」
「壁を守ります! 外はレオンハルト殿下に任せる!」
城兵たちが一瞬迷う。
その時、さっきの年配の男が声を上げた。
「アレクの言う通りだ! 俺らが外へ出たところで邪魔になるだけだ!」
「そこまで言わなくても……」
「違うのか?」
「違わないですけど」
俺は苦笑した。
「西壁、持ち場維持!」
正規兵の一人が叫んだ。
「弓兵だけ、後退する敵へ射掛けろ!」
「放て!」
バシュッ!
撤退する敵兵へ城壁から矢が飛ぶ。
そのさらに向こうでは、レオンハルト軍の騎兵が土煙を巻き上げながら迫っていた。
ドドドドドッ!
「敵騎兵来るぞ!」
シュヴァルツ伯軍の兵たちが盾を並べようとする。
だが、城壁への攻撃から撤退へ切り替えた直後だ。
隊列を作り直す時間がない。
「突撃ぃぃ!」
銀の旗を掲げた騎兵が敵西翼へ突っ込んだ。
ドガッ!
馬と人と盾が激しくぶつかり、最前列が崩れる。
「ぐあっ!」
それでも敵もすぐに槍兵を集め始めた。
「槍前! 騎兵を止めろ!」
レオンハルト軍の騎兵は、そこへ無理に突っ込まなかった。
一度距離を取り、隊列を崩した別の場所へ向かう。
「……上手い」
思わず呟いた。
「何がです?」
「無理に敵の槍へ突っ込まない。倒すことより、隊列を崩すことを優先してる」
「本隊も来ます!」
騎兵の後ろから、レオンハルト軍の歩兵が整然と前進してくる。
騎兵に乱されたところへ歩兵が圧力を掛ける。
「敵西翼、完全に下がるぞ!」
城壁から歓声が上がった。
「やった!」
「まだです!」
俺は反射的に叫んだ。
「まだ終わってない! 南西が残ってる!」
振り返れば、南西側では今も土煙が上がり、激しい戦闘音が聞こえている。
西壁は助かった。
だが、戦そのものが終わったわけではない。
「正規兵を南西へ回せるかな」
「何人です?」
「半分くらい……」
そこまで言って止まった。
俺が勝手に西壁を空けるわけにはいかない。
「いや、カール副将に聞きます」
「それがいいでしょう」
「伝令!」
「はい!」
「西側の敵部隊が後退! レオンハルト軍と交戦中! こちらから南西へ兵を回せるか確認して!」
「はっ!」
伝令が走る。
俺は周囲の民兵を見た。
全員が疲れている。
それでも、顔つきは少し前までとは違っていた。
「勝てる……」
誰かが呟いた。
俺はすぐに首を振った。
「まだ勝ってません」
皆がこちらを見る。
「でも」
俺も北西から迫る銀の旗を見た。
「さっきよりは、かなり良くなりました」
少しだけ笑う。
周囲の民兵たちからも、ようやく小さな笑い声が返ってきた。
◇ ◇ ◇
ドゴォォン!
南門では、今も破城槌が門を叩き続けていた。
「梁が割れるぞ!」
「押さえろ!」
門を補強する兵たちが、全身を使って梁を支える。
「副将!」
伝令が駆け込んできた。
「西壁の敵、後退!」
カールが振り返る。
「本当か!」
「レオンハルト軍が敵西翼へ攻撃! アレク殿から、こちらへ兵を回せるかと!」
「回せ!」
「何人です?」
カールは一瞬だけ考えた。
「正規兵六十!」
「はっ!」
「六十は南西へ回せ! 民兵は西壁へ残す!」
「南門ではなく?」
「南門はまだ持つ! 今一番危険なのは裂け目だ!」
「はっ!」
伝令が走っていく。
その直後。
バキィン!
門から大きな音が響いた。
「外板三枚目、破損!」
「閂は!」
「まだ持っています!」
カールは門楼を見上げた。
「石は残っているか!」
「残り僅かです!」
「短い木材を落とせ!」
「補強材をですか!?」
「全部ではない! 使える短材だけだ!」
城壁の補強に使う木材だ。
本来なら無駄にしたくない。
だが、門が破られれば補強材を残しておく意味もない。
「やれ!」
「はっ!」
門楼から木材が落とされる。
「離れろ!」
ドンッ!
「ぐあっ!」
破城槌の周囲にいた敵兵たちが崩れる。
破城槌そのものを壊すことは出来ない。
それでも、次の一撃までの時間を少しだけ延ばせる。
今は、それで十分だった。
◇ ◇ ◇
南西壁では、敵兵が裂け目へ殺到し続けていた。
「押せぇぇぇ!」
積み上げられた土嚢の一部は破れ、中に詰めた土や瓦礫が辺りへ散らばっている。
それでも通路を狭める役目は果たしていた。
一度に通れる敵兵は二人か、多くても三人。
そこへ城兵が槍を集中する。
「先頭、下がれ! 次と交代!」
疲れた兵が後ろへ下がり、代わりに別の兵が前へ出る。
朝から続けてきた短い交代が、ここでも効いていた。
完全に休めるわけではない。
それでも数分だけでも水を飲み、腕を休められた兵は、再び槍を握ることが出来る。
「カール副将!」
伝令が走ってくる。
「西から六十来ます!」
「よし!」
カールの表情が初めて僅かに緩んだ。
「到着したら二十を壁上へ! 四十は裂け目だ!」
「はっ!」
「敵が来るぞ!」
「止めろ!」
ギィン!
ザシュッ!
剣と槍がぶつかり、敵味方が狭い裂け目で押し合う。
その時、遠くから低く長い角笛が響いた。
ブオォォォォ――。
「何だ?」
一人の城兵が顔を上げる。
「撤退の合図か?」
「まだだ! 目の前を見ろ!」
カールが止める。
敵兵はまだ戦っている。
だが、その後方では明らかに動きが変わり始めていた。
「第二列が下がってるぞ」
工兵長が言った。
シュヴァルツ伯軍の後方部隊が、少しずつ南へ下がり始めている。
カールは崩れた城壁の隙間から平原を見た。
西翼を押し返したレオンハルト軍が、今度は南西へ向けて進路を変え始めている。
「来るぞ」
カールが笑った。
「今度は、こっちの番だ」
◇ ◇ ◇
「殿下! 敵西翼、後退!」
ユリウスが馬上から叫ぶ。
「追うなと言ったぞ」
「追っておりません!」
「よし。全軍、南へ向け」
「はっ!」
レオンハルト軍は西壁前から南西へ進路を変える。
だが城壁近くでは、敵兵と城兵が入り乱れている。
「弓兵は撃つな」
「敵兵を狙える位置ですが」
「城兵にも当たる。槍兵を前へ出せ」
「はっ!」
「急ぎすぎるな。隊列を保ったまま押せ」
ユリウスが少し意外そうにレオンハルトを見た。
「突撃しないのですか?」
「突撃すれば敵を崩せるだろう」
「では」
「その代わり、こちらの隊列も崩れる」
レオンハルトは南方のシュヴァルツ伯本陣を見る。
「コンラートに退く時間を与えることになるな」
「はい」
「それでいい」
「城を守るためですか」
「ああ」
「殿下らしくないと言われますよ」
「誰にだ」
「強引に決める方だと」
レオンハルトが僅かに笑った。
「お前までアレクのようなことを言うな」
「失礼しました」
「だが、コンラートは逃げる」
「確信が?」
「奴はここで死ぬ男ではない」
「追撃はしますか」
「する」
「どこまで?」
「城から一里までだ」
「それだけですか? 今ならもっと叩けます」
「王都軍を忘れたか」
ユリウスが黙った。
王都側の兵力は千八百。
だが、今どこにいるのかは完全には掴めていない。
「シュヴァルツだけを見て全軍を南へ出せば、今度はこちらが王都軍へ背を向けることになる」
「……承知しました」
「まず城を残す。それから次を考える」
「はっ」
◇ ◇ ◇
シュヴァルツ伯軍本陣には、次々と報告が入っていた。
「西翼、レオンハルト軍と接触! 後退中!」
「南西壁、突破出来ません!」
「南門、閂に損傷を与えるも未突破!」
コンラート・フォン・シュヴァルツは地図を見たまま聞いていた。
「時間は」
「半刻を過ぎました」
「……そうか」
副官が次の命令を待つ。
「伯爵」
「ああ」
コンラートは顔を上げ、煙に覆われた南西壁を見た。
角塔は崩した。
城壁にも裂け目を作った。
南門もあと少しだった。
それでも、エルツェンの旗はまだ落ちていない。
「退く」
「はっ」
「攻城部隊から順次後退させろ」
「一斉ではなく?」
「一斉に退けば追われる。順番に下げろ」
「殿軍は」
「私の直属五百を残す」
「伯爵自ら残られるのですか?」
「私は最後に退く」
「危険です」
「だから兵が残る」
「……承知しました」
「砲は何門残っている」
「十二門全てです」
「八門を先に下げろ」
「残り四門は?」
「殿軍を支援させる」
「弾薬は」
「残っている分は使って構わん」
「城へ撃ちますか?」
「いや。レオンハルト軍が近づけば、そちらへ向けろ」
「射程に入らなければ?」
「撃つ必要はない。牽制になれば十分だ」
「破城槌はどうします」
コンラートは少しだけ考えた。
「捨てろ」
「二基とも?」
「持って退けるか」
「……無理です」
「なら焼け。敵に使わせる必要はない」
「はっ」
副官が命令を伝えるため走っていく。
コンラートは一人、エルツェンを見た。
「民兵か……」
小さく呟く。
そこへ騎兵が駆け込んできた。
「伯爵!」
「何だ」
「今朝、北東門へ入った部隊について判明しました!」
「言え」
「マティアス・クレーマー配下です!」
コンラートの目が僅かに動いた。
「指揮官は」
「アレク・ハルトマン」
「……」
「十五歳の少年とのこと」
「十五か」
「はい」
コンラートはもう一度エルツェンを見る。
「その名を覚えておけ」
「アレク・ハルトマンを、ですか?」
「ああ」
「なぜでしょう」
「今朝まで、この城を守っていたのはカールだった」
「はい」
「だが昼頃から、守り方が少し変わった」
コンラートにも、城内で何が起きていたのか全て分かるわけではない。
兵を小刻みに休ませたことも、民兵へ役割を絞って戦わせたことも、土嚢を作るために麦袋を空けたことも知らない。
だが、攻めている側だからこそ分かる変化もある。
崩れるはずのところで崩れない。
疲れるはずの時間になっても抵抗が弱まらない。
西壁へ民兵を投入しても、混乱せずに持ちこたえた。
「誰かが一人増えただけで、城の粘りが変わることがある」
「それが、その少年だと?」
「まだ分からん」
「では」
「次に会った時に確かめる」
コンラートは馬へ乗った。
「撤退を始めろ」
「はっ!」
再び角笛が鳴った。
今度こそ、シュヴァルツ伯軍全体が後退を始めた。
◇ ◇ ◇
「敵が下がる!」
西壁から声が上がった。
「今度こそ撤退ですか?」
民兵の一人が俺を見る。
俺も城外を確認した。
西側だけではない。
南でも敵の後方部隊が下がり、十二門あった砲のうち何門かが移動を始めている。
「たぶん、本当に撤退です」
フェリクスが言った。
「追いますか?」
正規兵が聞いてくる。
「追わない!」
俺は今度こそ迷わず答えた。
「またか!」
「カール副将の命令を待ちます!」
「分かった!」
敵が逃げているからといって、必ず追えばいいわけではない。
相手が殿軍を置いているかもしれない。
こちらは朝から戦い続けている。
民兵は限界に近く、正規兵だって疲れ切っている。
「敵が逃げても、こっちが追撃で倒れたら意味ないからな……」
「そうですね」
フェリクスが南西を見る。
「南西へ行きますか?」
「行きたいですけど、今度こそ命令を待ちます」
ちょうどその時、伝令が走ってきた。
「アレク殿!」
「はい!」
「カール副将より! 西壁は民兵と正規兵三十を残し、残りは南西へ!」
「分かりました!」
「アレク殿も南西へ来るようにと!」
「はい!」
やっと行ける。
俺は、さっきから民兵をまとめていた年配の男を見る。
「あの……」
「フーゴだ」
「え?」
「名前だ。さっきから呼びにくそうにしてるだろう」
「ああ。フーゴさん」
「何だ」
「民兵をお願いしてもいいですか?」
「任せろ」
「敵が戻ったら」
「鐘を鳴らす。お前は南西へ行け」
「お願いします!」
俺は階段を駆け下りた。
城内には負傷者を運ぶ者、石や水を運ぶ民兵、補修用の道具を抱えた工兵が行き交っている。
その間を縫うように南西へ走った。
「カール殿!」
「ここだ!」
土煙の向こうから声がする。
近づくと、カールの服にも血が付いていた。
「それ、自分の血ですか!?」
「少しな」
「どこです?」
「腕だ。大したことはない」
「本当に?」
「後だ!」
「はい!」
俺は崩れた城壁を見る。
土嚢は破れ、石と土が散らばり、敵味方の死体が狭い場所に重なっている。
それでも、敵は城内へ入っていない。
「持ったんですね」
「何がだ」
「壁です」
カールも裂け目を見る。
「ああ」
大きく息を吐いた。
「持たせた」
城外ではレオンハルト軍が接近し、シュヴァルツ伯軍は少しずつ離れている。
「アレク」
「はい」
「西は」
「持ちました」
「民兵は?」
「かなり頑張ってくれました。途中からフーゴさんって人がまとめてくれて」
「死傷者は」
「まだ確認してません」
「そうか」
カールは少しだけ黙った。
「よくやった」
「俺ですか?」
「ああ」
「まだ終わってませんよ」
「分かっている」
「じゃあ、後で褒めてください」
「後で言おうとすると忘れる」
「アルベルト殿下と逆ですね」
「何だ、それは」
「何でもないです」
少しだけ笑った。
その時、城外から歓声が上がった。
「レオンハルト殿下だ!」
「王弟殿下が来たぞ!」
城兵たちが城壁の外を見る。
銀の旗が南西へ近づき、それに押されるように敵軍がさらに離れていく。
「……終わった?」
思わず聞く。
カールは首を振った。
「戦闘はな」
「……」
「これから死者を数える」
その言葉で、少し浮きかけていた気持ちが一気に重くなった。
そうだ。
城は残った。
俺たちは生き残った。
でも、それで全てが終わるわけではない。
◇ ◇ ◇
夕方。
シュヴァルツ伯軍はエルツェン南方へ後退していた。
レオンハルト軍は一里ほど追撃したものの、それ以上は進まなかった。
「追わないんですね」
俺は城壁から遠ざかっていく敵軍を見ていた。
「ああ」
隣から聞き慣れた声がする。
振り向く。
「……いつ来たんです?」
「つい先ほどだ」
レオンハルトが立っていた。
「久しぶりだな、アレク」
「今ですか?」
「何がだ」
「もっとこう、最初に言うことがあるでしょう」
「感動的な再会を期待したか?」
「そこまでは言ってません」
「相変わらずだな」
「それ、最近皆に言われるんですよ」
レオンハルトが小さく笑う。
「だが、随分汚れたな」
「戦ってたので」
「知っている」
「いつから見てたんです?」
「城へ来る途中からだ」
「じゃあ、もっと早く来てくださいよ」
「走ってきた」
「馬でしょう」
「細かいな」
いつものレオンハルトだった。
それだけで少し安心した。
「それで」
俺は遠ざかる敵を見る。
「追撃、もっとしなくていいんです?」
「なぜだ」
「今ならシュヴァルツ伯軍もかなり疲れてる。砲も運んでるし、追えばもっと叩けるんじゃ」
「出来るかもしれん」
「なら」
「その代わり、こちらも城から離れる」
「あ……」
「王都軍はどこだ」
「千八百……」
「数ではない。場所だ」
「まだ完全には分からない?」
「そうだ」
俺も理解した。
「シュヴァルツ伯を追ってる間に、別の敵が来るかもしれない」
「ああ。それにコンラートは殿軍を残している」
「罠?」
「罠というほど大袈裟なものではない。追ってくるなら血を流させる準備をしているということだ」
「だから今日は」
「城を守った。それで十分だ」
俺はエルツェンを見る。
南西角塔は崩れ、城壁には大きな傷が残っている。
それでも旗は立っている。
「守ったんですね」
「ああ」
「本当に」
「ああ」
その言葉を聞いた途端、身体から力が抜けた。
「座っていいです?」
「なぜ私に聞く」
「一応、第一王弟なので」
「好きにしろ」
「じゃあ」
城壁の内側へ座り込む。
「疲れた……」
「十五歳にしては働いたな」
「また年齢ですか」
「事実だろう」
「そうですけど」
レオンハルトは立ったまま、遠ざかる敵を見ている。
「アレク」
「はい」
「西壁の民兵を動かしたのは、お前だそうだな」
「俺一人じゃないですよ」
「ああ」
「正規兵が前にいてくれたし、フーゴさんって人が途中から民兵をまとめてくれました」
「南西の補強も、お前が考えたと聞いた」
「実際にやったのは工兵長です」
「兵の交代は」
「カール殿が他の場所にも広げました」
レオンハルトが少し笑った。
「何です?」
「いや」
「何ですか」
「お前は自分の功績を全て否定するわけではないのだな」
「俺もやりましたよ」
「そこは言うのか」
「やったので」
「だが、一人でやったとは言わない」
「一人じゃ無理でしょう」
俺としては当たり前のことだった。
レオンハルトは少し考えるように俺を見た。
「そうか」
そして遠ざかる敵へ視線を戻す。
「マティアスが欲しがるわけだ」
「またそれですか」
「ああ」
「もう仕えましたよ」
「聞いた」
「早いですね」
「アルベルトから聞いた」
「殿下……」
「かなり不満そうだったぞ」
「え?」
「冗談だ」
「やめてくださいよ!」
本気で焦った俺を見て、レオンハルトが笑う。
「だが、少し寂しそうではあった」
「……そうですか」
「ああ。自分で送り出したくせにな」
胸の奥が少しだけ温かくなった。
「手紙、書こうかな」
「好きにしろ」
「エリーゼにも……」
口にしてから、何となくレオンハルトを見る。
なぜかこちらを見ていた。
「何です?」
「いや」
「その顔、絶対何かあるでしょう」
「何でもない」
「本当に?」
「お前もアルベルトに似てきたと思っただけだ」
「やめてくださいよ」
レオンハルトが笑った。
俺には何がおかしいのか分からない。
「アレク殿!」
城壁の下からフェリクスが呼ぶ。
「何です!」
「マティアス様です!」
「え?」
「本隊が到着しました!」
俺は立ち上がり、北東側を見る。
荷車の列が見えた。
旗もある。
兵もいる。
マティアスの本隊が、ようやくエルツェンへ到着したのだ。
「……遅い」
思わず呟いた。
「本人に言え」
レオンハルトが言う。
「言いますよ」
「本当に言うのか」
「言います」
「やはり変わらんな」
「だから皆そればっかり!」
◇ ◇ ◇
北東門へ向かうと、ちょうどマティアスが馬から下りたところだった。
「マティアス様!」
「アレクか」
「遅いです!」
「第一声がそれか」
「戦、終わりましたよ!」
「見れば分かる」
「もっと早く来てくれれば」
「八十台の荷車を馬と同じ速度で走らせろと言うのか?」
「……無理ですね」
「分かったか」
「はい」
マティアスが俺を上から下まで見る。
「怪我は」
「肩です」
「他は」
「ないと思います」
「本当に?」
「たぶん」
「医師に見せろ」
「はい」
「先発の荷は」
「十台全部届きました。一台も失ってません」
「そうか」
短い返事だった。
だが、マティアスの表情が僅かに緩んだ。
「よくやった」
「……」
「何だ」
「褒めるんですね」
「褒めてほしかったのか」
「そういうわけじゃないです」
「なら取り消す」
「それは嫌です!」
マティアスが笑った。
「残り七十台も到着する」
「本当ですか?」
「ああ」
「橋で壊れた一台は?」
「修理して追いついた」
「……良かった」
「ディートリヒが笑っていたぞ」
「何て?」
「一台も失っていないとな」
それを聞いて、本当に安心した。
あの荷を一つでも多く届けるために、ここまで来たのだから。
「ただし」
マティアスがエルツェンを見る。
「荷を届けて終わりではない」
「分かってます」
「では、今何が必要だ」
「今ですか?」
「ああ」
俺は城内を見る。
戦は終わった。
だが、負傷者がいる。
城壁は壊れている。
死者もいる。
兵も民間人も疲れている。
「まず医療物資です」
「ああ」
「次に修復用の木材と工具。それから食糧も必要です」
「ああ」
「でも、兵の分だけじゃ駄目です」
「なぜだ」
「戦が終わったからって、城の人たちが食べなくてよくなるわけじゃないでしょう」
「そうだ」
「それと、民家がどれくらい壊れたのか確認したいです」
「何をする」
「まだ分かりません」
正直に答えた。
「どれだけ壊れたか見ないと、何が必要なのか決められないので」
「よし」
「え?」
「それでいい」
マティアスがフェリクスを呼ぶ。
「フェリクス」
「はい」
「アレクと一緒に被害状況を確認しろ」
「今から!?」
「お前が必要だと言っただろう」
「休ませてくださいよ!」
「医師に見せてからでいい」
「それ、休みじゃない!」
後ろからレオンハルトの笑い声が聞こえた。
「やはりお前、主を変えても何も変わらんな」
「助けてくださいよ!」
「私は第一王弟だ」
「便利だな、その身分!」
以前アルベルトにも似たようなことを言った気がする。
レオンハルトがさらに笑った。
マティアスは俺を見る。
「元気そうだな」
「誰のせいです?」
「なら働ける」
「そういう意味じゃない!」
◇ ◇ ◇
夕暮れ。
エルツェンの戦いは終わった。
シュヴァルツ伯軍は南へ後退し、レオンハルト軍は城外に陣を張った。マティアスの本隊も到着し、城内ではすぐに負傷者の治療と城壁の応急修理が始まっている。
俺は一人、城壁の上に立っていた。
夕陽に照らされた南西角塔は上部が崩れ、その隣の城壁には大きな傷が残っている。
その下では人々が動いていた。
死者を運ぶ者。
負傷者を教会へ運ぶ者。
壊れた石を片づける者。
敵味方の遺体を分ける者。
「勝った……」
口にしてみる。
でも、不思議なくらい気持ちは軽くならなかった。
城は残った。
レオンハルトは間に合った。
シュヴァルツ伯は退いた。
なら、これは勝利だ。
それでも城内には、警報とは違う鐘の音が響いている。
ゴォン……。
ゴォン……。
死者を悼むための鐘だった。
「アレク」
後ろから声がした。
振り返ると、マティアスが立っている。
「何してるんです?」
「それはこちらの台詞だ」
「少し考えてました」
「何を」
俺は城内へ視線を戻した。
「勝ったのに、あんまり嬉しくないなって」
マティアスが隣へ来る。
「喜んでもいい」
「え?」
「城は残った」
「はい」
「お前たちが運んだ物資も役に立った」
「はい」
「多くの人間が生き残った」
「……はい」
「なら、それは喜べ」
「でも」
「死んだ者がいるからか」
俺は頷いた。
「はい」
マティアスはしばらく何も言わず、城外を見ていた。
「それも忘れるな」
「どっちです?」
「両方だ」
「……」
「勝ったことを喜べ。死んだ者を忘れるな。どちらか片方だけにするな」
俺は少し考えた。
「難しいですね」
「だから覚えておけ」
「はい」
鐘がまた鳴った。
ゴォン……。
「マティアス様」
「何だ」
「シュヴァルツ伯は、また来ますか?」
「来る」
即答だった。
「今回負けたのに?」
「だからだ」
「……」
「コンラートは、この程度で終わる男ではない」
「会ったことあるんです?」
「ああ」
「どんな人です?」
「嫌な男だ」
「マティアス様が言うと、すごいな」
「どういう意味だ」
「何でもないです」
「殺すぞ」
「アルベルト殿下みたいになってる!」
「それは嫌だ」
思わず笑った。
ほんの少しだけ、胸の重さが和らぐ。
それでも敵は残っている。
シュヴァルツ伯は生きている。
王都軍千八百の動きも完全には掴めていない。
エルツェンの戦いが終わっただけで、この国を巡る争いは何一つ終わっていなかった。
「アレク」
「はい」
「今回の戦で、一つ覚えておけ」
「何です?」
マティアスは崩れた城壁を見た。
「戦は、勝ってからの方が長い」
「……」
言われて、その意味を考える。
城壁を直さなければならない。
負傷者を治療しなければならない。
死者を弔い、その家族のことも考えなければならない。
使った食糧を補充し、失った武器を揃え、捕虜の扱いも決める必要がある。
そして何より、次の敵が来る前に立て直さなければならない。
「また仕事が増えますね」
「当然だ」
「やっぱり」
俺は小さく笑った。
夕陽がゆっくりと沈んでいく。
エルツェンは残った。
俺も生き残った。
だが、この一戦で全てが終わったわけではない。
退いたシュヴァルツ伯。
エルツェンを救ったレオンハルト。
まだ姿を見せない王都軍。
そして、戦が始まる前から商人と物資と人を動かし続けてきたマティアス。
それぞれが次の一手を考え、既に動き始めている。
エルツェンで起きたことは、きっと始まりに過ぎない。
もっと大きな流れが生まれる前に立った、最初の波なのだ。
そしてこの時の俺はまだ、その波がどれほど多くの国と人を巻き込み、どれほど長い年月にわたって続いていくのかを知らなかった。
第十三話をお読みいただき、ありがとうございます。
エルツェンの戦いは、レオンハルト軍の到着によってようやく決着しました。
ただ、今回描きたかったのは「援軍が来たから勝った」という単純な形ではありません。
レオンハルトは城へ直接入るのではなく、外側からシュヴァルツ伯軍の西翼を崩し、まず城への圧力を減らすことを選びました。
一方、城内ではアレクたちが最後まで持ちこたえます。
民兵も、正規兵も、工兵も、それぞれが出来ることを続け、その積み重ねが城を残しました。
そしてシュヴァルツ伯コンラートも、ただ敗れて終わったわけではありません。
城の守り方が途中から変わったことに気づき、アレク・ハルトマンという名前を知りました。
今回の戦いで、アレクは新しい味方だけではなく、新しい敵からも存在を認識され始めています。
ですが、戦が終わっても物語は終わりません。
負傷者、死者、崩れた城壁、減った食糧、疲れ切った兵や住民。
勝った後には、戦っていた時とは別の仕事が待っています。
マティアスが最後に言った、
「戦は、勝ってからの方が長い」
その言葉通り、次にアレクが向き合うのは、勝利の後に残された現実です。




