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『知らない世界で、前世の知識が武器になる』 ~剣と銃で乱世を生き抜く転生領主の成り上がり~  作者: 相田 ソウ
第九篇 乱世に広がる道

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第五話 金獅子に贈る二挺

今回もお読みいただき、ありがとうございます。

王の誕生日を祝うため、アレクたちは王城の大広間へ向かいます。

 王城へ入ったアレクたちは、大広間へ向かう前に、献上品の確認を受けた。

 長い包みと、装飾を施した箱。

 係の者は届け出の書状と照らし合わせ、そばに控えていた近衛の士官も、中身へ目を向けた。

 騎兵用の銃を見た時には、落ち着いた顔をしていた。

 だが、箱の蓋が開くと、その視線が止まった。

「こちらも、銃でございますか」

「はい。どちらにも、弾は込めておりません」

 アレクが答えた。

 士官は頷き、確認を続けた。

 扱いを確かめた後、二挺はそれぞれの包みと箱へ戻された。

「献上の際に、こちらからお運びいたします」

「よろしくお願いいたします」

 アレクは礼を述べた。

 箱を預かった者が、慎重に持ち上げる。

 その様子を見届けてから振り返ると、マティアスが待っていた。

「済んだか」

「はい」

「では、行くぞ」

 隣にいたエリーゼが、アレクへ小さく頷いた。

 二人はマティアスに続き、大広間へ向かった。

 ◇ ◇ ◇

 扉の向こうから、多くの声が聞こえていた。

 大広間には、すでに諸侯やその家族が集まっている。

 窓から入る光が磨かれた床へ差し、壁際には花が飾られていた。奥には国王の席が設けられているが、まだ主の姿はない。

 招待された者たちは、いくつもの輪を作っていた。

 久しぶりの再会を喜ぶ声がある。

 互いの領地について尋ねる者もいる。

 アレクは、その間を進むマティアスの後ろへ続いた。

 入口近くにいた男が、こちらを見た。

 すぐに話を止め、頭を下げる。

「クレーマー侯爵閣下」

 その声に、周りの者も振り返った。

 マティアスが頷いて応じる間に、行く先が空いた。

 礼をする者が続き、広間の奥からも数人が近づいてくる。

「ご無沙汰しております」

「先日は、書状にお返事をいただき、ありがとうございました」

 マティアスは足を止め、一人ずつ言葉を返した。

 名前を呼び、領地の様子を尋ねる。

 短い返事でも、相手は姿勢を正して聞いていた。

 アレクはエリーゼとともに、少し後ろへ控えた。

 戦場でも、王宮でも、マティアスのもとへ人が集まる姿は見てきた。

 それでも、こうして祝いの席へ入るだけで周囲の空気が変わるのを見ると、自分の主君が担う立場を改めて感じた。

 挨拶を終えた諸侯が下がる。

 入れ替わるように、次の者が前へ進んだ。

 アレクは、その様子を見ながら待っていた。

「ハルトマン伯爵様」

 横から声がかかった。

 顔を向けると、一人の男がこちらへ礼をしていた。

 先ほど、マティアスと言葉を交わしていた子爵だった。

「このたびは、我が家の鉄砲隊の育成にお力添えをいただき、ありがとうございました」

 アレクも礼を返した。

「こちらこそ、兵の教育を支えてくださり、ありがとうございます」

「派遣された教官から、伯爵様のお話をよく聞いております。一度、お目にかかりたいと思っておりました」

 子爵はエリーゼにも挨拶を述べてから、アレクへ向き直った。

「教官には、随分と世話をかけております」

「報告は届いています。訓練に使う場所も、早くに整えてくださったと」

 子爵が少し目を見開いた。

「そこまで、お聞きになっておられましたか」

「はい。雨の後でも兵を集めやすくなったと、書かれていました」

「以前の場所では、足元が悪くなってしまいまして」

 子爵の声が、少し和らいだ。

「伯爵様に、そのようなことまでご覧いただいているとは思いませんでした」

「兵が学べる場所を用意していただけなければ、教官も教えられませんので」

 アレクが答えると、子爵は深く頷いた。

 その後ろで、別の男が会話の切れ目を待っていた。

「私からも、お礼を申し上げてよろしいでしょうか」

 アレクは顔を向けた。

 次に進み出たのは、アーノルドに属する領主だった。

「我が家へ来た教官も、伯爵をたいそう尊敬しております」

「そうですか」

「剣を持たせても、とても敵わぬ方だと申しておりました」

 アレクは、返事に少し困った。

「訓練で、手合わせをしたことはありますが」

「それだけではありません。兵の話をよく聞かれるとも」

 男は笑った。

「皆、口を揃えて褒めるものですから、どのような方かと」

 隣で、エリーゼが静かに微笑んでいた。

 アレクは気づいたが、そちらを見る余裕がなかった。

 さらに別の諸侯が近づいてきていた。

 ◇ ◇ ◇

「射撃の時には、列が揃うようになりました」

 子爵が言った。

「ですが、移動させると間隔が乱れます。教官からも指摘されているのですが、なかなか直らず」

「指揮を任せる者は、毎回同じでしょうか」

 アレクが尋ねると、子爵は少し考えた。

「訓練へ出せる者が、日によって違うことがあります」

「では、まず教官と相談して、隊を動かす役の者が続けて学べるようにしてみてください。兵も、命令を出す者がそのたびに変わると、戸惑うことがあります」

「なるほど」

 子爵は頷いた。

 隣の領主が、口を開く。

「我が家でも、人を選ぶところで苦労しております。腕の立つ者なら任せられると思っていたのですが」

「剣の腕と、隊をまとめる力は同じではありませんからな」

 後ろから声がした。

 フーゴ・フォン・ヴァルテン伯爵だった。

 アレクを見ると、親しげに頷く。

「先日は世話になった」

「こちらこそ。兵の様子は、いかがですか」

「帰ってからも、あの訓練の話をしている。うちの隊長は、以前より教官へ質問するようになった」

「それは、よかったです」

「ただ、次に同じように動けと言われて、すぐできるとは思っておらん。まだ、教わることが多い」

 フーゴはそう言い、周りの諸侯へ顔を向けた。

「私は、この伯爵の訓練場を見せてもらった。銃を渡されただけで、同じ隊ができると思ってはいかんな」

 聞いていた男たちが頷いた。

「ぜひ、私どもも一度」

「我が家の隊長も連れて伺えれば」

 声が重なり、アレクは軽く手を上げた。

「日程を相談させてください。こちらも、各家の状況を確かめてからお話しできればと思います」

 祝いの席へ来たはずだった。

 それがいつの間にか、訓練場の話になっている。

 アレクは笑みを浮かべた。

「今日は陛下のお祝いですので、詳しい相談は、改めて」

「これは、失礼いたしました」

 子爵が頭を下げる。

 フーゴも笑った。

「私も、人のことは言えんな」

 少し離れたところで、マティアスがこちらを見ていた。

 アレクと目が合う。

 主君は何か言うでもなく、わずかに頷いた。

 そして、そばにいた諸侯との会話へ戻った。

 アレクは、もう一度周りの者たちへ向き直った。

 以前なら、自分もマティアスへ尋ねる側だった。

 今は、答えを求めて待つ者がいる。

 分からないことまで、分かったように話すことはできなかった。

 だが、聞いて持ち帰り、教官やギルベルトと確かめることはできる。

 アレクは、後日書状を交わすことを約束した。

 隣で待っていたエリーゼへ目を向ける。

「お待たせしました」

「いいえ」

 彼女は小さく首を振った。

「皆様、アレクとお話ししたかったのですね」

「私だけでは、答えられないこともあります」

「それでも、お話を聞いていただけて、安心されたように見えました」

 アレクが返事をしようとした時、広間の奥で人が動いた。

 ◇ ◇ ◇

 扉の近くにいたユリウス侯爵が、侍従からの合図を受けた。

 一歩前へ進む。

 大広間へ、よく通る声が響いた。

「レオンハルト国王陛下がお入りになります!」

 会話が止まった。

 アレクを囲んでいた諸侯も、それぞれの位置へ戻っていく。

 衣擦れの音が広がり、やがて静まった。

 アレクは姿勢を正した。

 隣のエリーゼも、まっすぐに前を向いている。

 扉が開いた。

 レオンハルトが姿を現した。

 鎧は着けていなかった。

 国王としての装いに、金の獅子が光っている。

 戦場で見慣れた歩き方だった。

 だが、居並ぶ諸侯が一斉に頭を下げる中を進む姿には、また違う重みがあった。

 アレクも深く礼をした。

 王の足音が、広間の奥へ進んでいく。

 席の前で立ち止まり、レオンハルトが振り返った。

「皆、よく来てくれた」

 顔を上げると、王は広間を見渡していた。

「今日は、祝いのために集まってもらった。遠方から来た者もいるだろう。どうか、ゆるりと過ごしてくれ」

 落ち着いた声だった。

 諸侯から、祝いの言葉が上がる。

 ユリウスが進行を引き継ぎ、式典が始まった。

 ◇ ◇ ◇

 祝辞が述べられ、献上の品が順に運ばれた。

 見事な織物があった。

 細工を施した杯や、領地で作られた品を贈る者もいた。

 レオンハルトはそれぞれの説明を聞き、礼を返していた。

 アレクは、自分の番を待ちながら、その様子を見ていた。

 何度も考えた言葉が、頭の中を行き来する。

 銃を作ってくれた職人たちの顔も浮かんだ。

 ロルフは、使うための物だと言った。

 飾りを手がけた者たちも、銃としての扱いを損なわないよう、何度も確かめてくれた。

 その仕事を、きちんと伝えたかった。

 名前が呼ばれた。

 アレクは一歩前へ出た。

 エリーゼが、静かに頷いて送り出してくれる。

 王の前まで進み、礼をした。

「アレク・フォン・ハルトマンにございます。陛下の御誕生日を、心よりお祝い申し上げます」

「ありがとう、アレク」

 レオンハルトが答えた。

「今日は、何を持ってきた」

 少し楽しげな声だった。

 アレクは顔を上げた。

「陛下にお使いいただきたい品を、職人たちに作ってもらいました」

 係の者が進み出る。

 長い包みが、用意された卓上へ置かれた。

 布が外される。

 金獅子を施した銃が現れた。

 レオンハルトが、銃へ目を向けた。

 近くにいた諸侯も、金獅子の装飾を見ようと視線を寄せた。

 アレクは銃を示した。

「火縄を使わず、火打石で火花を起こす銃です。陛下がお持ちになる一挺として、金の獅子をあしらいました」

 レオンハルトは近づいた。

 銃床の獅子へ目を留め、その周りの細工を眺める。

「よくできている」

 王は言った。

 それから、銃全体へ視線を移した。

「以前の物より、短いな」

「はい。馬上で扱いやすいよう、長さを見直した物です」

 アレクは答えた。

「騎馬鉄砲隊の兵から、従来の銃は馬に乗るには少し長いと聞きました。その意見をもとに、職人たちが試作と確認を重ねて仕上げた物です」

「兵の話から、作り直したのか」

「はい。陛下も馬にお乗りになりますので、こちらをお贈りしたいと考えました」

 レオンハルトは、もう一度銃を見た。

「飾るだけの品ではないというわけだな」

「はい」

 アレクが答えると、王の口元が緩んだ。

 ◇ ◇ ◇

「陛下。併せて、銃の名称についてご報告がございます」

 アレクが言った。

 レオンハルトが顔を向ける。

「申してみよ」

「火打石を使う銃は、今後、フリント銃と呼ぶことにいたしました」

「フリント」

「火打石の産地である、フリント村にちなんだ名です」

 王が頷いた。

 アレクは続けた。

「通常の長さの物をフリント長銃。騎馬鉄砲隊向けの少し短い物を、フリント騎兵銃と呼び分けます。今回お持ちしたのは、フリント騎兵銃です」

「使う兵に合わせて、分けたのだな」

「はい。短くした物が、すべての場面で優れているわけではありません。それぞれの役目に合わせて使っていきたいと考えております」

 レオンハルトは銃へ手を添えた。

 確認を担当した士官が進み出て、弾が込められていないことを改めて告げる。

 王は頷いてから、銃を持ち上げた。

 重さを確かめる。

 銃口を人へ向けぬように持ち、手元の装飾へ目を落とした。

「なるほど。馬上で扱うことを考えた長さか」

 アレクは黙って待った。

 王はしばらく眺めてから、銃を卓上へ戻した。

「見事な品だ。アレク、礼を言う」

「恐れ入ります」

「作った者たちにも伝えてくれ。よい仕事をしてくれたとな」

「必ず、お伝えいたします」

 アレクは頭を下げた。

 近くの諸侯から、小さな声が漏れていた。

 金獅子の細工を褒める者もいれば、火縄のいらない銃について隣へ尋ねる者もいる。

 係の者が進み、献上品を下げる支度を始めた。

 次の者が呼ばれるのを待ち、広間の視線が動きかける。

 アレクは顔を上げた。

「陛下、もう一つございます」

 レオンハルトの目が戻った。

「まだあるのか」

「はい」

 アレクが合図をすると、別の係が箱を運んできた。

 ◇ ◇ ◇

 卓上へ置かれた箱を見て、レオンハルトはアレクへ目を向けた。

 先ほどの銃を収めるには、小さすぎる箱だった。

 蓋には装飾が施され、留め具も丁寧に作られている。

 アレクは箱の前へ立った。

 ロルフが工房で開いて見せてくれた時のことを思い出す。

 自分も、しばらく言葉を失った。

 今度は、王へ見せる番だった。

 留め具を外し、蓋を開く。

 布の上に、小さな銃が収まっていた。

 金の獅子が、光を受ける。

 レオンハルトは、すぐには何も言わなかった。

 箱の中を見ている。

 近くにいたユリウスも、視線を落とした。

 諸侯の間から聞こえていた声が、途切れた。

「……これも、銃なのか」

 王が尋ねた。

「はい」

 アレクは答えた。

「片手で扱える小さな銃です。フリント拳銃と名づけました」

「拳銃」

 レオンハルトが繰り返した。

 離れたところにいた者たちも、その言葉を聞いて箱へ目を向けた。

 中身までは見えない者もいる。

 それでも、王が何を見ているのかは伝わった。

 先ほどの銃とは違う。

 小さな箱へ収まる、もう一つの銃だった。

「これで、弾を撃てるのだな」

「はい。確認を重ね、実際に使える物として仕上げました」

 アレクは答えた。

 レオンハルトは、そばの士官へ目を向けた。

 士官が一礼する。

「こちらも確認しております。弾は込められておりません」

 王は頷き、箱へ手を伸ばした。

 小さな銃を取り上げる。

 その瞬間、周囲の者たちにも、大きさがはっきりと分かった。

 長銃のように、両手で支える必要はない。

 王の片手に、一挺の銃があった。

 ◇ ◇ ◇

 レオンハルトは、銃を手にしたままアレクへ顔を向けた。

「これも、火打石を使うのか」

「はい。フリント銃と同じ方式です」

「長い銃と、同じように使えるのか」

「いいえ。遠くの敵を狙うための物ではございません」

 アレクは、はっきりと答えた。

「長い銃を携えにくい時にも、身近に置ける物として考えました」

 レオンハルトは、もう一度手元を見た。

 銃の大きさを確かめるように、わずかに持ち替える。

 アレクは説明を重ねすぎず、王の言葉を待った。

「なるほど」

 レオンハルトが言った。

「長い銃を持てぬ時にも、手元へ置けるというわけか」

「はい」

 レオンハルトは、銃を手にしたまま、開かれた箱へ視線を落とした。

「馬を下りた後でも、持っていけるな」

「そのためにも、携えやすさを確かめております」

「近くで身を守るための銃か」

「はい。そのような用途を考えております」

 レオンハルトは頷いた。

 ユリウスが、箱へ目を向けたまま口を開いた。

「長い銃を持つ兵を、常におそばへ置けるとは限りませんから」

「ああ」

 王が答える。

 その短いやり取りを、諸侯たちは聞いていた。

 珍しい細工物を眺める時とは、空気が違っていた。

 銃が小さくなった。

 ただ、それだけの話ではなかった。

 これまで銃を持たなかった者が、持てるようになる。

 長い銃を運びにくい場所へも、携えられる。

 王の手元へ向けられる視線が、増えていた。

 アレクは一礼した。

「扱いについては、後ほど改めてご説明させてください。実際にお試しいただく際も、場所を整えてからと考えております」

「そうしてくれ」

 レオンハルトが答えた。

 銃を箱へ戻し、布の上へ丁寧に置いた。

 それから、先ほど献上した騎兵銃へ目を向ける。

 二挺に施された金の獅子を、見比べていた。

 ◇ ◇ ◇

「馬上で使う銃と、身近に置く銃か」

 レオンハルトが言った。

「はい」

「よく考えたな」

 アレクは頭を下げた。

「形にしてくれたのは、職人たちです。何度も確かめ、手を入れてくれました」

「そうであろうな」

 王は頷いた。

「だが、作らせる物を考え、相談したのはお前だ」

 アレクは顔を上げた。

 レオンハルトは、こちらを見ていた。

「職人の功を認めるのはよい。だが、お前自身の働きまで控えめに申すことはない」

「……ありがとうございます」

 返事をすると、王は少し笑った。

「二挺とも、大切に使わせてもらう。職人たちにも、そう伝えてくれ」

「必ず、お伝えいたします」

 レオンハルトは、もう一度箱へ目を向けた。

 品を確かめていた時の厳しい表情が和らぎ、嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

「お前は、祝いの席でも俺を驚かせるのだな」

 アレクは、少し困ったように笑った。

「お喜びいただける物をと、考えました」

「ああ。十分に喜ばせてもらった」

 広間に、笑いが広がった。

 アレクの肩から、ようやく力が抜けた。

 深く礼をして、王の前を下がる。

 係の者が箱の蓋を閉じ、二挺を慎重に運んでいった。

 諸侯の視線は、その後を追っていた。

 ◇ ◇ ◇

 エリーゼの隣へ戻ると、彼女は少し身を寄せた。

「喜んでいただけましたね」

 小さな声だった。

 アレクは頷いた。

「はい」

 それだけ答えてから、ようやく息を吐いた。

 エリーゼが微笑む。

「ロルフ様たちにも、早くお伝えしたいですね」

「帰ったら、すぐに」

 アレクは答えた。

 王の言葉を、できるだけそのまま伝えたかった。

 銃を見た時の顔も。

 手に取って、馬上で使う姿を思い浮かべていたことも。

 拳銃を箱へ戻す時、丁寧に置いてくれたことも。

 近くへ戻ってきたマティアスが、アレクを見た。

「二つ目は、あれだったか」

「はい」

「陛下が、すぐに試すと言い出さずによかったな」

「後ほど、場所を整えていただく予定です」

「そうか」

 マティアスは、献上品が運ばれた方へ目を向けた。

 それから、広間の諸侯たちを見た。

「今日は、この後も声をかけられそうだな」

 アレクが顔を向けると、主君はもう別の者へ挨拶を返していた。

 少し離れたところでは、フーゴがこちらを見ていた。

 目が合うと、片方の眉を上げる。

 後で聞かせてもらうぞ。

 声に出さなくても、そう言われた気がした。

 アレクは小さく笑った。

 その周りでも、何人かの諸侯がこちらへ目を向けていた。

 アレクが入場した時、彼らが尋ねてきたのは、それぞれの鉄砲隊のことだった。

 今は、それとは違う問いを持つ者もいるようだった。

 アレクは、隣のエリーゼへ顔を戻した。

 彼女は、穏やかにこちらを見ていた。

 まずは、贈り物を喜んでもらえた。

 今は、それが何より嬉しかった。

 だが、広間のあちこちでは、まだ新しい銃の話が続いていた。

 金獅子を施した二挺は、王への祝いの品として運ばれていった。

 その姿は、すでに諸侯たちの目に焼きついていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

アレクの成長と、贈り物に込めた思いを楽しんでいただけたら嬉しいです。


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