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『知らない世界で、前世の知識が武器になる』 ~剣と銃で乱世を生き抜く転生領主の成り上がり~  作者: 相田 ソウ
第九篇 乱世に広がる道

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第四話 声から生まれた銃

今回もお読みいただき、ありがとうございます。

日々の仕事を重ねながら、アレクは王の誕生日を迎える支度を進めます。

 ロルフへ相談してから、幾週間かが過ぎた。

 その間にも、アレクの机には領地からの報告や、諸侯の鉄砲隊についての書状が届いていた。

 朝から帳簿を確かめ、午後には訓練場へ出る。城へ戻れば、返事を待つ書状が増えていることもあった。

 ロルフからの報告は、その合間に届いた。

 騎馬鉄砲隊の動きを見に来たこと。

 兵たちから、銃を扱いにくい場面を聞いたこと。

 試作した物を確かめ、手を入れていること。

 アレクは分からない点を尋ねながらも、日ごとに工房へ足を運ぶことはしなかった。

 任せた仕事を進めてもらうには、自分が待つことも必要だった。

 そして、その朝。

 ロルフが試作品を持ってきたという知らせを受け、アレクは訓練場へ向かった。

 ◇ ◇ ◇

 訓練場の端に、数人の騎馬鉄砲隊の兵が集まっていた。

 そばにはギルベルトが立っている。

 アレクが近づくと、ロルフが卓上の包みを開いた。

「こちらです」

 布の下から現れた銃を見て、アレクは足を止めた。

 今までの物より短い。

 隣に置かれた従来の銃と比べると、その違いがよく分かった。

 アレクは手に取り、持ち替えてみた。

「ずいぶん、扱いやすそうですね」

「まずは、使う者に確かめてもらいましょう」

 ロルフが答えた。

 アレクは頷き、兵たちへ顔を向けた。

 その中に、見覚えのある男がいた。

 厩の脇で、馬に乗るには銃が長いと話していた兵だった。

「最初に、お願いできますか」

 声をかけると、男は背筋を伸ばした。

「私が、でございますか」

「はい。あの時に話してくれたことを、ロルフさんにも相談しました」

 アレクは銃を差し出した。

 男は両手で受け取り、しばらく見つめていた。

 それから、いつもの銃を持つ時のように姿勢を整えた。

 銃の先へ目を向ける。

 もう一度、手元を確かめる。

「……短いですな」

 隣の兵が、小さく笑った。

「見れば分かるだろう」

「分かるが、持つと違う」

 男は真面目な顔で答えた。

 ロルフが一歩近づいた。

「いつもの動きを、見せてもらえますか。具合の悪いところがあれば、そのまま教えてください」

「承知いたしました」

 男は馬のそばへ移った。

 ギルベルトが周囲を空けさせる。

 兵は銃の状態を確かめてから、馬への乗り降りや、馬上での持ち替えを試した。

 アレクは、以前見せてもらった動きを思い出していた。

 あの時には、先に銃の向きを変えなければ動けない場面があった。

 今は、そのたびに大きく持ち直す必要がない。

 男も、それに気づいたようだった。

 一度動きを止め、もう一度同じことを試す。

 馬を下りてから、ロルフへ向き直った。

「ここが、楽になりました」

 言いながら、先ほどの動きを示す。

「前の銃では、先がどこへ向いているか、もっと気を遣っていました」

「ほかには」

「持った感じが違うので、そこは慣れが要ります。いつものつもりで動かすと、手が余るような気がします」

 ロルフは頷き、書付へ目を落とした。

 褒められたことより、その後の言葉を詳しく聞いていた。

 男は少し考え、ほかにも気づいた点を挙げた。

 アレクは口を挟まずに聞いていた。

 以前は、不満を聞かれたと思って頭を下げていた兵だった。

 今は、自分の言葉をロルフが書き留める様子を見ながら、どう伝えればよいかを考えている。

 ひと通り話した後、男はアレクを見た。

「伯爵様」

「はい」

「あの時の話を、本当に形にしてくださったのですか」

 アレクは、ロルフへ目を向けた。

「作ってくれたのは、ロルフさんたちです」

 男もそちらを向いた。

 銃を抱え直し、深く頭を下げる。

「ありがとうございます」

 ロルフは筆を止めた。

「まだ、確かめているところです。礼を言うのは、仕事が終わってからにしてください」

「ですが、我々の話を聞いて作ってくださったのですから」

 男が答えると、ロルフは少し黙った。

 それから、隣にいた別の兵へ顔を向けた。

「次の方にも、持っていただきましょう」

 アレクは、その声が少し照れくさそうに聞こえた。

 ◇ ◇ ◇

 その後も、兵たちは交代で試作品を確かめた。

 射撃の確認では、普段の銃と同じつもりで扱わず、違いを一つずつ確かめていく。

 アレクは、少し離れたところから様子を見守った。

 銃が短くなれば、すべてよくなるわけではない。

 騎馬隊にとって扱いやすいことと、兵器として必要な働きをすること。その両方を確かめなければならなかった。

 ギルベルトも兵の言葉を聞き、ロルフと何度か話し合っていた。

 やがて確認を終えると、兵たちは銃を返した。

 一人が、いつもの長い銃を受け取りながら笑った。

「いつもの銃を持つと、余計に長く感じますな」

「すぐに全員分が替わるわけではないぞ」

 ギルベルトが言った。

 男は姿勢を正す。

「承知しております」

「今日、気づいたことは、後からでも伝えるように。よかったことだけでなく、困ったこともだ」

「はっ」

 兵たちが持ち場へ戻っていく。

 その途中でも、試した銃について話す声が聞こえていた。

 アレクはロルフへ向き直った。

「いかがでしたか」

「工房で考えているだけでは、分からないことがありますな」

 ロルフは書付を見た。

「持ち方一つでも、人によって違います。もう少し確かめたいところがあります」

「お願いします」

 アレクが答えると、ロルフは頷いた。

「それと、もう一つの方ですが」

 ギルベルトが顔を上げた。

 アレクも、ロルフが足元へ置いていた別の包みへ目を向けた。

 ◇ ◇ ◇

 次の確認は、訓練場の一角を空けて行われた。

 その場に残ったのは、アレクとギルベルト、それに確認を手伝う少人数だった。

 ロルフが包みを卓上へ載せる。

 布が開かれた。

 ギルベルトは、中の物を見て眉を動かした。

 銃に似ていた。

 火打石を使う仕組みも見える。

 だが、先ほどまで確かめていた銃とは、大きさがまるで違っていた。

「これも、鉄砲なのですか」

「はい」

 アレクが答えた。

 ロルフから受け取り、手に持つ。

 前世の記憶にある物と、まったく同じ姿ではなかった。

 それでも、片手で持てる小さな銃が、確かにそこにあった。

 長い銃を短くしただけではない。

 持ち歩き、必要な時に手へ取るための、別の形だった。

「随分と、小さいですな」

 ギルベルトが言った。

「長い銃を持っていない時にも、身近に置ける物をと思ったのです」

 アレクは答えた。

「ただし、長銃の代わりにはなりません。同じように遠くの敵を狙わせるつもりでもありません」

 ギルベルトは頷いた。

 その目は、まだ小さな銃へ向いている。

 ロルフは、工房での試験結果と、扱う際の注意点を説明した。

 アレクは一つずつ聞き返した。

 小さくできたからといって、それだけで完成とは言えなかった。

 持ち歩く間の具合や、手に取った時の扱いやすさも含めて、確認を重ねてきたという。

 準備が整い、周囲の安全が確かめられた。

 アレクは定められた場所へ進んだ。

 銃を持つ手へ、自然に力が入る。

 ロルフがこちらを見ていた。

 ギルベルトも黙っている。

 アレクは前を見た。

 短い銃声が響いた。

 白い煙が流れる。

 ギルベルトの視線が、標的へ向かった。

 確かめに行った者から報告が戻ると、ロルフが小さく息を吐いた。

 アレクは手元の銃を見た。

 小さい。

 それでも、飾りでも玩具でもなかった。

 ギルベルトが近づいてきた。

「長い銃を持てない場所でも、これなら携えられますな」

「はい。そのための物です」

「扱う者には、それまでとは違う注意も必要でしょう」

 アレクは頷いた。

 ギルベルトは、銃の小ささを面白がっているのではなかった。

 誰が持ち、どう扱わせるかを、すでに考えていた。

「まずは、限られた者が扱うことになると思います」

「その方がよいかと」

 ギルベルトが答える。

 ロルフは銃を受け取り、手元を確かめた。

 アレクは、その横顔を見た。

「ありがとうございます。お願いしていた形になりました」

「まだ、確かめることはあります」

「はい」

「ですが、ここまでは来ました」

 ロルフはそう言って、ようやく笑った。

 ◇ ◇ ◇

 それからも、試作品には手直しが加えられた。

 アレクは報告を受け、必要な確認に立ち会った。

 騎馬鉄砲隊の兵たちにも、再び意見を聞いた。

 献上用の装飾に取りかかったという知らせが届いたのは、その後だった。

 式典への出発が近づいた頃、アレクは工房を訪れた。

 ロルフは、奥の部屋へ案内した。

 卓上には、布で覆われた長い包みと、蓋を閉じた箱が置かれている。

 アレクが前へ立つと、ロルフは布を外した。

 金の獅子が現れた。

 銃床へ施された装飾は、窓から入る光を受けて輝いていた。

 ただ金を多く使ったのではない。

 獅子の姿が引き立つよう周囲の模様が整えられ、銃全体の落ち着いた色合いの中で、そこへ自然に目が向く。

 アレクは、しばらく言葉を失った。

「……見事ですね」

「飾りを手がけた者にも、そう伝えます」

 ロルフが言った。

 アレクは許しを得て、銃を手に取った。

 試作の時に何度も確かめた、騎馬隊向けの長さだった。

 それが今は、王へ贈るための一挺となっている。

 アレクはゆっくりと持ち替え、金の獅子を見た。

 レオンハルトが馬上で手にする姿を思い浮かべる。

 よく似合うと思った。

「こちらも」

 ロルフが箱へ手をかけた。

 箱そのものにも装飾が施されていた。

 蓋が開くと、内側に敷かれた布の上に、小さな銃が収まっている。

 アレクは長い銃を戻してから、箱の前へ移った。

 こちらにも、金獅子があった。

 二挺が同じ主のために作られたことが、一目で分かる。

「試した物と、同じように確かめてあります」

 ロルフが言った。

「装飾をつけた後も、具合が変わっていないか見直しました」

「ありがとうございます」

 アレクは深く頭を下げた。

「私一人の仕事ではありません」

「はい。皆さんにも、必ずお礼を伝えたいです」

 ロルフは頷いた。

 アレクは、もう一度箱の中を見た。

 騎兵用の銃を献上した後、この箱を開く。

 レオンハルトは、どのような顔をするだろう。

 そう考えると、緊張とともに、少し楽しみでもあった。

 ◇ ◇ ◇

 献上品についての確認が終わり、アレクは帰る支度を始めた。

 従者が包みを運ぶために部屋を出る。

 ロルフは箱を閉じ、留め具を確かめた。

 それから、壁際に立てかけてあった別の包みへ手を伸ばした。

「それと」

 アレクが振り返る。

「こちらも、持っていってください」

 ロルフが差し出したのは、布に包まれたもう一挺の銃だった。

 包みは、王へ贈る騎兵用の銃と同じくらいの長さがある。

「こちらは?」

 尋ねながら受け取り、アレクは布をほどいた。

 白い花が見えた。

 林檎の花だった。

 その周りには、五つの蕾が配されている。

 アレクは手を止めた。

 自分の旗に使った紋章が、銃へ施されていた。

 花の形を確かめ、それからロルフへ顔を上げる。

「私の……」

 ロルフは、少し照れくさそうに口元を動かした。

「子爵になった時は火縄銃。伯爵になってから何も贈っていなかったからな」

 アレクは、すぐには答えられなかった。

 今日は、王への贈り物を受け取りに来た。

 自分まで何かを贈られるとは、考えていなかった。

「ですが、陛下の銃だけでも、お忙しかったでしょう」

「一緒に進めた方が、確かめやすいこともあります」

 ロルフは、いつもの口調へ戻って答えた。

「それに、騎馬隊を率いる人が使えば、気づくこともあるでしょう」

 アレクは銃へ目を落とした。

 林檎の花の周りを、控えめな装飾が囲んでいる。

 王へ贈る銃とは違う。

 だが、こちらも、自分のために考えて作ってくれた品だった。

 子爵になった時にも、同じように驚いた。

 あの時から、領地も兵も増えた。

 任される仕事も変わった。

 それでも、ロルフの前で祝いの品を受け取ると、何と言えばよいか分からなくなるところは変わっていなかった。

「ありがとうございます」

 アレクは言った。

 それだけでは足りない気がして、顔を上げた。

「大切に使います」

 ロルフは頷いた。

「ええ。使ってください。そのために作りました」

 アレクは、もう一度頭を下げた。

 銃を包み直す手は、自然に慎重になっていた。

 ◇ ◇ ◇

 城へ戻ったアレクは、自室へ二挺の銃を運ばせた。

 一挺は、今まで使ってきた火縄銃だった。

 もう一挺は、今日ロルフから受け取った物。

 机の上へ並べると、長さの違いがはっきりした。

 だが、アレクは、まず古い方へ手を伸ばした。

 子爵になった祝いに贈られた銃だった。

 大切に扱ってきたが、使い続けるうちに小さな傷が増えている。

 指を添えると、見覚えのある傷に触れた。

 初めて受け取った時には、傷一つなかった。

 装飾を傷めたくなくて、手に取るだけでも気を遣ったことを覚えている。

 それでも、ロルフは使うために贈ってくれた。

 だから、持っていった。

 馬に乗る時も、兵の前へ立つ時も。

 アレクは、ゆっくりと銃を持ち上げた。

 部屋の壁際には、飾るための場所を用意してもらっていた。

 そこへ銃を据える。

 少し離れて、傾いていないか確かめた。

 机へ戻り、新しい銃を手に取る。

 林檎の花と五つの蕾には、まだ傷がない。

 アレクはそれを見てから、壁へ飾った火縄銃へ顔を向けた。

 子爵になった頃には、伯爵として城を持つ日が来るとは思っていなかった。

 エリーゼと、この城で暮らすことも。

 あの銃を受け取った自分に話したら、信じるだろうか。

 そう考えて、少し笑った。

 扉が叩かれた。

「アレク。入ってもよろしいですか」

「はい」

 エリーゼが部屋へ入ってきた。

 アレクの手元を見て、それから壁へ目を向ける。

「そちらに、飾られたのですね」

「はい。子爵になった時に、ロルフさんから頂いた物です」

 エリーゼは近づき、飾られた銃を見た。

「大切に使っておられましたね」

「これからは、ここに置いておこうと思います」

 アレクは答え、手元の銃を彼女へ見せた。

「今日、こちらを頂きました」

 エリーゼの目が、装飾へ向いた。

「林檎の花」

「はい。伯爵になった祝いだそうです」

 彼女は、花の周りにある蕾も見つめた。

 それから、嬉しそうにアレクを見た。

「よく似合っています」

「ありがとうございます」

「ロルフ様も、アレクに使っていただきたいのでしょうね」

「そう仰っていました」

 アレクは、新しい銃を机へ戻した。

 エリーゼと並び、壁に飾った一挺を見上げる。

 今までの働きを終えたからといって、手放したい物ではなかった。

 この部屋にあれば、これからも目に入る。

 子爵になった時、その昇進を喜び、銃を贈ってくれた人がいたことを思い出せる。

「随分と、遠くまで来た気がします」

 アレクが言うと、エリーゼは少し考えた。

「でも、贈ってくださる方は、同じなのですね」

 アレクは彼女を見た。

 それから、もう一度二挺へ目を向けた。

「……はい」

 答えると、胸の中が温かくなった。

 ◇ ◇ ◇

 王都へ発つ朝、城の玄関前には馬車が待っていた。

 レオンハルトへ贈る二挺は、それぞれ丁寧に包まれている。

 オスカーが積み込みを確かめ、従者へ声をかけていた。

 アレクはエリーゼとともに外へ出た。

 林檎の花を配した新しい銃は、献上品とは別に用意してある。

 一行は城を出発し、途中の合流地点でマティアスの一行と落ち合った。

 そこで贈り物の包みが二つあると聞き、マティアスがアレクへ顔を向けた。

「一挺ではなかったのか」

「はい。もう一つ、陛下にお見せしたい物ができました」

「また、何か考えたな」

 アレクが答える前に、マティアスは続けた。

「王宮の担当者には、知らせてあるのだろうな」

「はい。持参する品について、事前にお伝えしております。到着後の確認も受ける予定です」

「ならばよい」

 マティアスは、包みの置かれた馬車へ目を向けた。

 アレクは、ロルフから預かった言葉を思い出した。

 使うために作った。

 自分へ贈られた銃も、王へ贈る銃も、それは同じだった。

 確認を終えると、一行は再び王都へ向けて出発した。

 アレクは隣に座るエリーゼへ顔を向けた。

「陛下に喜んでいただけるでしょうか」

「きっと」

 エリーゼは微笑んだ。

「陛下がお使いになる姿を思い浮かべて、ロルフ様にお願いしたのでしょう。そのお気持ちも、お伝えになってください」

 アレクは頷いた。

 アレクは、出発の時に見上げた林檎の花の旗を思い出した。

 自室の壁には、最初に贈られた銃を残してきた。

 そして今、同じ職人が作った二挺を、王へ届けに行く。

お読みいただき、ありがとうございます。

立場が変わっても続く、アレクとロルフの関係を感じていただけたら嬉しいです。


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