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『知らない世界の知っている物語』 ~剣と知識を授かった平凡な会社員は、異世界の乱世を生き抜く~  作者: 相田 ソウ
第二篇 乱世に蒔く種

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第三話 動かない敵

国境に集結したベルン伯軍、四千。


しかし彼らは攻めてこない。

陣を築き、兵糧を集め、ただそこに居座り続ける。


戦わずして相手を動けなくする。

そして、その裏では新たな交渉が進められていた。


動かない敵を前に、アレクたちはフリードリヒの狙いを探り始める。

 パカラッ。

 パカラッ。

 パカラッ。

 夜の街道を馬が駆ける。

「急げ!」

「ヴァイスブルクまで止まるな!」

「はっ!」

 俺たちは西へ向かっていた。

 つい数時間前まで、グランヴァルト軍一万五千を国外へ送り出したことに安心していた。

 それが今は。

 ベルン伯軍。

 四千。

 さらに増加中。

「……休ませてくれないな」

「誰がだ」

 隣を走るアルベルト。

「世界が」

「乱世だからな」

「便利な言葉ですね、それ」

「事実だ」

 前。

 ゲオルク。

 騎兵。

 後ろにはアルヴェイン兵。

 グランヴァルト軍を監視するため同行していた兵たちのうち、すぐ動かせる千二百ほど。

 残りは各地へ戻した。

 今は、その千二百をそのまま西へ向けている。

「殿下」

「何だ」

「ベルンは本当に来ると思います?」

「分からん」

「またそれ?」

「分からないことを分かったふりするよりましだ」

「それはそうですけど」

 俺は馬上で考える。

 フリードリヒ・ベルン。

 ヴァイスブルクで一度戦った。

 慎重。

 引き際を知っている。

 負けても軍を壊さず撤退した。

 そんな男が。

 いきなり四千を集めて。

 また同じ場所を攻める?

「……変だな」

「何が」

「ベルンです」

「ああ」

「前回負けたばかりですよね」

「そうだ」

「兵も減ってる」

「ああ」

「西にはシュヴァルツ」

「そこへレオンハルトが向かった」

「ああ」

「なのに」

 俺は首を傾げる。

「何で今、こっちに四千も置くんだ?」

 アルベルトが少し笑う。

「それを考えるために、お前を連れている」

「小姓ですよ、俺」

「知っている」

「最近それ忘れてません?」

「覚えているから使っている」

「絶対便利な部下だと思ってる」

「半分な」

「また半分……」

 でも。

 考える。

 四千。

 国境。

 まだ越えていない。

 もし本当にヴァイスブルクを取りたいなら。

 今すぐ攻めてもいい。

 俺たちは東にいた。

 ヴァイスブルクの守備兵だけなら。

 前より少ない。

「……待ってる?」

「何をだ」

「何か」

 答えは。

 まだ出なかった。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝。

 ヴァイスブルク。

「殿下!」

 城門。

 ギィィィィ……。

 俺たちが入る。

「お帰りなさいませ!」

 オットー男爵。

 久しぶり。

 いや。

 それほど経っていない。

 でも。

 妙に懐かしい。

「状況は」

 アルベルトが馬から降りながら聞く。

「昨夜から大きな変化はありません」

「敵兵数」

「確認できた範囲で四千二百前後」

「増えたな」

「はい」

「位置」

「国境から西へ一里ほど」

「越境は」

「ありません」

「斥候は?」

「常時出しております」

「よし」

 俺も馬から降りる。

「アレク!」

「ん?」

 声。

 トーマス。

「お前!」

「久しぶり」

「久しぶりじゃないだろ!」

「そうだっけ?」

「あれからそんなに経ってないだろ!」

「色々ありすぎて」

 トーマスが俺の肩を見る。

「また戦か?」

「まだ分からない」

「四千いるんだぞ」

「だからって攻めてくるとは限らない」

「そうなのか?」

「……たぶん」

「頼りないな」

「俺に聞くなよ」

「大公殿下の小姓だろ」

「小姓は未来予知しないんだよ」

 でも。

 四千。

 城壁の向こうにいる。

 ヴァイスブルクの空気は、もう戦時だった。

 カン。

 カン。

 カン。

 修復したばかりの西門。

 さらに補強。

 矢。

 石。

 水。

 食料。

 兵士。

 全部。

 準備が始まっている。

「……またここか」

 俺は西門を見る。

 前の戦。

 壊された門。

 死者。

 血。

 全部。

 思い出す。

「嫌?」

 後ろ。

 エリーゼ。

「……何でいるの」

「一緒に来たでしょう」

「いや、そうなんだけど」

 完全に忘れてた。

「酷い」

「ごめん」

「本当に?」

「半分」

「叔父様の真似しないで!」

 俺は少し笑った。

 でも。

 エリーゼは西門を見る。

「ここが」

「ああ」

「父が死んだ場所じゃない」

「……」

 違う。

 彼女の父はリーデン平原。

 でも。

 戦場。

 エリーゼにとって。

 父を奪ったもの。

「怖い?」

 俺が聞く。

「……少し」

「城の中にいた方がいいよ」

「分かってる」

「今回は見に行くとか言うなよ」

「言いません」

「本当?」

「本当です!」

「ならいいけど」

 エリーゼが少し不満そうに俺を見る。

「何?」

「あなた」

「うん」

「私を子供だと思ってない?」

「思ってない」

「本当に?」

「俺と同じくらいだろ」

「……そうだけど」

「じゃあ」

 俺は西門を見る。

「怖いなら怖いって言っていいと思う」

「……」

「俺も怖いし」

「あなたも?」

「当たり前」

 少し。

 エリーゼの顔が緩む。

「そう」

「何で嬉しそうなんだよ」

「別に」

「今笑った」

「笑ってません」

「いや」

「笑ってません!」

 こういうところは。

 まだ。

 少し幼い。

 でも。

 すぐに表情を戻す。

「叔父様のところへ行くのでしょう?」

「ああ」

「なら早く行った方がいいわ」

「何で?」

「さっきから三回くらいこっち見てる」

「……」

 見る。

 城館。

 窓。

 アルベルト。

 こっち。

「……本当だ」

「怒ってる?」

「たぶん」

「行ってらっしゃい」

「他人事だな」

「他人ですもの」

「薄情」

「早く!」

「はいはい」

 走る。

「返事は一度!」

「何でエリーゼまでそれ言うんだよ!」


 ◇ ◇ ◇


 軍議。

 地図。

 アルベルト。

 オットー。

 ゲオルク。

 周辺の騎士。

 俺。

「現在」

 オットーが駒を置く。

 コトッ。

「ベルン軍本隊はここ」

 国境。

 西。

「四千二百」

「陣地は」

「構築中です」

「……陣地?」

 俺が聞く。

「ああ」

 オットー。

「堀、柵、木製防壁」

「攻める側なのに?」

「そこだ」

 アルベルト。

 地図を見る。

「奴らは動く気がない」

「……」

「少なくとも今すぐはな」

 ゲオルクが別の報告書を広げる。

「敵軍は三日前から同じ場所に留まっております」

「斥候活動は活発」

「しかし」

「攻城兵器の準備は見られません」

「兵糧は?」

「かなり持ち込んでいるようです」

「どれくらい」

「最低でも十日分」

「十日……」

 俺は地図を見る。

 四千。

 十日分。

 陣地。

 攻城兵器なし。

 越境しない。

「攻める軍じゃない?」

「どう見る」

 アルベルトが俺を見る。

「また俺?」

「ああ」

「……」

 考える。

 四千人。

 そこにいるだけ。

 でも。

 俺たちは。

 こうして千二百を急いで戻した。

 ヴァイスブルクも守備を増やす。

 周辺兵も集める。

「……あ」

「何だ」

「俺たちを」

 地図。

 指。

「ここに縛り付けてる?」

 部屋。

 少し静かになる。

「続けろ」

「ベルン軍が四千いる」

「だから」

「俺たちはヴァイスブルクから兵を動かしにくい」

「はい」

「もし」

 ゲオルク。

「我々が西から兵を引けば」

「ベルンが国境を越える可能性がある」

「そう」

「つまり」

 俺は言う。

「戦わなくても」

「四千を置くだけで」

「こっちの兵を使えなくする」

 アルベルトが頷く。

「そうだ」

「……」

 戦わない。

 でも。

 敵を動けなくする。

 日本史。

 これも。

 何度もあった。

 睨み。

 牽制。

 抑え。

 敵がいるから。

 兵を置く。

 結果。

 別の戦場へ行けない。

「でも」

 俺は気づく。

「何のため?」

「それが問題だ」

 アルベルト。

「ベルンが我々をここへ縛りつけて得する場所」

「……」

 地図。

 西。

 シュヴァルツ。

 さらに。

 レオンハルト。

「レオンハルト?」

「可能性はある」

 ゲオルク。

「我々が黒獅子公へ加勢すると疑っているのかもしれません」

「でも共闘じゃない」

「ベルンがそう知っている保証は?」

「……ない」

「グランヴァルト軍一万五千を通した」

 オットー。

「外から見れば」

「アルヴェインとグランヴァルトが何らかの密約を結んだと考える者もいるでしょう」

「……」

 なるほど。

 事実。

 俺たちは監視しただけ。

 でも。

 他人には。

 見えない。

「情報って」

 俺は呟く。

「怖いな」

「今頃か」

 アルベルト。

「いや」

「本当のことを知ってるだけじゃ駄目なんだなって」

「?」

「相手が」

「何を本当だと思ってるか」

「それも考えないと」

 アルベルトの口元が少し上がる。

「覚えておけ」

「はい」

「外交で重要なのは」

「自分が何をしたかだけではない」

「相手からどう見えたかだ」

「……」

 俺は地図を見る。

 グランヴァルト軍を通した。

 それだけ。

 でも。

 ベルンから見れば。

 アルヴェインとグランヴァルトが接近したように見える。

「じゃあ」

「ベルンは怖がってる?」

「それだけなら楽だがな」

「他にも?」

「フリードリヒは」

 アルベルト。

 ベルンの駒を見る。

「怖がっただけで四千も動かす男ではない」

「……」

「何か狙いがある」

 問題は。

 それが何か。


 ◇ ◇ ◇


 同じ頃。

 国境西側。

 ベルン軍陣地。

 カン!

 カン!

 杭が打ち込まれる。

 ザッ。

 ザッ。

 兵士が土を掘る。

 堀。

 柵。

 櫓。

 完全に。

 攻撃ではなく。

 防御陣地。

 その中央。

 フリードリヒ・ベルン。

 地図を見ていた。

「アルベルトは」

「ヴァイスブルクへ入りました」

「兵は」

「確認できたのは千余」

「周辺から集まるでしょう」

「ああ」

 コンラート。

 隣。

「予定通りですね」

「半分はな」

「半分?」

 フリードリヒ。

 西を見る。

「レオンハルトが早すぎる」

「……」

「本来」

「シュヴァルツと話をつけるまで」

「もう二日はあると思っていた」

「黒獅子公は」

「強行軍を?」

「おそらく」

「……」

 コンラート。

「シュヴァルツ伯は」

「まだ返答を?」

「ない」

「我々との停戦を迷っている」

「そこへ黒獅子が来る」

「なら」

「答えは決まる」

 フリードリヒが苦い顔をする。

「我々ではなく」

「グランヴァルトを敵とするかもしれません」

「おしい」

「え?」

「グランヴァルトが来たからこそ」

 指。

 シュヴァルツ。

「奴は私と手を結ぶ」

「……」

「一万五千に一人で向かえるほど」

「シュヴァルツは馬鹿ではない」

「なるほど」

「だから」

 フリードリヒ。

 東。

 アルヴェインを見る。

「アルベルトを動かさない」

「もしアルヴェイン軍まで西へ出れば」

「シュヴァルツは我々を信用しない」

「……」

「四千は」

 コンラート。

「アルヴェインを攻めるためではない」

「今はな」

「では」

「見せるためだ」

「見せる?」

「四千いる」

「いつでも越えられる」

「そう思わせる」

 フリードリヒが笑う。

「アルベルトは慎重だ」

「ヴァイスブルクを空にはできん」

「……」

「戦わず」

「相手の兵を縛る」

「はい」

「それだけでも」

「兵は役に立つ」

 コンラートが少し笑う。

「では我々は」

「待つ」

「いつまで」

「シュヴァルツから返事が来るまでだ」

「……」

「ただし」

 フリードリヒ。

 東を見る。

「アルベルトが」

「本当に大人しく待つならな」

「……」

「あの男」

「何かしてくる」

「それほど?」

「ヴァイスブルクで」

 フリードリヒの目が少し細くなる。

「一度見ただろう」

 そして。

「それに」

「……」

「十五の小僧もいる」

「アレク・ハルトマン」

「ああ」

「面倒な二人だ」

 フリードリヒが地図を見る。

「だからこそ」

「こちらも一手」

「先に打つ」

「何を?」

 フリードリヒが書状を手に取った。

「使者を出す」

「アルベルトへ?」

「ああ」

「内容は」

 少し。

 笑う。

「和平だ」

「……」


 ◇ ◇ ◇


「和平?」

 俺の声が思ったより大きく出た。

 翌日。

 ヴァイスブルク。

 大広間。

 ベルン伯の使者。

 騎士二人。

 中央。

 年配の男。

「はい」

 使者。

「フリードリヒ・ベルン伯爵閣下は」

「両領のこれ以上の流血を望まれておりません」

「……」

 アルベルト。

 無表情。

「四千の兵を国境へ置いて?」

「それは」

「我が国がグランヴァルト軍を通したため?」

「……」

 使者。

 一瞬。

 止まる。

「防衛上必要な措置でございます」

「なるほど」

 アルベルト。

 俺。

 後ろ。

 黙る。

 和平。

 突然。

 でも。

 あり得ない話じゃない。

 前回。

 ベルンは負けた。

 西にはシュヴァルツ。

 そこへレオンハルト。

 今。

 アルヴェインと戦いたくない。

「条件は」

 アルベルト。

「相互不可侵」

「期間一年」

「双方」

「現在の国境を認める」

「捕虜の交換」

「交易再開」

「……」

 条件だけなら。

 悪くない。

「殿下」

 オットー。

 小声。

「受ける価値は」

「ある」

 アルベルト。

 即答。

 俺。

 少し驚く。

「受けるんですか?」

 思わず聞いた。

 使者。

 俺を見る。

 アルベルトも。

「ああ」

「……」

「何だ」

「いや」

「ベルンですよ?」

「知っている」

「この前攻めてきた」

「知っている」

「また四千いる」

「知っている」

「じゃあ」

「だから受ける価値がある」

「……?」

 アルベルト。

 使者を見る。

「ただし」

「?」

「今日」

「今すぐは決めん」

「……」

「三日」

「三日後に返答する」

「承知しました」

 使者。

 頭を下げる。

「では」

 退出。

 扉。

 閉まる。

 俺。

 アルベルトを見る。

「殿下」

「何だ」

「本気で和平?」

「条件が本当ならな」

「……」

「戦わずに済む」

「兵を休ませられる」

「西部の守備を減らせる」

「金も浮く」

「悪い話か?」

「悪くない」

「なら」

「でも」

 俺は地図を見る。

「何で今?」

「……」

 アルベルトが笑う。

「やっとそこか」

「え?」

「和平が得か損かではない」

「なぜ」

「今この瞬間に」

「フリードリヒが和平を必要としているのか」

「……」

 そう。

 そこ。

「西」

 俺。

「シュヴァルツ?」

「おそらく」

 ゲオルク。

「ベルンは西側を整理したい」

「そのために」

「こちらと一時的に和平?」

「あるいは」

 オットー。

「シュヴァルツとの交渉材料」

「……?」

「アルヴェインと和平した」

「だから西へ全力を向けられる」

「そうシュヴァルツへ見せる」

「……」

 複雑だ。

 和平。

 俺たちとの話なのに。

 シュヴァルツとの交渉にも使う。

「殿下」

「何だ」

「政治、嫌いになりそうです」

「早いな」

「敵と味方だけなら楽なのに」

「だから」

 アルベルト。

「戦場の方が分かりやすい」

「……本当にそうですね」

「だが」

「はい」

「分かりにくいからこそ」

「考えろ」

「……はい」

 俺は地図を見る。

 ベルン。

 四千。

 和平。

 シュヴァルツ。

 レオンハルト。

 何か。

 足りない。

「殿下」

「何だ」

「三日待つんですよね」

「ああ」

「じゃあ」

「その三日で」

 俺は言う。

「ベルンが何をしてるか」

「もっと調べません?」

 アルベルト。

 少し。

 笑った。

「そのための三日だ」

「……」

「もう斥候は?」

「出した」

「早いな」

「お前よりな」

「悔しい」


 ◇ ◇ ◇


 翌朝。

 俺は城壁の上にいた。

 西。

 ベルン領。

 敵軍。

 直接は見えない。

 でも。

 斥候が。

 何度も行き来する。

 パカラッ。

 パカラッ。

「報告!」

「敵陣変化なし!」

 次。

「報告!」

「兵力約四千二百!」

 次。

「報告!」

「新たな荷駄隊到着!」

「数!」

「荷車六十以上!」

「……」

 俺。

 首を傾げる。

 和平したい。

 なのに。

 食料を増やす?

「殿下」

「ああ」

 アルベルトも隣。

「変ですよね」

「ああ」

「和平するなら」

「普通」

「兵を下げる?」

「少なくとも増やす必要はない」

「……」

 何だ。

「怖がらせたい?」

「それもある」

「和平を飲ませるため?」

「可能性はある」

 軍を置く。

 その状態で。

 和平を提案。

 つまり。

 断れば攻めるぞ。

 そう見せる。

「脅し?」

「外交とは」

「笑顔で脅すこともある」

「嫌な世界だな……」

「今さらだ」

 その時。

 馬。

 パカラッ!

 斥候。

「殿下!」

「報告!」

「言え!」

「ベルン陣地から」

 息。

「昨夜」

「騎兵およそ三百が出発!」

「方向」

「西です!」

「西?」

 俺。

 地図。

 思い浮かぶ。

 西。

 シュヴァルツ。

「使者?」

「騎兵三百だぞ」

 アルベルト。

「多い」

「護衛?」

「あるいは」

 ゲオルク。

 後ろから来る。

「見せるための兵」

「何を?」

「ベルンが」

「西へ兵を出したという事実を」

「……」

 また。

 見せる。

 軍。

 動き。

 全部。

 情報。

「殿下」

「何だ」

「和平」

「受けます?」

「まだだ」

「じゃあ」

「何を待つ?」

 俺。

 考える。

 シュヴァルツ。

 返事。

「……西の情報」

「そうだ」

 アルベルト。

「フリードリヒが」

「我々と和平してまで」

「何をしたいのか」

「それを見る」

「……」

 俺は。

 ベルンの方を見る。

 動かない四千。

 でも。

 その裏では。

 確実に。

 何かが動いている。


 ◇ ◇ ◇


 その日の夕方。

 急報。

「シュヴァルツ伯軍!」

「進路変更!」

 軍議室。

 地図。

 駒。

 動く。

「どちらへ」

 アルベルト。

「東です!」

「東?」

 ゲオルク。

「兵数!」

「約七千!」

「……」

 俺。

 地図を見る。

 シュヴァルツ。

 東。

 その先。

 ベルン。

「まさか」

「ベルンを?」

「違う」

 アルベルト。

 別の駒。

 グランヴァルト。

「レオンハルトだ」

「……」

「黒獅子の進路へ」

 シュヴァルツが。

 向かった。

「じゃあ」

「和平は?」

「おそらく」

 アルベルト。

 ベルンの駒を見る。

「成立した」

「ベルンとシュヴァルツ?」

「ああ」

「……」

 第一話。

 レオンハルトの言葉。

『シュヴァルツと話をつける』

 当たった。

 でも。

 その意味。

 俺。

 今。

 理解する。

 シュヴァルツは。

 ベルンとの戦を止める。

 七千を。

 黒獅子へ向ける。

 ベルンは。

 西の敵がいなくなる。

 そして。

 ベルンの東には。

「……俺たち」

 アルヴェイン。

 ヴァイスブルク。

「殿下」

「何だ」

「ベルンは」

「俺たちと和平する必要」

「なくなった?」

 アルベルト。

 俺を見る。

「そうだ」

 背筋。

 冷える。

「じゃあ」

「昨日の和平は」

「時間稼ぎ」

「……」

「我々を安心させ」

「兵を動かさせないため」

「そして」

 アルベルト。

 地図。

 指。

 ベルン軍。

「西が片付けば」

 四千。

「こいつらが」

 静かに言う。

「動ける」

 その瞬間。

 外。

 ドォン――!

 音。

 全員。

 止まる。

「……」

 俺。

 窓。

 見る。

 遠い。

 西。

 低い音。

 もう一度。

 ドォン――!

「砲声?」

 オットー。

「国境方向です!」

 兵士。

 駆け込む。

「殿下!」

「ベルン軍!」

 息。

 切れる。

「陣地を出ました!」

「数!」

「約四千!」

「進路!」

「東!」

「国境へ向けて前進中!」

「……」

 アルベルト。

 立つ。

 椅子。

 ガタッ。

 顔。

 変わる。

「和平は」

 俺。

「……」

「最初から」

「なかった?」

「いや」

 アルベルト。

 剣を取る。

「必要だった」

「昨日まではな」

「……」

 ベルン。

 シュヴァルツ。

 和平。

 その瞬間。

 俺たちとの和平は。

 必要なくなった。

「全軍!」

 アルベルト。

 声。

「配置につけ!」

 外。

 鐘。

 ゴォン――!

 ゴォン――!

「西門閉鎖!」

「弓兵は城壁へ!」

「槍隊!」

「街道を塞げ!」

 ザッ!

 ザッ!

 ザッ!

 ガチャガチャガチャ!

 兵士。

 走る。

 俺。

 窓から西を見る。

 まだ。

 敵は見えない。

 でも。

 音。

 聞こえる。

 遠く。

 低く。

 ドドドドドド……。

 四千。

 動く。

「アレク!」

「はい!」

「来い!」

 アルベルト。

「どこへ?」

「西壁だ!」

「……」

 また。

 戦。

 俺。

 走る。

 階段。

 上る。

 ガチャ。

 ガチャ。

 兵士の鎧。

 石段。

 足音。

 ザッザッザッザッ!

 城壁。

 西。

 そして。

「……来た」

 遠く。

 地平。

 黒い線。

 人。

 槍。

 旗。

 ベルン。

 四千。

 ゆっくり。

 こちらへ。

 その前。

 騎兵。

 斥候。

 さらに。

 砲。

「殿下」

「何だ」

「本当に来る」

「ああ」

「……」

 アルベルト。

 剣。

 抜く。

 シャッ――。

「今度は」

「城の前まで来させん」

「……」

 俺。

 敵を見る。

 ヴァイスブルク。

 前回。

 守った。

 そして。

 また。

 ここ。

 でも。

 今度は。

 違う。

 ベルンも。

 俺たちも。

 前回を知っている。

 同じ戦には。

 絶対にならない。

 ブオォォォォ――!

 ベルン軍。

 角笛。

 響く。

 それに応えるように。

 ヴァイスブルク。

 鐘。

 ゴォン――!

 ゴォン――!

 俺は。

 剣の柄へ手を置いた。

 動かなかった敵が。

 ついに。

 動き始めた。

四千の兵を国境に置き、アルヴェインを動けなくする。

さらに和平を持ちかけ、その裏でシュヴァルツとの交渉を進める。


フリードリヒが仕掛けたのは、剣を交える前から始まっている戦いだった。


そしてシュヴァルツとの和平が成立した瞬間、動かなかったベルン軍がついに東へ。


一度ヴァイスブルクで戦った両軍は、互いに前回の戦を知っている。


次の戦いは、同じものにはならない。

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