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『知らない世界の知っている物語』 ~剣と知識を授かった平凡な会社員は、異世界の乱世を生き抜く~  作者: 相田 ソウ
第二篇 乱世に蒔く種

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第二話 黒獅子の軍

グランヴァルト軍一万五千。

その通行を許したアルヴェイン側の役目は、共に戦うことではなく、最後の一兵まで監視することだった。


敵ではない。

だが、味方でもない。


アレクは黒獅子の軍を間近で見ながら、大軍を動かす力と、外交の危うさを知っていく。

 ザッ。

 ザッ。

 ザッ。

 ザッ。

 街道を埋め尽くす兵士たちの足音が、途切れることなく続いている。

 ガチャ、ガチャ……。

 ガチャガチャ……。

 鎧が擦れる音。

 槍の石突が地面を叩く音。

 荷車の車輪が軋む音。

 馬の蹄。

 人の声。

 それらすべてが混ざり合い、一つの巨大な音になっていた。

 ドドドドドド……。

「……終わらないな」

 俺は馬上から後ろを振り返った。

 兵。

 兵。

 兵。

 どこまで見ても兵だ。

 第一陣だけで五千。

 それでも先頭から最後尾まで、かなりの距離がある。

「これで三分の一か……」

「何を今さら驚いている」

 隣を走るアルベルトが言った。

「数字で聞くのと実際に見るのは違うんですよ」

「ヴァイスブルクでも数千を見ただろう」

「あれは一か所に集まってましたから」

 今は違う。

 五千人が街道を進んでいる。

 一列ではない。

 横に四人。

 場所によっては六人。

 それでも長い。

「一万五千全部並べたら、何キロになるんだ……?」

「考えるだけ無駄だ」

「そうですか?」

「ああ」

 アルベルトが前を見る。

「軍は人間だけでは動かん」

「……」

「馬、荷車、食料、矢、予備の武具、鍛冶職人、馬丁、従者」

「それらを含めれば、さらに長くなる」

「ですよね……」

 戦国時代の本では何度も読んだ。

 大軍を動かす難しさ。

 兵站。

 補給。

 行軍速度。

 街道。

 渡河。

 宿営地。

 ゲームなら兵を選択して目的地を指定すれば終わる。

 でも現実は違う。

 一万人の人間が一日食べるだけでも、とんでもない量になる。

 しかも今回は一万五千。

「……よくこんなの動かせるな」

「誰のことだ」

「レオンハルト殿下です」

 俺は前を見る。

 黒獅子旗。

 その下を進む黒い馬。

 レオンハルト。

 昨日まで敵かもしれないと思っていた男が、今はアルヴェインの街道を進んでいる。

「殿下」

「何だ」

「グランヴァルトって、いつもこんなに軍の動きが速いんですか?」

「いや」

「じゃあ」

「あいつだからだ」

「……」

 またそれか。

「そんなに違う?」

「見れば分かる」

「何を?」

「軍をだ」

 アルベルトが顎で前を示した。

「よく見ろ」

「……?」

 言われた通り見る。

 歩兵。

 槍兵。

 弩兵。

 騎兵。

 荷駄隊。

 別に普通に見える。

「分かりません」

「なら考えろ」

「そればっかりですね」

「お前は考えさせた方が伸びる」

「便利に使ってません?」

「半分な」

「また半分……」

 仕方ない。

 見る。

 何が違う。

 兵士たちは歩いている。

 隊列。

 速度。

 間隔。

「……あ」

「分かったか」

「列が乱れない」

「それだけか?」

 さらに見る。

 街道が少し狭くなる。

 普通ならそこで兵が詰まる。

 でも。

「前の部隊が狭い場所へ入る前に、後ろが速度を落としてる……」

「そうだ」

「誰かが命令してる?」

「当然だ」

 見る。

 騎馬兵が一定間隔で配置されている。

 伝令。

 前後を走っている。

 さらに旗。

 色。

 形。

「旗で指示してる?」

「それもある」

「……」

 なるほど。

 軍全体を一つとして動かしていない。

 五千をさらに小さく分けている。

 おそらく数百。

 さらにその下。

「部隊ごとに動かしてるんだ」

「正解だ」

 アルベルトが言った。

「レオンハルトは軍を細かく分ける」

「細かく?」

「五千なら五千として命令するのではない。千、五百、百。それぞれに指揮官を置く」

「それって普通じゃないんですか?」

「程度の問題だ」

「程度?」

「多くの貴族軍は寄せ集めだ」

 なるほど。

 領主。

 家臣。

 そのまた家臣。

 それぞれが兵を連れてくる。

 軍として集まっても、実際には別々の集団。

「命令系統がバラバラ?」

「ああ」

「でもグランヴァルト軍は違う」

「少なくとも、あいつが率いる軍はな」

 俺はもう一度見る。

 ザッ。

 ザッ。

 ザッ。

 同じ速度。

 同じ間隔。

 止まる時も。

「止まれ――!」

 旗が上がる。

 ザザザザッ!

 前から順に止まる。

 後ろから兵がぶつからない。

「……すごいな」

「そう思うか」

「はい」

「なら覚えておけ」

 アルベルトの声が低くなった。

「敵になれば、これが向かってくる」

「……」

 俺は黒獅子の旗を見る。

「殿下」

「何だ」

「今は味方なんですよね?」

「違う」

「……え?」

 即答だった。

「でも、領内を通してる」

「通行を許可しただけだ」

「……」

 アルベルトが俺を見る。

「勘違いするなよ、アレク」

「何を?」

「あれは今、敵ではない」

 前方。

 黒獅子の軍。

「だが、味方でもない」

「……」

「敵ではない。だから剣を向けない」

「味方ではない。だから背中を預けない」

「それが今のグランヴァルトと我々の関係だ」

「……なるほど」

「だから我々がここにいる」

 俺は周囲を見る。

 グランヴァルト軍の左右。

 一定の距離を置いて、アルヴェインの騎兵が並走している。

 前方にもいる。

 後方にもいる。

「護衛じゃない」

「ああ」

「監視?」

「そうだ」

 アルベルトが前を見る。

「一万五千の外国兵だぞ」

「……」

「約束一つで信用して野放しにするほど、私は馬鹿ではない」

 俺はもう一度、黒獅子の軍を見る。

 同じ光景。

 なのに。

 意味が違って見えた。


 ◇ ◇ ◇


「止まれ――!」

 昼。

 軍が止まった。

「休息!」

 ザザザッ。

 兵士たちが街道脇へ分かれていく。

「水を飲め!」

「馬を先に休ませろ!」

「村へ入るな!」

「食料は荷駄隊から受け取れ!」

 怒号が飛ぶ。

 俺も馬から降りた。

「……尻が痛い」

「情けないな」

「一日中乗ってれば痛くなりますよ」

「慣れろ」

「簡単に言うなぁ……」

 腰を伸ばす。

「いたた……」

「だらしないわね」

「……」

 振り返る。

 エリーゼ。

「何でいるの?」

「昨日説明したでしょう?」

「本当に来たんだ」

「何よ」

「いや」

 エリーゼはアルヴェイン側の護衛隊と一緒にいる。

「戦場には近づかない。後方の護衛隊から離れない。勝手な行動をしない」

「覚えてたの?」

「一応」

「なら安心ね」

「最後が一番不安」

「守れます!」

「本当に?」

「あなたね……!」

 その時だった。

「おい!」

 怒鳴り声。

 俺とエリーゼが同時に振り返る。

 街道脇。

 小さな村。

 井戸の前。

 グランヴァルト兵が三人。

 村人が数人。

「何だ?」

 俺たちは近づく。

「水くらいいいだろう!」

 兵士。

「駄目です!」

 村人。

「軍には井戸を使わせるなと言われている!」

「こっちは朝から歩いてるんだぞ!」

「知らん!」

「何だと!」

 グランヴァルト兵が村人の胸倉を掴む。

「まずい」

 俺が走る。

「やめろ!」

「何だ、お前」

「手を離せ」

「アルヴェインの小僧が口を出すな!」

 兵士の手が剣の柄へ。

 ガチャ。

 その瞬間。

「剣から手を離せ」

 低い声。

 アルベルト。

 後ろ。

 ゲオルク。

 アルヴェイン兵十数人。

 ガチャッ。

 槍が構えられる。

 空気が一気に張り詰めた。

 グランヴァルト兵も二人が身構える。

「……」

 たった三人。

 でも。

 ここで誰かが剣を抜けば。

 周囲には五千。

 さらに後続には一万。

「手を離せ」

 アルベルトがもう一度言った。

「ここはアルヴェインだ」

「……」

 兵士がゆっくり村人から手を離す。

 その時。

「何をしている」

 別の声。

 グランヴァルト側の騎士。

 馬から降りる。

「隊長」

「説明しろ」

「水を」

「村へ入るなと命じたはずだ」

「しかし」

「命じたはずだ」

「……はい」

 騎士がアルベルトへ頭を下げる。

「申し訳ございません」

「処分は」

「軍規に従います」

「こちらへ引き渡せ」

「……」

 騎士が顔を上げる。

「それは」

「約定を忘れたか?」

 アルベルト。

「領内で法を破った者は、アルヴェイン法で裁く」

「……」

 沈黙。

 長い。

「承知しました」

 騎士が答えた。

「連れていけ」

「はっ!」

 アルヴェイン兵が三人を連れていく。

 俺は見ていた。

 たった。

 井戸一つ。

 水。

 それだけ。

 でも。

 あと少しで。

 剣が抜かれていた。

「……怖」

「分かったか」

 アルベルト。

「何が?」

「一万五千を国に入れるということだ」

「……」

「戦は起きていない」

「ああ」

「だが、一人の馬鹿が剣を抜けば戦になる」

「……」

「だから監視する」

 なるほど。

 通すだけ。

 言葉なら簡単だ。

 でも。

 一万五千人。

 全員が約束を守るとは限らない。

「殿下」

「何だ」

「大変ですね」

「今頃分かったか」

「はい」

「遅い」

「すみません」

「だから」

 アルベルトが俺を見る。

「働け」

「……何を?」

「村を回る」

「俺も?」

「ああ」

「休憩は?」

「終わりだ」

「俺まだ飯食ってない!」

「歩きながら食え」

「ひどい!」


 ◇ ◇ ◇


 午後。

 俺たちはグランヴァルト軍より少し先を走っていた。

 パカラッ。

 パカラッ。

 騎兵二十。

 目的。

 街道沿いの村。

「グランヴァルト軍が間もなく通過する!」

「村人は街道へ出るな!」

「井戸は軍へ開放しない!」

「食料を売る場合は指定場所のみ!」

「兵士が勝手に村へ入った場合、すぐ知らせろ!」

 村長が何度も頷く。

「分かりました」

「それと」

 ゲオルク。

「家畜を街道から離せ」

「馬や牛が軍列へ飛び込めば危険だ」

「はい!」

 次。

 また村。

 同じ説明。

 次。

 また次。

「……」

 夕方。

「疲れた」

「戦ってもいないのに?」

 エリーゼ。

「戦ってないから疲れるんだよ」

「何それ」

「ずっと気を張ってる」

 後ろ。

 ザッ。

 ザッ。

 ザッ。

 黒獅子軍。

「いつ何が起こるか分からない」

「……」

「味方じゃない軍が、自分の国を歩いてるんだぞ」

「そうね」

「敵だった方が分かりやすいかも」

「それ、叔父様に言ったら怒られるわよ」

「言わない」

「賢明ね」

 エリーゼが笑う。

「でも」

「?」

「少し安心した」

「何が?」

「あなた」

「俺?」

「もっと戦が好きなのかと思ってた」

「何で」

「叔父様から聞いていたから」

「何を?」

「ヴァイスブルクで活躍した十五歳の少年」

「……」

「戦場で敵の動きを読んで、剣も強くて、怖がらない」

「怖かったよ」

「そうなの?」

「めちゃくちゃ」

「……」

 エリーゼが俺を見る。

「でも逃げなかった」

「逃げられなかっただけ」

「同じじゃない?」

「全然違う」

 俺は前を見る。

「戦なんて、ない方がいい」

「……」

「歴史として見るなら面白いけど」

「歴史?」

「いや」

「?」

「何でもない」

 危ない。

「変な人」

「今日何回目?」

「数えてない」

 エリーゼが少し笑う。

 そして。

「でも」

「何?」

「そういうところは」

 少しだけ声が小さくなる。

「嫌いじゃないわ」

「……」

「何?」

「いや」

「何よ」

「何でもない」

「変なの」

 今度は俺が前を向いた。

 何となく。

 顔を見づらかった。


 ◇ ◇ ◇


 二日後。

 西部国境。

 アルヴェインとヴァルデンを隔てる境。

 大きな川はない。

 城壁もない。

 街道脇。

 石柱。

 それだけ。

 でも。

 ここから先は別の国だ。

 第一陣五千。

 第二陣五千。

 第三陣五千。

 約束通り。

 先行部隊が指定地点を越えるたび、次の部隊が領内へ入った。

 略奪なし。

 大きな問題なし。

 そして。

 最後の部隊が到着した。

「ようやくか……」

 俺は馬上で息を吐いた。

「安心するのは早い」

 アルベルト。

「最後の一兵が出るまで監視だ」

「はいはい」

「返事は一度」

「はい」

 前。

 黒獅子の旗。

 レオンハルト。

 国境。

 その直前で馬を止める。

「アルベルト!」

「何だ」

「世話になった!」

「二度と来るな!」

「酷いな!」

「次は通さん!」

「必要ならまた来る!」

「断る!」

「その時考えよう!」

「今考えろ!」

「……」

 相変わらずだ。

 レオンハルトが笑う。

 そして。

 俺を見る。

「アレク!」

「はい?」

「来ないのか?」

「どこへ?」

「西だ」

「行きませんよ!」

「面白いものが見られるぞ」

「戦争でしょう!」

「ああ!」

「なおさら行かない!」

「そうか!」

 レオンハルトが笑う。

「お前なら来るかと思ったが」

「俺はアルヴェインの人間です」

「……」

 一瞬。

 レオンハルトの顔から笑いが消えた。

 俺を見る。

 そして。

 また笑う。

「そうか」

「はい」

「なら、それでいい」

「……?」

「自分がどこに立つ人間なのか」

 黒い馬の手綱を引く。

「それだけは忘れるな」

「……」

 俺は少し驚く。

 この人。

 こういうことも言うんだ。

「アレク」

「はい」

「次に会う時まで生きていろ」

「そっちこそ」

「私は死なん」

「何で言い切れるんだよ!」

「死ぬ予定がないからだ!」

「予定で決められるのかよ!」

 レオンハルトが大声で笑う。

「アルベルト!」

「何だ」

「借りは返す!」

「借りなど作った覚えはない」

「私が作った!」

「勝手に作るな!」

「ではな!」

 馬。

 向きを変える。

「全軍!」

 声。

 空気が変わる。

 さっきまで笑っていた男。

 もういない。

「前進!」

 ドン――!

 太鼓。

 ドン――!

 黒獅子旗が上がる。

 バサッ!

 ザッ!

 先頭。

 国境を越える。

 ザッ。

 ザッ。

 ザッ。

 ガチャ。

 ガチャガチャ……。

 五千。

 さらに五千。

 そして最後の五千。

 黒い軍列が西へ流れていく。

 アルヴェイン兵。

 動かない。

 俺たちも。

 ここまで。

 ここから先は。

 レオンハルトの戦争だ。

「……行った」

「ああ」

 アルベルト。

「追わなくていいんですよね?」

「当たり前だ」

「ですよね」

「我々の役目は奴を勝たせることではない」

「……」

「我が国から追い出すことだ」

「言い方」

「事実だ」

 最後尾。

 黒獅子の旗。

 国境を越える。

「報告!」

 騎兵。

「グランヴァルト軍、全軍アルヴェイン領より退出!」

「よし」

 アルベルトが息を吐く。

 ほんの少し。

 肩の力が抜けたように見えた。

「帰るぞ」

「アルヴェインブルク?」

「その前にヴァイスブルクだ」

「……」

「西を見ておく」

「ベルン?」

「ああ」

 アルベルトが西を見る。

 レオンハルト軍とは違う方向。

「黒獅子がシュヴァルツを叩けば」

「ベルンも動く」

「……」

 第一話。

 レオンハルトが言っていた。

 ベルンはシュヴァルツと話をつけようとしている。

 それをレオンハルトが潰す。

 なら。

「ベルン伯はどうする?」

「それを見る」

 なるほど。

 レオンハルトの戦は。

 俺たちの戦ではない。

 でも。

 無関係でもない。

 西の勢力図が変われば。

 アルヴェインにも影響する。

「……面倒だな」

「ようやく分かったか」

「最近そればっかり言いますね」

「お前が少しずつ賢くなっている証拠だ」

「褒めてます?」

「半分」

「また半分かよ」


 ◇ ◇ ◇


 その夜。

 アルヴェイン側。

 国境近くの砦。

 俺たちは久しぶりに、グランヴァルト兵のいない場所で休んでいた。

「……静か」

 俺は城壁に座る。

 一万五千。

 あれだけいた兵がいなくなると。

 逆に静かすぎる。

 西。

 遠く。

 もう黒獅子の旗は見えない。

「気になる?」

 横。

 エリーゼ。

「何が?」

「レオンハルト殿下」

「……少し」

「行きたかった?」

「まさか」

「本当に?」

「本当」

 俺は西を見る。

「でも」

「?」

「どんな戦い方するのかは見てみたかった」

「やっぱり」

「興味と参加したいのは別」

「そういうもの?」

「そういうもの」

 レオンハルト。

 あの男。

 何者なんだろう。

 織田信長。

 何度か頭に浮かんだ。

 でも。

 まだ分からない。

 似ているところ。

 違うところ。

 多すぎる。

「……」

 その時。

 パカラッ!

 遠く。

 馬。

 一騎。

「急報――!」

 俺とエリーゼが同時に立つ。

「急報!」

 門が開く。

 ギィィィ――!

 泥だらけの騎兵が飛び込んでくる。

「アルベルト殿下はどこだ!」

「何事だ!」

 守備兵が叫ぶ。

 騎兵。

 馬から転げるように降りる。

「ヴァイスブルクより急報!」

「……!」

 俺の顔から笑いが消える。

「ベルン伯軍!」

 騎兵が息を切らしながら叫んだ。

「国境付近で兵を集めています!」

「数は!」

「現在確認できているだけで――」

 一度。

 息を吸う。

「四千!」

「さらに増加中!」

「……」

 俺は西を見る。

 レオンハルトは。

 もういない。

 黒獅子の軍は。

 シュヴァルツへ向かった。

 そして。

 俺たちの目の前には。

 別の敵が残った。

「……殿下の言った通りだ」

 ベルンが動く。

 俺たちは。

 グランヴァルトの戦争を見に行く必要なんてなかった。

 なぜなら。

 俺たち自身の戦が。

 向こうから近づいてきていたからだ。

黒獅子の軍は、ついにアルヴェイン領を抜けて西へ。


アレクたちの役目はここまで。

レオンハルトの戦は、あくまでグランヴァルトの戦だ。


しかし、黒獅子が去った直後。

今度はベルン伯軍が国境付近で兵を集め始める。


他国の戦を見送ったその先で、アレクたちは再び自分たちの戦乱と向き合うことになる。

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