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『知らない世界で、前世の知識が武器になる』 ~剣と銃で乱世を生き抜く転生領主の成り上がり~  作者: 相田 ソウ
第八篇 乱世に結ぶ絆

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第十八話 国境に立つ将

国境へ向けて動き出したアレクたち。

先行するアーノルドは、かつて敵と向き合った土地へ赴きます。

 マティアスがアレクの城へ到着した時、鉄砲隊の出陣準備は、ほぼ整っていた。

 城外の宿営地には、兵が隊ごとに並んでいる。

 その脇を、兵糧と弾薬箱を積んだ荷車が進んでいた。御者が馬を落ち着かせ、兵たちが道を空ける。

 門をくぐったマティアスは、馬を下りる前に列へ目を向けた。

「揃っているようだな」

 出迎えたアレクが一礼する。

「はい。鉄砲隊三千人、出立できます」

「よし。細かい報告は中で聞く」

 マティアスは従者へ手綱を渡した。

 後ろから、護衛の騎兵たちが続いて入ってくる。

 アレクはその姿を見てから、主君とともに城へ入った。

 執務室には、街道を記した地図が広げてあった。

 ギルベルトと各隊の指揮官が待っている。

 マティアスは卓の前へ立ち、まず自分が連れてきた兵について告げた。

「歩兵千二百、騎兵三百だ。鉄砲隊とともに進める」

 アレクは頷いた。

 鉄砲隊は三千人。

 そのうち二百人が、馬で移動する騎馬鉄砲隊だった。

 マティアスの通常歩兵千二百人と通常騎兵三百人を加え、先に国境へ向かう戦闘部隊は四千五百人となる。

 兵糧を運ぶ御者や荷役の者は、別にいる。

 マティアスは地図の街道へ指を置いた。

「アーノルドは、歩兵千二百と騎兵三百を率いて先行している。城にいる守備兵は六百だ」

「合わせて二千百人ですね」

「ああ。こちらが着けば、六千六百人になる。ただし、到着までに戦が始まらぬとは限らん」

 アレクは国境の城を見た。

 南には川と橋がある。

 カルディア軍が、そこへ向かっていた。

「敵の兵数は」

「最初に確認された三千だけではない。後続の兵も来ている」

 マティアスは答えた。

「正確な数は、現地からの報告を待つ。敵が少ないと決めつけて動くな」

 ギルベルトが地図へ目を落とした。

 アレクも、進軍する道を確かめる。

 マティアスが続けた。

「先頭には斥候を出す。鉄砲隊の前後には歩兵を置き、荷車の列も守らせる。馬のある者だけで先へ走るな」

「承知しました」

 アレクが答えた。

 今回は、三千人の鉄砲隊を揃えて国境へ進める。

 騎馬鉄砲隊二百人も、独断で先行させるつもりはなかった。

 マティアスは、卓の端に置かれた別の書付を取った。

「大砲は」

「三門とも、輸送の支度を進めています。王家からの指導役が、砲兵と荷車を確かめています」

「こちらの歩兵とは別に、後続の護衛として二百人を回す。大砲隊とともに進ませろ」

 アレクは頷いた。

 その二百人は、先に動く四千五百人には含まれない。

 大砲の扱いを教える王家の指導役も、引き続き同行する。

「砲兵と輸送要員は、こちらで用意した者をつけます」

「出立と、その後の進み具合を知らせるように。急がせても、途中で車輪を壊しては意味がない」

「はい」

 マティアスは書付を戻した。

 各隊の指揮官へ顔を向ける。

「兵を動かすぞ。支度の済んだ隊から、定めた順に街道へ出せ」

 返事が重なった。

 指揮官たちが部屋を出ていく。

 ギルベルトも一礼し、鉄砲隊のもとへ向かった。

 アレクが後を追おうとすると、マティアスが呼び止めた。

「アレク」

「はい」

「城のことは」

「エリーゼが、オスカーたちとともに預かってくれます」

 マティアスは、短く頷いた。

「ならば、任せろ」

 アレクは姿勢を正した。

「はい」

 ◇ ◇ ◇

 玄関前に、アレクの馬が引かれてきた。

 城外から、兵を整列させる声が届いている。

 マティアスは先に宿営地へ向かい、各隊が街道へ出る順を確かめていた。

 アレクが手袋を着けていると、扉の方から足音がした。

 エリーゼだった。

 オスカーとマルタが、少し後ろに控えている。

 アレクは彼女へ向き直った。

「そろそろ、出ます」

「はい」

 エリーゼは頷き、そばへ来た。

 何かを言いかけたが、先にアレクの襟元へ目を留める。

「少しだけ」

 そう言って、上着の襟を整えた。

 アレクは動かずに待った。

 彼女の指が離れる。

 その手を、アレクがそっと取った。

 昨夜、帰ってくると約束した。

 彼女も、家と領地を任せてほしいと言ってくれた。

 今、同じことを繰り返すより、顔をよく見ておきたかった。

 エリーゼは、少しだけ微笑んだ。

「いってらっしゃい、アレク」

「行ってきます」

 二人にだけ聞こえるほどの声だった。

 アレクは手を離し、オスカーたちへ顔を向けた。

「留守をお願いします」

「お任せください」

 オスカーが答え、マルタも一礼した。

 エリーゼは、その二人の前に立っていた。

 アレクは馬へ近づき、鞍へ上がった。

 手綱を取り、もう一度振り返る。

 彼女が見上げていた。

 泣いてはいなかった。

 両手を重ね、まっすぐにこちらを見ている。

 アレクは頷いた。

 エリーゼも頷き返す。

 馬を進めると、門の兵が道を空けた。

 城外では、林檎の花と五つの蕾を配した旗が待っていた。

 アレクが近づくと、旗手が姿勢を正す。

 ギルベルトが馬を寄せた。

「各隊、出られます」

「行きましょう」

 アレクは答えた。

 列が動き始める。

 馬の蹄と、歩兵の足音が重なった。

 街道へ出る手前で、アレクは一度だけ城を見た。

 玄関前に、エリーゼがまだ立っていた。

 距離が開き、表情までは分からない。

 それでも、見送ってくれていることは分かった。

 アレクは前へ向き直った。

 ◇ ◇ ◇

 旧ロスヴァール領南部では、アーノルドの兵が国境の城へ入っていた。

 城は、街道を見下ろす低い丘の上に建っている。

 北へ続く道は、旧ロスヴァール領の町々へ通じていた。

 南には川が流れ、その川を渡る石橋がある。

 橋の先から、街道はカルディア領へ延びていた。

 山地の間を抜けてきた大軍が、荷車とともに進むには、この道を使うのが最も確実だった。

 アーノルドは城門を抜けると、出迎えた守備隊長へ尋ねた。

「橋は」

「まだ、こちらで押さえております。南から来る者は、一人ずつ身元と用向きを確かめています」

「敵の先遣隊は」

「南の街道を進んでおります。今日中には、こちらから姿が見えるかと」

 アーノルドは頷いた。

 城壁へ上がり、南を見た。

 橋が見える。

 その北岸には、街道を止めるための柵が設けられていた。

 守備兵が交代で立ち、橋を渡る者を見ている。

 だが、大軍を止めるには、兵も備えも足りなかった。

「城の六百人は、そのまま城と北への道を守れ」

 アーノルドが命じた。

「私の歩兵千二百は、橋の北岸へ出す。騎兵三百は周辺の道と川沿いを見張らせる」

 守備隊長が頷く。

「全軍を城内へ入れるのではなく、橋で迎え撃つのですね」

「城へ籠もって橋を空ければ、敵は川を渡ってから陣を築ける」

 アーノルドは橋を指した。

「こちらの城壁の前まで来るのを、待ってやる必要はない」

 橋を渡り終えた軍なら、広がって進める。

 荷車も北岸へ入れられる。

 そうなれば、カルディア軍は城を囲みながら、背後の街道へ兵を出すこともできた。

 川の南に留めている間とでは、守りやすさが違う。

「橋を壊しますか」

 守備隊長が尋ねた。

 アーノルドは首を振った。

「まだだ」

 橋を落とせば、敵の進軍は遅らせられる。

 だが、こちらも南へ動けなくなる。

 川沿いの村や、街道を使う者たちにも影響が出る。

 守れるうちから、自分たちの道を壊すつもりはなかった。

「まず、渡らせぬ支度をする」

 アーノルドは城壁から下りた。

 歩兵の隊長たちが待っている。

「橋の正面へ六百。左右の岸へ三百ずつ置く。柵を補い、弓を使える者は橋を見通せる位置へ出せ」

「承知しました」

「騎兵は百を近くに残す。残る二百は、上流と下流へ百ずつ。浅い場所を探す者が出る。見つけても、一人で追うな」

 隊長たちは、それぞれ命令を受けて走り出した。

 アーノルドも馬へ乗り、橋へ向かった。

 ◇ ◇ ◇

 北岸に歩兵が並び始めると、橋の様子が変わった。

 それまで通行人を確かめていた柵の後ろへ、盾と槍を持つ兵が入る。

 橋へ通じる道は空けたまま、その脇へ木材が運ばれた。

 左右の岸では、兵たちが足元を確かめながら持ち場を決めている。

 川は、馬で簡単に渡れるほど浅くはなかった。

 流れの速い箇所もある。

 だが、長くこの土地で戦ってきた者なら、季節によって水の浅くなる場所を知っている。

 アーノルドは川沿いを見た。

「下流で川が曲がっている辺りまで、見張りを怠るな」

 騎兵の隊長へ言う。

「あの先は、ここから見えぬ。敵が入り込んでも、橋からは分からん」

「百騎を出しております」

「敵の動きは、その都度知らせろ。戦うために出したのではない。敵がどこへ向かうかを探るためだ」

「はい」

 隊長が馬を返した。

 アーノルドは北岸の陣へ戻った。

 正面の六百人は、橋を渡ってくる敵を受け止める位置に並んでいた。

 左右の三百人ずつは、橋の両脇と川岸を守る。

 城の六百人は動かしていない。

 北へ抜ける街道と城を守る兵まで、橋へ集めるわけにはいかなかった。

 守備隊長から派遣された兵が走ってきた。

「南の街道に、旗が見えました」

 アーノルドは顔を上げた。

 橋の向こうに、砂埃が立っている。

 その中から、カルディアの旗が現れた。

 ◇ ◇ ◇

 カルディア軍の先遣隊は、橋から少し離れた南岸で止まった。

 騎兵が前へ出て、北岸を確かめる。

 後ろには歩兵の列が続いていた。

 先頭に立つ将は、橋の北に並んだ兵を見て眉を寄せた。

「守備兵だけではないな」

 そばの部下が頷いた。

「城から出してきたのでしょうか」

「それにしては、多い」

 北岸には柵があり、その後ろに盾が見えた。

 橋の正面だけではない。

 左右の岸にも兵が置かれ、さらに騎兵が動いている。

 将は、そばの兵へ命じた。

「使者を出す。責任を持つ者を呼べ」

 武器を収めた使者が、橋の手前へ進んだ。

 北岸の兵へ声を張る。

「カルディア王国軍の使者である! 城を預かる者と話したい!」

 返事があり、北側の陣で人が動いた。

 やがて、一人の将が馬を進めてくる。

 橋へ入る手前で馬を下り、少数の護衛とともに歩いてきた。

 カルディアの将は、その姿を見て目を細めた。

 見覚えがあった。

 鎧も旗も、以前と同じではない。

 だが、歩き方と、こちらを見る顔を忘れるはずがなかった。

「……アーノルドか」

 部下が顔を向ける。

「ご存じなのですか」

 将は答えず、馬を下りた。

 使者に続いて橋へ進む。

 両軍の兵が、それぞれの岸から見ていた。

 橋の中央近くで、二人は向かい合った。

「生きていたとは聞いていた」

 カルディアの将が言った。

「今度はグランヴァルトのために、我らを阻むのか」

 アーノルドは相手を見た。

 南部戦線で、何度か旗を見た将だった。

 橋の守りを崩そうとして、別の渡河地点へ兵を回したこともある。

「この城も、この橋も、今はグランヴァルトの領地だ」

 アーノルドは答えた。

「兵を退け」

 カルディアの将の口元が強張った。

「我が国が失った土地であることは、お前も知っているはずだ」

「終戦の取り決めも、知っている」

「その取り決めを、改めて話し合うために来た」

 アーノルドは、相手の後ろへ目を向けた。

 南岸には、歩兵が並んでいる。

 さらに後ろから、荷車も近づいていた。

「ならば、使者だけで来ればよい」

 カルディアの将は、すぐには答えなかった。

 アーノルドは続けた。

「武装した兵を渡らせることはない。話し合いを求めるなら、軍を退かせてからにしろ」

「後ろにいる兵だけで、止められると思うか」

 カルディアの将が、北岸を見た。

「こちらは先遣隊にすぎぬ。本隊も来る」

「見れば分かる」

 アーノルドの声は変わらなかった。

 カルディアの将は、相手の顔を見直した。

 強がっているようには見えない。

 城へ戻って門を閉じるだけなら、ここまで出てくる必要もなかった。

 アーノルドは、橋を渡る前に止めるつもりだった。

 将は声を低くした。

「昔から、面倒な場所へ立つ男だ」

「そちらが、同じ道を選ぶからだ」

 アーノルドは答えた。

 その時、北岸から騎兵が一人近づいてきた。

 橋へは入らず、護衛へ短く報告する。

 護衛がアーノルドへ声を届けた。

「下流へ向かった敵の騎兵を確認しました。こちらの見張りが、引き続き動きを探っております」

 カルディアの将の目が動いた。

 アーノルドは、それを見ていた。

「川を渡れる場所を知っているのは、そちらだけではない」

 言って、南岸へ目を戻す。

「斥候も引かせろ」

 ◇ ◇ ◇

 カルディアの将は、橋から南岸へ戻った。

 部下が近づく。

「いかがでしたか」

「守りを固めている」

「城の兵を引き出せたのでは」

「違う」

 将は北を見た。

 城壁の上にも、兵の姿がある。

 北岸へ並ぶ歩兵だけで守っているのではなかった。

 しかも、アーノルドが来ている。

 こちらがどの道を使い、どこへ騎兵を回すかを知る相手だった。

「下流へ出した者を戻せ。見張られている」

 部下が驚いた顔をした。

「もう、見つかったのですか」

「あの男は、以前からここで戦っている」

 将は言った。

「橋の正面だけを見ていると思うな」

 使者が本隊へ向けて走った。

 国境の城には、すでに増援が入っている。

 指揮を執るのは、アーノルド。

 その知らせを受けた後続の将たちは、簡単に橋を渡れるという考えを改めなければならなかった。

 南の街道から、兵が続いて現れた。

 先遣隊の後ろへ歩兵が入り、荷車が道脇へ寄せられる。

 騎兵は広い場所へ進み、馬を休ませた。

 カルディア軍は、その日のうちに無理に橋へ押し寄せることはしなかった。

 南岸へ陣を築き、翌日以降の攻撃に備え始めた。

 だが、退く様子もなかった。

 ◇ ◇ ◇

 アーノルドは北岸の陣へ戻り、南の街道を見続けていた。

 旗の数が増えている。

 兵の列は、一度途切れても、また続いた。

 斥候の報告が集まり始めた。

「歩兵の列が、さらに二つ入りました」

「騎兵は、南の丘の手前へ集めております」

「荷車は後ろへ回し、陣の内側へ入れています」

 アーノルドは、報告を聞きながら書付へ印をつけた。

 目の前に見える兵だけではない。

 街道の向こうや丘の陰にも、列が続いている。

 夕刻までに届いた報告を合わせると、カルディア軍はおよそ八千と見られた。

 歩兵が六千五百ほど。

 騎兵が千五百ほど。

 正確な兵数は分からないが、最初に伝えられた三千を大きく上回っていることは明らかだった。

 そばの隊長が、南岸を見た。

「こちらの、四倍近くになります」

「四倍の兵がいても、この橋では一度に攻めかかれぬ」

 アーノルドは答えた。

 正面の橋は、兵が横に大きく広がれる場所ではない。

 数が多くても、先頭で戦える人数は限られる。

 だからこそ、カルディアは別の渡河地点も探していた。

「上流と下流の見張りを、夜も切らすな。交代する時は、次の者が着いてから戻れ」

「承知しました」

「城へも伝えよ。こちらへ兵を寄せるために、北の道を空けるな」

 隊長が走り出した。

 アーノルドは書記を呼んだ。

 マティアスへ送る報告を書かせる。

 城と橋は維持している。

 カルディア軍は南岸に集結し、およそ八千。

 橋への進出だけでなく、上下流の渡河地点を探る動きがある。

 こちらは既存守備兵六百と、増援千五百で守りを固めた。

 アーノルドは、最後に一文を加えさせた。

「北から城へ入る街道は、確保している」

 書記が筆を動かす。

 アーノルドは、その文面を確かめて封をした。

 使者へ渡す。

「マティアス殿の軍を探し、直接渡せ」

「はい」

「途中の城にも、同じ内容を伝えておけ。こちらへ向かう軍が、古い報告だけで動かぬようにな」

 使者が礼をし、馬へ乗った。

 北の街道へ走り出す。

 アーノルドは、その背を見送ってから南へ向き直った。

 川の向こうに、火が灯り始めていた。

 ◇ ◇ ◇

 アレクたちの軍は、街道を進んでいた。

 先頭の斥候から、道に異常がないと報告が届く。

 通常歩兵が進み、その後ろへ鉄砲隊の列が続いた。

 兵たちは隊ごとにまとまり、指揮官の合図を受けて歩いている。

 馬に乗る二百人の騎馬鉄砲隊も、徒歩の隊を置き去りにはしなかった。

 荷車の列が曲がり角へ差しかかると、後ろの隊が間隔を調整する。

 街道脇へ出て道を確かめる兵が、御者へ声をかけていた。

 アレクは馬上から、その動きを見ていた。

 三千人が一つの塊になって進めるわけではない。

 道の幅に合わせれば、列は長くなる。

 前が進んでも、後ろがまだ橋を渡っていることもあった。

 そのたびに各隊の指揮官が状況を伝え、無理に間を詰めさせず、列を保っていた。

 アレクが一人ずつへ命令を出す必要はなかった。

 ギルベルトが近づいた。

「後ろの隊も、予定の場所を通過しました」

「荷車は」

「遅れておりません」

 アレクは頷いた。

「ありがとうございます」

 道沿いの村では、人々が立ち止まって軍を見ていた。

 槍や弓を持つ兵の後ろから、同じ形の火縄銃を携えた兵が、途切れずに続いてくる。

 最初は手を振っていた子どもが、列の長さに驚いたように口を開けていた。

 そのそばで、大人たちも黙って見ている。

 アレクは目を向けたが、馬を止めなかった。

 進むべき場所がある。

 国境の城へ向かい、アーノルドと合流する。

 そのために、兵を揃えて歩かせていた。

 ◇ ◇ ◇

 行軍を続けた数日後、前方から使者が来た。

 斥候が身元を確かめ、マティアスのもとへ案内する。

 アレクも呼ばれた。

 街道脇の空いた場所で、マティアスが書状を開いていた。

 使者は馬を下り、息を整えている。

「アーノルドからだ」

 マティアスが言った。

 アレクはそばへ寄った。

「城の状況は」

「アーノルドが到着し、守りを固めている。敵はまだ橋を渡っていない」

 マティアスは書状をアレクへ渡し、従者に地図を広げさせた。

 アレクが目を落とすと、マティアスは川の南側を指した。

「敵はおよそ八千。南岸へ陣を築き、別の渡河地点も探している」

「こちらが着く前に、攻めてくるかもしれませんね」

「ああ」

 マティアスは使者へ顔を向けた。

「出発した時、戦は始まっていたか」

「まだでございます。橋での交渉は終わり、双方が岸に陣を構えておりました」

「北の街道は」

「私が出発した時点では、確保できておりました。城へ通じる街道に、敵の姿はありませんでした」

 マティアスは頷いた。

 書状を畳み、アレクへ向き直る。

「アーノルドが道を守っている。こちらは、兵を揃えてそこへ着くぞ」

「はい」

 アレクは答えた。

 マティアスは、今まで進んできた街道を振り返った。

「後続の大砲は、出立したと知らせが来ている。護衛二百もついている。だが、こちらへの到着を待って戦えるとは考えるな」

「承知しています」

 大砲は、まだ後ろにいる。

 目の前の敵を止めるのは、今、進んでいる兵だった。

 アレクは自分の隊へ目を向けた。

 火縄銃を携えた列が、指揮官の合図を待っている。

 マティアスが命じた。

「進め」

 前方へ合図が伝わった。

 止まっていた列が動き始める。

 アレクも馬へ戻り、ギルベルトのそばへ進んだ。

「国境の城は、守られています。このまま向かいます」

「はい」

 ギルベルトが答え、各隊へ知らせを回した。

 林檎の花の旗が、街道の上で広がった。

 その後ろを、三千挺の火縄銃が進んでいく。

 川の向こうに集まる敵へ向けて、グランヴァルトの軍が近づいていた。

第十八話を読んでいただき、ありがとうございました。

家を守るエリーゼと、国境へ向かうアレク。それぞれの役目を担う二人とともに、アーノルドの働きにも注目していただければ嬉しいです。


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