第二話 同じ火ではない
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宿場を守ったアレクたちは、兵糧を届けるため、渡河点へ向かいます。
翌日の午後、宿場へ続く街道に、グランヴァルトの旗が現れた。
先頭の騎兵に続いて、歩兵が列を作って進んでくる。その間には、銃を肩に掛けた兵の姿もあった。
宿場の入口で待っていたアレクは、列の中にギルベルトを見つけた。
ギルベルトもアレクに気づき、歩み寄ってきた。
「書状は受け取りました。負傷した二人は」
「宿で手当てを受けています。命に別状はありませんが、まだ戦わせられません」
「後ほど顔を見てきます」
ギルベルトはそう答えると、後ろの兵へ手を上げた。
鉄砲隊の列が街道から外れ、宿場の脇の空いた場所へ入っていく。兵たちは荷を下ろし、先に到着していた騎馬鉄砲隊の者と声を交わした。
「先に着いて、もう一戦か」
「馬がなければ間に合わなかった」
そう答えた兵の頬には、乾いた泥がついていた。
笑い声は長く続かなかった。宿の軒下に座る負傷者へ目を向けると、到着した兵たちも声を落とした。
街道の向こうでは、ヴィクトルがエイドリアンから報告を受けていた。
アレクはギルベルトを伴ってそちらへ向かった。
「敵は渡河点へ戻った。今朝も斥候を出したが、宿場へ引き返してくる様子はない」
エイドリアンが道の先を指す。
「こちらを追い払うより、街道を塞いで待つつもりだろう」
「荷車は」
「十六台とも残った。傷んだ車輪も、宿場の者が直している」
ヴィクトルが頷いた。
そこへロベルトが来た。宿場へ入るなり倉と荷車を見て回っていたらしく、指先に粉がついていた。
「前線へ届ける分は確認した。こちらの荷と混ぜずに置かせてある」
「道が開いたら、すぐ出せるか」
「そのために来た。ただ、勝ったという知らせだけでは動かさん。荷車が通れるか、道まで見てもらうぞ」
「分かっている」
ヴィクトルは答え、四人を見回した。
「明朝、渡河点へ向かう。今日は兵を休ませ、敵の配置を確かめる」
街道を歩いてきた歩兵たちは、ようやく腰を下ろしたところだった。先行隊と違い、重い装備を抱えてここまで進んできている。
アレクも頷いた。
急ぐ必要はある。
だが、到着したばかりの兵をそのまま敵陣へ向かわせれば、戦う前に列が乱れる。
ヴィクトルはロベルトへ顔を向けた。
「宿場には歩兵百人を残す。荷車と負傷者を頼む」
「任せろ。兵糧を失っては、勝っても先へ進めん」
ロベルトはそう言うと、荷車を導いていた兵を呼び止めた。
積み荷を確かめながら、空いている場所へ車を寄せさせていく。
宿場の裏手にあった松明は、もう片づけられていた。
◇ ◇ ◇
その夜、宿の食堂には、一枚の板が運び込まれていた。
炭で川と街道が描かれ、卓の上に置かれる。
カスパルは川の手前を指した。
「敵はここだ。浅瀬のこちら側に陣を作っている」
アレクは板へ身を寄せた。
宿場から前線へ向かうには、川を渡らなければならない。荷車が通れる浅瀬は街道と繋がっており、その先にアルヴェイン軍が押さえた城がある。
ベルン軍は川の対岸で待っているのではなかった。
宿場側の岸へ兵を出し、街道と浅瀬の両方を押さえていた。
「川岸は広いのですか」
「陣の前はな。畑と草地が続いている。歩兵を並べられるし、馬も動かせる」
カスパルが炭を取り、川の手前へ短い線を引いた。
「ただし、岸へ近づくと低くなる。街道を外れて荷車を入れれば、車輪を取られる場所があるそうだ」
隣にいたアルヴェインの案内役が頷いた。
「普段も、荷を積んだ車は浅瀬へ続く道を使います。川幅だけを見て別の場所へ入るのは危険です」
「敵を避けて、荷だけ渡すのは難しいか」
ヴィクトルの問いに、男は顔を伏せた。
「軽い荷を人が背負うならともかく、これだけの兵糧となりますと……」
「なら、道を取り戻す」
ヴィクトルは短く言い、カスパルへ続きを促した。
「兵は」
「見える範囲と、出入りしていた隊を合わせて、二千二百ほど。騎兵は二百ほどいる。あとは歩兵と弓兵、それに火槍を持った兵だ」
「火槍は何挺ありますか」
アレクが尋ねた。
「四百ほどだ。中央近くにまとまっていた。筒を持たせただけではない。命令で列を変えていたぞ」
ギルベルトがアレクへ目を向けた。
アレクは板の上の敵陣を見た。
火槍を四百挺。
それを集め、兵をつけ、まとまって動けるようにした。偶然集まった諸侯の兵を並べたのとは違う。
「その二千二百には、昨日、宿場から退いた兵も含まれていますね」
「ああ。そのつもりで数えている。ただ、奥まで全部見えたわけではない」
「分かりました」
ヴィクトルが卓の端に置かれた書付を引き寄せた。
「こちらは二千三百九十二人。宿場へ百人残して、二千二百九十二人で出る」
書付を見ながら続ける。
「鉄砲隊五百九十八。騎兵二百九十四。歩兵千四百だ」
昨日の戦いで失った者と、負傷して戦列を離れた者は、その数に戻されていなかった。
アレクの直属隊も、百人ではなく九十八人だった。
「アレク。敵の火槍隊をどう見る」
「今の報告だけでは、どれほど撃てるかまでは分かりません。ただ、こちらも鉄砲隊をまとめて出せます」
「騎馬の兵もか」
「今回は下馬させます。敵の正面が開けているなら、ギルベルトの隊と並べて戦わせた方がよいと思います」
ギルベルトも頷いた。
「指揮を伝える者を揃えておきます。馬を預けた後、すぐ列へ入れるように」
ヴィクトルは敵陣の両脇へ指を置いた。
「歩兵はこちらで支える。エイドリアンは騎兵をまとめておいてくれ。敵の騎兵が動けば知らせる」
「分かった」
「カスパルは両脇を見てくれ。目の前の二千二百だけで全部だと思って進むわけにはいかん」
「ああ。林も川沿いも調べる」
命令が決まると、皆が卓から離れた。
アレクは最後に残り、板へ描かれた浅瀬を見た。
ここを越えなければ、荷車は進めない。
城で待っているのは、かつて自分を迎えてくれた国の兵だった。
アルベルトも、その先にいる。
「アレク様」
戸口でギルベルトが呼んだ。
「兵が待っております」
アレクは顔を上げた。
「今、行きます」
◇ ◇ ◇
翌朝、ベルン伯爵軍の陣では、コンラート・ヘルマンが歩兵の列を見て回っていた。
兵は槍を立て、前方の草地を見ている。陣の背後には川が流れ、その一部を街道が横切っていた。
浅瀬へ続く道には、まだ荷車を置かせていない。
コンラートは道の脇で立ち止まった。
「ここを塞ぐな。負傷者を下げるにも使う」
「承知しました」
兵が応じる。
コンラートは歩き出し、中央へ向かった。
火槍を持った四百人が、隊長の指示に従って並んでいた。前の兵が止まると、後ろの兵も間を詰めすぎずに足を止める。
列の端に乱れがあれば、指揮する者がすぐに直した。
コンラートはしばらくその様子を見てから、伯爵のもとへ戻った。
ベルン伯爵は、陣の前へ続く街道を見ていた。
「来たか」
「先頭の旗が見えました。騎兵だけではありません。歩兵も続いています」
「やはり、三百では済まなかったな」
「おそらく、こちらと同じくらいの兵数です」
伯爵は唇を結んだ。
前線へ攻め込んだアルヴェイン軍は、城を二つ取った。
だが、その二つを支える道をベルン軍が断っている。城壁に守られていても、補給が途絶えれば兵糧はいずれ尽きる。
救援軍をここで止めれば、前線の敵は動かざるを得なくなる。
せっかく奪った城を捨てて戻るか、兵糧の減っていく城に残るか。
どちらを選ばれても、今より戦いやすくなるはずだった。
「火槍隊を前へ出す」
伯爵が言った。
コンラートはすぐに答えた。
「伯爵様、火槍隊の両脇には歩兵が必要です。火槍隊だけを進ませれば、敵の騎兵に回り込まれます」
「そのためにお前がいる」
「騎兵はまだ残すべきです。敵が退いても、すぐに追わせるのは危険です」
伯爵が横目でコンラートを見た。
コンラートは目を逸らさなかった。
かつての戦いで、目の前に見えている敵だけを相手にすればよいわけではないと知った。
今度は、この渡河点を守り抜かなければならない。
「よい。騎兵は残せ」
伯爵は前へ向き直った。
「だが、守るだけで終わるつもりはない。今度はこちらにも、揃えて撃てる兵がいる」
中央の火槍隊へ視線を向ける。
四百の筒が、朝の光を受けて並んでいた。
◇ ◇ ◇
川へ続く平地へ出ると、アレクにも敵陣の全体が見えた。
正面には、火槍を持つ兵。
その両脇には槍と盾を持つ歩兵が並び、少し後ろに弓兵がいる。騎兵の旗は、さらに奥に残っていた。
敵の背後では、川面が光っている。
浅瀬へ続く街道は敵陣の中を通っており、荷車を進ませる余地はなかった。
アレクは馬を下りた。
騎馬鉄砲隊も続いて下馬する。馬はヴィクトルが回した歩兵二十人に預け、射撃する場所から後方へ離した。
アレクの九十八人が、ギルベルトの率いてきた五百人へ加わる。
五百九十八挺。
ギルベルトは各隊の指揮者を呼び、二百人、二百人、百九十八人の三班へ分けた兵を確かめていた。
鉄砲隊は、敵の中央に向かってまとまって布陣した。
離れた場所へ小さく分けるのではなく、同じ敵に向けて、班を交代させながら撃つ。
アレクは列の前へ出た。
向こうの火槍隊も動いていた。
兵が勝手に駆け出すことはなく、旗の動きに合わせて進んでくる。両脇の歩兵も、それに歩調を合わせていた。
近づくにつれて、敵の持つ筒の形が分かった。
アレクたちの火縄銃とは違う。
かつてアルヴェインで目にした、従来の火槍だった。
だが、持つ者たちの足取りは揃っている。
敵も、考えてここへ並べていた。
ヴィクトルが馬を寄せてきた。
「どうだ」
「従来の火槍です。ただ、兵は訓練されています」
「撃つ前に逃げる相手ではなさそうだな」
「はい」
アレクは敵の中央を見たまま答えた。
「敵の火槍隊は、鉄砲隊で崩します」
ヴィクトルはアレクの横顔を見た。
アレクは続けた。
「両脇の歩兵をお願いします。こちらの列へ入られなければ、撃ち続けられます」
「任せろ」
ヴィクトルが手綱を引いた。
味方の歩兵が動き、鉄砲隊の左右へ広がっていく。馬を預かった者を除く千三百八十人が、槍と盾を揃えた。
騎兵二百九十四人は後方に残る。
エイドリアンは馬上から敵陣を見据え、カスパルは斥候の報告を受けていた。
アレクはギルベルトへ向き直った。
「中央を狙います。敵の歩兵が前へ出たら、知らせてください」
「承知しました」
ギルベルトが指揮者たちへ伝える。
銃を握る兵の間を、命令が渡っていった。
◇ ◇ ◇
ベルン軍の火槍隊長は、前方へ並んだグランヴァルト兵を見ていた。
数は多い。
先頭の列だけではなかった。その後ろにも、同じ武器を持つ兵が控えている。
隊長は唾を飲んだ。
それでも、彼らが進んでくる様子はない。
こちらの火槍隊が近づくのを待っている。
「列を保て」
隊長は声を上げた。
「勝手に撃つな。合図を待て」
兵が頷く。
何度も教えたことだった。
恐ろしくなって遠くから撃てば、次に撃つまでの間に敵が来る。皆が違う時に撃てば、前へ出た者の背へ味方の筒先が向く。
それを避けるために、繰り返し兵を動かしてきた。
隊長は前を見た。
向こうの兵が銃を構えていた。
思わず足を緩める。
まだ離れている。
火槍を持つ兵の顔が、こちらからはっきり見える距離ではなかった。
「止まるな」
隊長は言った。
相手が先に撃つなら、それを耐えて近づけばよい。
横にいた兵が、目だけを隊長へ向けた。
その時、向こうの列で赤い布が動いた。
◇ ◇ ◇
「火蓋開け!」
ギルベルトの声を、各班の指揮者が繰り返した。
一班の兵が銃を上げる。
アレクは敵の列を見ていた。
中央の火槍隊は、まだ進んでいる。
左右の歩兵との間も大きくは開いていない。先頭の兵がこちらを見ながら、歩調を合わせていた。
「構え!」
赤い布が上がった。
兵たちの動きが止まる。
アレクは剣を握り直した。
「撃て!」
布が振り下ろされた。
二百挺の轟音が重なり、白い煙が正面へ広がった。
敵の列で、一人が後ろへ倒れた。
隣の兵が肩をすくめ、そのさらに隣で火槍が地面へ落ちる。
前へ進んでいた列の一部が止まった。
後ろの兵がぶつかり、倒れた者を避けようと左右へ動く。
アレクは煙の切れ間から、その変化を見た。
「一班、火縄上げ! 後退!」
ギルベルトが命じる。
一班が下がり、二班が前へ出た。
向こうでは指揮官が腕を振っていた。止まった兵を進ませ、開いた間を埋めさせようとしている。
敵はまだ崩れていなかった。
倒れた仲間の脇を抜け、前へ出る兵もいる。
アレクは二班の並びを見た。
銃口の先には敵だけがいた。左右の味方歩兵は、鉄砲隊の前へ出ずに持ち場を守っている。
「構え!」
再び布が上がった。
敵の指揮官がこちらへ剣を向ける。
「撃て!」
二度目の轟音が響いた。
◇ ◇ ◇
ベルン軍の火槍隊長は、顔へ飛んできた土を拭った。
すぐ前にいた兵が、膝をついていた。
男は自分の火槍を掴もうとしていたが、指が届かない。肩から流れた血が、袖を濡らしていた。
「後ろへ運べ!」
隊長が叫ぶ。
二人が駆け寄り、男を引きずって下がった。
そこへ次の弾が飛んできた。
横にいた兵が倒れ、後ろの者が足を止める。
隊長は敵を見た。
煙の向こうで、別の列が動いている。
撃っている兵だけでなく、下がって武器を扱っている兵も見えた。
聞いていた通りだった。
交代しながら撃ち続ける。
だからこちらも、ばらばらに撃たせず、命令で動くように教えてきた。
だが、考えていた戦いとは違った。
まだ、こちらは一度も撃っていない。
近づく間に、すでに兵が倒れていた。
「隊長!」
近くの兵が叫んだ。
声が震えている。
撃たせなければ、兵が耐えられなくなる。
隊長は剣を上げた。
「前の列、止まれ!」
火槍を持つ兵が足を止める。
後ろの者が追いつきかけ、指揮する兵が怒鳴って押し戻した。
筒先が上がった。
「撃て!」
火が走り、筒口から煙が噴き出した。
轟音が左右へ広がっていく。
兵たちは、煙の向こうを見た。
これだけ撃てば、向こうも止まるはずだった。
◇ ◇ ◇
アレクの前で、地面が跳ねた。
少し離れたところへ弾が落ち、乾いた土を散らしながら転がっていく。
別の弾は頭上を抜けた。
列の端で兵が短く叫び、腕を押さえた。
そばにいた指揮者が駆け寄り、銃を受け取らせて後ろへ下げる。
敵の弾が、まったく届かないわけではなかった。
アレクも身を固くした。
それでも、列の大半は動かなかった。
「前を見ろ!」
ギルベルトの声が響いた。
「倒れた者は後ろへ任せろ!」
負傷者を運ぶ兵が、射撃する列の後方を通っていく。
アレクは、銃を構える兵へ向き直った。
「そのままです。合図を待ってください」
三班の兵が前を向いた。
向こうの火槍隊は、煙の中に立っている。
反撃したことで、足を止めていた。
アレクは剣を上げた。
「撃て!」
百九十八人の列から、火と煙が広がった。
敵の煙の中で、筒先が幾つも下がった。
◇ ◇ ◇
「もっと近づけ! この距離では当たらん!」
ベルン軍の隊長は叫んだ。
こちらの射撃は、敵の列を止めていなかった。
倒れた者は見えた。
だが、それを運び出しても、グランヴァルト兵は持ち場を離れない。後ろから別の列が現れ、またこちらへ武器を向けている。
こちらでは、前に立っていた兵が次々に減っていた。
「撃てる者を前へ! 歩け!」
後ろに控えていた兵が動いた。
倒れた者を避けるために足が乱れる。それでも隊長の声に従い、火槍を抱えて進み始めた。
逃げ出したわけではない。
兵は、教えられた通りに動こうとしていた。
だが、足元には仲間がいた。
跨ごうとした兵の裾を、倒れていた男が掴んだ。
「置いていくな」
兵が立ち止まる。
後ろから来た者がぶつかり、列がまた詰まった。
「進め!」
隊長は怒鳴った。
自分でも、何に向かって怒鳴っているのか分からなくなりかけた。
兵が弱いからではない。
列を揃えることを知らないからでもない。
前へ出れば撃たれる。
止まって撃ち返しても、向こうと同じようには当たらない。
近づかなければならないのに、その道を歩く間に兵が倒れていく。
隊長は剣を握り、先頭へ出た。
「私についてこい!」
兵たちが顔を上げた。
もう一度、列が動いた。
◇ ◇ ◇
コンラートは、中央の火槍隊が前へ出すぎ始めたのを見た。
両脇の歩兵も進んでいるが、火槍隊の足の方が速い。
敵へ近づかなければ撃ち合えないと、隊長が判断したのだろう。
その理由は、後ろから見ていても分かった。
グランヴァルトの射撃は、こちらの列へ届いている。
こちらの火槍が噴く煙は、それと同じ結果を生んでいなかった。
「中央だけを行かせるな」
コンラートは近くの指揮官へ命じた。
「歩兵を進めろ。ただし、走らせるな。敵の騎兵が残っている」
指揮官が駆けていく。
コンラートはグランヴァルト軍の後方へ目を向けた。
騎兵は、まだ動いていなかった。
こちらの列が乱れるのを待っている。
槍兵を中央へ寄せすぎれば、両脇が薄くなる。かといって火槍隊だけを先へ出せば、その横へ騎兵が来る。
コンラートは馬を進めた。
敵が何を待っているのか、見えてはいた。
だが、中央の兵は今も撃たれていた。
◇ ◇ ◇
アレクは、敵の火槍隊が再び前進してくるのを見た。
最初より列は乱れている。
それでも隊長らしい男が前へ出ると、兵はその後ろへ続いた。
アレクは剣の柄を握り締めた。
相手も、ここを守るために来ている。
命令を受け、訓練を重ねて、武器を持って立っている。
それでも、この軍を退けなければ、待っている味方へ兵糧を届けられない。
「アレク様」
ギルベルトが呼んだ。
「一班、装填完了です」
アレクは頷いた。
一班の兵たちが再び前へ出た。
敵は近づいていた。
その分、顔や手の動きまで見えるようになっている。筒を抱える男の口が開き、何かを叫んでいた。
アレクは視線を逸らさなかった。
「中央を撃ちます」
ギルベルトが伝える。
銃口が揃った。
敵の両脇では、槍兵が追いつこうと前へ出てきている。味方の歩兵もそれに合わせて槍を向け直した。
まだ、射線は塞がれていなかった。
「構え!」
アレクは剣を上げた。
林檎の花と、その周りの五つの蕾を描いた旗が、兵の後ろで揺れていた。
「撃て!」
◇ ◇ ◇
ベルン伯爵の前で、中央の旗が傾いた。
旗を持つ兵が倒れたのか、足を取られただけなのか、ここからは分からない。
近くの者が駆け寄り、すぐに旗を立て直した。
だが、その周囲には穴が空いていた。
先ほどまで兵が並んでいた場所に、倒れた者と、持ち主を失った火槍が残っている。
伯爵は目を細めた。
煙が流れ、敵の列が見えた。
グランヴァルトの兵は、まだ並んでいた。
前の列が下がる。
次の列が出る。
その後ろでは、撃ち終えた兵が武器を扱っている。
聞き伝えられた戦い方を、こちらの兵にも学ばせたはずだった。
兵を集め、火槍を揃え、命令に従って動かした。
実際に、兵は逃げずに進んでいた。
それなのに、なぜこちらばかりが倒れる。
「近づけば……」
伯爵は呟いた。
近づけば、こちらの火槍も当たる。
隊長もそう考えているから、兵を進ませているのだ。
だが、相手は近づかずに撃っている。
伯爵は、グランヴァルト兵が構える武器を見つめた。
離れていて、細かな仕組みまでは見えない。
見えるのは、そこから煙が上がるたびに、自分の兵が倒れるということだけだった。
「同じ火槍ではないのか」
すぐそばにいた従者は、答えなかった。
伯爵の問いを掻き消すように、次の銃声が響いた。
第二話を読んでいただき、ありがとうございました。
同じように兵を揃えながらも、違いが現れ始めた両軍。渡河点を巡る戦いは続きます。
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