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Ver.2 Poison Chapter 5-3 バースデープレゼントは君がいい

今回は、古城での戦いを終えた、その少し後のお話です。


命令されることしか知らなかったメリュジーヌ。


そして――

そんな彼女を、今度はリゼルがどう扱うのか。


敵だったから。

自分を殺そうとしたから。


それだけで終わらせるほど、どうやらリゼルは素直ではないようです。


では――


Ver.2 Poison Chapter 5-3

『バースデープレゼントは君がいい』


どうぞ、お楽しみください。

 メリュジーヌは、小汚い部屋の窓から夜空を見上げていた。


 部屋と呼ぶにはあまりにも粗末だった。石壁は湿り、床には埃が溜まり、窓には歪んだ鉄格子が嵌められている。隙間風が吹き込むたびに、微かに軋むような音を立てた。ノクタール侯爵家の令嬢として与えられていた部屋とは似ても似つかない。あちらには、柔らかな寝具と、磨き上げられた鏡と、季節ごとに替えられる花瓶があった。だが、メリュジーヌには、むしろこちらの方が自分に相応しいように思えた。飾り気のない冷たさこそが、今の自分にちょうど釣り合っている気がした。


 自分には、もう戻る場所などない。


 任務は壊れた。リゼルを騙し、セレスティアを攫い、オルディアスを誘き出すための餌は整えた。それでも胸の奥に残る痛みは消えない。リゼルが差し伸べた手を踏みにじった。セレスティアの優しさを利用した。母を助けるためだと言い聞かせても、苦しさは消えてくれなかった。窓の外に広がる光景は、もはや夜空と呼べるものではなかった。母は、あの炎の向こうのどこかにいるのだろうか。それとも、もう。


 鉄格子の外では、夜空そのものが赤く燃えていた。


 少し前まで、あの空を埋め尽くしていたのは無数の赤黒い果実だった。それが次々と地上へ落ち、爆ぜ、城の前庭一帯を業火で塗り潰していった。メリュジーヌを道具として扱い、母を人質に使い続けてきた者たちの多くが、その炎の中でほとんど死に絶えている。何が起きたのか、彼女には分からなかった。天から降り注いだ、正体不明の火球の雨としか言いようがなかった。


 10年もの間、母と自分を縛り続けてきた呪いのような場所が、ほんの僅かな時間で滅びていく。


 メリュジーヌは、その光景をただ、静かに見下ろしていた。安堵も、悲しみも、まだどこか遠くにあるようだった。ただ、燃え落ちていく景色だけが、目の奥に焼き付いていく。


「お母さん……」


 小さな呟きだった。


 誰にも届かないはずの声だった。喉の奥から絞り出すように漏れた、祈りにも似た言葉だった。鉄格子の隙間から吹き込む夜風が、その呟きをそのまま攫っていく。


 その時、廊下の奥から足音がした。


 軽い。


 あまりにも軽い足音だった。大人の兵士ではない。けれど、メリュジーヌには振り返らずとも分かった。心臓が、僅かに跳ねる。石床を叩くその一歩一歩の間隔にすら、聞き覚えがあった。


 その足音を、彼女はもう知っている。


「まったく。ちゃんと私は警告しましたわよ」


 メリュジーヌは窓の外を見たまま言った。声だけは、いつもの令嬢めいた調子を保とうと必死だった。


「本日のご招待状は、貴女のお父様ただお一人にしかご用意がないことを」


 しばしの沈黙の後、返ってきた声は、メリュジーヌの知る人物のそれとはまったく違っていた。


「そうか。てっきり君が私宛てによこしたものだと思い込んでしまった。すまんが、このままパーティには参加させてもらうぞ」


 メリュジーヌはゆっくり振り返った。


 そこにいたのは、寝巻き姿のリゼルだった。


 毒杯の後に寝室へ運ばれ、そのまま飛び出してきた姿。薄い夜着に、急いで羽織っただけの上掛け。頬には殴られた痕があり、唇の端には血の跡が残っている。とても戦場を渡り歩いてきたばかりの格好には見えない。それでいて、その場に立っているだけで空気そのものが張り詰めていた。


 そして、笑っていた。


 パーティ会場で見た、礼儀正しい小さな令嬢の微笑みではない。凶暴で、邪悪で、愉快でたまらないというような笑顔だった。瞳の奥に宿る光は、幼子のそれとはとても思えなかった。


「ひっ……」


 メリュジーヌは、思わず息を漏らした。喉の奥が、ひゅっと鳴った。背筋を、冷たいものが這い上がる。


 リゼルは気にしなかった。


「それにだ、今日は私の誕生日なんだ。君からのプレゼントを私はまだ何も貰っていない」


「あら、それは失礼致しましたわ」


 メリュジーヌは仮面を戻そうとした。


 だが、声は少し震えていた。それが、彼女自身にもはっきりと分かった。


「で、何をご所望ですかぁ? ヴァルクロア大侯爵閣下のご令嬢様にお気に召していただけるものをご用意できるとは思えませんが」


 リゼルは、待っていたと言わんばかりに笑みを深めた。


 そして、メリュジーヌを指差す。


「あるではないか」


「え? あ、ああ。この魔鞭ヒュドラーですね。確かに魔界の至宝の一つで――」


「違う違う」


 リゼルは両手を左右に振った。


「私が欲しいのはね、君だよ、メリュジーヌ」


「は?」


 メリュジーヌの口が、間抜けに開いた。今まで浮かべていた仮面が、その一瞬だけ完全に剥がれ落ちていた。何を言われたのか、理解が追いつかない。


 リゼルは一歩踏み出す。


「ノクタールの至宝? そんなものは要らん。お前を寄越せと言っているんだ」


「……あは、あははははっ。リゼル様ぁ、毒の影響で頭でもおかしくなってしまわれましたかぁ?」


 リゼルは涼しい顔で答えた。


「いや、至って健全だとも」


 リゼルは大真面目に頷いた。


「まったく、とんだお誕生日だったよ。毒は盛られるわ。母上は攫われるわ。部屋は消し飛ぶわ。それだけのことがあってなお、私はこうして冷静に、君を口説き落とそうとしている。君というバースデープレゼントでも貰わないと、割に合わないよ」


「それはそれは、ご愁傷様ですの」


 棒読みではない。皮肉たっぷりの毒だった。毒を盛った本人が、平然とそう言ってのける。だが、リゼルはその一言すら気に留めなかった。動揺しているのは、皮肉を放ったはずのメリュジーヌの方だった。目の前の相手が、間違いなく異常な力を持っているとは分かっていても、その考えの先を読むことができない。会話の主導権は、最初から最後までリゼルの手の中にあった。


「さておきだ、メリュジーヌ。屋敷へ帰るぞ」


「ああ、なるほど」


 メリュジーヌの表情が冷える。仮面を、もう一度被り直すように。


「わたくしを公開処刑なさりたいのね」


「なんだその非生産的でコスパ最悪の過酷労働は。言葉が通じないのか? 君は私のものになる。それだけだ」


「やっぱり毒の影響で、おかしくなってしまわれたのね」


 メリュジーヌは、既に手にしていた魔鞭ヒュドラーを、静かに構え直した。


 黒革の巻かれた柄の中央には、紫黒の呪毒結晶が埋め込まれ、それが全体を統べる魔力核として絶えず脈打っている。普段は幾つもの蛇頭が絡み合うようにして鞭身へ折り畳まれているが、それは仮初めの姿などではない。禁忌の至宝、魔鞭ヒュドラーそのものの、変幻自在な本性だった。


「よく見ておいてね、リゼル様」


 メリュジーヌはそう言うと、鞭を大きく振りかぶり、そこへ意識を注ぎ込んだ。


 柄を握る指先から、じわりと魔力が伝っていく。折り畳まれていた蛇頭たちが脈打つように震え、鎖状の連なりが逆立った。次の瞬間、その鞭が、まるで生き物のように内側から解き放たれていく。石の床を軋ませながら、瞬く間に人の背丈を超え、全長にして10メートル近く、この狭い部屋には到底収まりきらない質量へと展開した。折り畳まれていた頭部が、ぼこぼこと肉の盛り上がる音を立てながら、八つの首としてそれぞれ別方向へ伸びていく。


 部屋の壁が内側から押し破られ、石材が四方へ弾け飛んだ。天井の一部までもが崩落し、埃と粉塵が室内を白く霞ませていく。もはや一部屋の惨状ではない。城の外郭ごと軋み、悲鳴を上げていた。


 だが、本当に恐ろしいのはその後だった。


 八つに分かれた首は、ただ闇雲に暴れているわけではなかった。一本がリゼルの正面から食らいつこうと大顎を開けば、別の一本は死角となる背後へ回り込み、また別の一本は上方から降り注ぐように牙を突き立てる。まるで八体の別々の獣が、それぞれの判断で連携しているかのようだった。


「リゼル様。この子たちは、それぞれが独立した意志で動きますの」


 メリュジーヌは鞭の柄を握ったまま、勝ち誇るように口角を上げた。


「一つの首を落としたところで意味はございませんわ。八つの頭、そのすべてが本体。急所は一つに絞れませんの。八本纏めて仕留めない限り、失われた首から瞬く間に再生してしまいますわ」


 どうです、と言わんばかりの顔だった。長年かけて磨いた自慢の切り札を、ようやく披露できたのだろう。


「なるほど、道理でな」


 リゼルは顎に手をやり、感心したように頷いた。だが、その次の一言で、メリュジーヌの得意顔は一瞬で凍りつくことになる。


「つまり、八つ同時に沈めてしまえば、それで終わりということだろう? 弱点を裏返しただけの自慢だぞ、それは」


「なっ……!」


「本体が分散している方が脆弱なんだ。守るべき急所が一つなら一点さえ死守すればいい。だが君のそれは、守るべき急所が八つに増えただけだ。私が本気で全部同時に潰しに行けば、それこそ元も子もない」


「そ、それは理屈上の話であって……!」


「理屈で殴り合っているのはお互い様だろう」


 リゼルはそう言うと、余裕の笑みを崩さないまま身構えた。


「そろそろ雑談もこの辺にして、契約に入ろうではないか?」


「契約? なんのことですの?」


「お前が私のものになる契約だよ」


 リゼルの全身から、凄まじい魔力が撒き散らされた。


「ならば、貴女の欲する相手に殺されても文句はないわよね」


 八つの首が、多層的な猛攻となってリゼルへ殺到する。空気を切り裂く八つの牙の音が、四方八方から同時に迫った。


 リゼルは笑った。


「あははははははははははっ!」


 幼い少女の笑い声ではなかった。


 その刹那、メリュジーヌの指先に紫の魔力が収束した。


「《ヴェノム・サーペント》」


 放たれたのは、無数の毒蛇を象った魔力の奔流だった。触れるだけで五臓六腑を腐らせる、彼女が扱う中でも最上位の猛毒。ヒュドラーの八つの首と同時に放たれた、二段構えの奇襲だった。鞭を制御しながら、なお別の一撃を織り込む。片手間ではない、確かな技量の裏付けがあった。


「ごめんなさいね、リゼル様。でも貴女がわる……?! え?!」


 毒の蛇がリゼルの全身に絡みつき、牙を突き立てる。


 だが、リゼルは眉一つ動かさなかった。


「私に毒は効かんぞ、メリュジーヌ?」


 平然と、むしろ退屈そうにさえ言う。


「パンデモニウム・オンラインにおいて、毒耐性を100%にするなど、基礎中の基礎だ」


「え?! パンデモニウム・おんらいを? え? どうして?! 屋敷では血を吐いたのに!!」


 メリュジーヌの声が、完全に令嬢の仮面を失って裏返った。目を見開き、口をぱくぱくと動かしながら、ヒュドラーを操ることすら一瞬忘れそうになっている。積み上げてきた計算が、根底から狂わされていく感覚だった。


「あぁ、アレは演技だ」


 リゼルは事もなげに答えた。


「君の裏方の連中を誘き出すために、内臓を魔力で軽く爆破した。超痛かったぞ? 治療費は君の今後の働きに回しておこう」


「そんな! 自分の内臓を爆破なんて、あんた頭おかしいよ!!」


 もはや令嬢の口調を取り繕う余裕さえなかった。丁寧な言葉遣いも、儚げな微笑みも、いつの間にか剥がれ落ちている。素の口調のまま声を張り上げるその姿は、貴族の令嬢というより、ただ理不尽への怒りを隠せない一人の少女そのものだった。


「友達を取り戻すためだ。そのためなら、私は手段なんて選ばんよ」


「なんであたしを友達なんて呼ぶのよ! こんな酷いことしたのに!!」


(安心しろ、メル。パンデモニウム・オンライン時代には、仲間なのに君には何度も何度も酷い目に合わされている)


 リゼルは内心でそう呟きながら、ヒュドラーの首の一本を素手で受け止めた。掌に伝わる衝撃は、五歳の子供のそれとは思えないほど平然と受け流されていく。


「さて、大罪魔法は前庭で使い切った。ここからは、もう少し泥臭くいくぞ」


 迫る首の一本を、リゼルは掌で真正面から迎え撃った。骨と肉がひしゃげる感触とともに、首の中ほどが陥没する。だが即座に肉が盛り上がり、元通りの形へ戻っていく。生々しい再生の光景が、繰り返し目の前で起こっていた。


「悠長に斬っている暇はないな」


 リゼルは両手で別の首を掴むと、そのまま体重を乗せて逆方向へ捻った。骨の軋む音が響き、皮膚と筋が悲鳴のような音を立てて引き裂かれる。力任せに、丸太を裂くようにして首をもぎ取ると、切断面から黒紫の血が噴き出した。もぎ取った首を無造作に放り捨て、次の首へ蹴りを叩き込む。踵が命中した瞬間、首の中ほどが陥没し、そのまま壁まで吹き飛んでいった。


「《ワームブレイカー》」


 地を這うように放たれた重力の斬撃が、別の首を一本、根元から刈り取った。だが、断面からはすぐさま新しい肉が盛り上がり始める。再生の速度は、決して衰えていない。


「な、なんで、そんなに簡単に……!」


 メリュジーヌの声には、既に余裕のかけらもなかった。斬っても、殴っても、引き千切っても、ヒュドラーは次々と新しい首を生やしてくる。だが、リゼルの猛攻もまた止まらなかった。拳で殴り、蹴りで潰し、掴んでは引きちぎり、時折り放つ斬撃で刈り取る。純粋な暴力と魔法とが、境目もなく入り混じっていく。血と粉塵の匂いが、部屋の隅々にまで染み込んでいくようだった。


 リゼルの右手に、暗紫色の魔力が渦を巻きながら収束していく。それは、やがて一振りの剣の形を取った。ただの武器ではない。禍々しい魔力そのものが、刃の形に凝り固まったような、不気味な輝きを放つその剣。


「《デスブリンガー》」


 部屋そのものが、既にヒュドラーの体液と瓦礫にまみれていた。壁は崩れ、天井には大穴が空き、そこから覗く夜空すら煙で霞んでいる。焼け落ちた石材の間から、まだ燻る煙が立ち上っていた。


 その隙を突くように、メリュジーヌ自身が動いた。


 鞭を操る手はそのままに、もう片方の手で懐から暗器を抜き放つ。修練された暗殺者の動きだった。投げつけられた数本の短剣が、リゼルの首、心臓、太腿の急所を正確に狙って飛ぶ。狙いの精度だけを見れば、熟練の域に達していた。


「あら、避けないの?」


 リゼルは避けなかった。飛来した短剣を素手で受け止め、あるいは指先だけで弾き落とす。一本は掌に突き刺さったが、傷口から血が滲むより早く、彼女はその短剣を逆手に持ち替えていた。掌の傷から流れる血すら、彼女にとっては大した問題ではないらしい。


「悪くない狙いだ」


 リゼルはそう言うと、奪った短剣をそのままメリュジーヌへ投げ返した。狙いは殺すためではない。牽制のための一投だった。メリュジーヌは咄嗟に身を捩って躱したが、頬を掠めた刃が薄く皮膚を裂く。


「なっ……!」


「反撃されるとは思っていなかったか?」


 リゼルは笑いながら距離を詰めた。メリュジーヌはヒュドラーを操りながら後退し、同時に袖に仕込んだ別の暗器で斬りかかる。刃と拳がぶつかり合い、リゼルの手の甲に浅い傷が走った。だが、その一撃を受け止めた勢いのまま、リゼルは逆にメリュジーヌの手首を掴み、力任せに捻り上げる。


「痛っ……!」


 短剣が床へ落ちた。金属が石床に当たる、乾いた音が響く。


「鞭も操り、暗器も使い、毒まで放つ。器用なものだな」


「やっぱりあんた、頭おかしいよ!」


 メリュジーヌは掴まれた手を無理やり引き抜き、後方へ跳び退った。着地と同時に、控えていたヒュドラーの首をけしかける。だが、リゼルはそれすらも意に介さず、次々と繰り出される攻撃を素手で捌き続けた。暗器も、鞭も、牙も、彼女の周りではただの障害物に過ぎなかった。


「これじゃきりがないな」


 リゼルは短く息を吐き、両手を大きく広げた。荒れ狂う魔力が、彼女の周囲だけ渦を巻くように収束していく。


「さて、そろそろ本題に入ろうか」


 足元に、いくつもの黒紫の魔法陣が幾重にも重なって展開する。それぞれの陣が独立した意志を持つかのように回転し、複雑な紋様を描いていく。空間そのものが、目に見えて歪み始めていた。


「《グラビトン・フィールド》」


 空間そのものが、下向きに圧し潰されるように歪んだ。残っていた首が、まるで見えない巨人に殴られたかのように、一斉に床へ叩きつけられる。石床が蜘蛛の巣状に砕け、巨体が悲鳴じみた音を立てて軋んだ。押し潰された首は、もはや再生する間すら与えられない。


「あ、う……!?」


 メリュジーヌ自身の身体まで、重力の奔流に押し潰され、その場に崩れ落ちる。ヒュドラーと術者が同時に無力化されるなど、あってはならないはずの光景だった。関節という関節が軋み、指の一本を動かすことすら困難だった。息をするだけでも、肺が押し潰されるような重さを感じる。


 リゼルは、床に這いつくばるメリュジーヌを見下ろした。


 ものすごく邪悪な、それでいてどこか楽しげな微笑みだった。


「動けないだろう? この重圧の中で平然と動けるのは、展開者たる私だけだ。だから、ゆっくり話せる」


「あ、あんた……本当に、頭がおかしいわ……!」


「そう、何度も何度も頭おかしいと言うなよ。友達にそこまでディスられると、さすがに私も凹むぞ?」


 リゼルは笑ったまま、押し潰されている残りの首を見渡した。八本のうち、既に大半が刈り取られている。残るは二本だけだった。歩く先の空気すら、彼女だけには圧力を及ぼしていないかのように、自由に動き回る。


 漆黒の剣が再び閃く。


 一本の首が、抵抗もできぬまま切り落とされた。切断面から噴き出すはずの血飛沫すら、重力に押さえつけられて広がることができない。


「な、なんで……こんな、あっさり……」


 メリュジーヌの声には、もはや余裕のかけらもなかった。グラビトン・フィールドに押さえつけられたまま、目の前で己の切り札が無残に解体されていく様を見せつけられている。抵抗する術は、もう何一つ残されていなかった。


 残る首は、たった一つになった。


「お願い……!」


 メリュジーヌは、押し潰された身体を無理やり引きずるようにして動かした。関節が悲鳴を上げ、指先から血の滲む音がする。それでも彼女は歯を食いしばり、少しずつ、僅かずつ、最後の首の方へと這っていった。石床を掻く爪の音だけが、重い沈黙の中に響いていた。


「お願いやめてください! この子を失ったら、もうなんにも無くなっちゃう!!」


 押し潰される寸前で、メリュジーヌは自らの身体を最後の首へ覆い被せるようにして庇った。震える両腕を広げ、重力に耐えながら、それでも決して退かない。その声は、これまでのどんな悲鳴よりも切実だった。暗殺者としての仮面も、令嬢としての取り繕いも、何もかもかなぐり捨てた、剥き出しの懇願だった。名前も、生まれも、居場所も、すべてが嘘にまみれた少女にとって、目の前で苦しそうに震えるヒュドラーだけが、唯一自分のものだと呼べるものだった。


 リゼルは、デスブリンガーを振り上げたまま、動きを止めた。


 この重圧の中で、あそこまで動いて見せるとは。その一言に込められた重さと、そこに至るまでの意地を、量るように、しばらく黙ってメリュジーヌを見下ろしていた。石室に、しばしの静寂が落ちる。


 そして、黒い剣をふっと消した。刀身が黒い靄となって空気に溶けていく。


「当たり前だろう」


 リゼルは静かに言った。


「それは君の大事な存在だ。私は、友達の大事なものを奪ったりはしない」


 グラビトン・フィールドが解け、部屋に満ちていた圧力が消える。押し潰されていたヒュドラーの最後の首が、力なく、けれど確かに息を吹き返すようにわずかに震えた。


 メリュジーヌは、その場に崩れ落ちた。全身から力が抜け、床に手をついてようやく身体を支える。荒い呼吸だけが、しばらく部屋に響いていた。


「さて、メリュジーヌ。話をしよう」


「……何の話?」


「君のことだ」


 メリュジーヌは笑おうとした。


 だが、上手く笑えなかった。唇の端が、僅かに引きつっただけだった。


「私は、メリュジーヌじゃない」


 その告白は、あまりにも静かだった。冷たい石壁に、その一言だけが染み込んでいくようだった。


 リゼルは黙っていた。


 だから、メリュジーヌは続けてしまった。止まらなかった。胸の奥に押し込めていたものが、ひび割れた器から零れるように流れ出していく。


「違うの。最初から違ったの。メリュジーヌとして生まれたのは、私じゃないの」


 その言葉を口にした瞬間、メリュジーヌの顔が歪んだ。


 ノクタール侯爵家の妾と、生まれた赤子。本物のメリュジーヌ。何も知らずに巻き込まれたメドゥーサ族の女。赤子だった自分。母を人質に取られ、ノクタール家へ送り込まれたこと。侯爵家の娘として育てられながら、裏では暗殺者として調整されてきたこと。オルディアスを殺すための道具として、誕生会のどさくさに紛れ込まされたこと。


 言葉は整っていなかった。


 貴族令嬢らしい口調も、途中から崩れていた。過去の記憶を辿るように、一つ一つの言葉が途切れ途切れに紡がれていく。長年、誰にも語ることを許されなかった真実が、堰を切ったように溢れ出していた。


「私は盗んだの」


 メリュジーヌは震える声で言った。


「名前も、部屋も、服も、家も、全部。私はメリュジーヌとして生まれていないのに、その場所に座って、その名前で呼ばれて、貴族の娘みたいな顔をして生きてきたの」


 リゼルは、少しだけ黙った。


 そして言った。


「だからどうした?」


「え?」


 メリュジーヌが顔を上げる。目には、涙が薄く滲んでいた。


「私は、本物のメリュジーヌじゃない」


「だからどうした」


「暗殺者だよ」


「だからどうした」


「貴女を騙しました」


「だからどうした」


 メリュジーヌの唇が震えた。


 目に涙が浮かぶ。堪えていたものが、今にも溢れそうになっている。積み重ねてきた自己嫌悪の全てが、その一言一言に押し返されていくようだった。


「私は、メリュジーヌじゃない!」


 叫びだった。


 ずっと言えなかった言葉だった。石壁に反響し、しばらく空気の中を漂っているようだった。


 リゼルは一歩近づいた。


「なら誰だ」


「……え?」


「君がメリュジーヌでないなら、今まで私の前にいたのは誰だ」


 リゼルの声は怒っていた。


 けれど、突き放す怒りではない。


「私と話したのは誰だ。私を騙したのは誰だ。私の手を取ったのは誰だ。父親に打たれても泣かなかったのは誰だ。今、そこで泣いているのは誰だ」


「それは……」


「私は君をメリュジーヌと呼んだ」


 リゼルは、メリュジーヌの服の襟元を掴み上げた。指先に、確かな力が込められていた。


「母上もそう呼んだ。メアもそう呼んだ。ルドラもディもきっとそう呼ぶ。ならば答えろ。君は誰だ?」


「リゼル様……」


「私をそんな呼び方で呼ぶな! 私は、お前がお前であり、お前がメリュジーヌだと認めているんだ!」


「でも、私のせいで本物の……」


「知るか馬鹿野郎!」


 リゼルの声が部屋を震わせた。


「そんな昔話と、見たことも会ったこともない親子の話などどうでもいい!」


「でも、私は……」


「まだ言うか馬鹿野郎! ここは魔界だ! 弱肉強食。強ければ生き、弱ければ食われる。それが魔界だ!」


 メリュジーヌの顔が歪む。


「でも私は、お母さんが!」


 その言葉に、リゼルの手が止まった。


 襟首を掴んでいた指が、ゆっくり緩む。石室に、静寂だけが残った。崩れた壁の隙間から吹き込む夜風だけが、二人の間を静かに通り抜けていった。


 その時だった。


 扉が吹き飛んだ。


 石の破片と木片が散り、廊下の向こうから重い足音が近づいてくる。現れたのはルドラだった。片手でバルゼオンの襟首を掴み、床を引きずっている。バルゼオンは既にまともに立てないほど痛めつけられていた。全身に返り血とも自分の血ともつかない痕が点々と残っている。


 そのすぐ後ろには、四本の腕を軽く回しながら欠伸をするドゥルガーの姿もあった。


「あっちの奴らは全部ぶっ殺してきたよー」


 ドゥルガーが、悪びれもせず報告する。


 そしてその後ろには、拘束を解かれたセレスティアがいた。


 ルドラは部屋に入るなり、まずセレスティアへ一歩譲った。先ほどまで城内を蹂躙していた少年とは思えないほど、自然な所作だった。ドゥルガーも同じように、セレスティアの通り道を空けるように一歩下がる。荒々しく暴れていた先ほどまでとは違う、きちんと躾けられたアーシュラ家の子女の顔がそこにあった。


「リゼル!」


 セレスティアの声が響く。


 リゼルは振り返った。


「は、母上……」


 駆け寄りたい。


 だが、リゼルは動けなかった。


 母が無事であることへの安堵と、母の前で今の自分が何をしているのかという自覚が、同時に胸へ押し寄せたからだ。全身に纏わりついた返り血も、荒れ果てた部屋も、今の自分の姿の全てが、急に生々しく感じられた。


 セレスティアは娘へ駆け寄った。


 だが、まだ抱きしめなかった。リゼルの目が、バルゼオンへ向いていることに気づいたからだ。


 終わっていない。


 セレスティアは、それを理解した。


 ドゥルガーもまた、部屋の空気が変わったことを敏感に察していた。先ほどまでの騒がしさが噓のように、四本の腕を垂らしたまま、静かに成り行きを見守っている。


 リゼルは涙を堪えたまま、ルドラが引きずってきたバルゼオンへ視線を向ける。


「メリュジーヌの母親はどこだ?」


 バルゼオンは血の混じった唾を吐き、笑った。


「その小娘の母親なんて、とっくの昔に殺してやったさ」


 空気が凍った。


 メリュジーヌの目が見開かれる。


「そんなことにも気づかず、今までその小娘は組織の暗殺者として生きてきたんだ。ノクタールはヴァルクロアの派閥だ。ざまぁみろ。これでオルディ――」


「メリュジーヌの母親はどこだ?」


 リゼルの声は、不気味なほど重かった。


「だから殺したと言ってんだろ、このクソガキが!」


「三度目はないと言うべきだったな」


 リゼルの足元に、黒紫の魔法陣が開く。


 この世界には存在しない形の処刑具が、闇の中から現れた。鉄の乙女。内側に無数の鋭い針を持つ、閉じれば逃げ場のない処刑具。


「《処刑具召喚・アイアンメイデン》」


 バルゼオンが初めて恐怖に顔を歪めた。


「ま、待て、やめろ! やめてくれ! 頼む、助けてくれ!」


 リゼルは無言のまま、バルゼオンの身体を乱暴に蹴り飛ばした。抵抗する間もなく、その巨躯が鉄の処女の中へ叩き込まれる。鉄の扉が開き、内部の棘がバルゼオンを捕らえた。悲鳴が上がる。先ほどまでの嘲笑は消え、罵倒も誇りも剥がれ落ち、残ったのは生きたいと泣き叫ぶ声だけだった。


「悪かった! 俺が悪かった! 話す、何でも話す! だから助けてください! お願いします! やめろ、閉じるな、やめてくれぇえええええ!」


 鉄の処女が閉じていく。


 バルゼオンの絶叫が、石室に反響した。


 ルドラは眉一つ動かさず、その光景を見届けていた。だが、隣に立つドゥルガーは、さすがに顔を強張らせている。数えきれないほどの敵を笑いながら殴り倒してきた彼女でさえ、リゼルの静かな処刑には、僅かに息を呑んでいた。


(……リゼル、たまに本当に怖い)


 その心の声を、口には出さなかった。出せる空気ではなかった。


 リゼルはそれを見上げていた。ゴミ虫を見るような目で。


「耳障りなレクイエムだな。奏者も楽器も三流メーカーだな」


 やがて、鉄の処女が完全に閉じた。


 断末魔は、長くは続かなかった。


 静寂が戻った時、リゼルの胸の奥では、まだ憎悪のマグマが煮え滾っていた。後悔などない。あの男は母を攫い、メリュジーヌを踏みにじり、死者を嘲った。処分は当然であり、むしろ足りないくらいだとさえ思っていた。


「リゼル……」


 セレスティアの声がした。


 リゼルは、そこでようやく気づいた。


 母が見ている。


 セレスティアが、自分を見ている。


 5歳の少女が、母親を攫った相手を処刑した。友のために怒り、幼く小さな手を血に染めた。その事実が、リゼルの胸に冷たい影を落とす。


 母上は、私をどう見るだろう。


 怪物と見るだろうか。


 恐ろしい娘だと、遠ざけるだろうか。


「お疲れのところ、耳障りな害虫駆除でお騒がせ致しました、母上」


 リゼルは深く頭を下げた。


 礼儀正しく。


 あまりにも礼儀正しく。


 それは、母に拒絶されるかもしれないという恐怖を隠すための仮面だった。


 セレスティアは、リゼルを見て、メリュジーヌを見て、ルドラとドゥルガーを見た。母を救うために血に濡れた娘。自分を偽物だと責めながら泣きそうな少女。荒々しく戦いながらも、今は二人揃って口を閉ざしているアスラ族の兄妹。崩れ果てた部屋の惨状もまた、この夜起きたことの全てを物語っていた。


 その全てを見たうえで、セレスティアは静かに歩み寄った。


「リゼル」


「は、母上」


 リゼルの声が揺れた。


 セレスティアは膝を折り、小さな娘を優しく抱き寄せた。腕の中に伝わる娘の体温は、まだ小刻みに震えていた。


「怖かったでしょう」


「……私は」


「怒ったのですね。私のために。メリュジーヌ嬢のために」


 リゼルの肩が震えた。


「母上……私は、私は……」


「分かっています」


 セレスティアはリゼルの頭を胸へ抱いた。


「貴女が何をしたのかも、何故そうしたのかも、私は見ていました」


「……恐ろしくは、ないのですか」


 それは、ほとんど聞こえないほど小さな声だった。


 セレスティアは答える代わりに、さらに強く抱きしめた。


「貴女は私の娘です」


 その一言で、リゼルの顔が歪んだ。


「母上……母上ぇ……!」


 リゼルは泣いた。


 5歳の少女らしく、母の胸に縋って泣いた。堰を切ったように、これまで我慢していたものが一気に溢れ出していく。今宵一晩で溜め込んだ全てが、その涙に溶け出しているようだった。


 メリュジーヌも泣いていた。


 ルドラは困ったように頭をかいたが、何も言わなかった。


 その隣で、ドゥルガーは珍しく黙り込んでいた。いつもなら「泣かないの!」と元気よく声をかけるところだろうが、今はそれすら憚られる空気だった。四本の腕を所在なさげに組み替えながら、彼女はただ静かに、母娘の抱擁を見守っていた。


「……あたしも、抱きしめてほしくなっちゃうな」


 小さく零れたその呟きに気づいたのは、隣に立つルドラだけだった。


「らしくねぇこと言ってんじゃねぇよ、ディ」


「うるさいなぁ、ルドラ兄ぃには分かんないの」


 二人のそんなやり取りも、今だけは誰の耳にも届かなかった。


 しばらくして、リゼルはセレスティアの腕の中から離れ、メリュジーヌへ向き直った。目元はまだ赤いままだったが、その瞳にはもう迷いがなかった。


「君が誰でも、私には君はメリュジーヌだ。我が友だ」


「り、リゼル様……」


 リゼルは突然背中の小さな翼をはためかせ、メリュジーヌと目線を合わせる高さまで浮かび上がると、その頬をつまんだ。


「り、りぜるざまぁ?」


「違う! リゼルちゃんだ!」


 場の全員が固まった。


「はい?」


「君は女友達だから、私をリゼルちゃんと呼べ。拒否権は認めない。いいな、メル」


「メル……?」


「君は私をリゼルちゃんと呼ぶ。私は君をメルと呼ぶ。それだけだ。いいな!」


 メリュジーヌは、涙で濡れた顔のまま、少しだけ笑った。


「……はい、リゼルちゃん」


 リゼルも笑った。


 その笑顔は、先ほどまでの凶悪なものではなかった。


 ルドラが口を開く。


「じゃあ、俺様もリゼルちゃ――」


「お前はやめろ! せっかくのキャラクターイメージが崩れる!」


「きゃらくたぁいめぇじ? 何だよそりゃ」


「そういうものだと思っておけ!」


「じゃあ、あたしは?」


 ドゥルガーが四本の腕を挙げて名乗りを上げた。


「あたしもリゼルちゃんって呼んでいい?」


「駄目だ」


 リゼルは即答した。


「ディ、君は私の嫁だからな。嫁が『ちゃん』付けなど許されん」


「えー!? メルちゃんだけずるーい!」


「わ、私に振らないでくださいまし……」


 メリュジーヌが、涙の跡も乾かぬ顔のまま、困惑した声を漏らした。急に自分へ話を振られても、何と答えていいのか分からないらしい。


 リゼルは笑った。


「あははははははっ!」


 その笑い声は、ようやく少しだけ年相応だった。


 だが、次の瞬間、リゼルの頭の中で別の計算が走る。


(これで、メア、ルドラ、ディ、メル。最強のユニットが四人だ。あと三人……いや、そうだ。ここは……!)


 リゼルは思い出した。


 ここはベルルカリス伯爵家の打ち捨てられた城。ヴァルクロア大侯爵家に敵対する派閥と繋がる場所。そして、今この瞬間、まだ手を伸ばせる何かが残っているかもしれない場所だった。


 リゼルは満足げに頷くと、メリュジーヌとドゥルガーへ向き直った。


「さぁ、メル! ディ! 女三人仲良く宝探しだぞ!!」


「わーい! 宝探し!」


 ドゥルガーが両手――四本の腕を全て上げて、飛び跳ねんばかりに喜んだ。


「……何だか、とてつもなく嫌な予感がしますわ」


 メリュジーヌは、これから起こることを察したような、それでいて逃げ場のない顔で呟いた。


「あ? ちょっと待て」


 ルドラが眉をひそめた。


「それだと、セレスティア様の護衛は俺様一人になんだろ? 皆んなで行きゃいいだろう?」


「もー! ルドラ兄ぃ」


 ドゥルガーが即座に口を挟んだ。


「セレスティア様は疲れているんだよ? ルドラ兄ぃは男なんだから、ちゃんとお友達のお母さんを守ってあげなきゃダメでしょ!」


「う?!」


 ルドラが虚を突かれた顔になる。


「そ、それもそうだな……」


「ルドラ殿、私は大丈夫ですよ」


 セレスティアが穏やかに口を挟んだ。


「母上!」


 リゼルの声が飛んだ。


「は、はい!」


 セレスティアが、思わず背筋を伸ばす。


「もしもまた母上が拐かされたら、今度こそ敵は間違いなく父上を殺しに参ります。母上は、御身の大事をご承知おきください」


 5歳の娘に、大貴族としてのあるべき振る舞いを説かれ、セレスティアは少しだけしょんぼりと肩を落とした。


「……はい。以後、気をつけます」


「よろしい」


 リゼルは、メリュジーヌとドゥルガーの手をそれぞれ取った。


「行くぞ!」


 二人が戸惑う間もなく、リゼルは彼女たちの手を引いて部屋を飛び出した。廊下の奥へ消えていくその後ろ姿を、崩れた壁の隙間から差し込む月明かりが照らしていた。


 残されたルドラは、呆れたように笑った。


「……あいつら、揃いも揃って落ち着きがねぇな」


 セレスティアは、娘の消えた廊下を見つめていた。


 その表情は、母としての不安と、大侯爵夫人としての誇りが入り混じったものだった。


「ええ」


 セレスティアは小さく微笑んだ。


「あの子は、昔から少し忙しい子なのです」


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回――


リゼルが欲しがったバースデープレゼントは、

魔界の至宝《魔鞭ヒュドラー》でも、金銀財宝でもなく。


メリュジーヌ本人でした。


「私が欲しいのはね、君だよ、メリュジーヌ」


そして――


リゼル様から、

リゼルちゃんへ。


メリュジーヌから、

メルへ。


長い間、誰かの命令に従うことしか許されなかった少女に、

ようやく一人の友達ができました。


……もっとも。


これで全て丸く収まるほど、

リゼルは優しくありません。


女三人で始まった、古城の“宝探し”。


そこで見つかるものは、

金貨や宝石だけではなく――。


そしてメルには、

まだまだ直してもらわなければならないことが山ほどあるようです。


――次回。


Ver.2 Poison Chapter 5-4


『悪役令嬢への道のりは、まだまだ遠いぞ!』


暗殺者として染みついたその立ち方も。

視線も。

言葉遣いも。


全部まとめて――


「私が叩き直す」


どうぞ、お楽しみに。

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