Ver.2 Poison Chapter 4-3 招待状のない少女
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ベルルカリス領の古城。
囚われたセレスティア。
傷ついたメリュジーヌ。
そして、オルディアスへの憎悪を抱く暗殺者たちの首魁。
冷たい地下室で交わされる、それぞれの言葉。
今回は、三人の会話を中心に物語が進みます。
ベルルカリス領の山間には、忘れられた古城があった。
かつてはベルルカリス伯爵家の支城として使われていた場所である。領内の要所が移ってからは守備兵も置かれず、今では崩れかけた城壁と、苔に覆われた回廊だけが過去の名残を留めていた。月明かりに照らされた尖塔は、魔界の闇に沈み損ねた巨大な骨のように、山の中腹から突き出している。風が抜けるたびに、崩れた石材の隙間から低い唸りのような音が漏れ、まるで城そのものがまだ息をしているかのようだった。
だが、完全に捨てられた城ではなかった。
表向きには放棄された古城。朽ちた城門には蔦が絡み、石畳には雑草が生い茂っている。かつて紋章旗がはためいていたであろう塔の先端には、今では鳥の巣すら見当たらない。けれど、その地下だけは違う。人の出入りした痕跡があり、古びた扉には新しい錠が掛けられ、壁に埋め込まれた黒い魔石には魔力が通されていた。表の朽ち果てた静けさと、地下に漂う人工的な緊張感。その落差こそが、この城の本当の姿を物語っていた。
誰が許し、誰が見逃しているのか。そこまで知る者は多くない。ただ今夜、この城の地下には、本来の城主ではない黒衣の者たちが集まっていた。
湿った石と、古い血の匂いが漂う地下室。
壁を伝う水滴の跡が幾筋も黒く染み付き、床には長年かけて積もった塵と、それよりも新しい何かの染みが混ざり合っている。黒い魔石が放つ紫色の光の下で、セレスティア・ロア・ヴァルクロアは椅子に拘束されていた。
乱暴に縛られてはいない。衣服も大きく乱れておらず、目立った外傷もない。だが、それは彼女を丁重に扱っているからではなかった。両手には魔封じの枷が嵌められ、足元には通信と転移を封じる魔法陣が刻まれている。指先の感覚すら奪うほど冷たい金属の感触が、彼女がここでどのような扱いを受けているのかを雄弁に語っていた。
人質としての価値を損なわせない。ただ、それだけだった。
そして、その少し前。
メリュジーヌは、冷たい石床に膝をついていた。
ノクタール侯爵に何度も打たれた頬は赤く腫れ、その上からさらに新しい傷が増えている。口元は切れ、肩の布は裂け、普段なら勝手気ままに蠢いている蛇髪の数匹まで、力なく垂れ下がっていた。乾きかけた血の匂いが、彼女自身の呼吸にまで混じり込んでいる。
それでも、メリュジーヌは泣かなかった。
助けを求めることもない。ただ俯き、呼吸を殺している。その姿は、痛みに耐えているというより、痛みそのものに慣れきってしまった者のそれだった。その小さな背中へ、地下室の奥から低い声が落ちた。
「その顔だ」
闇そのものが形を得たかのように、一人の男が姿を現した。足音はほとんど聞こえなかった。ただ、空気の重さだけが先触れのように地下室へ広がっていく。
背には、瘴気を纏う巨大な漆黒の翼。額から伸びる2本の角。裂けた口の端から覗く鋭い牙。210センチはあろうかという長身が、低い地下室の天井をさらに狭く見せている。壁に埋め込まれた魔石の光が、その輪郭を下から照らし上げ、翼の付け根に走る古い傷跡を浮かび上がらせていた。
バルゼオン・ディグラード。
かつてディグラード大侯爵家の嫡男だった男である。その父は妖鳳公キュマイラの派閥に身を置きながら主家を裏切り、その裏切りを咎めて処断したのが――オルディアス・ノクス・ヴァルクロアだった。
父は処刑され、家は没落。領地も財産も失い、ディグラードの名は表舞台から消えた。長い年月を経てもなお、バルゼオンの中から消えなかったものがある。
オルディアスへの憎悪だった。それは、時が経つほどに薄れるどころか、彼の内側で澱のように沈み、固まり、今ではもう彼自身の輪郭の一部と化していた。
「任務を終えた道具が、何を悔やむ?」
バルゼオンがメリュジーヌの顎を掴み、無理やり顔を上げさせる。その指先には、これが何百回目かも分からないとでも言うような、慣れきった無造作さがあった。
蛇髪の一匹が小さく牙を剥いた。だが、バルゼオンが目を向けただけで、その蛇は怯えたように主人の髪へ潜り込んだ。
「悔やんでなんかいない」
メリュジーヌは掠れた声で答えた。喉の奥が乾いているのか、その一言だけでも僅かに咳き込みそうになる。
「では、その顔は何だ」
「疲れただけ。あれだけ派手に動かされれば、誰だって疲れるでしょ?」
バルゼオンが鼻で笑う。低く、乾いた笑い声が石壁に反響した。
直後、靴先がメリュジーヌの腹へめり込んだ。
「――っ!」
小さな身体が折れ、そのまま石床へ転がる。切れた唇から落ちた血が黒い床へ新しい染みを作り、それを見たセレスティアの指が、枷の中で強く握られた。爪が掌へ食い込むほどの強さだったが、彼女はそれに気づいてすらいないようだった。
「口が減らんな」
「……結果は、出したはずだけど」
息を整えながら、それでもメリュジーヌは言葉を絞り出す。
「結果だけを見ればな」
バルゼオンは倒れたメリュジーヌを見下ろした。その目には、道具の性能を確認するだけの、感情の伴わない冷たさがあった。
「オルディアスの妻はここにいる。ヒュドラーも動いた。招待状も置いた。だが、随分と派手にやってくれたものだ」
「それほど不満があるなら……」
メリュジーヌは片手を床につき、ゆっくりと身体を起こした。震える腕に力を込め、なんとか上体だけでも起こそうとする姿は、それだけで痛々しかった。
「あんたがやればよかったんじゃない?」
壁際に並んでいた黒衣の刺客たちが、僅かに身じろぎした。空気が一段と冷える。
「誰に口を利いている?」
「あんたに、だよ」
拳が飛んだ。
鈍い音とともにメリュジーヌの顔が横へ弾け、小さな身体が再び床へ倒れる。切れた口元を押さえることもせず、メリュジーヌはただ男を睨み返した。頬に落ちた蛇髪の一匹が、ぴくりと震えて主人を庇うように動いたが、それ以上は何もできなかった。
「やめなさい」
静かな声が地下室を通った。
大声ではなかった。それでも、バルゼオンだけではなく、壁際に立つ黒衣の刺客たちまで一斉に振り返る。声そのものに、有無を言わせぬ重みがあった。
セレスティアだった。
「その子は、まだ子供です。それ以上、傷つける必要はないでしょう」
「これはこれは」
バルゼオンが振り返る。口元には、面白がるような笑みが浮かんでいた。
「さすがはオルディアスの女。椅子に縛られていても、随分と気丈だ」
「気丈なつもりはありません。ただ、目の前で子供が傷つけられているのを黙って見ていることができないだけです」
「子供ではない。道具だ」
その言葉に、セレスティアの表情が僅かに曇った。悲しみとも怒りともつかない、複雑な影がその顔をよぎる。
「そうですか」
それ以上、彼女は言い返さなかった。ただ床に倒れているメリュジーヌへ視線を向け、怪我の具合を確かめるように見つめている。拘束された身では手を伸ばすことすら叶わないというのに、その眼差しだけは、傷ついた子供へ向けられる母親のそれだった。
バルゼオンは、その態度が気に入らなかったのか、低く鼻を鳴らした。
「随分と余裕があるらしいな」
「そう見えますか?」
「自分が何のためにここへ連れてこられたのか、理解していないわけではあるまい」
「夫を誘き出すためでしょう?」
セレスティアの答えに迷いはなかった。
バルゼオンの口元が吊り上がる。牙の隙間から、僅かに息が漏れた。
「話が早い」
「あなたは、夫を憎んでいるのですね」
「憎んでいる程度の言葉で済むと思うか」
その名を思い浮かべただけで、男の声の奥に粘ついた怒りが滲んだ。長年かけて熟成された憎悪が、言葉の端々から漏れ出してくるようだった。
「あの男は私の父を処刑した。家を潰し、領地を奪い、ディグラードという名を地に落とした。俺はそれを忘れたことなど一度もない」
セレスティアは黙って聞いていた。
肯定もしない。否定もしない。ただ、目の前の男が夫へ向けている憎悪を、静かに受け止めていた。その沈黙は、逃げでも屈服でもなく、相手の言葉の重さを正確に測るためのものだった。
「だから、私を使って夫をここへ?」
「ああ」
「そうですか」
セレスティアはそれだけ答えた。声には震え一つなかった。
あまりにも静かな反応に、バルゼオンの眉が動く。予想していた恐怖や懇願とはあまりにもかけ離れた態度だった。
「怖くないのか?」
「怖いですよ」
意外なほど素直な答えだった。
「私は戦うことが得意ではありません。こうして拘束されてしまえば、自分一人でできることなどほとんどありませんもの」
そこでセレスティアは、ほんの少しだけ笑った。恐怖の中にあってなお崩れない、静かな微笑みだった。
「でも、夫はきっと私を救うために最善を尽くしてくれているでしょう」
「……随分と信頼しているらしいな」
「夫ですから」
それは虚勢には聞こえなかった。
セレスティアは夫を信じている。必ず自分を取り戻すために動いていると信じているからこそ、その声には焦りも疑いもなかった。長年連れ添った夫婦だけが持つ、言葉を超えた確信のようなものが、その一言には宿っていた。
バルゼオンは数秒だけセレスティアを睨み、それからメリュジーヌへ視線を戻した。
「立て」
メリュジーヌがゆっくり身体を起こす。腹を庇うようにしながらも、それでも命令に逆らうことはなかった。
「ヒュドラーを動かせるのはお前だけだ。だから生かしている。そこを履き違えるな」
「……分かってる」
「余計な情を見せるな。命令されたことだけをしろ」
メリュジーヌの指が、ほんの僅かに止まった。その一瞬の停滞に、バルゼオンの目が細くなる。
「……分かってる」
「ならいい」
バルゼオンは踵を返した。
「女は傷つけるな。逃がすな。オルディアスを引きずり出すための餌だ」
壁際の黒衣たちが一斉に頭を下げる。誰一人として、言葉を発する者はいなかった。
セレスティアは、遠ざかっていく背中へ静かに問いかけた。
「夫が来たら、どうするつもりです?」
バルゼオンの足が止まった。
「決まっているだろう」
ゆっくり振り返る。その顔には、これ以上ないほど確信めいた笑みが浮かんでいた。
「殺す」
地下室に、男の声が響いた。反響した声が、しばらく冷たい石壁の間を漂っていた。
「ここは、あいつを殺すための狩場だ」
「そうですか」
セレスティアは静かに答えた。
「では、お待ちしています」
バルゼオンは何も答えなかった。ただ、僅かに片眉を上げただけだった。
重い扉が閉まり、男の足音が地下の奥へ消えていく。残された魔石灯の光が二人を照らし、湿った石壁の向こうから、水滴の落ちる音だけが一定の間隔で響いていた。その規則正しい音だけが、時間が確かに流れていることを教えてくれた。
しばらく、誰も喋らなかった。
「メリュジーヌ嬢」
「……その呼び方、やめて」
床へ座り込んだメリュジーヌが、手の甲で口元の血を拭った。乾いた血が皮膚に張り付き、拭った跡には赤黒い筋が残った。
「わたしは、そんな綺麗なものじゃない」
「では、何と呼べばいいの?」
「何でもいいでしょ。敵でも、暗殺者でも、裏切り者でも」
「では、メリュジーヌ嬢と呼びます」
「……話、聞いてた?」
「ええ」
「だったら、どうして」
「私の娘が、あなたをそう呼んでいましたから」
メリュジーヌが黙った。腫れた頬の下で、僅かに表情が揺れる。
「……リゼル様は、馬鹿だと思う」
「そうね」
セレスティアが小さく笑う。冷たい地下室には不釣り合いなほど、柔らかな笑みだった。
「時々、とても愚かです」
「母親が言うんだ」
「母親だから言えるのよ」
メリュジーヌの蛇髪の一匹が、力なく顔を上げた。
「でも、あの子は一度自分で選んだ相手を、簡単には捨てません」
「だから何だって言うの?」
メリュジーヌの声が尖った。押し殺していた何かが、堰を切ったように溢れ出す。
「わたしはあの子を騙した。毒を運んだ。あなたが攫われるのだって止められなかった。あの子が差し伸べてくれた手を――全部、踏みにじったんだよ」
セレスティアは、すぐには答えなかった。
薄紫色の魔石灯が、メリュジーヌの腫れた頬を照らしている。怒っているようにも見える。けれど、その目の奥にあるものは、誰かを傷つけたことを喜ぶ者のそれではなかった。むしろ、傷つけた自分自身を許せずにいる者の目だった。
「それでも、あなたは今、苦しそうに見えます」
「当然でしょ。蹴られたんだから」
「そういう意味ではありません」
メリュジーヌが目を逸らした。視線の先には、何もない冷たい石壁があるだけだった。
「あなたは、リゼルを憎んでいるの?」
「……関係ない」
「そう」
「憎んでいなくても、傷つけることはある」
メリュジーヌの指が、床の上で握られた。骨が浮くほどの力で。
「助けたいと思っても、突き放すことだってある。そうしなきゃいけない時が……あるんだよ」
「そう」
セレスティアは、それ以上聞かなかった。
追及もしない。今のメリュジーヌが話したくないのなら、無理に聞き出そうとはしなかった。相手の心の奥にある扉を、力ずくでこじ開けるようなことはしたくなかった。
「何?」
「いいえ」
「……聞かないの?」
「今のあなたに聞いても、話してくれないでしょう?」
「当たり前でしょ」
「なら、聞きません」
「……変な人」
「よく言われます」
「誰に?」
「娘に」
メリュジーヌの口元が、ほんの僅かに動いた。
笑ったのか。痛みに歪んだだけなのか。セレスティアには分からなかった。だが、その僅かな変化だけで、彼女の中の何かが緩んだことだけは伝わってきた。
「……オルディアス様は、来ない方がいい」
不意に、メリュジーヌが呟いた。
セレスティアは何も言わず、その続きを待った。
「ここは、あの人を誘き出すために用意された場所です。来たら……危険です」
「夫は、きっと私を救うために最善を尽くしてくれているでしょう」
セレスティアは、穏やかに言葉を重ねた。
「屋敷を守ることも、敵の痕跡を追うことも、兵を動かすことも。あの人なら、私を取り戻すために必要なことを、もう始めているはずです」
そこに疑いはなかった。
セレスティアは夫を信じている。必ず助けに来ると信じているからこそ、その声には焦りも恐怖もなかった。長年連れ添った夫の性分を、彼女は誰よりもよく知っていた。
「ですが――」
セレスティアは、そこで小さく息を吐いた。
困ったような、それでいてどこか愛おしそうな表情が浮かぶ。まるで、手のかかる子供のことを思い出しているかのような顔だった。
「たぶん、あの子は夫より先に動いてしまいます」
「……あの子?」
「リゼルよ」
メリュジーヌの瞳が揺れた。
「あの子はいつもそうなの。私たち夫婦が守ろうとしているのに、気がつけば何歩も先へ、一人で進んでしまう」
セレスティアは、娘の姿を思い浮かべるように目を細めた。その瞳の奥には、呆れと誇らしさが入り混じった、複雑な光が揺れていた。
「危ないから待ちなさいと言っても、自分が行くと決めたら聞いてくれない。私たちが追いつこうとした頃には、もうその先で自分の答えを出してしまっているのよ」
「……」
「だから、きっと今回だって――もう、動いていると思うわ」
メリュジーヌの顔から血の気が引いた。
「そんな……」
「ええ。本当に困った子なの」
そう言いながらも、セレスティアの声には僅かな笑みが混じっていた。困り果てているはずなのに、その声音はどこか楽しげでさえあった。
「それに――あの子は、一度自分にとって大切なものだと決めた相手を、絶対に手放さないの」
メリュジーヌの瞳が大きく揺れた。
「何があっても、どこまででも追いかける。傷つけられれば怒るし、奪われれば取り返しに行く。あの子には、それを本当にやってしまうだけの力もあります」
実のところ、セレスティアはリゼルの本当の力を、この目で見たことがない。母として知っているのは、屋敷の中で見せる、多少大人びてはいるが、それでもまだ幼い娘の姿だけだった。
だからこそ、少し前にオルディアスから、アーシュラ侯爵領への外遊での出来事を聞かされた時は素直に驚いた。武門の名家アーシュラ家の兄妹を相手に、たった4歳の娘が正面から打ち負かしたという。
けれど、その驚きと同時に、セレスティアの胸には安堵も広がった。この魔界は弱肉強食の理でできている。そんな世界で、娘が自分の身を守れるほどの力を持っているという事実は、母親として何より心強かった。
この子なら、きっと大丈夫。
そう思わせてくれるだけのものが、リゼルの中には確かにあるのだと、セレスティアは信じていた。
「……私は」
メリュジーヌの声が掠れた。
「私は、あの子の敵よ?」
「ええ」
セレスティアは否定しなかった。その即答が、かえってメリュジーヌの胸を締め付けた。
メリュジーヌが目を見開く。
「リゼルを騙して、傷つけて……それなのに、どうして……」
言葉が続かなかった。喉の奥で、何かがつかえているようだった。
セレスティアは、そんなメリュジーヌをしばらく見つめた。それから、ほんの少しだけ困ったように笑った。
「それが、リゼルなのよ」
「……」
「だから、メリュジーヌ嬢」
セレスティアの声音が、わずかに柔らかくなる。
「残念だけれど――諦めて、守り抜かれて頂戴ね」
メリュジーヌの顔が歪んだ。
責められた方が、まだ楽だったのかもしれない。裏切り者と罵られ、敵だと切り捨てられた方が、ずっと簡単だった。そうすれば、少なくとも自分の立ち位置だけははっきりしていただろう。
けれど、リゼルはそうしないという。
来てしまう。
自分がどれだけ拒もうと、どれだけ敵の顔をしてみせようと。その事実だけが、メリュジーヌの中の何かを静かに崩していく。
「……来ないで」
「え?」
「来ないで……リゼル様」
消え入りそうな声だった。
「お願いだから来ないで」
セレスティアは黙って彼女を見た。
メリュジーヌは顔を上げない。膝の上で握り締められた指だけが、小さく震えていた。地下室の冷たさとは無関係な震えだった。
「貴女には……招待状は無いって言ったんだから……」
冷たい地下室に、その小さな声だけが残った。水滴の音だけが、変わらず一定の間隔で響き続けていた。
お読みいただき、ありがとうございました。
「来ないで」と願うメリュジーヌ。
けれど、セレスティアは知っています。
自分の娘は、一度大切だと決めた相手を簡単には手放さないことを。
そして――招待されていなくても、きっと来ることを。
次話
Ver.2 Poison Chapter 4-4 『戦争の時間だ』
今度は、招待状のない少女が動きます。
引き続き、お付き合いいただけましたら幸いです。




