異世界理美の気持ち
少しシリアスより?
日本での私は、生活の面でも経済的な面でも、十分に恵まれた暮らしをしていたと思う。
といっても、大金持ちだったとか、ものすごく裕福だったというわけではない。
ただ、お金の管理は全部パパがしてくれていた。
私は、パパが管理している中でクレジットカードを使い、自由にお金を使っていた。
私はお得なことが大好きだった。
今も好きだと思う。
でも、私の好きな「お得」というのは、電気を消したから電気代が少し減ったとか、安いお肉を買ったから今日の買い物代が少なく済んだとか、そういうことではない。
株主優待の商品が届いた。
ふるさと納税のお肉が届いた。
ポイントをうまく使って、普通に買うより得をした。
そういうときに、「得したな」と実感できることが楽しかったのだ。
得をしたことで生活が助かったから嬉しいというより、得をしたと実感すること自体を楽しんでいたのだと思う。
だから、最近は電気代が高くなったから少し節電してくれと言われれば、
「ごめん、気をつける」
とは言う。
けれど、家計全体のことは自分の管轄外だと思っていたので、普段から電気代や生活費のことを細かく考えながら暮らしていたわけではなかった。
そういう意味では、日本にいた頃から、経済的には少しファンタジーのような世界で暮らしていたのかもしれない。
けれど、人間が生きていれば、何かしらはある。
人生は楽しいことばかりではない。
家族のこと、お金のこと、仕事のこと、人間関係のこと。
行き詰まったり、何かにぶつかったり、つらいときや苦しいときは、誰にでもあるものだと思う。
ところが、今の私には、それが何もない。
家族の問題もない。
金銭的な問題もない。
仕事に追われることもない。
人間関係に悩むこともない。
多くの人が、少しはつらい、少しは大変だと思いながら抱えているものが、今の私の生活には一切ない。
私は今も、この世界のことを異世界と呼んでいる。
JINさんの世界の名前すら知らないし、まだこの世界と触れ合う勇気が持てていない。
日本の家をそのままコピーした家に住み、そこから一歩も外へ出ず、日本にいたときと似たような暮らしをしている。
それでも私は、やはり異世界で暮らしているのだと思う。
見たことのない景色の中で暮らしているからではない。
魔法のある世界にいるからでもない。
現実では誰もが何かを抱えながら生きている。
そんな当たり前の日常から切り離された生活を送っているからだ。
ああ、私はやっぱり異世界で暮らしているんだ。
私は、異世界の理美なんだ。
そう思う。
私は、今のこの生活を、自分の人生のボーナストラックのようなものだと思っている。
本編が終わった後に付いてくる、おまけのような人生。
せっかく与えられたボーナストラックなのだから、精一杯楽しみたいと思う。
そして、もしこの異世界での生活が、いつか日本の私の中に、いい思い出として残るのなら、
異世界へ行けてよかった。
そう、日本の私が思えるようにしたい。
そのためにも私は、このおまけの人生を、全力で楽しみたいと思う。
そんなことはさておき
今は、コンタクトレンズの話である。
日本にいた頃の私は強度近視だった。
コンタクトレンズはワンデータイプのトゥルーアイを使っていて、五十歳近くまでは朝から寝る直前までつけている生活だった。
しかし、強度近視のため角膜が傷つきやすく、年に一度くらい角膜を傷つけてしまうことがあった。
眼科で「コンタクトレンズをつける時間を短くしたほうがいい」と言われてからは、生活を少し変えた。
出かけない日は、目が疲れない程度の度数にしたメガネで過ごす。
そして、外出するときだけコンタクトレンズをつけるようになった。
異世界へ来て二十二歳の体になった今、そのメガネはゆるゆるになってしまっていた。
痩せて顔の大きさが変わったからだ。
それはヒューゴに調整してもらい、今は問題なく使えている。
ただ、ダンスやミュージカルのレッスンをするときは、やはりコンタクトレンズのほうが動きやすい。
それに、日本で五十三歳だった頃は、コンタクトレンズをつけると近くが少し見にくかった。
メガネは少し弱めの度数にしていたので近くも見やすかったのだが、コンタクトレンズではそれが少し不便だった。
ところが、二十二歳の体になった今は、その見にくさがなくなっていた。
やはり若い目は違う。
そのため、ダンスやレッスンのときにはコンタクトレンズを使うことが増えていた。
しかし、日本では外出するときくらいしか使っていなかったので、コンタクトレンズの在庫はそれほど多く持ってきていない。
最近はレッスンで使う機会が増えたこともあり、残りがだんだん少なくなってきた。
私は、とりあえずJINさんに相談してみることにした。
いつものようにInstagramのDMで、
「JINさん、ちょっと相談があるんですけど、お時間ありますか?」
と送る。
すると、すぐにInstagramの通話がかかってきた。
「こんばんは。どうされましたか?」
「実は、コンタクトレンズの在庫が少なくなってきたんです。神様の力で、視力を良くすることってできますか?」
JINさんは穏やかに頷いた。
「はい。できます。」
「本当ですか?」
「もちろんです。」
私は思わず笑顔になった。
「ありがとうございます。でも、視力がいい人って、老眼になるのが早いって聞いたことがあるんですよね。私はどうなんでしょう。」
そんなことを考えていて、ふと思った。
今の私の生活は、全部JINさんに支えられている。
この家も、ヒューゴも、この異世界での暮らしも。
何十年もこの生活を続けられるかどうかも、結局はJINさん次第だ。
そう考えると、私は少し慌てて言った。
「あっ、すみません。何十年も暮らす前提みたいな話をしちゃいました。
私は、この生活をボーナストラックみたいなものだと思っているんです。
だから、もしJINさんが、この生活に興味を失ってしまったら、その時はいつでも、この異世界で暮らしたことを、日本の私のいい思い出、いい記憶として戻してください。」
JINさんは静かに首を横に振った。
「そのようなことは絶対ありません。
私は神です。
生きとし生けるもの、すべてを愛しています。
私にとって愛とは、減るものではありません。
増えていくものなのです。」
…あれ?
そういえば以前、JINさん、
「ウマ娘、完全に卒業しました。」
って言ってなかったっけ。
……あ、ゲームだから、生きとし生けるものっていうカウントじゃないのか(笑)




