異世界のど自慢ごっこ
AIJINとして土曜日の配信へ参加するようになってから、JINさんは毎回アリーナ5000ポイントを投げて応援してくれている。
本来は私のゼニーから差し引く約束だった。
しかし、JINさんは一度もゼニーを引こうとしない。
私は、日本の配信で初めてアリーナを投げてもらった時のことを思い出した。
その時、私は、
「あとでサービスしときます。」
とコメントした。
二人だけの配信もしなくなった今、このままでは何かしらのサービスをした方がいいのではないかと思う。
空いた時間に、特別配信や動画などで何かできないだろうか。
そう考えて、そのことをJINさんへ電話で相談する。
「そうですね。ミュージカルのワンシーン、とても良かったですよね。ああいうことを、空いた時間にしていただけるのであれば、とても嬉しいです。」
JINさんはそう答えた。
私は考える。
「じゃあ今度は、のど自慢ごっこをしてみよう。」
JINさんは以前、私が出場したNHKのど自慢の予選を見学している。
予選の日は土曜日だった。
そして土曜日は、JINさんが日本へ来られる日でもある。
だから、あの時こっそり予選会場まで見に来ていたらしい。
会場は神の力で完全に再現できる。
そこで今回は、
「もし私が本選へ出場できていたら。」
という設定で、のど自慢ごっこをすることに決めた。
私は、予選の日のことを思い出す。
予選で歌い終わると、高瀬耕造アナウンサーからインタビューを受けた。
「発声が違ってらっしゃいますね。昔、お歌とかされてたんですか。」
そう聞かれた。
実は私は若い頃、ボイストレーニングへ通っていた。
また、お金にはほとんどならなかったが、結婚式や披露宴で歌を歌うアルバイトもしていた。
でも、そう答えるとプロだと思われて、本選に行けないというようなことを聞いたことがある。
だから、
「趣味で歌っています。」
と答えた。
続いて、
「お母さんのことを思って、この歌を選ばれたんですよね。」
と聞かれた。
「はい。」
と答えた。
今でも母は、
「私には迷惑をかけられない。」
と言って、朝早くから働いている。
その姿と歌が重なったことを話した。
さらに、
「今日はお母さんは来られていますか。」
と聞かれた。
「今日は来ていません。」
と答えた。
続いて、
「明日は来られそうですか。」
と聞かれた。
本当は来られないと思っていた。
でも、嘘は言いたくなかった。
だから、
「来てくれたら嬉しいなと思います。」
と答えた。
今になって思えば、あの時もし母が来られる状況だったら、本選へ出場できていたのかもしれない。
インタビューが終わった後、
「ファンです。これからも応援しています。」
と高瀬耕造アナウンサーへ伝えた。
本当は、その時に高瀬耕造アナウンサーと握手をしてもらいたかった。残念
私はJINさんに言った。
「今度、のど自慢の本選みたいなことをするので、また客席に見に来てください。JINさんは、のど自慢を見ているから、予選の様子も見てますよね。本選では、客席からの応援にも期待していますよ。」
すると、JINさんは、
「任せてください。」
と自信満々に答えていた。
――のど自慢ごっこ当日
「カンカンカンカン♪」
おなじみの、のど自慢のテーマ曲の最初の音が流れる。
司会は高瀬ヒューゴアナウンサー。
ヒューゴは高瀬耕造アナウンサー風のスーツ姿で、立っている。
私は拍手をしながら登場する。
服装は、日本で一張羅だった焦茶色のロングワンピース
22歳の体に合わせて、ヒューゴが仕立て直してくれたものだ。
首には母からもらった金のネックレス
耳には金色の輪のイヤリング
髪はベリーショート
メイクは、日本から持ってきた化粧品で自分でした。
靴も日本で履いていたもの
そして、出産後は入らなくなっていたパパからもらった婚約指輪も、22歳の体になったことで再び入るようになり、今日は身につけている。
高瀬ヒューゴアナウンサーが言う。
「では、出場者の皆さん、お席へお戻りください。」
私は自分の席へ戻る。
出場者席には、白い指定ゴミ袋で作られた人形が並んで座っている。
一体一体、マジックで顔まで描かれている。
ヒューゴは器用だ。
高瀬ヒューゴアナウンサーが言う。
「では参りましょう。一番の方、どうぞ。」
その瞬間、
「理美さん、頑張ってー!」
というJINさんの大きな声が響く。
JINさんは両手に「理美」と書かれたキラキラうちわを持ち、神の力で、
「理美 頑張れ!」
「絶対優勝!」
と書かれた弾幕を宙に浮かせて応援している。
私は少しだけ手を振り返す。
伴奏が流れる。
私はマイクを持ち、ステージ中央へ向かう。
「一番、母へ。」
そう言って歌い始める。
私は予選へ出るため、何度も何度も練習した曲を歌う。
ゲスト歌手の次くらいには練習している自信があり、空でも歌える。
母のことを思いながら、感情を込めて最後まで歌い切る。
今回は出場者が一人なので、途中で鐘が鳴ることはない。
最後まで歌い終わる。
高瀬ヒューゴアナウンサーが鐘を鳴らす。
カンカンカンカン。
カンカンカンカン。
カンカンカーン。
「合格です! おめでとうございます!」
高瀬ヒューゴアナウンサーが聞く。
「お母さんのことを思って歌われたんですよね。」
「はい。」
「お母さんは今も朝早くからお仕事を頑張っていらっしゃるんですよね。」
「はい。」
「今日はお母さんは会場へ来られていますか。」
「いいえ。
私は今、異世界に来ています。
母は今日は来られなかったみたいです。
ですが今日は、私のために、この世界で唯一仲良くしてくださっている方が応援に来てくださっています。」
「どちらにいらっしゃいますか。」
「あちらです。」
私はJINさんを見る。
「JINさん、合格したよ!」
すると、今まで神の力で浮いていた弾幕に加え、JINさんが手に持っていたうちわまで神の力で宙に浮く。
JINさん本人は、両手で大きな拍手をしながら喜んでいる。
高瀬ヒューゴアナウンサーが言う。
「おめでとうございます。合格者の方、お席へお戻りください。」
私は席へ戻る。
高瀬ヒューゴアナウンサーが言う。
「それでは審査結果が出るまで、ゲストの歌をお楽しみください。」
するとヒューゴは、その場で一瞬にして早着替えをする。
『マツケンサンバⅡ』の音楽が流れ始める。
ヒューゴは松平健さんの歌声に合わせ、口パクをしながらマツケンサンバを踊り始める。
私は以前、『それSnow Manにやらせて下さい』でマツケンサンバを見たことがあった。
そのため、
「ゲストもあるだろうし、マツケンサンバでもやっといて。」
と軽い気持ちで頼んでいただけだった。
ヒューゴが実際に披露する姿を見るのは、今が初めてである。
私は自分の席で、その完成度に思わず見入ってしまう。
松ヒューサンバ、恐るべし。
曲が終わると、ヒューゴは再び一瞬で高瀬ヒューゴアナウンサーへ戻る。
「それでは結果発表です。」
私は席を立ち、結果発表の位置へ並ぶ。
「優勝は……。」
ドゥルルルル……
「一番、異世界の理美さん!」
ジャンジャジャーン!
「おめでとうございます!」
トロフィーを受け取った。
高瀬ヒューゴアナウンサーが聞く。
「この気持ちは誰に伝えたいですか。」
もちろん、答えは決まっている。
「JINさんです。」
私はJINさんを見る。
「JINさん、優勝までできました!」
私は最高の気分だった。
私は、JINさんを見た……。
一方、その頃のJINである。
JINは号泣していた。
今まで神の力で浮いていた弾幕とうちわに加え、感動のあまり神の力があふれ、自分の周りだけがキラキラと光り輝いている。
理美は思った。
「いや、そのエフェクトできるんだったら、私の方にしてくれよ。」
そんなことを思う理美なのであった。
異世界の神様 JIN
異世界のパパになり 異世界の母になり
感無量(笑)




