ダンスYouTuberになる夢
とある日曜日の夜。
今日は私だけの異世界配信である。
ダンスの話をしたかったので、TAKAHIROヒューゴにも参加してもらっている。
私は最近、K-POPダンスの練習を始めた。
まだステップもまともにできないし、ちょっとした動きで筋肉痛になる。
そんな私には、夢がある。
「私、いつかK-POPダンスを踊れるようになったら、YouTubeに動画を出してみたいんですよ」
ただ踊っている動画を出すだけではない。
Snow Manの番組でやっている、ダンスの完コピ企画のパロディみたいな動画を作りたい。
まず、お手本を踊る先生役が必要になる。
そして、私が完コピできた時には、
「ヒューゴポイントを差し上げます」
と札を上げてほしい。
お手本を踊る先生役も、TAKAHIRO先生のパロディをする審査役も、どちらもヒューゴにやってもらうことになる。
「でも、ヒューゴはそのまま出ない方がいいですよね」
ヒューゴの見た目は、若い頃のヒュー・グラント風である。
黒いサングラスをかけて、髪型も昔のヒュー・グラント風ではなく、今どきの若者みたいな髪型に変える。
それなら、かなり印象をごまかせるのではないだろうか。
そして、私の衣装も大事である。
せっかくなら、ダンスをしている人たちみたいな格好がしたい。
お腹が出るくらい丈の短いTシャツ。
背中もぱっくり開いたデザイン。
カラフルで、できれば赤いTシャツ。
黒いパンタロン。
ももあたりまで横に切り込みが入ったやつとか、いいかもしれない。
そして、黒いヒールの高い靴。
「今はシューズで練習してますけど、みんな、かかとの高い靴を履いて踊ってますよね。だから、ああいう靴で踊れるようになる練習もしなきゃだなって」
最終的には、黒い高いヒールの靴を履いて、かっこよくK-POPを踊りたい。
理美は、まだステップもまともにできない。
練習を始めたばかりで、ちょっとした動きでも筋肉痛になるくらいである。
それなのに、気分だけは明日にでもYouTubeの撮影を始めそうな勢いである。
「理美さんは頑張り屋さんですから、すぐに踊れるようになりますよ」
TAKAHIROヒューゴは、もちろん否定しない。
ただし
理美の考える「すぐ」と、ヒューゴの考える「すぐ」が、同じ長さの時間を意味しているとは限らない。
「それと、私も身バレ対策しなきゃダメだと思うんですよね」
黒いサングラスをかける。
髪型も今風にする。
それから、最近ダンスをしている人たちが髪にかぶっているような、スカーフみたいな物もおしゃれに取り入れる。
「これなら、もう理美ってバレないと思うんですよ」
理美とヒューゴが、何やら楽しそうなことを始めようとしている。
それを見ていたJINも、自分も参加したくなったようである。
JIN:できれば、私もそこに参加したいです
「ダメですよ」
即答した。
「JINさんみたいなミドルの男性が、若い人より、誰よりも上手に踊ったりしたら、みんなJINさんのことしか見なくなっちゃうじゃないですか」
「みんなJINさんのこと好きになっちゃうじゃないですか。JINさんが人気者になっちゃうじゃないですか」
外国人風のイケメンで、日本語が上手で、ダンスについて説明もできて、実際に誰よりも上手に踊れるヒューゴがいるだけでも、かなり目立つ。
そこへ、どう見ても踊りそうに見えない中年男性のJINが、若者よりも誰よりも上手にK-POPを踊ったら、そのギャップまで加わる。
そんなことになったら、普通の見た目の理美が一生懸命踊っても、誰も理美のことなんか見なくなってしまう。
理美は、自分の主役の座を奪われることが一番嫌なのである。
しかし、JINは少し違う意味で受け取ったようである。
自分が人気者になって、みんなのJINになってしまうのが嫌なのだ。
理美は、自分を取られるのが嫌で、やきもちを焼いてくれているのだ。
そう思ったらしい。
JIN:そうですよね。私は出ない方がいいですよね
配信を見ているJINは、どこか嬉しそうだった。
受け取り方はお互い違っていたが、とりあえず話は収まるところに収まったのである(笑)。
「でも、私は絶対、喋っちゃいけないと思うんですよ」
ただでさえ、ヒューゴと一緒に動画を出したら、ヒューゴがすごすぎる。
もしかしたら、Snow Manの誰かから「いいね」やコメントが来るかもしれない。
そして、動画が人気になって、世界中にファンが増えるかもしれない。
「その上、私が喋ってしまったら、私って絶対面白いじゃないですか。もっと人気出ちゃうじゃないですか」
理美は、もし自分が北川景子のような見た目だったら、世界征服も夢ではなかったと思っている。
自分の話術、面白さ、発想など、自分の「中身」には絶大な自信を持っている、自信過剰な勘違い女なのである。
「本当にそのとおりです」
TAKAHIROヒューゴが肯定した。
JINからもコメントが来る。
JIN:そうですよね。皆さん、理美さんの面白さに気づいて、絶対に人気になりますよね
「でしょ? だから、日本の理美も私だから、絶対面白い私のことをすぐに見つけちゃうと思うんですよね。声を聞いたら、絶対バレると思うんですよ。だから、私は絶対に喋りません」
自信過剰な女の自信過剰な発言を、理美絶対主義のヒューゴと、理美の熱狂的ファンである異世界の神JINが否定するはずもない。
ここには、イエスマンしかいないのである。
もし、ここが日本での配信だったなら
普通のリスナーが一人でもいれば、
「おいおい」
と誰かがツッコみ、コメント欄には笑いが起きていたかもしれない。
しかし、ここは異世界
異世界配信なのである。
そして、理美にツッコむ者は、誰もいないのである。
パンタロンは、昭和感あるワード。中身は53歳だから仕方ない(笑)




