永遠に
昨日、異世界で短い一生を終えたサンスベリアと、冬を越せなかったガジュマル。
黒石だけの水栽培だったことと、私のお世話が未熟だったせいだと思う。
今日は玄関前の花壇で、追悼式をしようと思う。
水の日 午前9時。
小さな花壇の前にスタンドマイクがあり、その前に理美が立っている。
異世界の屋外ではあるが、JINによって現地の人からは認識できないようになっており、音も遮断されている。
今日の理美は、黒いつばの大きなストローハットに、黒のロングワンピース。腕には、夏の日焼け防止対策で持っていた腕あたりまである黒い手袋。足元は黒いヒールの靴。
黒のサングラスをかけ、唇には真紅のルージュ。
アメリカのドラマで見られるような葬儀のいでたちというか、雰囲気はJUJUそのものである。
少し離れた場所には、ハンドマイクを持ったヒューゴ。
そして、花壇、理美、ヒューゴを見渡せるようにセッティングされたスマホ。
JINに向けて配信中である。
JINは異世界の自宅から、今回の追悼式を見守っている。
「ただいまより、故・異世界のガジュマル様、故・異世界のサンスベリア様の追悼式を始めます」
ヒューゴが話し始めた。
ヒューゴは昨日、『小さなお葬式』のスタッフの技術をインストールされており、進行も理美と打ち合わせ済みである。
「理美様より、故・異世界のガジュマル様と、故・異世界のサンスベリア様の思い出話を聞かせていただきます」
理美は軽く一礼し、語り出す。
「サンスベリアは、私が一番最初に購入した観葉植物でした。
土だと虫が来るかもしれないということで、黒い石だけで、手のひらサイズで、水もほとんど要らず育てられるということもあり、一番目にかけていた草でした。
購入した時から透明なガラスの容器に入っていたこともあり、根が伸びてきたのも見えたし、葉も増えて、『ああ、ちゃんと育っているんだ』と喜んでいたのですが、サボテン系ということもあり水が多かったのか、それとも石だけということで栄養が足りなかったのか、うまく育てられなかったことが残念でなりません。
ガジュマルは、第二弾で購入したものでした。
そのフォルムがまるで、女性がお風呂場で体を洗っている様子に見え、『なんてなまめかしい。素敵なガジュマルが我が家に来た』と喜んでいたのですが、寒い冬を越せなかったのか、葉は全部抜け落ちました。
望みも込めて、少しでも暖かい寝室から、日当たりの良いキッチンの窓際に移動させてみたのですが、枯れてしまった次第です。
うまく育てられなくて、本当にごめんね」
理美は、自分の育てている観葉植物たちを、愛情を込めて「草」と呼んでいる。
理美は、故・サンスベリアと故・ガジュマルを花壇に埋葬していく。
そして、ガラスの容器をヒューゴに渡し、再びマイクの前に戻る。
『君が代』の前奏が流れる。
理美はスタンドマイクの前で、歌手が大きな球場で歌うかのような声量で、『君が代』を心を込めて歌った。
歌い終わると、ヒューゴが語り始める。
「理美様、ありがとうございました。
石とともに生きてきた彼らが、その石とともに大地へ還る。
そして、その先にまた苔や植物が生まれるほど、長い長い時間が続いていく。
サンスベリアとガジュマル、永遠に――。
そのような気持ちで歌っていただきました」
今回ヒューゴには、追悼式の進行を行う技術だけでなく、『ロッテ歌のアルバム』などで名調子の歌の紹介をしていた玉置宏さんの技術もインストールされているのである。
続いて、理美はマイクの前で『正信偈』を唱える。
理美の実家は浄土真宗本願寺派、いわゆる「お西」ということもあり、小さい頃から弔いや法事などで、周りの人たちと一緒に正信偈を唱える機会が多かった。
理美の年代で正信偈を唱えられる人は珍しいとは思うが、祖父母と一緒に暮らしてきた理美にとって、大切なものたちを送るときに正信偈を唱えることは、ごく自然なことなのである。
そして、もう一つ付け加えておく。
理美は幼少期から声量があり、よく通る声で正信偈を唱えていたため、周りの大人たちから褒められまくっていた。
そのため、正信偈にはかなり自信があるのである。
正信偈を唱え終えると、ヒューゴがハンドマイクを口元へ運ぶ。
「短い命ではありましたが、故・サンスベリア様と故・ガジュマル様を支えてくれた石。そして、彼らを受け入れてくれた花壇の大地。
今まで彼らを支えてくれたものと、これから彼らを受け止めてくれる大地への感謝を込めて、『大地讃頌』を理美様より歌っていただきます」
ピアノ伴奏が流れ始める。
理美は『大地讃頌』を、心を込めてアルトパートで歌い出す。
なお、ピアノ伴奏とソプラノ、テノール、バスの各パートは、昨日のうちに録音済みである。
理美は、一学年九クラスもあるジャンボ中学の出身である。
そして『大地讃頌』に関しては、その中でも自分が一番上手に歌えていたという自信がある。
音楽の先生にもめちゃんこ褒められた、これまた理美にとって自信のある曲であり、すべてのパートを歌えるのである。
『大地讃頌』を歌い終えると、続いてサザンオールスターズの『蛍』の前奏が流れ始める。
ヒューゴが語る。
「大切なものとの別れ。
それでも、またいつか会えるかもしれない。
姿は見えなくなっても、思い出とともに、またここで会えるかもしれない。
歌っていただきましょう。
『蛍』です」
理美は、気持ちを込めて『蛍』を歌う。
切ない歌声が哀愁を誘うのである。
そして続けて、秋川雅史さんの『千の風になって』の前奏が流れ始める。
「もう、今までの姿ではいなくなってしまいました。
花壇に埋葬したけれど、彼らがここだけにいるとは思わない。
一緒に過ごした時間も、思い出も、なくなるわけではない。
姿がなくても、私の周りのどこかにいるのです。
『千の風になって』――」
理美は、精いっぱいの声量で朗々と歌い出す。
花壇に眠るサンスベリアとガジュマルへ手を差し伸べるようにしながら歌っている。
玉置ヒューゴの名調子の言葉どおりの気持ちを込めて、理美は歌っているのである。
すべてにおいて、伝統的な追悼式ではない。
宗教も、国も、ジャンルも、バラバラなのである。
『君が代』を歌い、正信偈を唱え、『大地讃頌』を歌い、『蛍』を歌い、『千の風になって』を歌う。
そこに宗教的、文化的な統一性など、まるでない。
ただ一つ、共通していることがある。
そのすべてが、サンスベリアとガジュマルを送るために、理美自身が考え、選び抜いたものだということである。
傍から見れば、ずいぶん変わった追悼式なのかもしれない。
だが、理美はいたって真面目である。
大切にしていた二つの草を、理美なりのやり方で、心から見送っているのである。
ヒューゴから、ぞうさんのジョーロを差し出される。理美の子供らがちいさかったとき、水遊びで使っていた緑色の年季の入ったジョーロである。理美は、花壇に水をかける。
次に手渡されたのは、音叉と水晶。いつも良い音を出せない理美であるが、今日は水晶のように透き通った良い音が響き渡った。
理美は最後に述べる。
「JINさん、ヒューゴ、今日は本当にありがとうございました。」と深く一礼する。
異世界の自宅から、追悼特別配信を見ていたJIN。
推しである理美が大事に育てていた、サンスベリアとガジュマル。
二つの草をいかに大切にしていたのかが伝わってくる理美の言葉。
そして、今の理美の気持ちとオーバーラップする、理美自身が選び抜いた歌の数々。
JINは、そのすべてに感動していた。
そして、追悼式が終わった――その時である。
先ほど花壇に埋葬したサンスベリアの根元と、枯れ木のようになっていたガジュマルが、突然、ぴかっと金色に輝き出した。
「えっ?」
理美が驚いている間にも、金色の光は二つを包み込んでいく。
やがて光が収まると、サンスベリアの根元から、新しい葉が伸び始めた。
一本。
また一本。
次から次へと、新しい葉が伸びていく。
しかも、どの葉も青々としていて、つやがあり、力強い。
あっという間に、以前よりもずっと立派なサンスベリアになってしまった。
そして、ガジュマルも同じだった。
葉がすべて落ち、枯れ木のようになっていた幹が、みるみるうちにみずみずしさを取り戻していく。
枝の先から小さな緑の芽が出た。
そこから次々と葉が開き、どんどん茂っていく。
気がつけばこちらも、以前よりずっと立派な、ふさふさのガジュマルになっていた。
JINは異世界の神である。
本来、神は生きとし生けるものを見守る存在である。
だが、理美だけは別である。
日本という別世界から来ていただいた、大切なお客様。
そして、その大切なお客様が大事に育てていたサンスベリアとガジュマルなのだ。
それならば、思いっきり特別に目をかけてしまっても仕方がないのである。
こうして、この二つの草は、JINの世界での「愛し子」になってしまった。
いや。
推しである理美が大切にしていた存在なのだから――
「推しの子」
という方が、正確なのかもしれない。
理美は、目の前で起きたことに、まだ理解が追いついていないらしい。
生まれ変わったように青々と茂る二つの草を見つめながら、そっとつぶやいた。
「早くも、生まれ変わっちゃったんだね…………」
こうして、日本から理美と一緒にやってきた、サンスベリアとガジュマルは――
JINの世界で、
異世界転生してしまったのである。wwwwwwwwwww
続けて生誕祭が始まったかどうかは、作者も知りません。
熊木杏里さんの『誕生日』という曲は、かなり理美は好きなので、続けてやってるかもしれませんねwwwwwwwwwww




