異世界的昭和アイドルごっこ
会場の照明がゆっくりと落ちる。
「まもなく開演となります。
皆様、お席にお着きになってお待ちください」
ヒューゴによる場内アナウンスが流れた。
会場全体が静まり返る。
すると、一曲目のイントロが流れ始める。
ステージが明るく照らされると、理美が笑顔で客席へ手を振りながら姿を現した。
その瞬間、会場中から大きな拍手と歓声が響き渡る。
もちろん、その拍手も歓声も、JINとヒューゴの声を神の力で何十人分にも増幅し、会場中のすべての座席から聞こえるようにしたものである。
コールも、拍手も、歓声も、ペンライトも、紙テープも、すべて神の力による演出である。
客席にはJINとヒューゴしかいない。
しかし、その光景は、まるで何千人もの親衛隊が会場を埋め尽くしているかのようであった。
いや、姿が見えないだけに、透明人間の親衛隊が会場中にいるようにも見えるのである。
理美は一曲目を歌い始めた。
会場中からコールが響き渡る。
二曲目、三曲目と歌い続ける。
歌い終えた理美はマイクを握り、
「皆さん、本日は本当にありがとうございました」
そう言ってステージ袖へと姿を消した。
すると会場中から、
「アンコール!」
「アンコール!」
「アンコール!」
という声が響き渡る。
もちろん、その声もJINとヒューゴの声を神の力で増幅したものである。
三曲で終わるわけがない。
親衛隊は、すべて予習済みなのである。
ほどなくして、早着替えを終えた理美が再びステージへ姿を現した。
会場中から再び大きな拍手と歓声が響き渡る。
理美はアンコール曲を歌い終え、
「ありがとうございました」
そう言って再びステージ袖へ姿を消した。
すると再び、
「アンコール!」
「アンコール!」
「アンコール!」
会場中からアンコールが響き渡る。
ほどなくして理美が再びステージへ姿を現した。
「これが本当に最後の曲となります。
今日は皆さん、本当にありがとうございました」
理美は最後の一曲を歌い上げた。
鳴りやまない拍手。
鳴りやまない歓声。
会場中に響くコール。
揺れるペンライト。
宙を舞う紙テープ。
すべてが神の力による演出であった。
理美はステージの中央で深々と頭を下げる。
理美は、本気で昭和アイドルになりきっていた。
神の力ってすごい。
ごっこ遊びって最高。
昭和アイドルになるという夢が、一つ叶った瞬間だった。
予想をはるかに超えるコンサートだった。
満面の笑みを浮かべながら、理美はステージ袖へと姿を消した。
コンサートが終了した。
「しばらくこのままでお待ちください」
というアナウンスが流れ、会場が暗転する。
しばらくして照明が点くと、ステージはCD販売特設会場へと姿を変えていた。
ステージ中央には長机が置かれ、その奥には理美が腰掛けている。
その隣には、スタッフ役のヒューゴが立っていた。
ヒューゴが口を開く。
「CD販売・握手会はこちらとなっております。
CDをご購入のお客様、握手券付きチケットをご希望のお客様は、こちらへお並びください」
そのアナウンスが終わるや否や、JINは一直線に特設会場へ向かった。
CD販売や握手会と聞くと、「それは昭和アイドルではなく、AKBなど現代アイドルだろう」とツッコミが入りそうだが、理美的には何の問題もない。
相手のJINは、昭和アイドルと現代アイドルの違いなど分かっていない。
良いものは何でも取り入れる。
それが理美流、昭和アイドル復興会なのである。
ヒューゴはCDを一枚手に取った。
「こちらのCDは、一枚二千ゼニーとなっております。
また、ジャケットの異なる五枚のCDをご購入いただきますと、二十秒間の握手と、握手中にお話しいただけるトーク券が付いてまいります。
さらに、この五枚セットを十セットご購入いただきますと、五分間の握手とトークに加え、理美さんとのツーショットチェキ、さらにサインと一言メッセージ付きとなっております」
実はこの日のために、理美から頼まれたヒューゴは、CD-Rに五曲入りのミニアルバムを書き込み、ジャケットだけが異なる五種類のCDを作成していた。
中身はすべて同じである。
違うのはジャケットだけなのである。
ちなみに、収録されている五曲は、JINが親衛隊のコール練習や紙テープ投げ、ペンライトの練習で使用したものと、まったく同じ音源である。
特典会で使用する握手券やチェキなども準備し、合計百枚、段ボール一箱分のCDを用意していたのであった。
理美はゼニーが欲しかったわけではない。
ただ、このAKBっぽい販売方法を一度やってみたかったのである。
そして、五十枚購入特典を用意した場合、JINが本当に購入を決断するのか、それにも興味があったのである。
ヒューゴの説明が終わるか終わらないかというタイミングで、JINがかぶせるように答えた。
「チェキ付きの五十枚セットを購入します」
JINがそう告げると、理美のスマートフォンには十万ゼニーが即座に入金された。
「ありがとうございます」
ヒューゴは一礼すると、チェキを手に取った。
「ただいまから、ツーショットチェキの撮影を行います」
理美は席を立ち、JINの隣へ歩み寄る。
「JINさん、こちらの手で半分ハートを作ってください。
はい、そのままです。
今度は反対の手で、私の真似をしてください」
理美も反対の手で半分のハートを作る。
「そうです。そのまま近づけてください」
二人の手が合わさり、一つのハートが完成した。
「はい、笑顔でお願いします」
パシャッ。
ほどなくしてチェキが現像される。
そこには、アイドルらしい満面の笑みを浮かべる理美と、顔を真っ赤にしたJINが写っていたのである。
理美は、この日のために用意しておいたピンクのラメ入りペンを手に取った。
チェキの余白に、
「JINさんへ」
と書き、「へ」の文字には二本線を添える。
続いて、粗大ゴミにサインを書いていた時と同じサインを書き、
「いつも応援ありがとう♡」
とメッセージを添えた。
書き終えたチェキを、理美は笑顔でJINへ手渡した。
「続きまして、握手会を開始します」
ヒューゴの案内で、理美は再び長机の奥へ腰掛ける。
JINは長机を挟んで理美の前へ立つ。
二人は両手で握手を交わした。
「JINさん、今日は来てくださって本当にありがとうございます。
応援、本当に素晴らしかったです。
JINさんの声、ちゃんと私に届いていましたよ。
私が予想していたよりも、何倍も素晴らしい応援でした。
私、本当に感動しました。
こんなに一生懸命応援していただけるなんて思っていませんでした。
本当に嬉しかったです。
また次も、ぜひ会いに来てくださいね」
理美は終始JINの目を見つめ、満面の笑顔で優しく語りかける。
まるで、その場にはJINしかいないかのような神対応なのであった。
異世界の神であるJINに、神対応をする神アイドル理美。
つまり、神に神対応をする神の神アイドルなのである。
もう、誰が神なのか分からない。
神、神、神……。
早口言葉みたいになっているのである。
時間は刻々と過ぎていく。
夢のような五分間は、あっという間であった。
「はい。ここまででお時間です」
五分が経過すると、ヒューゴはそう告げると同時に、握手をしていた二人の手をさっと引き離した。
天国のような時間は、突然終わりを迎えたのである。
神が天国にいるのは当たり前のような気がするが、JINにとっては、理美と過ごすこの五分間こそが天国だったのである。
がっかりした様子でJINがふと視線を向けると、段ボールの中には、もう一組の五十枚セットが残っていた。
「こちらの五十枚セットも購入可能でしょうか」
「はい。可能でございます」
JINがそう言うと、理美のスマートフォンには再び十万ゼニーが即座に入金された。
理美は思った。
昭和アイドルごっこ、ぼろ儲け。
でも私、あと五分、何を話せばいいの?
焦る理美であった。
再び五分間の天国のようなひとときを終えたJINは、理美に聞こえないよう、ヒューゴにそっと耳打ちした。
「次回は、ぜひ今回の十倍ほどご用意いただけますと助かります」
「承知しました」
次回、理美は五十分間もJINと何を話すのであろうか。
神対応で50分間ファンと話すにはどうしたら良いですか?By理美




