交渉
お互いに白旗を揚げ停船した船。搭載艇を降ろし話し合いにいった。船を併走させて会話をするには相手の言語が分からなかったから。
驚くべき事に言葉が通じる。
まあそうだよな。何故か言語が通じる地域にしか現れないんだ。日本語圏には日本語が通じる相手しか転移してこない。神の野郎。
信仰心はほんのかけらくらいしかない間島転移担当官は思う。
こいつら武装しているよな。いきなり撃ってこないか。ああ、刀を持っている。斬りかかるのか。勘弁してくれ。妻子があるんだ。
ビビり散らかす杉下転移担当官。
終わったとしても二人と巡視船乗組員は二週間の検疫隔離が待ち受けている。巡視船乗組員はババを引いたのである。神によって感染症など無いことが保証はされているが、イマイチ信用できないので万が一に備えるのだった。
「おい、日本語だな」
「そうですね。何故か知りませんが会話が出来ます」
「不思議すぎる」
愛宕からのランチには参謀長と副官が乗っていた。
交渉の結果、参謀長達が巡視船に乗り込み説明を受けることになった。一千トン前後の船は巡視船といって海上警備などの警察行動をする専用機関の船だという。乗り込むのはこの世界の説明を受けるには順当だと思われたから。
参謀長達が知らせられた内容は衝撃的でとても信じられないものだった。しかし、現実としてここにいる。信じる他はなかった。問題はどうやって説明するかだ。とても信じられないだろう。
「我々がこの世界に来たのは神の気まぐれだというのか」
大和の作戦室で栗田第一遊撃部隊司令長官が参謀長達に問い質す。愛宕では手狭であり大和に場を移している。
「向こう、日本皇国が言うにはそうだということです。向こうも神の相手は疲れるとも言っておりました」
沈黙する首脳陣達。
「参謀長。日本皇国というのは今いる場所のことで良いのか」
栗田第一遊撃部隊司令長官は取り敢えず現状を認識することから始めるらしい。
「ハッ。そうだという事です。地図も渡されたました。開きます」
机の上に拡げられる地図。見慣れた地球の海図とは全く違う地形が記されている。
「「「「「う~ん」」」」」
「そして我々がいるのがここです。当地では佐宗海と言うそうです」
参謀長が示したのは、周囲を島に囲われた内海だった。直径で三十海里ほどだろうか。定規を渡されて単位の差を確認したのだ。大して違わなかった。
「そして」
参謀長が言葉を続けた。
「この地で大人しくしていたのは正解でした。もしこの内海から出て当地の市街地に手を出せば武力制圧をされていたところです」
「武力制圧ですと。この戦力をですか」
「砲術参謀、可能だと言うことだ。今も我々では探知できないところからレーダーで監視されているらしい」
「「「「・・・・・」」」」
無言になるのも無理はない。自分たちの動向が監視されているのだ。
「参謀長。他にはどうか」
「ハッ。油と糧食の補給は可能とのことでした。ただ規格や食べ物がが違うといけないので現物を見ないと可能かどうかわからないので現物を確認したいと」
「補給してくれるのか」
「どうも神々との約定でそうなっているようです」
「信じられん」
栗田第一遊撃部隊司令長官は責任者として決めなければいけなかった。
「主計参謀。大和なら油の他、糧食や医薬品なら多少余裕はあるだろう。試料として日本皇国に渡せないか」
「ハッ。可能と思われます」
「では至急用意せよ。全ての種類をだ」
「了解。直ちに実行します」
主計参謀は作戦室から出ていった。
その後、大和から試料となる糧食や水、医薬品を渡した。またガソリンや重油、潤滑油なども検体として渡した。
渡された試料を分析した日本皇国各機関で合同対策会議を開いた。転移担当官は当然いる。何故か首相主席補佐官と陸海空三軍からも参加している。主席補佐官なので重要な案件だろう。陸海空三軍の出席者もいかにも偉そうな面々だ。嫌な予感がする出席者達。
「食料ですが問題はないです。我々に有害な細菌やウィルス、バクテリアなども検出されませんでした。毒物薬物も検出されません。重金属汚染も自然由来と思われる程度しか検出されず、むしろマイクロプラスチックとかシリコン化合物、フッ素化合物などはマイクロプラスチックが僅かに検出されただけです。最新機材と最新分析法でなければ検出出来ずとなっていたでしょう」
「うらやましいですな」
「まあ便利な生活との引き換えですから」
「最近は減ってはいるがまだまだ遠いですな」
「話を戻しましょう」
「「ああ、申し訳ない」」
「食糧の問題はほぼ無いでしょう。こちらの食料を渡しても問題ないと考えます」
「それなら食糧の問題は無いとしていいでしょう」
「「「異議無し」」」
「続きまして医薬品です。全般にかなり旧式です。今の医薬品だとかなり効果が高いので渡していいものか」
「医薬品なら良いのでは」
「医療関係者の再教育が必要になります」
「後回しで良いでしょう」
「「「異議無し」」」
「では、燃料油と潤滑油はかなり質が悪いです。我々の百数十年以上前の品質です」
「今の品質では渡してから問題が出ますか」
「彼らの機材そのままではおそらく」
「機材を改修すれば良いということですか」
「それなら問題ないでしょう」
「それなのだが良いだろうか」
主席補佐官が発言した。
「なんでしょうか」
「実はこんな物が今朝首相の机の上に出現しました」
ピラピラといかにも嫌そうにその封筒の端を指でつまんでいる。封筒には《 神 》とだけ。
「「「「あ~」」」」
「まあ、だいたい内容は予想できると思います」
「「「「う~」」」」
「内容は『一年後に彼らを元の世界に帰すので、それまでに艦艇の改造と必要なら再教育をするように。予算として金銀プラチナの他レアメタルなど地下資源を五十兆円相当渡す』というものです。首相は了承しました」
「「「「えー!」」」」
だいたい異世界から連れてこられた連中のうち大人しい者達はこういう目に遭っていた。転移先の国家からすれば美味しいのであるが、大人しくない連中もいるので人的被害も出ることが有り警戒されていた。
転移警戒装置は神から委ねられたものである。転移警戒装置だけで運用などはこちらがやらなければいけなかった。もう止めて欲しいというのが関わる人間が持つ大多数の本音である。
止めて欲しいというのが関係者なら、無関係の人達は「儲かるから」「面白いから」が多くを占める。たまにある被害は文字通りの《 天災 》で避けようもないから、と。
かくして様々な交渉の後、第一遊撃部隊全艦が改造を施され人員再教育を受け容れたのがそれから十日後だった。
第一遊撃部隊としては補給も無く彼らの言いなりになるしか生き延びる手段がないというのが実情であった。
次回更新
大和を今建造すると一兆円くらいでしょうか。




