接触
周辺偵察のため四戦隊各艦から水偵が発進した。それは遙か高空から見られていた。
「大木。トンビ1。小型機が飛んでいるが見えるか」
『トンビ1。大木。こちらではまだ見えない。高度が低いのと島影のせいだろう』
「トンビ1了解。戦術リンクのデータでは見えるか」
『トンビ1。大木。そちらは問題ない。以上』
『トンビ1。ベース。ルックダウンレーダーの結果だと軍艦だな。けっこうな大きさと数の』
「ベース。トンビ1。こちらの小さいディスプレイでは全体像を掴みかねる」
「トンビ1。ベース。無人偵察機が三十分後に現着する。それまで上空で偵察を続けろ。以上」
「ベース。トンビ1。了解」
『トンビ1。トンビ2。そろそろ第一旋回点』
「了解。じゃあ十秒後に・・・・旋回」
東西南北からの四航過で終わろうと思ったら基地から無人偵察機が来るまで飛んでろと言われたので同じ軌道で二回目だ。レーダーデータは基地にあるデカい壁一面のディスプレイならよく見えるだろうさ。こっちのは小さいんだ。
「無人偵察機が来たか」
『信号では見えます』
「お役目終わり」
『まだ帰投指令が来ませんよ』
十分後、トンビ編隊は帰投する。
「機長、四時方向上空。高速で接近する機体あり」
「四時だと。どこだ。偵察員」
「上方です。速い。戦闘機より速いです」
「アレか。敵機だと拙いな。低空に降りる。母艦に通信を。高速不明機体ミユ」
「了解。高速不明機体ミユ。送ります」
「摩耶二番より入電『高速不明機体ミユ』」
「摩耶二番はどこを飛んでいる」
「百二十度です。進出距離百海里で今だと四十海里くらいでしょうか」
「電探室、艦橋。機影は見えるか」
「艦橋、電探室。反応無し」
「対空警戒だ」
栗田第一遊撃部隊司令長官は命令する。
「ハッ。対空警戒発令します」
「けっして撃つな。発砲は許可しない。徹底せよ」
「ハッ。命令無く撃つな。徹底します」
「四時に機影。小さい」
見張り員からの報告受け見るが見えない。航海艦橋からでは見えんのだろう。他にも見張り員からの報告が有るが見えない。報告通り小さいのか。
「艦橋。砲術。高射装置追随できますが照準不能。速すぎます」
「艦橋。電探室。反応無し」
電探に映らないのか。高射装置が照準出来ないでは攻撃されて反撃で撃っても無駄か。
攻撃が来ないな。偵察か?
「不明機体旋回。艦隊上空で旋回始めました」
偵察だな。
「長官」
航空参謀か。
「偵察機はどうされますか」
「どうするとは」
「戻しますか。続行させますか」
「続行だ。何かを見つけてくれればいい」
「ハッ」
偵察機は数ある島の中で市街地を発見し帰ってきた。写真も撮ってきた。口頭で報告を受けたがとんでもない街らしい。車が一杯で道は細い道まで全部舗装してあると。
市街地では住民に転移してきた連中が飛行機を飛ばしたので指定された建物の中に避難し慌てないようにと広報がされている。されても避難しない連中が多数いるのはどこの世界でも同じであった。中には高性能カメラで水偵が飛行する映像を生中継する奴もいた。
「一般に映像が流れているだと」
「はい。各種投稿サイトに上がっています」
「規制のしようも無いか。処置は国防省が決めるだろう」
「そうですが、もう拡散しています。隠しようもないです」
「手遅れか。これは下から見た機体か」
「国籍標識は赤い丸ですね」
「単純極まりないな」
「水上機ですか。記録では四十年前にイスパニア沖に現れています。国籍標識も機体も違います」
「どちらが近代的だ」
「こちらですね。レーダーデータでは全金属製となっています。四十年前の奴は複葉布張りでした」
と転移警戒基地では会話がされていた。
「この程度の機体なら艦隊の方も技術力からして脅威にはならないか」
「そうですね。レーダーの能力も低いです。空母がいない艦隊の能力は分かりませんが万が一の事態でも航空戦力が無いので武力制圧は簡単でしょう」
「技術力の差が大きすぎるな」
「無人偵察機の詳細映像だと無人偵察機を認識して追っているが対空兵器が追尾出来ないようだ」
「周辺偵察だけかな」
「指揮官次第か。民族性もあるな」
「六十年前の奴はいきなり上陸して略奪を始めたしな」
「メリケン沖に出た奴だな。殲滅されてしまったが」
政府危機管理室では集まった連中が一般から流れてきた映像とレーダーデータを見て対策の参考にしている。
第一遊撃部隊では会議をしていた。艦隊は前進微速で座礁の危険性が無いと思われる海域を周回している。
紛糾はしていなかった。無人偵察機に圧倒されてしまったとも言える。
「最後は千まで近寄ってきましたな」
「プロペラが無いとは」
「日本で可能なのか」
「対空噴進弾ならありますが」
「盛大な煙が出ると聞いた。あいつは煙も出ていない」
「操縦席が無かったですな」
「電波誘導か」
「標的艦なら実用になっていますが、あんなに小さい機体には」
「偵察機だろう。もし攻撃機だったら」
「対抗出来るのか」
「照準不能です。近いと速すぎて追尾も出来ません」
「どうするか」
「市街地を人質にして交渉というのは」
「どうなんだろう。もしやったら恐ろしい結果になるような気がする」
それまで無言だった栗田第一遊撃部隊司令長官が言った。
「現状維持だ。向こうからの接触を待つ。能力も分からない相手に強気に出られんよ。だいたいここがどこかも分からない。補給の問題も有る。追い詰められているのは我々だ」
「どうされますか」
「白旗を揚げて相手の様子を見ようと考えるが、どうか」
白旗でざわつく。参謀長が一言。
「白旗ですか。まずは相手を見る、ですな」
「うむ」
「皆はどうする。私は良い考えだと思う。このままでは油がなくなるだけだ。そして行動不能になる」
賛成は得られた。どうあがいてもこの場所さえ分からないのでは身動きのしようもないことは事実だったから。ただ白旗の意味が地球と同じなら良いがと思いつつ。
翌日、転移してきた艦隊に目立った動きがないことから政府は接触を決めた。全艦が白旗を揚げていることに気が付いたからだ。
愛宕の見張りと電探が
「二時、島影から船影」
『艦橋、電探室。二時方向に船影』
続いて
「不明船白旗あり。一千トン前後と認む」
と報告する。艦長が
「確認せよ」
「白旗間違いありません」
「司令長官にご判断願う」
栗田司令長官は作戦室で参謀達と可能性を検討していた。あらゆる場合だ。現在位置もわからないし、どう見ても相手の方が技術的に勝っている。それに補給の問題も有る。こちらはじり貧以下だ。現状維持では立ち枯れするしかない。だからこちらの威厳を保ちながら下手に出るしかないとおおよその方向は決まっている。
だから、白旗を掲げた船が現れたというのは歓迎すべき事態だった。
「栗田司令長官。あの船を」
白旗を掲げ相当ゆっくりと近づいてきている。見張り員によると前甲板に単装機銃がある程度の武装だと。海上警察の類いであろうと推測された。
「会おう」
「参謀長、通信参謀。愛宕以外はこのまま周回を続けるよう指示を」
「ハッ」
「艦長。愛宕を外に出す。主砲は俯角を取れ。高角砲は格納位置」
「俯角ですか」
「敵意が無いことを示す」
「ハッ」
「一隻隊列から離れこちらに舵を取りました」
「ほう。交渉にはなりそうだ」
知る旗を掲げている船には、間島政府転移担当官が乗船していた。
「接近中の艦、主砲は俯角。舷側の砲もおそらく格納位置へ」
「へえ。慎重だな」
間島がつぶやく。間島は海軍からの出向だ。相手が海軍なので出向者の中から選ばれた。他に理由は無い。
「のんきなことを。以前、あの状態から発砲してきた奴も記録にある」
間島の相棒である杉下政府転移担当官がぼやく。こちらは出向者では無く総理府転移対策室の正規職員だ。軍人ではないので若干ビビっている。相手の船がデカいのだ。武装もしている。ビビらないでか。
三十分後。両艦は停止した。




