表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界に足りないのは勇者じゃない、道路だ ~土木転生の辺境領地改革~  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/70

第六十九話 認定の日

終盤です。

積み上げてきた道路・物流・人の流れが、ここで効いてきます。

王都ヴェルトハイムは、ノルトクロイツとは別の種類の古さを持っていた。


 石畳は長い年月をかけて磨耗して、表面が滑らかすぎる。排水の傾斜が浅くて、雨が降れば中央に水が溜まる構造だ。建物の基礎の間隔が広すぎて、重量を分散させていない箇所がある。


 馬車から降りながら、クルトは無意識にそれを計算していた。


「また何か考えてますか」


 ヴィオラが隣で、苦笑しながら言った。


「道が悪い」


「……式典の前から、ですか」


「事実だ」



──────



 認定式典は、親王の城の大広間で行われた。


 高い天井に、金の燭台が並んでいる。外からの光が大きな窓を通して落ちてくる。石の柱が並んで、天井を支えている。この石の積み方は——と考え始めたところで、クルトは意識を切り替えた。今日は現場観察ではない。


 コンラートが演説壇に立った。


「本日、王国政策文書として正式に認定される『ノルトクロイツ・モデル——辺境領再建における知的基盤整備の公式指針』は、ノルトクロイツ領における三年間の実践から生まれました」


 声が大広間に響いた。


「この指針の最大の特徴は、魔法を戦闘ではなく建設に応用した点にあります。道路・水路・橋・城壁——これら全てのインフラが、精緻な計画と現場実践によって再建された。その全記録がここにあります」


 コンラートが一瞬、間を置いた。


「そして特筆すべきは——この指針の実証基盤を支えたのが、ヴィオラ・エーベルト書記官の記録です。三年分の施工記録・財政記録・工期管理記録——これがなければ、今日この文書は存在しませんでした」


 ヴィオラが固まった。名前を呼ばれるとは思っていなかった。顔が固まって、目が大きくなっていた。感情を抑えようとしているのが、クルトの位置からでも分かった。目が赤くなっていた。



──────



 式典の場で、親王が直接クルトに言葉をかけた。


 若い顔だった。クルトより十歳ほど年上だろうか。式典の場にふさわしい装いをしているが、目が鋭い。品定めをする目ではなく、本当に関心がある時の目だ。


「ヴァイス卿。あなたが作ったものは、北の果ての話ではなくなりました」


 クルトは一瞬考えた。


「インフラは、正しく作れば機能します。場所を選びません」


 言った瞬間、前世の自分が同じことを信じていたと気づいた。


 誰にも言わなかった言葉だ。正確には、言っても誰にも聞かれなかった言葉だ。道路の設計書に書いたメモの中に、三十年間それを書き続けた。現場の仕様書の余白に、誰も読まない場所に。


 今日、親王の前で言えた。


 その違いの重さが、静かにクルトの中に降り積もった。


 親王が小さく頷いた。「そのとおりです」


 式典の最後に、ノルトクロイツが「王国北方防衛の要衝」として公式に位置づけられる文書が発布された。


 コンラートが壇上で、「このモデルを全国に広めたい」と宣言した。第一弾の適用候補として東部辺境の複数の領地を挙げた。ノルトクロイツで実証されたものが、国の仕組みになる。


 ガルトナー伯爵が式典の後、クルトのそばに来た。


「ヴァイス卿。……立派になりましたな」


 数年前、交易路の利権をめぐって対立していた伯爵の顔が、今は違う顔をしていた。


「伯爵のご協力があってこそです」


「いや、どうして。……あなたが作った交易路を使って、今年の農産物の輸送コストが三割下がりましたぞ。こちらが礼を言わねば」


 そう言って、伯爵は笑った。



──────



 式典が終わって、コンラートとの短い打ち合わせが終わった頃には、夕方になっていた。


 帰り道にクルトが言った。


「……コンラートはああいう人間だ。正確に記録する」


「私は記録係です。名前が出るとは」


「正確な記録がなければ証拠にならない。お前の仕事が証拠になった、ということだ」


 ヴィオラが口を結んで、前を向いた。目が赤いままだった。


 クルトとヴィオラは王都の石畳を歩いた。大きな建物が並んでいて、人が多い。


「……帰ったら、広場の仕上がりが気になる」


 ヴィオラが「そこですか」と笑った。


「石畳の目地をランベルトが担当している。あの老人のこだわり方は尋常じゃないから、たぶん当初の設計より精度が上がっている。それを確認したい」


「今日の式典への感想は、それですか」


「インフラは、作った後の方が面白い。機能しているかどうかを見る方が」


 ヴィオラが苦笑した。しかしその笑顔が、クルトには大事なものに見えた。


 帰路の馬車の中で、クルトは設計の走り書きを始めた。


 ヴィオラが覗き込んで、「……これは何ですか」と聞いた。


 山脈の等高線のような線と、長い水平の断面図が描かれていた。


「考え事」


「考え事、ですか」


 馬車の窓から見える景色が、クルトが作り直した交易路の沿道に変わっていった。整備された道路を、馬車が滑らかに走っていた。


 クルトは設計図の続きを書いた。

次話では、今回の判断が現場でどう返ってくるかが見えてきます。

続きもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ