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この世界に足りないのは勇者じゃない、道路だ ~土木転生の辺境領地改革~  作者: ヲワ・おわり


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第六十三話 霧の草原の答え

辺境領地改革、毎日5話ずつ更新予定です。

気になったら続きを追ってもらえると嬉しいです。

エルドリックが執務室に並べたのは、金属の破片だった。


 五つ、六つ——形はバラバラだが、素材は同じに見えた。鉄合金か、それに近い何かだ。表面には、細かい線刻が走っている。魔法陣だ。しかし、クルトが見たことのある構造ではなかった。


「霧の草原の南端。魔物の通り道になっていた場所だ」エルドリックが言った。「半径五メートルほどの範囲に散らばっていた。まとめて回収した」


「何個あった」


「七つ。これが全部だと思う」


 クルトは破片の一つを手に取った。重い。表面の線刻は複雑だが、一定のパターンがある。中心部に向かって収束する構造だ。受信ではなく、発信——方向性がある。


「ランベルトを呼んでいるか」


「もう来ている」


 老職人は部屋の隅で破片の別の一つを手のひらで転がしていた。眉間に深い皺が寄っている。何かを考えている顔だ。


「ランベルト、分かるか」


「……魔石を動力源にした定点発信装置だ」ランベルトは静かに言った。「魔物の感覚器に反応する特定の波長を出している。方向性がある——南向きだ」


「意図的に魔物を南へ誘導していたということか」


「そういうことだ」


 フリッツが息を呑む音がした。部屋の隅で立っていた青年の顔が、少し白くなっていた。


「じゃあ——あの秋の大潮も、わざと誘導されてたんですか」


 エルドリックが「そういうことだ」と短く答えた。フリッツの顔から血の気が引いた。


 クルトは別の破片を取り上げ、振動工学の記憶と照合していた。前世で使っていた振動計測の原理——特定の周波数を発信して構造物の応答を計測する装置と、基本的な仕組みが似ていた。違うのは対象だ。構造物ではなく、生き物の神経系に働きかける。


「魔物の習性に合わせた誘導装置だ」とクルトは言った。「設置したのは、かなりの知識を持つ者だ。魔石の選定、発信強度の調整、配置の計算——一人でできる作業ではない」


「資金も要る」エルドリックが言った。「これだけの数を作るには」


「ああ」


 クルトは破片を光に近づけた。金属の表面に、何か刻印がある。ごく小さな、数字と記号の組み合わせだ。


「ヴィオラ」


「はい」とヴィオラが即座に答えた。帳面を構えていた。「その番号を読み上げてください。財務省の物品台帳と照合します」


 クルトは番号を読み上げた。七つ全ての破片を確認し、刻印を全て書き取った。


「これが証拠になります」とヴィオラは言い、手が少し震えていた。「記録は正確に」


 それでも、文字は乱れていなかった。



──────



「腸が煮えくり返る」


 エルドリックが珍しく感情を露わにした言葉がそれだった。装置の全ての刻印を確認し終えた後、彼は一度窓の外を見て、それから言った。


「俺たちは最初から——意図的に弱らされていたんだ」


「そういうことだ」とクルトは答えた。


「これを知って戦っていたのか、知らずに戦っていたのか——どちらにせよ……」


 エルドリックは言葉を途切れさせた。珍しいことだった。


 ランベルトが静かに「……なるほどな」と言った。今度の「なるほどな」は認める時の言葉ではなく、思い出す言葉だった。何かを連想している目だった。十年前——先代領主の時代の出来事を、頭の中で辿っているような。


「だから、俺たちが作り直した」とクルトは言った。「これが答えだ」


 エルドリックが振り向いた。


 クルトは言葉を続けた。「こいつらが意図的に弱らせた。俺たちが強くした。どちらが残るかは——もう決まっている」


 フリッツが低い声で「……領主様」と言った。青ざめた顔が、少し赤みを取り戻していた。


「コンラートに送る」とクルトはヴィオラに言った。「この番号のデータを全部だ。財務省の物品台帳との照合結果も合わせて送れ」


「今夜中に照合します」


「頼む」



──────



 夜が更けた。ヴィオラが財務省の物品台帳との照合を続けている時、クルトは装置の残骸を地図の上に並べた。


 回収された七点の設置位置を、エルドリックの証言をもとに地図に書き込む。それから、過去の魔物侵攻ルートと重ねた。


 一致していた。


 あの秋の大潮。あの春の侵攻。ストーンゴーレムが城壁の東側に集中した時——全て、装置の発信方向と一致している。


「……ようやく繋がった」


 独り言のような言葉が出た。最初に霧の草原で「魔物の動きが変だ」とエルドリックが言っていた日のことを、前世の行政官としての習性で「疑問点として保留」していた記憶がある。あの違和感が、ここに繋がった。


 ヴィオラが顔を上げた。


「領主様——照合が終わりました」


 クルトは地図から顔を上げた。


「一致しました」ヴィオラは言った。手が震えたままだったが、声は安定していた。「物品番号は十二年前、フォーゲル管理官の前任担当時代に発注されたものです。記録はコンラート様に送る書類に追加します」


「コンラートに送れ。全部だ」


「はい」


 クルトは地図を折りたたんだ。ダリウスの「フォーゲルへの告発を封じ込める」という言葉が頭をよぎった。


 封じ込める——もうできない。物的証拠が出た。財務省の発注記録と一致する残骸が出た。これは書類の問題ではなく、現物の問題だ。


 その夜、ダリウスの部屋の明かりが夜遅くまで消えないことに、廊下を歩いたエルドリックが気づいた。

次話では、今回の判断が現場でどう返ってくるかが見えてきます。

続きもよろしくお願いします。

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