第一章 弔い写真 第八話
それは昨日の夕方、だいたい六時頃の出来事だ。
少しずつ日が長くなってきたこともあり、帰路はまだ明るさを保っていた。けれどもうすぐに暗くなるだろう。
そんな人影もまばらな夕暮れの道の真ん中に、そのピエロは立っていた。
見た目は普通の、誰もがイメージする通りのピエロだ。違うのはその手に色とりどりの風船をたくさん持っていること。
この時にはすでに“ピエロの風船”について知っていた神楽は、本当にそんなピエロが目の前に現れたことにまず驚いた。
自分でもたくさんの怪異譚を集めるほどにオカルトへの興味は強い方だという自覚はあるが、何もその全てを鵜吞みにして信じているわけではない。
だから“ピエロの風船”についてもあれはあくまでただの噂話だと、そういう認識でいた。
けれど今、この道の先に実際に話に聞いたようなピエロがいる。
それがゆっくりと、こちらに向かって歩いてくる。
唯一聞いていた話と違うのは、風船を配り歩く、という部分。あのピエロは風船を持ってはいるが、すれ違う人に配っている様子はない。
何か基準でもあるのだろうか。
性別、は関係なさそうだ。では年齢ならどうか。すれ違う人の中には学生やサラリーマン、買い物帰りの主婦や散歩中の老夫婦がいたが、誰にも風船を渡す素振りはなかった。もしかしたら、小学生以下の子どもにしか配らないのかもしれない。
そうなると、このピエロは噂話のピエロではなくただの怪しいピエロなのではないだろうか。誘拐事件などが起こる前に、警察に通報しておくべきか。
考えながら歩いていると、ピエロとの距離がだいぶ近付いてきていた。けれど先程の観察の結果からして、自分も風船を配る対象外だろうと気にせずすれ違うつもりだった。
「……え?」
つい足を止めたのは、ピエロが風船を差し出してきていたから。
自分に風船が配られる理由が分からず、困惑の表情でピエロを見上げる。当のピエロは首を傾げ、笑っているとも泣いているとも言える特徴的な無表情で風船を受け取るように催促してきた。
言葉を発することはなく、ただグイグイと風船を持った手を差し出してくる。
ほら、受け取って。欲しいでしょ?とでも言うように。
「あ、ありがとうございます……」
結局、強く断ることもできずに風船を受け取ると、ピエロは満足そうに頷いて去っていった。
振り返ってその背中を見送っていると、母親と手を繋いで歩く小学生くらいの子どもがピエロとすれ違った。ピエロは、風船を渡さなかった。子どもも特にピエロに反応する様子もなく、母親と楽しそうに話しながら歩いていった。




