第一章 弔い写真 第七話
その日、嘉月と神楽はちょうどこの食堂で偶然会って、せっかくならと一緒に昼食を食べることにした。
この時には神楽が焦っていることを何となく察していた嘉月は卒業制作のことや就職活動のことには触れず、当たり障りのない雑談をして過ごしていた。
確か、最近読んだ本の話をしている時だったと思う。
「ねぇ、嘉月は“ピエロの風船”っていう噂話知ってる?」
「いや、初めて聞いた」
昔から二人ともオカルトを取り扱ったジャンルの物語が好きだったこともあり、お互いに面白かった小説を紹介し合うのはよくあることだ。
今回もそんな流れから、最近知った噂話の話になった。
嘉月のオカルト知識はどちらかといと小説や漫画などの創作物由来で、あまり自分からそういった話を仕入れようとすることはない。精々、気になったものがあれば調べる程度だ。
逆に神楽は、自分からも様々なオカルト話を積極的に仕入れていた。
二人で一緒に本屋に行った時なんかは分厚いオカルト辞典を購入していたし、ネットを駆使して全国各地の伝承なんかも調べていた。
恐らくは今回のそれも、オカルト辞典なりネットなりで知った話なのだろう。
一応自分が読んだ小説などの中にそういった話がなかったかを軽く脳内で検索した結果、初耳だろうと判断して首を振る。
「それってどんな話?」
「そのピエロは風船を配り歩いていてね。風船を受け取った人がどこか遠くに行ってしまいたいって思っていたら、遠くへ連れて行ってくれるんだって」
「へぇ~。遠くって?」
「遠くは遠くだよ。ここじゃない、どこか遠く」
やっぱり初めて聞く噂話だったけれど、内容としてはそれだけだ。
風船を配るピエロがいる。そのピエロから風船を受け取った人がいなくなり、それを「どこか遠くへ行った」と表現しているだけのことだろうと嘉月は解釈した。
恐らくはどこかの誰かが教訓か注意喚起の意味合いで作った創作話だ。ピエロは不審者の代替で、配るものは別に風船じゃなくてもいい。
とにかく、怪しい人から物を受け取ったりついて行ったりしてはいけませんよということを伝えたかったのだと思う。
世に流布している怖い話の構成としてはよくあるものだ。
それだけのことに何故神楽がこんなに興味を示すのか最初は分からなかったが、次の発言でそれは変わった。
「俺も会ったんだよ、昨日。風船を配り歩いてるピエロに!」
「は?」
まさかの話の展開に驚きの声を上げた嘉月を置き去りに、神楽の話は噂から実体験へと移り変わる。




