第一章 弔い写真 第四話
そんな日々を過ごしていくうちに、次第に言葉が通じるようになってきたような気がしていた。
翠恋が自分の食事を準備している時、スミレもご飯が欲しくて足元で待っていたことがあった。けれど一気に何もかもはできないので「まだだよ」と声を掛けると、スタスタと自分のハウスへと戻っていたのだ。
この時のスミレが本当に翠恋の言葉を理解していたのかどうかはさて置き、とにかくこんな風に通じ合っていると思えることが何回もあった。それがとても嬉しかった。
正直、絵を描く時間は減った。それを嫌だと思わなかったわけではないけれど、絵を描くことと同じくらいにスミレの写真を撮ることが好きになった。
とはいえ本格的な機材を揃えることなんて到底できないため、専らスマホを使って撮影をしていた。それでも今のスマホの性能ならばとても綺麗に可愛く撮れる。いつの間にか、カメラロールはスミレの写真でいっぱいになっていた。
けれどそれも、もう増えることはない。
「覚悟はしていたんです。一緒にいて、あぁ歳を取ったなって思うことも増えていたので。だけどやっぱり、いなくなると寂しくて。あの子がいたって気配も段々薄れていって……」
スミレを迎えてからは何かと忙しくて、寂しいなんて感情はすっかり忘れていた。家に帰っても誰もいない生活から、家に帰ればスミレが迎えてくれる生活に変わり、いつしかそれが日常になった。
言葉を発するわけではない。それでも玄関まで駆け出してきて、「おかえり」とでも言うように尻尾を振りながらすり寄ってくる。いつも静かだった家の中が明るく、賑やかになった。
なかなか両親と一緒にいられなくても、もう寂しくなかった。ずっと一緒だった。
次第に目が見えにくくなって、歩けなくなっても、いてくれるだけで良かった。家に帰ればスミレがいる。それだけが大切だった。
若い頃は動物病院の先生から「健康そのもの」と太鼓判を押されたスミレでも、歳を取ればそれ相応に老いていく。
散歩に行けなくなっても、上手にご飯が食べられなくなっても、壁に向かって吠えるようになっても、変わらずスミレは大事な家族。
だからこそスミレがいなくなってからの一ヶ月はあまりにも静かで、寂しかった。
両親はそんなに落ち込むなら新しい犬を迎えたらどうかと提案してくるけれど、そういう問題ではない。スミレの代わりなんていないのだから。
「それなのに少しずつ忘れていきそうで、怖くって……。だから、もう少しだけでいいから、一緒にいてくれたらって思って、ここに来たんです」
スミレの代わりを望んでいるのではない。戻ってきてほしいなんて傲慢も言わない。
それでも人の力では及ばないようなズルをしてでも、少しずつ薄れていく思い出を引き留めるために、もう少しだけ一緒にいてほしかった。




