第三章 ピエロの風船 第一話
「細は近いうちに必ずトンネルの夢を見るよ。それが“想出回廊”。この怪異がきっと、細の想いに添ってくれる」
啓嗣の店で“想出回廊”の名前を聞いてから、五日が経っていた。
近いうちとは言っていたが、今のところ一切夢を見ていない。そもそも細は普段からあまり夢を見ない方だし、見たとしてもほぼ覚えていない。
そんな状態で果たして本当に“想出回廊”と出会えるのだろうか?もしかしたら、もう出会っているのに気付いていない可能性もあるのかもしれない。
後から啓嗣に確認したところ数週間以内には“想出回廊”と出会えるとのことだったので、せめて二週間待ってみても変化がない場合には啓嗣に相談してみようと決めた。
あまり気にしすぎても良くないだろうとこの辺りで思考を止めて、疲れに身を任せて布団に沈んだ今日、珍しく細は夢を見た。
啓嗣が言った通りにトンネルが出てくる夢だった。話を聞いた時にはトンネルの夢ってどんな夢なんだと思わなかったこともないが、本当にただただトンネルがそこにある夢だ。寧ろトンネル以外には何もない。
けれど細はこれが“想出回廊”なのだとすぐに分かった。具体的なトンネルの形状を聞いていたわけではないし、聞いたところで特徴もないので啓嗣も説明に困ったことだろう。
どこにでもあるような何の変哲もない普通のトンネルを、細の直感が“想出回廊”だと告げていた。
夢を見たらどうするという説明もなかったが、あのトンネルに入らなければという衝動に突き動かされる形で前へと進んだ。
薄暗いトンネルだった。通常のトンネルならばついているはずのライトはないが、真っ暗闇で一寸先も見えないというわけでもない。
寂しげな雰囲気でありながらも、荒廃はしていないようだった。通れないほどではないが、現実だったなら別に積極的に近付きたいとも思わないような、そんなトンネル。
けれどこれは、“想出回廊”という怪異が細の想いに添おうとして夢に現れているのだ。それが分かっていたから、恐る恐るトンネルの中へと踏み出した。
瞬間、パッとトンネルの中が明るくなった。赤、青、黄色、緑、白……様々な色が混ざり合って、チカチカと視界を照らす。あまりの眩しさに一度外に出ようかと考えた時、再び辺りが暗くなった。
一瞬、自分の身体の輪郭すらも見えない暗闇に包まれて警戒心が湧き上がったが、すぐにどこかに豆電球でも点いているかのような仄暗さに変わる。
続いてどこかからカチ、カチ……ジジジジジ……と微かな音が聞こえてきた。まるで、何かの映像が始まる前のような機械音。
その音の方向へと目を向けると、壁一面がモニターのように映像を映し出している。その光景には見覚えがあった。
それは、まだ捜査一課に配属されたばかりで、指導係だった蘭綴に怒られてばかりいた頃からの懐かしい日々の記憶だった。




