第二章 記憶の本 第八話
上の判断は正しい。特殊事案捜査班なら、犯人が怪異であろうとなかろうと対応できるのだから。
ならばピエロのことは彼らに任せて、自分たちはいつ新たな事件が起きても対応できるようにしておくべきだ。
頭では分かっていても、愛瑛佳の気持ちは引っ掛かるらしい。
「渉夢君にこっそり協力を持ち掛けてみるのはどう?あっちだって人手は多い方がいいでしょうし」
「いや駄目だろ。手出し無用って決定が来てんだから、渉夢にも迷惑掛けることになる」
捜査一課と特殊事案捜査班は別に仲が悪いわけではない。今回は手出し無用だが、場合によっては合同で捜査をすることだってある。回数はあまり多くはないが、公式で細たちが渉夢と共に捜査に当たった経験もあった。
だからこそ思い付いた愛瑛佳の提案だったが、細は即座に否定した。胡蝶は二人のやり取りを黙って静かに聞いているだけで、特に賛成も反対も口にしない。
「二人は、どうしたいですか?」
かと思えば、軽く口論を始めていた二人のやり取りなんてお構いなしに口を挟む。これはいつものことだ。
胡蝶は自分がどうしたいといった希望を口にすることは滅多になく、いつも人にどうしたいかを聞いてばかりいる。昔からの性格がこうなので今更変えられるわけもなく、幼馴染二人でも胡蝶の希望を聞き出すのには苦労する。
今回もまた、胡蝶自身がどう思っているかを言わぬまま二人の意見を訊ねた。
「私はやっぱり人間による誘拐の線は捨てきれないし、渉夢君たちと早めに協力体制を敷いて捜査したい。だって怪異って防犯カメラに映らなさそうじゃない?まだ生身の人間が犯人の可能性はあるでしょう」
「カメラに映る怪異だっているかもしれないだろ」
「細は、どうですか?」
「どうって言われても、上が決めたことに従うだけだ」
自分たちで解決したいという気持ちが分からないわけではない。元々自分たちが捜査していた案件だ。進捗は気になるし、早く解決したいとも思う。
けれど怪異が相手では、無理なのだ。そもそもは本人が、怪異に願ってそうなっているのだから。
「細はさ、変わったよね」
その仕組みを、愛瑛佳だけは知らなかった。
今回こそこうして頑固な面が顔を出しているが、愛瑛佳は真面目な性分だ。特殊事案捜査班がどういうものなのかが気になってこっそり紛れ込んだことのある、細や胡蝶とは違って。
最も、胡蝶にしても細が知りたいと言っていたから潜り込んだだけで、本人の希望ではなかっただろうが。
「仕方ないだろ。俺たちは警察なんだから」
優先すべきは事件の解決。そこに私情を挟む余地はない。多少なりとも不満があったとしても、上の決定は絶対。
「分かってるわよ」
愛瑛佳だってそれは分かっていた。だからこそ口ではああ言いながらも、実際に特殊事案捜査班に乗り込んでいって協力をしようなんて言うつもりもない。ただ仲間内で少し文句を言うくらいは良いだろうと、そんな軽い会話だったのだ。




