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異界喫茶  作者: 昏片逢瀬


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第二章 記憶の本 第七話


「二人はおかしいと思わないの?だってピエロを見つけたのに、実在するのに、どうして特殊事案に……」


 二人に宥められた愛瑛佳は自販機で買っていたカフェオレを一口飲み、少しトーンダウンした調子でポツポツと不満を口にする。

 これまで、捜査一課から特殊事案捜査班へ捜査権が移った案件はどれも“特殊”だと言える要素を含んだものだった。

 それこそ犯人が事件現場から瞬間移動をしたかのような事件だったり、毒が勝手に器に飛び込んだとしか思えない事件だったり。そんな、ある種オカルトめいた事件を担当するのが特殊事案捜査班だ。

 昨日まで細たちが捜査していた行方不明事件は、鍵のかかった家から人一人が忽然と姿を消すというもの。だがこれはいくらだって人間犯人説で説明が可能だ。

 恐らく問題だったのは、例のピエロが映っていた防犯カメラの映像の方。

 あの映像によって、風船を配り歩くピエロは存在し、行方不明となった少年の前に確かに姿を現したことが証明された。にも関わらず、当事者たちが友人に話した以外の目撃証言が出てこない。

 防犯カメラ映像を追い、足跡を辿った先でピエロとすれ違った人は何人もいた筈なのに、その誰の記憶にも残らなかった異常性。風船を貰った人たちは皆、何かに悩んで「遠くへ行きたい」と友人などに零していたという共通点。ノイズの走った防犯カメラ映像から不意に姿を消した、件のピエロ。

 こういった点から、ピエロの正体を怪異だと仮定し、特殊事案捜査班へと捜査権を移すことが決まったのだろう。

 怪異が犯人、なんて、昔の細だったら信じられなかっただろう。けれど実際に高校時代の友人である渉夢がその班に所属して日夜必死に事件と向き合っていることは知っていたし、細はもう怪異が犯人という真実がこの世に存在することも知っている。その場合、自分たちではどうしようもないことも。

 愛瑛佳だって警察だ。何度も特殊事案に当たり、その度に特殊事案捜査班に引き継いでは「怪異が犯人」「怪異の力を借りた人間が犯人」といった報告を受けてきた経験がある。だからこそ、自分の目で実在を確認したピエロを怪異とすることに不満を感じていた。

 ピエロはあの場所にいた。確かに防犯カメラに映っていた。ピエロと行方不明者、両方の目撃証言が上がらないこともまだ人間心理で説明しようと思えばできる範囲だ。

 それなのに何故、早々にピエロの正体が人間である可能性を捨てて、特殊事案捜査班に一任するのか。せめて並行して捜査を継続してもいいではないか、と。


「もし本当に怪異が犯人だった場合、僕たちでは終わらせることができないですからね」

「渉夢みたいに大学で怪異について研究してても、捜査となると苦戦することもあるみたいだしな」


 怪異による事件を終わらせる方法は二つ。怪異の力を借りた本人が“もういい”と思うか、第三者が名前を取って“もういい”と伝えるか。

 この名前を取るというのが厄介で、有名所なら誰でもできるがマイナーだったり新しく生まれたものだったりした場合には怪異に明るくない人間にはなかなか難しい。細も一度やってみたが渉夢が苦戦するもの相手に上手くいくはずがなかった。

 本人の説得なら怪異に明るくなくてもできる、と思うが、今回のように本人の姿がどこにも見当たらなかったり眠ったままだったりした場合に説得は不可能。

 よって胡蝶の言うように、並行して捜査を進めたところで本当にピエロの正体が怪異だった場合、細たちには解決のしようがないのが実状だ。 

 それに、今日はたまたまこんなにのんびりと過ごせているが、事件はこれ一つではない。

 ならば怪異絡みが濃厚なピエロの件に無駄な人員は割かず特殊事案捜査班に任せて、新たな事件に対応できるように体制を整えておくべき。これが上の判断で、きっと間違ってはいないのだ。


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