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異界喫茶  作者: 昏片逢瀬


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第二章 記憶の本 第六話


「捜査権が特殊事案捜査班に移るってどういうこと⁉ピエロはちゃんと防犯カメラに写ってたじゃない!」

「愛瑛佳さん、一旦落ち着いてください」

「俺に怒ったってしょうがないだろ」


 昼休憩中の食堂で、周りから様子を伺うような視線に若干の居心地悪さを感じながら、愛瑛佳の不満が爆発した経緯に思いを馳せる。

 昨日の調査結果として、防犯カメラの映像確認は功を奏していた。

 胡蝶が防犯カメラを見てみようと最初に提案したまさにその家の映像に件の少年と、誰からも目撃情報が出なかったピエロが映っていたのだ。ピエロは確かに、戸惑う少年に風船を渡して去っていった。

 そこからはピエロが歩き去った先へ細たちも向かい、見つけた防犯カメラ映像を次々と確認させてもらった。

 その中にはピエロとすれ違った親子の姿があり、そこは愛瑛佳が聞き込みを担当した家だったが本人たちからそのような証言はなかったという。


 ――なら、この親子が嘘をついている?


 すぐに愛瑛佳がもう一度話を聞いてくると動き出そうとしたのを制して、ピエロの足取りを追うことを優先する。

 親子とすれ違い、犬の散歩をしていたおばあさんともすれ違う。因みにこの人物は細が聞き込みをした家の住人だ。年の割にはしっかりとした受け答えをしてくれていたので、これだけちゃんとすれ違ったのなら彼女も覚えていただろう。けれどやはり、ピエロについての目撃証言は出ていなかった。

 先の親子と、おばあさんの共犯説というのもある。調べていけばどこかで繋がりが見えてきて、事件解決の糸口になるかもしれない。

 頭の中で色々な説を上げながらピエロの足取りを追っていた細たちだったが、コンビニの防犯カメラを確認したところでそれ以上の追跡が不可能になってしまった。

 というのも、その防犯カメラ映像に一瞬ノイズが走り、元に戻った時には既にピエロの姿はなくなってしまっていたからだ。ピエロが取れる選択肢は四つ。そのまま画面左に向かって真っすぐに進むか、振り向いて元来た道を戻るか、画面奥の道へ曲がるか、手前へ曲がってコンビニに入るか。

 この中で排除できるのは、最後のコンビニへ入ったという可能性。店内にも勿論防犯カメラがあるので念の為確認させてもらったところ、店内にピエロが入ってくる姿はなかった。

 残る選択肢は三つ。ここからまた三手に別れて虱潰しにしていっても良かったが、ひとまずこの捜査結果を上司に報告することにした。

 その結果返ってきた上司からの言葉は、指示を待て、というもの。捜査の継続を指示された午前中とは違い、今回の指示は待機を命じるもの。こうなったら一度現場を引き上げるしかない。

 上司からの新たな指示を伝え、素直に頷いた胡蝶と不満そうな愛瑛佳を引き連れ、昨日は現場を後にした。

 待機命令が継続したまま迎えた今日。抱えていた案件がそんな状況ではあまりやることもなく、久しぶりにゆっくりと食堂で焼き鮭定食を食べていた細の元へ一本の連絡が入った。


 ――例の行方不明事件については特殊事案捜査班の管轄とし、以後一切の手出しは無用。


 この連絡を受けた細の心境としては、やっぱりこうなったか、という諦めにも似たものだった。

 捜査一課が担当していた案件の捜査権が特殊事案捜査班へと移るのは初めてのことではない。薄羽班だけではなく他の班の案件も、今回と同じように捜査一課から特殊事案捜査班の管轄へと変わったことが何度もあった。

 不可能犯罪のような案件では合同捜査をすることもあるが、基本は互いに不干渉が基本的なスタンスだ。それは今回も変わらない。

 今までは愛瑛佳も大人しく指示に従っていたものの、今回は少しだけ状況が違っていた。

 そうして今、一人でのんびりと昼休憩を過ごしていた細のもとに愛瑛佳が飛び込み、遅れて食事をしに来た胡蝶がそうめん片手に合流し、一つのテーブルを囲んで先の連絡について不満を爆発させているのだった。


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