499 Re:シルダートのダンジョン ⑫
ラージマッドクラブとハイサハギンの間を、サンが駆け抜けていく。
いくつか攻撃が飛んできても、巧みに避けていた。
ラージマッドクラブの泥弾では、サンをとらえきれない。
そうして余裕をもって、キングマッドクラブの前にサンは到達した。
当然気が付いているキングマッドクラブが、すぐに攻撃をしてくる。口元から、無数の泡が飛んでいく。
「ギギ!」
これにはサンも安易に飛び込むことはなく、種族由来の大剣からウィンドカッターを放つ。
すると無数の泡が、派手に爆風を巻き起こす。
更に一つ爆発すれば、連鎖的に近くの泡も爆発し始めた。
近くにいたラージマッドクラブとハイサハギンが巻き込まれ、肉片が飛び散っていく。かなりの威力だ。
キングマッドクラブも巻き込まれたはずだが、ダメージはほとんどない。
僅かな傷も、再生で即座に回復していた。
だが思わぬ反撃に激怒したのか、キングマッドクラブはハサミを上に持ち上げて開く。
そして蟹にもかかわらず、素早い動きでまっすぐサンへと迫る。
キングマッドクラブは、縦の動きも得意のようだった。
「ギシャー!!」
「ギギ!」
振り上げたハサミが、赤く光る。明らかにスキルの行使だ。
サンも警戒して、ライトバリアを発動した。
しかし振り下ろされたハサミを受け止めたのは、一瞬のこと。ライトバリアは容易に破壊される。
中々の威力だ。あれがシザーハンマーというスキルだろう。
同じスキルを持つラージマッドクラブも、似たように発動している。
するとサンはその一瞬を見逃さず、キングマッドクラブの懐に飛び込む。
そして跳躍すると、種族由来の大剣を振り下ろした。
キングマッドクラブの中心に、スラッシュを叩き込む。
「ギ?」
「ギシャッ!!」
けれどもキングマッドクラブの甲羅は硬く、僅かな傷をつけるだけで終わった。
サンは迫ってきたハサミを飛行のスキルで回避すると、そのまま空中に飛び上がる。
ふむ。硬化と物魔耐性(中)、シークレットモンスターの強化も合わさったことで、物理攻撃にはとても強そうだ。
サンは多才である代わりに、聖剣が無ければやや決め手に欠ける。こうした格上だと、実に顕著だ。
それと攻撃を行うなら、飛び出た目の根元にするべきだったな。判断を見誤っている。
さて、サンはここからどう動くだろうか。
俺がそう思っていると、早速サンが次の手に出た。
「ギギッ!」
「ギシャッシャッ!!」
サンが空中から、ライトレーザーを放つ。光属性の中でも高威力ということもあって、これにはキングマッドクラブも堪らないようだ。
だがキングマッドクラブもハサミから、ウォーターランスや泥弾で反撃をしている。
その度にサンは魔法を解いて回避すると、再びライトレーザーを放つ。
流石に制御が大変なため、避けながら放つようなことはできない。
しかしチクチクとヒットアンドアウェイで、確実にダメージを積み重ねていく。
キングマッドクラブには、物理よりも魔法の方が効くようだ。
物魔耐性(中)や硬化があっても、ライトレーザーは防ぎきれない。
サンの所持スキルで、最も威力が高いだけのことはある。
再生で癒しているが、魔力の消費を考えれば永遠には続かないはずだ。
対してサンもセイントヒールを使い、被弾しても即座に癒す。攻撃自体も、ほとんど回避できていた。
客観的にサンの方がコスパの悪いスキルを連発しているが、魔力については気にしていない。
前提として、サンは俺から魔力供給を受けている。なので実質、無限にスキルを使用できた。
最初は魔力供給も止めようかと思ったが、それはやりすぎだ。聖剣も禁止したしな。
にしても、やはり空を飛べるというのは、それだけでアドバンテージだ。
遠距離攻撃を持つとはいえ、キングマッドクラブも対処に苦慮している。
「ギシァッ!」
「!?」
すると業を煮やしたのか、キングマッドクラブは泥の壁を半円状に展開した。マッドウォールという、地属性魔法だ。
だが不思議なことに、二本のハサミが泥の壁から突き出していた。
そしてハサミが開くと、同時に大量の泡が空中に散布していく。シャボン玉のように、浮遊していた。
なるほど。そうくるか。
俺はここであることに気がついたが、サンには何も言わず心の中に留める。
果たしてこれに、サンが気が付くかどうか。
そう考えていると、サンが動く。
「ギギッ!」
距離を取ったあと、ウィンドカッターを放つ。当然泡は、連鎖的に爆発した。
「ぎょぇー!?」
「ギ――!?」
先ほど以上に威力が高く、ハイサハギンやラージマッドクラブが大量に巻き込まれていく。
俺たちも巻き込まれたが、アンクのバリアーで事なきを得ている。
そうして爆発が止むと泥の壁は崩れ去り、酷く損傷した二本のハサミが落ちていた。
そこに、キングマッドクラブの姿はない。
「ギ?」
サンはキングマッドクラブを、一瞬見失ってしまった。それが、命取りになる。
「ギシャッァアア!!」
「――ギギッ!?」
気づいたときには、キングマッドクラブが地中から勢いよく飛び出し、その巨体に見合わない跳躍を見せた。
サンもこれは不味いと回避行動に移すが、一歩遅れてしまう。
落ちていたはずのハサミが生えているキングマッドクラブに、横から挟まれた。
なんとか抜け出そうとするサンだが、それもかなわない。
鋏強化(大)と、種族的にも強力な挟む力の前に屈する。
サンはキングマッドクラブのハサミに、両断されてしまった。
その時点で、勝負がついてしまう。
……サンは、気づけなかったか。
戻ってきたカードを収納すると、俺はサンの敗北を残念に思う。
「まあ、聖剣無しでよく頑張った。復活したらほめてやろう」
「にゃぁん」
「ガァ、サン負けちゃったし。ぴえん」
聖剣があれば勝てたはずだが、それ以上に良い経験になったはずだ。
サンにはこの敗北を糧に、成長してほしい。
そう思いながら、俺は次にサンの敗因について考え始めた。
さて、肝心のサンの敗因だが、爆発する泡、バブルボムを発射していたハサミが起点になっている。
バブルボムを発射してから、急にそのハサミに意識が引っ張られた。
同時にキングマッドクラブ本体は、ハサミを捨てて地中に潜っている。
このときキングマッドクラブ本体には、なぜか感知系スキルが効きづらかった。
隠密系のスキルは所持していないし、動けている以上、シークレットモンスターの効果でもない。
だとすれば、自切再生というスキルが怪しかった。
切り捨てたハサミを囮にして、本体が逃げるためのスキルなのだろう。
ハサミに注目が集まり、本体には隠密系効果が付与されるのかもしれない。
そして大量のバブルボムの爆発も相まって、サンはキングマッドクラブを見失った。
あの巨体が地中を移動すれば音や振動も起きるが、サンはそれに気づいていない。
空中にいたことも、災いしていた。
また生命探知と気配感知を所持していても、これでは即座に見つけることは困難だ。
結果気づいたときには、回避が間に合わず捕まってしまった。
その時点で、切り離したハサミも新たに生やしている。
自切再生というスキル名からして、ハサミを再生させる効果もあるのだろう。
通常の再生のスキル効果も合わさって、即座にハサミを取り戻していた。
完全に、キングマッドクラブの作戦勝ちだ。思っていた以上に、賢いモンスターだった。
サンは空を飛んでいれば安心だと、慢心していたのだろう。
正直あの跳躍には、俺も驚いた。バスほどの大きさの巨体が跳ぶ姿は、実に見ごたえがあって面白い。
俺は配下が負けたのにもかかわらず、思わず笑みを浮かべてしまう。
さて、次はどの配下でいこうか。
沼地だしゲシュタルトズンプフもありなのだが、見た目通りの泥試合になりそうだ。
いずれは勝てるだろうが、ここからの長期戦は流石に飽きる。
よし、なら次はこいつでいこう。思えば、一対一の戦いをほとんど見たことがない。
そう考えると、俺は次の配下を召喚した。
「出てこい、リーフェ」
「わ~い。でばんだ~!」
俺が呼び出したのは、Aランクモンスターのリーフェである。




