454 ブラックヴァイパー ⑥
本部で与えられた部屋は、至って普通の部屋だったので、特に言うことは無い。
また時間が余っていたので、荒事部門の者たちに頼まれたこともあり、少し手合わせをしてやった。
当然俺の足元にも及ばなかったが、ブラックヴァイパーの中では精鋭部隊らしい。
弱くても、冒険者ランクでいうDランクはあるようだ。中には、Cランク相当もいるようである。
それと最近まではサーヴァント部門というのがあったらしく、どちらが最強部門かで争っていたようだ。
しかしハンスの消滅事件の余波を喰らい、サーヴァント部門の者たちは軒並みサーヴァントを失ったらしい。
それもあって現状ではほぼ解散に近いらしく、多くの者が去って行ったとのこと。残っているのは、元から戦闘能力が高かったり、他の部分で優れていた者たちだけらしい。
また荒事部門からしたら、その出来事はかなり愉快なことだったようだ。しかしブラックヴァイパー全体としては、大きな損失となった。
サーヴァント部門はハンスからの支援も大きかったらしく、戦力と支援の両方が突然消失したことで、大混乱に陥ったのである。
故にそれだけの戦力を即座に補充することも当然難しく、各部門から人を出し合って、サーヴァント部門が担っていた部分をギリギリ維持している状態らしい。
なので実のところ荒事部門はもっと人数が多いのだが、そうした理由によりかなりの数が不在にしているとのこと。
それもあって現在ブラックヴァイパーは、人手不足が深刻なようだ。何より戦力の低下が著しい。
よって俺のような強者が一時的にとはいえ加入するのは、ブラックヴァイパー全体からしても、大歓迎のことらしい。
実際荒事部門の面々と手合わせをしていると、その噂を聞きつけて他の部門の者が様子を見に来たくらいだ。
おそらく今日明日には、俺のことがブラックヴァイパー全体に知られることになるだろう。
ゴブリオックの強者を二名倒した実績もあるので、他の部門からの勧誘もあるかもしれないようだ。
当然のように荒事部門の面々は、俺に対してその勧誘に乗らないようにお願いしてきた。
俺としても目的があるので、いちいち移動する気は毛頭ない。
そうして後は本部にある食堂で荒事部門の面々と食事を摂り、色々と話しを聞いたり本部の案内や説明をしてもらって、一日を終えた。
この一日で、荒事部門にはかなり受け入れられたと思われる。
ちなみにブラックヴァイパーの本部に泊まったが、幸運の蝶の店には置手紙を残しているので、戻らなくても問題ないだろう。
元々国境門を見に行くために、二、三日戻らないことも考えていたからな。
そして翌日同じように食堂で朝食をもらい、荒事部門の面々と一緒に朝の鍛練をしていると、ようやくポッチが顔を出した。
「よう。朝からやってんな! 俺様も混ぜてくれよ! モブメッツさん、よろしく頼む!」
「いいだろう。こい」
すると早速ポッチも鍛練に混ざってきたので、相手をしてやる。
一応手加減をしつつ相手をしてやったが、元Bランク冒険者ということもあり、そこそこ楽しめた。
俺のネームドたちには劣るが、ジョン、ホブン、ルトナイとは同じ人型ということもあり、面白い鍛練ができるだろう。
特にジョンはガン・アーミービーストというBランクの獣人に近い種族なので、ポッチとはある意味相性が良いかもしれない。
まあ、現状ではポッチと俺の配下を引き合わせることは難しいので、単なる妄想だけどな。
そうして朝の鍛練を終えると、ちょうど良いのでポッチにボスに会う件について尋ねてみる。
「なあ、こうして雇われている以上、一応ここのボスに会っておきたいのだが、俺が会うことは可能か?」
「そりゃあ、難しいな。モブメッツさんはブラックヴァイパーに正式加入していないし、そもそも正式加入していても、ボスには早々に会わすことはできねえ。
それでも会いたければ、大きな功績が必要だろうな。ゴブリオックの強者如きではダメだ。せめてキングクラブの幹部を倒すくらいはしなければ、難しいぜ」
「なるほど……」
やはり、そう簡単には会えないようだ。しかしここが本部ということは、ボスもここにいるかもしれない。
最悪の場合力づくで会うことはできるかもしれないが、その場合大きな混乱と、それに連鎖した問題が多発するだろう。
俺としてもそんな面倒なことは避けたいし、なにより一つ、考えがある。そのためには可能な限り失敗の可能性を減らして、正攻法で会うことが好ましい。
ただ可能であればプリミナたちがダンジョンから帰還するまでには済ませたいので、無理なら夜中にこっそりと会うことになるだろう。
それとたぶん絶隠密でボスの就寝中に会う方が一番簡単なのかもしれないが、正直なところ俺はこの状態を楽しんでいる。
なのでそういう意味も含めて、可能であれば正攻法で会いたいのだ。
それに期限はプリミナたちが戻るであろうあと二日くらいだし、それくらいの遊びは問題ないだろう。
すると俺がそんなことを考えていると、ポッチが慌てたようにこう言ってくる。
「一応言っておくが、キングクラブに乗り込むような事はしないでくれよ。モブメッツさんは確かに強いが、相手の本拠地に乗り込むのは自殺行為だ。
それにモブメッツさんが暴れたら、それが発端になってブラックヴァイパーとキングクラブとの、全面抗争に発展しかねないからな。頼むぜ」
ふむ。キングクラブの本拠地に乗り込むのはダメらしい。一番手っ取り早そうだが、ポッチがそういうのなら止めておこう。
しかしそうなると、短期間で功績を上げるのは難しいな。他にボスに会う方法がないか、訊いてみるか。
「……そうか。わかった。なら他にボスに会う方法は無いのか? 長い時間をかけるのは、個人的には面倒だ。手っ取り早い方法を教えてくれ」
「そうだなぁ。なら後は、ブラックヴァイパーの幹部から推薦を受けるしかねえな。最低でも三人の推薦があれば、ボスに会えるかもしれねえ。
俺様とラブから推薦はできるだろうし、あと一人幹部から推薦を受ければ、問題はねえだろう。
それとゴブリオックの強者を二人倒した功績もあるし、それも考慮されるだろうな」
「なるほど。ならそっちの方がよさそうだな」
それならキングクラブの本拠地に乗り込むよりも、早く済むかもしれない。
「ただ他の部門を仕切る幹部たちは、どいつもこいつも曲者揃いだ。俺様のように、まともなやつはほとんどいねえ。ラブを見ればわかるだろ?」
いや、お前もかなり普通じゃないんだが。正直ラブよりも、ポッチの方が変態でヤバイ奴だろう。犬と寝て朝帰りなのに、本人はそれについて全く自覚がないようだ。
俺はそんなことを思いつつも、ポッチの話を続けて聞く。
「その中でモブメッツさんの強さを活かすとすれば、やっぱり闘技部門しかねえだろうな」
「闘技部門?」
「ああ、闘技部門だ。主に闇闘技場を仕切っている部門で、そこで日夜賭け試合が行われている。荒事部門である俺様たちもよく世話になってるし、そこの幹部とも関係は良好だ。話しも通しやすいぜ」
なるほど。闇闘技場か。確かにそこでなら、十分に活躍することができるだろう。おそらく一番強いやつでも倒せば、そこの幹部に認められるかもしれない。
「なら、そこが良さそうだな。話しを通してもらってもいいか?」
「おう。構わねえぜ。モブメッツさんには、マロンちゃんを助けてもらった借りがあるからな。
それに、マロンちゃんと寝た後に気がついたんだ。モブメッツさんも、俺様の同志だということにな。改めてフーレちゃんを見ていれば、それがよくわかるぜ。だから任せろ兄弟!」
「は?」
なんか、物凄い勘違いをされたのだが……。だとしても、お前と一緒にするなよ。俺はレフを、そんな目で見たことはない。
「にゃわわん!」
するとそんな時に限って、レフが俺にすり寄ってきた。
「ははっ、やっぱり俺様の目に狂いはねえ! ラブラブじゃねえか! お似合いだぜ!」
「にゃわん♪」
「勘弁してくれ……」
まあ、そんな勘違いのおかげで話しを通してくれるみたいだし、そのまま勘違いさせておこう。
ここで否定してそれが無くなったら、面倒だからな。
そうして俺は、ポッチに闘技部門へと、話しを通してもらうことになるのだった。




