表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月光眼のライラ  作者: 青梅薄荷
雨音に鈴を濡らして
62/63

SEQ2――無味な仕事――4/5

 辺りを見回すと、サングラスを掛けた金髪の男が近付いてきていた。

 しかし、俺と目が合った途端に駅の方へ進路を変えた。


(監視役……どこかで聞いたような役割だ)


 苦笑いして、通話に意識を戻す。


「俺が追う。お前も来てくれ」


『あいよ』


 石間との電話を切り、携帯をしまう。


「待って、ケイくん」


「ちょっくら追いかけてくるだけだ。ソイツを頼んだ」


 金髪グラサン野郎は、小走りで駅へ向かっている。少し距離がいてしまったな。


「――っ」


「待てッ」


 俺に気付いた金髪が走り出した。足が速いな。

 方向は駅の改札。電車に乗られると厄介だ。


「石間! 駅に先回りしろ!」


「おう!」


 合流しかけていた石間に指示を出すが、


「花村君! 石間君!」


 石間よりも先に、糸岡が上野駅の改札前に立っていた。

 お婆さんを追って駅まで行った糸岡は、駅前で待機していたようだ。


「ここは通さないよ」


 両腕を広げた糸岡を見て、改札に入るのを諦めたらしい金髪が右に曲がる。

 金髪はガードレールに足を引っかけつつ、ロータリーへ出た。


「糸岡! そこを抑えておけ!」


 糸岡を改札口で待ち構えさせておき、俺と石間もガードレールに近付く。


「橋の方か?」


「そうっぽいな」


 ガードレールは飛び越えずに、歩道を走る。

 その先には、パンダ橋という上野駅の上にかる陸橋がある。

 しかし、さっきから違和感があるんだよな……なんだ?


「線路に降りられたりしたら、大迷惑だぜ」


「まったくだ」


 金髪がガードレールや植え込みを踏み越えて、車道から歩道へ戻る。

 そのまま階段を駆け上がって橋の上に出た金髪は、転落防止の背の高いフェンスをよじ登り始めていた。


「おい!」


 石間が呼びかけると、金髪は驚いて手を滑らせた。

 その隙にと、石間と一緒に駆け寄る。


「ナメんじゃねぇ!」


 立ち上がった金髪が、上着のポケットからスタンガンを取り出した。


「知ってるか? 特武は、正当防衛の範囲が拡張されるんだ。警告すりゃ、武器を構えてるヤツを撃つのは適法の範囲内なんだよ」


 銃でも見せてビビらせようかと考え、ブレザーの内側に手を突っ込むが……


(ない……っ)


 ショルダーホルスターに、拳銃(ストーム)が収まっていない。鈴音に没収されたままだからだ。

 違和感はこれか………


「どうした? 景介」


「……石間、銃を出せ」


「は? お前がやりゃいいだろ」


「いいから、やれ」


 俺がすごむと、渋々《しぶしぶ》といったカンジで石間が拳銃――タウラス・M85。比較的安価な小型リボルバー――を抜いた。


「そんなモノ捨てろって。な?」


 石間がぷらんぷらんとM85を揺らしながら、薄ら笑いを浮かべて言う。


「う、撃てるもんなら、撃ってみろ!」


 金髪がスタンガンを構えて、石間へ向かっていった。


「うおっ、あぶね」


「石間、あんまり音は鳴らすなよ(発砲するなよ)。近くに通行人がいる」


「分かってる……よッ」


 石間が高身長を活かして、銃を持たない左手でチョップを放った。


「いっ……」


 肩口を打たれた金髪は、派手にころんだ。


「あぁッ」


 すかさず金髪の右手を踏みつけて、スタンガンを手放てばなさせる。


「さて、と……軽犯罪法違反と暴行罪で現行犯逮捕だ。石間、時間」


「午後5時34分」


 手錠を掛けた金髪を連れて上野駅の前に戻ると、鈴音と糸岡が手を振ってきた。


「見て見て、ケイくん。3百万も入ってるよー」


「ダミーの札束が足りる範囲で助かるや」


 鈴音たちの近くには、お婆さんと井上もいた。


「コイツに見覚えあるか?」


 サングラスを剥ぎ取った金髪の顔を、井上に見せる。


「……脅してきたヤツらの1人です」


「だってよ」


「どう言い訳するのかな?」


 石間と糸岡がイイ笑顔で金髪に詰め寄ったので、2人に拘束を任せる。


「鈴音、金をお婆さんに」


「アイアイサー」


 可愛らしく敬礼した鈴音が、茶色の紙袋をお婆さんに渡した。


「もう怪しい電話を信じちゃダメですよ」


 頷いたお婆さんは、手を振りつつ、


「ありがとうね〜」


 と、イマイチ深刻に感じてない様子で券売機の方へ歩いていった。


「ご協力ありがとうございます。君のおかげで、詐欺の被害を抑えられました」


 上目遣いで微笑んだ鈴音にそう言われた井上が、顔を赤くした。

 相変わらず、上手いよな。こういうの。


「こっちも済んだぜ」


「お金は無事に届くって連絡させたから、僕たちも神楽町に行こう」





 金髪グラサン野郎を交番に預けた俺たちは、井上のSNSのり取りにあった神楽坂へやってきた。

 神楽坂は治安の悪くない地区だが、入り組んだ細い道が多い。そういう場所で複数人に囲まれたりしたら、恐怖を覚えるのは当たり前。

 井上が怖がっていたのも仕方ないが……そもそも、怪しい誘いには乗らないのが一番だ。


(俺も人のこと言えないか。危ないヤツらの巣に潜り込んでるし)


 と、それは置いておいて……


「じゃあ、糸岡。頼んだぜ」


「任せて」


 糸岡が紙袋を持って、公園の屋根付きベンチに座りに行く。詐欺グループは、あのベンチの下に金を置くように指示してきていた。

 アイツは今、ブレザーの代わりに紺色の上着を羽織はおっている。それは、詐欺グループに遠目から怪しまれないため。

 つまり、糸岡が囮役って事だ。


「来るといいが」


 俺たちは公園周辺からは見えない位置で待機し、糸岡からの無線インカムを待っていた。

 前回は急場凌(きゅうばしの)ぎに携帯(モバイル)回線を使って盗聴されたから、反省を活かして無線にしたのだ。

 まあ、日本の携帯回線は堅牢な方だから、盗聴できた巫覡隊がイレギュラーなだけだと思うけど。

 少なくとも、詐欺グループ程度に突破されるシロモノじゃないが……念には念を入れておいた。


『公園の近くに人影。数は3人』


 糸岡から無線が入った。


「うっしゃ、行くか」


 石間を先頭にして、公園へと歩を進めようとしたら……


「――ケイくん」


 突然抱きついてきた鈴音に、頬へキスをされた。


「ホントは、さっきシたかった」


 やってくれるぜ。鈴音は。

 今の間に、ホルスターへ拳銃を入れやがった。


「……どうした? お前ら」


 俺と鈴音がついてこない事を不審に感じたらしい石間が、こちらへ振り返る。鈴音は既に俺から離れていた。


「何でもない。すぐに行く」


 鈴音と並んで歩き始める。


『公園に入ってきたよ。全員、男だ』


「こっちも着くぜ」


 足音を立てないように、公園に踏み入る。

 糸岡の報告通り、ベンチの周りに3人の男が立っていた。手には何も持ってないが、武器を隠し持っている気配がある。


「誰だ? テメェ」


「代理だよ。ほら、これが欲しいんだよね」


 糸岡は紙袋からダミーの札束を1つ取り出すと、ベンチを囲む男たちの1人に向けて放り投げた。


「何しやが――」


 顔面に札束を当てられた男が、拳を振りかぶる。だが、即座に糸岡の飛び膝蹴りで沈められた。


「テメェ!」


 糸岡に摑みかかろうとした男を、石間が羽交はがい締めにして投げ飛ばした。


「調子乗るんじゃねェぞ!」


 残った男が、ポケットからS&W・M432を取り出した。


「動くな! お前ら、動くんじゃねェ! 撃つぞ!」


 興奮状態の男はM432の銃口を右往左往させて、照準を定められていない。

 完全な素人だが、石間と糸岡は他の2人を取り押さえていて動けない。

 俺がやるしかないか……


「そいつらを放せ! 早くしろ!」


 男が石間と糸岡に向いた隙を突いて、背後から近寄る。


「銃を捨てろ」


 ストームを男の後頭部に突きつけて、脅す。


「もう一度言う。銃を捨てろ。もしかして、撃たれないと思ってるのか?」


 分かりやすいように、音を立てて撃鉄(ハンマー)を起こす。


けて出るなよ?」


 重ねて脅すと、観念したのか男はM432を足下に捨てた。


「みんなー、お疲れー」


「しかし、銃を持ってるとは思わなかったね」


「ただの闇バイトじゃねェな。裏にヤクザ(ヤーさん)でもついてるカンジだ」


「尋問は警察がやるだろ。鈴音、警察は……」


「そう言われると思って、もう呼んでおいたよ」


 鈴音のウィンクにちょっといやされつつ、雨のニオイ(ペトリコール)につられて空を見た。

 降るかもしれないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ