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月光眼のライラ  作者: 青梅薄荷
雨音に鈴を濡らして
61/63

SEQ2――無味な仕事――3/5

 5限が終わって、放課後。

 俺たちが通う第二学舎では、6・7限の時間は授業がないので比較的自由に動ける。

 いつもなら、兵器や戦術の講義を受けたり、射撃や格闘技の自主練をするのだが……今は鈴音たちと行動を共にしなきゃならないので、俺ひとりでは決められない。

 なので、


「鈴音、この後はどうするんだ?」


 と、お伺い(・・・)立ててみたところ、


「ふっふっふ……ジャジャーン!」


 効果音を口にしながら、鈴音が机から紙束を取り出した。


「エリーたちは講義があるから、その間ヒマだと思って……仕事(・・)を取っておいたんだー」


 研宮(とみや)学園では、生徒が学校経由で依頼を受けられるようになっている。

 民間からのもあるが、基本的に警察などの公的機関からの依頼が多い。鈴音が持っている紙の資料にも、警視庁からの依頼と書いてある。


「……受け子の保護って書いてあるけど、逮捕じゃないのか?」


 受け子とは、詐欺さぎいて金を受け取る役の事だ。保護じゃなくて、捕まえるのが普通だ。


「なかなか面白そうだろ?」


「依頼者のとこを見てみなよ」


 石間と糸岡も集まってきた。どうやら、一緒にこの依頼を受けるらしい。


「これって、公立の高校だよな?」


「受け子が、そこの生徒らしいよ。名前と顔までは分からないけど」


「つまりだ、犯罪者になる前に止めろって事なんだよ。その依頼は」


「そゆことー」


 4人で顔を突き合わせて話す。

 懐かしいな。1年の頃は、こうして仕事について相談したものだ。


「何かあるの?」


 俺たちの会話が気になったのか、ライラが近付いてきた。


「ごめん、ライラちゃん(・・・・・・)。この仕事、4人までなの。それ以上だと、報酬が払えないんだー」


 しかし、鈴音が口調だけは穏やかにライラを拒絶した。

 まるで、「この輪に入ってくるな」と言わんばかりである。


「あら、そうなのね」


 コイントス勝負の件があるからか、ライラも強くは出られないようだ。ヘタな作り笑いを浮かべて、すぐに離れていった。


「いいのか? ライラにも協力してもらわなくて」


 石間がたずねる。


「なんでー? あの子がいなくても、私だけで十分でしょ?」


 少し低い声で、鈴音が返した。


「お、おう……そうだな」


 気圧けおされた様子で、石間が後ずさった。

 分かるぞ。怖いよな。女子のいつもより低い声って。


「時間も迫ってるし、そろそろ行こーよー」


 そんなこんなでやってきたのは、上野駅。

 詐欺には『上京型』と呼ばれる、大都市の駅を金の受け取り場所に指定するやり方がある。今回は、ここが指定されたのだ。

 上の駅周辺は、国立の博物館や美術館、公園や動物園などがあり、都内の観光スポットの1つだ。

 ただ、建造物の多さゆえに死角も多い。油断ならない場所だ。


「急ごう。資料には6頃と書いてあったけど、早まっているかもしれない」


 ブレザーの代わりに、薄手の紺色の上着を羽織はおった糸岡が言う。

 受け子役が高校生という事もあり、金のりをおこなえるのが夕方に限られるのだろう。


「確か、コインロッカーに金を入れさせるんだったな」


「ロッカーはあっちだぜ」


 駅から公園に入ってすぐの所に、コインロッカーがある。

 そこまで駆け足で行くと、茶色い紙袋を持ったお婆さんが、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていた。

 アイコンタクトを取り、糸岡をコインロッカーの横のトイレへ行かせる。

 石間にはそのまま直進してもらい、俺と鈴音は看板の地図を読むフリを始めた。


「ほら、ケイくん。もっとくっついてー」


 鈴音が体いっぱいを使って、俺の右腕をかかえた。


「仕事に集中しろ」


「違うよー。こんなに距離があったら、不自然でしょ? カップルみたいにしなきゃ」


 むに、ふに、と当たる鈴音の胸やお腹から意識をのがすため、目の前の看板に目を向ける。


(……ん?)


 看板を見て気付いた。コインロッカーからほとんど離れてない所に、交番(・・)がある。

 交番の近くを詐欺の現場にするとは……度胸どきょうがあるのか、バカなのか。


「あのお婆さん、やっぱりロッカーを使うみたいだよ」


「でも、すぐ金を取りに来るかは微妙だな」


 小声で話しながら、地図上の交番を指差す。


灯台下暗(とうだいもとくら)し。多分、犯人は『交番から見える所で、金の受け取りなんてするワケない』と思わせたいんだ。ロッカーを使うのも、目(くら)ましのつもりだろうさ」


「じゃあ、時間がってから取りに来るかもねー」


「気長に待つしかないな」


 いつまでも地図の前にいるのも不自然なので、お婆さんがコインロッカーに紙袋を入れたのを確認してから、鈴音と連れ立って歩き出す。


「お婆さん、ロッカーから離れたね」


 トイレから出てきた糸岡が、お婆さんの後をけ始める。よし、あっちは任せよう。


「近付く人影もないか」


「待って、ケイくん。いまれ違った青いシャツの人、さっきはこの道を反対に進んでた」


 鈴音が横目で見た先には、青いシャツを着た若い男が歩いていた。

 歳は俺たちと同じぐらい……高校生だ。うーん、不良っぽくはないけどなぁ。


「よく気付いたな」


「だってー、交番とロッカーを交互に見てたもん。それにー、すごく汗をかいてる。走ってもないのにねー。どうする? ケイくん」


「怪しまれないよう、見張るぞ。あの様子じゃ……待ちきれない」


 カフェの前にいる石間に、アイコンタクトを送る。


「あっ、ロッカーの前に立ったよ。もう確定だねー」


「お婆さんが入れたのは、一番右の下から3つ目だったっけ?」


「開けたね」


「取り出した」


 鈴音と揃って、その男子へ駆け寄る。


「すみません。ちょっとお話を」


 声を掛けると、男子が腰を抜かした。


「大丈夫?」


 鈴音が笑いかけつつ、手を差し伸べる。もう片方の手で特武免許を提示しながら。


「しーっ! 声は出さないでねー」


「黙って金を渡す場所を教えたら、見逃す事になってる。おとなしく従うのが、身のためだぜ」


 ぶるぶると震える男子と目線を合わせるため、しゃがみ込む。

 鈴音も同じようにしゃがもうとしたので、


「見えるぞ。スカートの中」


 と、忠告した。

 男子の視線が鈴音の方に移ったな。正直者め。

 ……気持ちは分かる。


「まずは名前だな」


「……え、えっと」


「早く答えろ。名字だけでいい」


「ひっ……井上です」


「ケイくんってば、威圧感すごいよー。怖がっちゃってる」


「まあ、とりあえず立てよ」


 襟首をつかんで、男子――井上を引っ張り起こす。


「携帯」


「え……?」


「出せって。どうせSNSでり取りしてんだろ?」


「は、はい……」


 井上が携帯を差し出す。


「違う。SNSの画面を見せろって言ってんだよ」


「顔が怖いよ、ケイくん。ほら、リラックス、リラックス。ゆっくり操作していいからねー」


 これは、俺たちの定番のやり方(十八番)だ。

 目つきの悪い俺が攻撃的に質問し、反対に鈴音が優しく質問する――『マット&ジェフ』や『共同質問ジョイント・クエスチョン』と呼ばれる昔ながら方法だが、効果は抜群だ。

 対象は鈴音に信頼感を覚えて、情報を吐きやすくなる。


「これです……」


「相手の人とは、会った事ある?」


「はい。それで俺、辞めたいって言ったんですけど、リンチにするって言われて……」


 ほれ来た。

 『マット&ジェフ』の効果は、尋問の対象が進んで協力するようになる事。

 『優しく質問してくれるほうとは、良い関係を結べるかも』と、期待してしまうからだ。


「これが初めてじゃないんだ?」


「はい。最初は、ただの荷物運びだって思ったんです……っ」


「呼び出された場所は、ここに書いてあるまま?」


 涙ぐみつつ、井上がうなずく。

 詐欺グループが井上を呼び出していたのは、神楽坂にある公園だった。


「次の行き先が決まったな」


「だねー。神楽坂……上野からだと、20分くらいかなー」


「おっと、石間から連絡だ」


 井上を鈴音に任せて、石間からの電話に出る。


「どうした?」


『そっちに怪しいヤツが向かってるぜ』

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