表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月光眼のライラ  作者: 青梅薄荷
雨音に鈴を濡らして
60/63

SEQ2――無味な仕事――2/5

 時間は進み、昼休み。

 なんとか鈴音の目を掻いくぐった俺は、3年17組の教室に来ていた。


「アルジェントさん、呼んでくれますか?」


 扉の近くに立っていた男子生徒に声を掛け、エリザベッタ(・・・・・・)を呼ぶ。


けたか。花村」


 エリザベッタにモールス信号で伝えられた、『3・1・7』という暗号。その答えは3年17組という、超が付くほど単純なものだったのだ。


「あんたが制服を着てたおかげでな。先輩(・・)


「よせ、エリザベッタでいい」


 周りの生徒に聞こえないよう小声で会話していると、逆に奇異(・・)の視線を向けられた。

 よく考えれば、転校生と親しく話す下級生も不思議な存在だな。


「それでは向かおうか。ジメジメした所に」


 そんな流れで辿たどり着いたのは、校舎裏のベンチだった。

 5月になったせいか、空気は以前より湿しめを帯びていた。相変わらず工事の音も聞こえるし、快適な場所とは言えないな。


「にしても驚いたぜ。年上だったとは」


「1歳しか違わないのだ。気にするな」


 足を組むエリザベッタと並んで、ベンチに座る。

 なんだか緊張するなぁ。白ブドウのようないいニオイもするし。年上の女子というのもいていそうだ。


「いつ鈴音に見つかるかも分からない。手短に話そう」


 ガサ……

 言っているそばから、コンクリートと靴底の擦れる音がした。


「やっぱり、ここにいたのね」


妖精(ピクシー)――いや、ライラ」


 エリザベッタがその名を呼ぶ。


「その話、あたしも聞く必要があるんじゃない?」


 ベンチの前まで近付いたライラが、腰に手を当てて俺たちを見下(みおろ)ろす。


「というより、あたしを仲間外れにしないでよね」


 まずエリザベッタとコンタクトを取ったのは、メアリーさんの事をライラに伝えていいか迷っているからだ。

 だが、こうなったら打ち明ける他ないだろう。


「……落ち着いて聞けよ、ライラ」


「なによ、改まって」


「俺たちが追おうとしてる人は、メアリーさんを捜してる」


 ライラの目が、驚きで見開かれる。


「……誰なの? その人って」


「花村と親しかった女だ。今年の2月から行方知れずになっている」


「……そんな事、一度も話してくれなかったわね」


「別に隠すつもりじゃなかった」


「なら、なんで話さなかったの?」


「揉めるなら後でやってほしい。今はどうやって美冬を捜索するかだ」


 エリザベッタが足を組み替える。スカートのすそわずかにめくれて、黒いタイツに包まれた形のいい太ももがチラ見えする。


「ライラのために今一度言っておくが、美冬はいま長崎にいる。しかし、長崎を離れるまであまり時間はないだろう。ゆえに、次の行動を待つ。そして、美冬が動いた時に我々も動けるようにする」


「……鈴音にはナイショなんでしょ? そこは大丈夫なの?」


 拳銃(ストーム)とナイフ、それから携帯。少なくとも、この3つは取り返さないといけない。

 加えて、俺たちの動きに気付かれた場合は、直接的な妨害も考えられる。


「美冬の新しい情報が入るまで、おとなしく過ごすぐらいだな」


「鈴音を油断させた上で、隙を見て動くワケね。具体性がなくて心配だけど、他に方法もないわね」


 話し合いに区切りが付いたところで、ちょうど予鈴が鳴った。


「時間か。教室に戻るとしよう」


 そう言ったエリザベッタは、プラチナブロンドの三つ編みを揺らしながら去っていった。


「ねえ、ケイスケ……もしかして、美冬って……」


 エリザベッタの後ろ姿が見えなくなってから、ライラが口を開いた。


「あんたの恋人?」


 俺はライラに向き直って、あんぐりと口を開けてしまう。


「その反応、やっぱり……」


「ご、誤解するな。美冬さんは、俺のカノジョなんかじゃない」


「……ホント?」


 俺は何度も頷く。

 美冬さんはきっと、俺なんかを恋愛対象としては見てなかっただろう。

 あくまでも、友人の弟とか、仲のいい後輩とか、そんなところだ。


「とにかく、美冬さんはDの敵だ。敵の敵は味方だから……会えれば、仲間になってくれるかもだ」


「でも、Dを裏切ったハズのエリザベッタと敵対しそうなんでしょ?」


 答えにきゅうしてしまう。

 エリザベッタの話からは、そうだとも考えられる。

 それでも……考えたくはない。美冬さんと戦うなんて。


「もし美冬と敵対したら、あたしは戦うわよ。やっと見つかったメアリーの手がかりだもの。逃がさない」


 ライラの目からは、闘志が見て取れる。

 美冬さんが、敵として目の前に現れた時、俺は戦えるだろうか? 引き金に指を掛けられるだろうか?


(ムリだ。俺には、できない……)


 汗が吹き出て、平衡へいこう感覚を失った。足元がグラついて、倒れそうになる。


「ちょっと! ケイスケ!」


 膝に手をついて、顔を伏せた。

 ポタポタ……と、汗がコンクリートに落ちてシミを作る。


「こっちを見て」


 両手で顔を包まれて、強制的にライラと目を合わせられる。

 琥珀の瞳に覗き込まれ、息が止まりそうになった。

 でもそのおかげで、むしろ冷静になれた。


「……悪いな、ライラ。みっともないとこを見せちまって」


「見慣れてきちゃったわよ。あんたのカッコ悪いとこなんて」


 ライラと軽口を叩く。よし、調子が戻っている。


「なあ、ライラ。俺が裏切ったら、どうする?」


「決まってるじゃない。ひっぱたいて、()切らせるわよ」


「フッ……何だそれ」


 ライラの言い回しがおかしくて、吹き出してしまう。


「ありがとな、ライラ。そう言ってくれて」


「どういたしまして。それに、気を付けるべきはトリケラ――エリザベッタよ。アイツが、まだDと繋がってるって考えた方がいいわ」


「そうだな。美冬さんの情報も、Dを経由して得たとすればおかしくない」


 エリザベッタへの警戒心は解かずに、美冬さんを追う。それが当面の方針だな。

 ……障壁として、鈴音がいるが。


「私たちも、そろそろ戻りましょ」


 ライラが俺の手を握る。

 多分、俺を心配しての行動だと思うが、いきなり握られるとドキッとしてしまう。


(ん……?)


 ライラの奥、校舎へ続く道の脇にしげる雑草の中で、何かが光を反射した。

 その光の反射は、道の角へと動いたようにも見えた。


「ケイスケ?」


 ライラから手を放し、光の正体を突き止めるために歩き出す。

 俺の視線の先を見て、ライラも謎の光に気付いたらしい。


「これは……」


 俺とライラが雑草の中をのぞき込むと、黒い長方形の機械があった。

 大きさは手のひらサイズ。爆発物のたぐいじゃなさそうだ。おそらく――


ボイスレコーダー(ボイレコ)?」


「そうみたいね」


 俺も最近使ったばかりだから、すぐに分かった。


「どうしてこんな所に?」


「決まってるでしょ。あたしたちの会話を録音してたのよ」


「まさか。俺たちがここで会話するなんて、誰が知ってたんだよ」


「鈴音じゃないの?」


「アイツだったら、自分の耳で拾うだろ。こんなモノを使わなくてもさ」


 そんな会話をしながら、ハンカチを取り出してボイレコを回収する。拾い上げる前に、電源は切っておいた。

 ボイレコが落ちていた地面はれており、どろと土の間ぐらいの感触だった。

 ただ、湿り方がヘンで、S字カーブを描いていた。ちょうどペットボトルの口から水を撒いたような太さだし、誰かが余った飲み物でも捨てたのか?


「これ、工業コースの方に回しといてくれ」


「イヤよ。泥で汚れてるじゃない」


「しょうがないだろ。俺が持ってたら、鈴音のヤツになんて言われるか分からないし」


 眉間にシワを作りつつも、ライラはボイレコを受け取った。

 このあと、ライラと一緒に教室に帰ったせいで、鈴音と一悶着(ひともんちゃく)あった事は言うまでもない。

 別々に戻れば良かったぜ。うっかりしてたな……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ