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月光眼のライラ  作者: 青梅薄荷
雨音に鈴を濡らして
59/63

SEQ2――無味な仕事――1/5

SEQ(シークエンス)2――無味な仕事(マット&ジェフ)――


 翌日。


「起きてー!」


 という、朝から元気な鈴音の声に起こされた。


「今日からまた学校なんだから、一緒に登校しようねー」


「学校……?」


 てっきり、この(アジト)に閉じ込められると思っていたが……


「ちゃんと制服も用意してるからねー」


「うおっ、服を投げるなっ」


 鈴音が、真新しい男子用制服を投げてくる。

 クローゼットに吊るしてあった制服か。スモモのようなニオイが移ってやがる。


「花村。鈴音。朝食が冷めるぞ」


 がちゃり、とドアが開き、制服姿(・・・)のエリザベッタが入ってきた。


「ふむ? まだ着替えてないのか」


「なんで、お前が制服を着てるんだよ?」


「私も通うからだ。貴様と同じ学校にな」


 おいおい……


「マジかよ」


「マジだ。フフッ……」


「特武コースか?」


「いいや。芸能コースだ」


 芸能コースは、その名の通り芸能に関係する事を学べるコースだ。

 一口に芸能と言っても幅広いが、演技だけじゃなくて裏方(・・)の事を学ぶ。ヘアメイクや照明などだ。

 編集ソフトとかの扱いも学べるとあって、時代的にも合っているのか、生徒数は年々増加しているらしい。


「イヤがらせかよ」


「……? どうしてそうなる?」


 大体の生徒が裏方側だといっても、中には現役でアイドルや俳優やっているヤツもいる。

 そんな中に見目整ったエリザベッタが入ってみろ。平和なままじゃない事ぐらい、想像が付く。

 まあ、今でも平和とは言えないコースのようだけどな。俺も関わりたくないし。


「気を付けろよ。日本の中高生なんて、陰湿いんしつ極まりないから」


「貴様のようにか?」


「うるせーな」


「ケイくんは、暗いところがチャームポイントなのにー」


 鈴音よ、もうちょっと言葉がなかったのか?


「安心しろ。陰湿さに国境はない」


「なんだそれ」


「どこの国でも、シメシメしている者はいるのだ」


「それを言うならジメジメだ」


「そうだったか。最近になって挑戦し始めたのだが、日本語のオノマトペは難しいな」


 そんな会話をしている間に……


「あーっ! もうこんな時間だよー!」


「おや、急がなくてはな」


「エリザベッタ! フィオナに車を用意させてー!」


「承知した」


 エリザベッタが、部屋の前から素早く移動した。


「私たちも急ごう! ケイくん!」


「いくら急いでるからって、ここで脱ぐなっ!」





 ドタバタしながら着替えて……朝食をき込んで……

 クラブマンに乗って、研宮(とみや)学園の第二学舎まで連れてこられた。

 フィオナとローズも制服姿――ローズは鈴音・エリザベッタと同じスカートで、フィオナだけはズボンだ――で車に乗り合わせていたので、同じように通うらしい。


「おう、景介」


「おはよう、花村君」


 教室に入るなり、石間と糸岡が話しかけてくる。

 ライラは……まだ来てないな。


「おはよー、みんなー」


「うおっ。鈴音じゃねぇか。ガチで久しぶりだな、おい」


「川堀さんも帰ってきたんだ」


「ケイくんと一緒にねー」


 ぱちんっ、と鈴音がウィンクをよこす。

 と、同時に――

 ドタンッ!

 教室の引き戸が、勢いよく開かれた。な、なんだ?


「くぅおらァ! ケイスケェ! 鈴音ェ!」


「ライラ……っ」


 ずかずかと教室に入ってきたライラが、鬼の形相ぎょうそうで俺と鈴音の手を取った。


「来てもらうわよ!」


 ライラが俺たちを連れて向かった先は、生徒用会議室だった。


「こんな所まで連れてきやがって。もうすぐ朝礼の時間だってのに」


「先生には、話を付けてるから」


「それでー、何の用なの? ライラ」


「先に言っとくが、俺は携帯を没収されてる。お前からの電話に出られなかったとしても、俺の責任じゃないぞ」


「それくらい分かってるわよ。そうじゃなくて……あんた知ってるの? 鈴音たちの監視役にされたこと」


 ……監視役?


「何の?」


「だ・か・ら、鈴音たちのよ」


「ふっふっふ……ケイくんにも伝わっちゃったかー」


「話が見えてこないんだが?」


「ケイくんはー、私たちヒュアデスの監督者に指定されたんだよー」


 そんな勝手な。


「公安が指定したのか?」


「そうだよー」


「公安じゃなくて、あんたが指定したんでしょうが!」


「てへっ、そこまでバレてるかー」


「簡単にウソつくなんて、信じられない!」


「あれ? そんなこと言っていいの? チビ妖精」


「何ですって! このコウモリ女! あんただって、背が高いワケじゃないでしょ!」


「えー? でもでもー、私は、ほら……」


 鈴音が、自らの胸を下から(すく)い上げた。


「お尻ばっかり大きくて、胸はぺったんこのライラとは違うからねー」


「あ、あたしだってある(・・)わよ!」


「そうは見えないけどなー? いつもズボンはいてるのも、胸よりお尻のラインを強調するためじゃないのー?」


「そんなワケないでしょ! というか、人の身体的特徴をバカにするなんてサイテーよ!」


「ライラだって、私のことコウモリ呼ばわりしたクセに!」


 2人が取っ組み合いを始めたが、止めるのも面倒なので放置する事にした。流れ弾で殴られてもイヤだし。


(監視役……か)


 エリザベッタだけじゃなくて、ローズとフィオナもこの学校に通うのも監視の一環か?

 公安め、なに考えてるんだ?


「きゃーっ」


 顎に手を当てていると、わざとらしい悲鳴を上げて鈴音が俺に抱きついてきた。


「ライラに投げ飛ばされちゃったー」


 ウソつけ。自分から来ただろ。


「何よ! あたしだけワルモノにする気?」


「お前ら、その辺にしとけ」


 2人の間に入って仲裁していると、


「ねえ、ライラ。勝負しよー」


 鈴音が突拍子もない事を言い出した。


「勝負?」


「裏か表か、どーっちだ?」


 鈴音がコインを取り出して、ぴんっ、と指で弾いた。


「お、表!」


 反射的にライラが宣言するが……


「ざんねーん。裏でしたー」


 鈴音が手の甲の上で、羽を広げたコウモリが描かれているコインを見せた。


「何よ! そのコイン!」


「ヒュアデスのオリジナルコインだよー」


「そんなの、裏も表も決まってなかったでしょ!」


 ニヤリ、と鈴音が笑う。


「どうやって証明する気? ライラ」


「そ、それは……」


「証明できないなら、言いがかりだなー。ね? ケイくん」


「ライラ、コイントスに乗っちまったお前のけだ」


 はげますように、ライラの肩に手を置くと、よほど悔しかったのか(にら)まれた。

 いや、睨むなら睨むで、俺じゃなくて鈴音の方だろ……


「じゃあ、ライラ。今日から1週間、ケイくんは私と行動するから。ジャマしないでねー」


「勝手に決めないでよ!」


「あれれー? 勝負に敗けたのは、ライラでしょ? めーいーれーいー……聞いてくれるよね?」


「むぅ~~~~」


 ふくれっつらになったライラがうなる。


「勝手にしなさい!」


 ライラは、俺を一瞥いちべつしてミーティングルームを出ていった。


 もしかして、これからの1週間……いや、それ以上の期間、コイツらの衝突を防ぎ続けなきゃいけないのか?

 気が気じゃないぜ……

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