SEQ2――無味な仕事――1/5
SEQ2――無味な仕事――
翌日。
「起きてー!」
という、朝から元気な鈴音の声に起こされた。
「今日からまた学校なんだから、一緒に登校しようねー」
「学校……?」
てっきり、この家に閉じ込められると思っていたが……
「ちゃんと制服も用意してるからねー」
「うおっ、服を投げるなっ」
鈴音が、真新しい男子用制服を投げてくる。
クローゼットに吊るしてあった制服か。スモモのようなニオイが移ってやがる。
「花村。鈴音。朝食が冷めるぞ」
がちゃり、とドアが開き、制服姿のエリザベッタが入ってきた。
「ふむ? まだ着替えてないのか」
「なんで、お前が制服を着てるんだよ?」
「私も通うからだ。貴様と同じ学校にな」
おいおい……
「マジかよ」
「マジだ。フフッ……」
「特武コースか?」
「いいや。芸能コースだ」
芸能コースは、その名の通り芸能に関係する事を学べるコースだ。
一口に芸能と言っても幅広いが、演技だけじゃなくて裏方の事を学ぶ。ヘアメイクや照明などだ。
編集ソフトとかの扱いも学べるとあって、時代的にも合っているのか、生徒数は年々増加しているらしい。
「イヤがらせかよ」
「……? どうしてそうなる?」
大体の生徒が裏方側だといっても、中には現役でアイドルや俳優やっているヤツもいる。
そんな中に見目整ったエリザベッタが入ってみろ。平和なままじゃない事ぐらい、想像が付く。
まあ、今でも平和とは言えないコースのようだけどな。俺も関わりたくないし。
「気を付けろよ。日本の中高生なんて、陰湿極まりないから」
「貴様のようにか?」
「うるせーな」
「ケイくんは、暗いところがチャームポイントなのにー」
鈴音よ、もうちょっと言葉がなかったのか?
「安心しろ。陰湿さに国境はない」
「なんだそれ」
「どこの国でも、シメシメしている者はいるのだ」
「それを言うならジメジメだ」
「そうだったか。最近になって挑戦し始めたのだが、日本語のオノマトペは難しいな」
そんな会話をしている間に……
「あーっ! もうこんな時間だよー!」
「おや、急がなくてはな」
「エリザベッタ! フィオナに車を用意させてー!」
「承知した」
エリザベッタが、部屋の前から素早く移動した。
「私たちも急ごう! ケイくん!」
「いくら急いでるからって、ここで脱ぐなっ!」
ドタバタしながら着替えて……朝食を掻き込んで……
クラブマンに乗って、研宮学園の第二学舎まで連れてこられた。
フィオナとローズも制服姿――ローズは鈴音・エリザベッタと同じスカートで、フィオナだけはズボンだ――で車に乗り合わせていたので、同じように通うらしい。
「おう、景介」
「おはよう、花村君」
教室に入るなり、石間と糸岡が話しかけてくる。
ライラは……まだ来てないな。
「おはよー、みんなー」
「うおっ。鈴音じゃねぇか。ガチで久しぶりだな、おい」
「川堀さんも帰ってきたんだ」
「ケイくんと一緒にねー」
ぱちんっ、と鈴音がウィンクをよこす。
と、同時に――
ドタンッ!
教室の引き戸が、勢いよく開かれた。な、なんだ?
「くぅおらァ! ケイスケェ! 鈴音ェ!」
「ライラ……っ」
ずかずかと教室に入ってきたライラが、鬼の形相で俺と鈴音の手を取った。
「来てもらうわよ!」
ライラが俺たちを連れて向かった先は、生徒用会議室だった。
「こんな所まで連れてきやがって。もうすぐ朝礼の時間だってのに」
「先生には、話を付けてるから」
「それでー、何の用なの? ライラ」
「先に言っとくが、俺は携帯を没収されてる。お前からの電話に出られなかったとしても、俺の責任じゃないぞ」
「それくらい分かってるわよ。そうじゃなくて……あんた知ってるの? 鈴音たちの監視役にされたこと」
……監視役?
「何の?」
「だ・か・ら、鈴音たちのよ」
「ふっふっふ……ケイくんにも伝わっちゃったかー」
「話が見えてこないんだが?」
「ケイくんはー、私たちヒュアデスの監督者に指定されたんだよー」
そんな勝手な。
「公安が指定したのか?」
「そうだよー」
「公安じゃなくて、あんたが指定したんでしょうが!」
「てへっ、そこまでバレてるかー」
「簡単にウソつくなんて、信じられない!」
「あれ? そんなこと言っていいの? チビ妖精」
「何ですって! このコウモリ女! あんただって、背が高いワケじゃないでしょ!」
「えー? でもでもー、私は、ほら……」
鈴音が、自らの胸を下から掬い上げた。
「お尻ばっかり大きくて、胸はぺったんこのライラとは違うからねー」
「あ、あたしだってあるわよ!」
「そうは見えないけどなー? いつもズボンはいてるのも、胸よりお尻のラインを強調するためじゃないのー?」
「そんなワケないでしょ! というか、人の身体的特徴をバカにするなんてサイテーよ!」
「ライラだって、私のことコウモリ呼ばわりしたクセに!」
2人が取っ組み合いを始めたが、止めるのも面倒なので放置する事にした。流れ弾で殴られてもイヤだし。
(監視役……か)
エリザベッタだけじゃなくて、ローズとフィオナもこの学校に通うのも監視の一環か?
公安め、なに考えてるんだ?
「きゃーっ」
顎に手を当てていると、わざとらしい悲鳴を上げて鈴音が俺に抱きついてきた。
「ライラに投げ飛ばされちゃったー」
ウソつけ。自分から来ただろ。
「何よ! あたしだけワルモノにする気?」
「お前ら、その辺にしとけ」
2人の間に入って仲裁していると、
「ねえ、ライラ。勝負しよー」
鈴音が突拍子もない事を言い出した。
「勝負?」
「裏か表か、どーっちだ?」
鈴音がコインを取り出して、ぴんっ、と指で弾いた。
「お、表!」
反射的にライラが宣言するが……
「ざんねーん。裏でしたー」
鈴音が手の甲の上で、羽を広げたコウモリが描かれているコインを見せた。
「何よ! そのコイン!」
「ヒュアデスのオリジナルコインだよー」
「そんなの、裏も表も決まってなかったでしょ!」
ニヤリ、と鈴音が笑う。
「どうやって証明する気? ライラ」
「そ、それは……」
「証明できないなら、言いがかりだなー。ね? ケイくん」
「ライラ、コイントスに乗っちまったお前の敗けだ」
励ますように、ライラの肩に手を置くと、よほど悔しかったのか睨まれた。
いや、睨むなら睨むで、俺じゃなくて鈴音の方だろ……
「じゃあ、ライラ。今日から1週間、ケイくんは私と行動するから。ジャマしないでねー」
「勝手に決めないでよ!」
「あれれー? 勝負に敗けたのは、ライラでしょ? めーいーれーいー……聞いてくれるよね?」
「むぅ~~~~」
膨れっ面になったライラが唸る。
「勝手にしなさい!」
ライラは、俺を一瞥してミーティングルームを出ていった。
もしかして、これからの1週間……いや、それ以上の期間、コイツらの衝突を防ぎ続けなきゃいけないのか?
気が気じゃないぜ……




