第12話 旅の同行者その2
別れた後、セツナは人通りの少ない裏通りの最奥――眉唾物の薬や怪しげな効能を謳う商品ばかりを並べ、閑古鳥が鳴いている古い薬品店へと足を運んでいた。
店主の老人が、カウンター越しに胡散臭そうな目を向けてくる。
「おいおい、お嬢ちゃん。そんなに色々と抱え込んで、旅でも始める気かい?」
セツナは大量の薬草や小瓶を愛想よくまとめながら、どこか晴れやかな顔で答えた。
「そうだよ。これから……すごく長い旅になりそうなんだ。店主さんも、次に会う時まで元気でね」
「へっ、気取った言い草だな。まあ、無事に生きて帰ってこれたら買い足しにきな」
街では信用されていない骨董薬品店を出て、セツナは約束の合流場所へと向かった。
だが、店主との雑談で思いのほか時間を取られてしまっていた。トキを待たせては悪いと近道をすべく、狭く薄暗い裏路地へと足を踏み入れた、その時だった。
角の向こうから、荒々しい男たちの潜み声が流れてきた。
「……廃教会付近の吸血鬼討伐依頼、あの『埋葬機関』が本格的に動き出すらしいぞ」
「マジかよ! 教会の聖騎士どもに横取りされる前に、俺たちで殺さねえと懸賞金が……!」
「分かってる。俺にいい案があるんだ。吸血鬼と言えば女と血だろ? だから、適当な商売女でも捕まえて餌にして引きずり出すのさ」
「いいねえ、乗った! よし、さっそく準備を始めるぞ」
闇の中で交わされる下卑た企み。
セツナはその場で息を殺し、男たちが去っていくのを静かに見送った。
急いで合流場所へと戻ったセツナは、待っていた俺の顔を見るなり、先ほど聞いた会話のすべてを口にした。
「……埋葬機関が動いている、か」
俺は眉間に深いシワを寄せ、冷静に状況を分析した。
「教会組織の特務部隊まで出てくるとなれば話が違う。あいつらは変異体も吸血鬼も容赦なく焼き払う狂信者どもだ。討伐依頼をキャンセルする時間もない。……すぐにこの街を離れるぞ」
最短で生き残るための合理的な判断だった。
しかし、セツナは立ち止まったまま、俺の言葉に頷こうとしなかった。
「……トキ。そんなことはどうだっていいんだ」
セツナの黒い瞳に、今まで見せたことのない、硬く冷たい光が宿っていた。
「私のせいで……まったく無関係な誰かが、おとりの餌にされて死ぬかもしれないんだよ?」
「……なんだと?」
俺は思わず振り返った。
生存と帰還を最優先にする俺の冷徹なサバイバルと、三百年の孤独の中で失われなかったセツナの歪で倫理的な慈悲。
旅の始まりの足元で、二人の価値観が明確な「食い違い」となって激しく衝突しようとしていた。
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