第11話 旅の同行者その1
地下洞窟の「契約の泉」で交わされた、この世で最も重い呪縛のような誓い――。
その重密な余韻を抱えたまま、俺たちはアトリエの重厚な木造扉を押し開き、再び湿った外の世界へ踏み出した。
アトリエを出る直前、セツナは『偽瞳の滴』を滑らかに塗布し、黄金の光彩を深い「黒」へと落ち着かせていた。吸血鬼特有の禍々しい気配は綺麗に殺され、一見すると影のある美しい女性にしか見えない。
旧市街までの道のりは、決して短くはなかった。
崩落した石造りのアーチや瘴気に削られた廃墟の群れを縫うように進む間、二人の間に交わされる言葉は驚くほど少なかった。
俺の心の中には、微かな焦燥とナーバスな緊張感が渦巻いていた。
一人で生き残ることだけに神経をすり減らしてきた日々から一転し、誰かと肩を並べて歩く感覚。
それはあまりにも久しぶりで、かつての記憶を嫌でも刺激してくる。
一方、隣を歩くセツナは対照的だった。泥や雨粒を恐れる風もなく、路傍の枯れ草や見慣れた崩落跡にすら、珍しいものを見るような眼差しを向け、どこか楽しそうに唇をほころばせている。
「ねぇ、トキ」
静寂を破り、セツナが弾んだ声で話しかけてきた。
「君は……昔、誰かと一緒に旅をしたことはあるかい?」
ふいに投げかけられた問いに、俺の足が一瞬だけ鈍った。
頭の奥底で、かつてこの理不尽な世界へ共に投げ出され、無様に足掻き、そして散っていった同郷の転移者たちの顔がフラッシュバックする。
「……ある」
俺は前を見すえたまま、短く、そして硬い声で答えた。
「だが……それについては、今は話す気にはなれない」
立ち入ってほしくない領域であることを察したのだろう。セツナは気圧される風もなく、どこかわびしそうに、けれど温かな笑みを浮かべて頷いた。
「そっか。不躾なことを聞いてごめんね。私は誰かとこうして歩くこと自体が初めてだからさ……色々と勉強させてほしいんだ」
悪びれることなく笑う彼女の素朴な言葉に、俺はそれ以上何も言えず、黙って歩みを早めるしかなかった。
やがて、遠くに賑やかさと頽廃の混ざり合った雑騒が見え始め、俺たちは旧市街へと辿り着いた。
旅立ちの準備――物資や情報の調達が目的だ。
「別行動にしよう」
混雑する街頭で俺が告げると、セツナも頷いた。彼女には薬品類や女性特有の旅の備品など、俺には分からない買い出しが必要だったからだ。
だが、見慣れぬ雑踏へ一人で向かおうとする彼女の背中に、俺は思わず声をかけていた。
「……一人で平気か? この街は荒れている。一緒に行動した方が安全だ」
守ろうとするこちらの配慮に対し、セツナは驚いたように目を丸くし、それから可笑しそうにクスリと笑った。
「子供扱いしないでもらえるかな? 私は今まで一人で生きてきたんだよ。君が生きてきた時間の、何倍もね」
自分の何倍もの時を生きてきた怪物であることを軽妙に誇示され、俺は返せる言葉を失った。
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