9.超大剣
ダンジョンへと戻った俺は再び1層の攻略を進めた。
比較的道中は順調だった。
「お?」
俺はボス前の大部屋にたどり着く。
物々しい鉄製の扉が待ち構えている。
〈来た!〉
「行くか」
扉を押し、ボスのいる部屋へと進む。
ボス部屋は全体的に薄暗かった。部屋は広いのに灯りが小さなロウソクだけなのが理由だろう。
『廃城の主、キングリザードマン』
画面上部に名前とHPバーが表示される。キングリザードマンは部屋の奥、継ぎはぎの玉座に座っていた。体型は全体的に丸い。トカゲは顔をあげて所々錆びている王冠を被り立ち上がった。
『キィイイイイイイ』
高く太い咆哮。
攻略記事によると1層のボスの適正レベルは10。
でも……
「やるしかないだろ」
大剣の先を向けた。
キングリザードマンが使う剣は他のリザードマンと同じなのに小さく見えた。パテでも使うように軽々と振るっている。
──タイミングが……
剣先が俺の肩を掠めた。HPが半分飛ぶ。
ゆっくりとした横薙ぎの後、すぐに縦に振り下ろす攻撃が続く。
迂闊な回避をしたら最後、縦の攻撃で刈り取られるだろう。
そこまで待ってから、大剣を振り下ろす。
40ダメージほど。骸骨には60ダメ入ったので、キングリザードマンは防御力もそこそこあると分かる。
「攻撃の後隙だけ狙って……」
ターン制バトルと攻略記事に書かれていたことを思い出す。
確かに地道だがやっていくしかないのだと思う。
「欲張るな」
丁寧に動きを予測して躱す。
後ろからヒュンッと風切り音が聞こえた。床に手をついて顔を上げる。
「は?」
チャカが向けられていた。
昔の海賊が持っていそうな小さな火縄銃だ。
「パンッ」
乾いた音と共に俺のHPバーが消滅した。
腹部が熱い。体が震え力無く床に倒れ込む。そのまま目を閉じたいのに腹を見てしまった。
薄汚れた麻の服が赤く染まっている。
「痛ぇ……」
震える手で傷口を塞ぐ。指が赤黒く染まる。血は手のひらを撫でて滴り落ちていく。
呼吸が浅くなり視界が暗くなって……
〈あっ〉 〈あっ……〉
目を開けると教会にいた。
ステンドガラスで飾られた大きな教会。
差し込む日差しが色鮮やかに教会の長椅子を照らす。シスター服を着た女性が静々と俺に頭を下げた。
「これが……死ぬってことか」
全身にびっしょりと汗をかいていた。
しばらくじっとして荒い息を整える時間をとる。
──いっぺん死んだらあいつも分かるよ。
あいつらが青い顔をして項垂れていた理由も少しは分かった。
確かに、怖いな。これ。
ギリリと奥歯を強く噛む。
「逃げるな」
自分に言い聞かせた。
俺はあいつらと違う。もう逃げないと決めている。
──何より、金がいる。
「そうだ」
バッグを開く。何も残っていなかった。所持金すら全て無くなっている。
幸いほとんどの物を預けていた。失った物といえば初期配布の装備一式と買ったばかりの回復薬、後は道中の戦利品だ。
「回復薬もまだあるし……まぁ装備。いや、そもそもレベルが足りてないのか」
頭を掻きながら教会を出た。
「しばらくレベル上げだな」
確か冒険者ギルドで受けられるクエストに達成報酬として経験値があったはずだ。金も手に入るし一石二鳥だろう。
「しかし、色々あるな……」
俺は冒険者ギルドでクエスト一覧を見ながら呟く。
難しそうなものから簡単そうなもの、現地人やプレイヤーからなど様々な依頼が並んでいた。
〈質問です! スキルは何取りました? おすすめなどありますか?〉
「あー、スキルか」
コメントで言われるまで存在自体忘れていた。
〈まだとってないんじゃない?〉
「正解。見てみるか」
現在スキルポイントは5。1レベル上がるごとに1ポイントらしい。
なんとなくクエスト一覧近くにいる他プレイヤーのスキルを見てみた。
体力アップや筋力アップ。装備欄のスロット数増加、後は各武器ごとに使える固有のバトルスキルなど……
「俺も同じにしようかなー」
メニューからスキル一覧を開く。
「……これは?」
ふと目についたのは『武器重量制限の撤廃』だった。
スキルポイントを5も使う、ここからの派生も無い単一のスキルだ。
〈ゴミ〉
〈基本、レベルと一緒に筋力もあがるから微妙〉
散々な評価だな、と苦笑いを浮かべる。
「まず武器重量制限って何だっけ?」
どこかで説明されていたはずだが俺はまともに読んでいない。
どうせコメントが教えてくれる。
〈武器ごとにある重量に対し筋力値が足りているかどうか〉
ほら。
「じゃあ今の筋力値で持てない武器って何があるんだ」
メニューからショップ一覧を選択。武器一覧を眺めていく。
主に超大剣、弩砲、大弓……試しに大弓の購入欄を押してみる。
購入レベル制限。15レベル以上。
「ん? そもそも強い素材を使った武器は購入にレベル制限があるのか」
だから基本レベルと一緒に筋力もあがるから微妙、と。そもそもスキルで筋力上げるのに1ポイントでいいし、その方が応用も効くのか。
ポチポチとなんとなく他の弩砲と超大剣も見ていく。
「だけど……いや、武器重量制限の撤廃とっていい?」
〈ゴミスキルだよ。重量オーバーでもデメリット付きで武器は使えるし〉
〈やめとけ〉
緊張から息が詰まった。大きく息を吐き出す。
「取るわ」
スキル『武器重量制限の撤廃』これでスキルポイントは0。後戻りは出来ない。
これで5レベから買える超大剣を購入。
「この超大剣、破格に安いんだよ。ダメージにしろ、品質にしろ。凄く良い」
この品質で以前使っていた大剣のカテゴリなら1本買うだけ金貨1枚はくだらない。俺の手持ちなら3本買って破産なのに、この超大剣は銀貨15。金貨1枚で銀貨20枚だから4本、いや、5本は買える。死んだら全部無くなるこのゲームにおいてこの差は大きい……はず。
〈いーや、クソスキル〉
〈やったー笑〉
「やめてくれー、自信が無くなるから!」
後は軽く防具を買い揃えてクエストを受注した。
依頼内容としては森の奥で釣りをしていたら見たことのないモンスターが俺の釣った魚を籠ごと全部食べちまった。籠の中には記録越えの大物が入ってたのに、悔しい! 仇をとってくれ! とのことだ。
クエストの適正レベルは8。十分な強敵と呼べるだろう。
ダンジョン前のワープポイントへと飛び、少し森の方へと戻ると川に出る。
指定されたクエストポイントへ行くとデカい鳥がいた。
白い翼に大きなクチバシ、白鷺と孔雀とペリカンを合体させたような鳥だ。
「うぇ!?」
バッグから取り出した超大剣の重さに俺は転けた。河原の砂利に頬を打ちジンと痛む。
これは冗談ではなく本気で重い。
「動けるのかよ、これ……」
前に一歩踏み出す。
ゲーム内のキャラクターは自分の身長を優に超えている鉄の塊、超大剣を軽々と引き摺って動いていた。
「ええ……」
どうやら『武器重量制限の撤廃』の効果は確かに発揮されているらしい。
呑気に水を飲んでいる鳥のモンスターへ河原の小石を切り裂きながら駆け寄る。
全体重を使って超大剣を引っぱり上げる。下から上に弧を描いた剣先がモンスターの腹を切り裂いた。
「ギャッ!!!」
鳥のモンスターは白い翼を大きく広げて俺から距離を取った。
相手のHPゲージの2割ほどを飛ばす。ダメージも100の大台を超えていた。
「ええええええ!?」
俺は叫び、口を大きく開けて固まる。
HPの削れ方にまだ目を疑っていた。
〈凄!!〉
〈やば!〉
──これはきたかも……
ゾクリとした。
握りしめた超大剣を見た。




