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日給10万の闇バイトに応募したら異世界のダンジョン攻略配信者として閉じ込められた  作者: 夏草枯々


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5.マネー

 魔物たちのうろつく森を抜けて比較的安全な草原へと戻ってきた。

 穏やかな風が頬へ吹き付けている。さっきまでの死闘が嘘みたいだ。


「いやーにしても汗かいたー」


 大きく息を吐き出し額の汗を腕で拭う。

 見上げた城壁はまだ遠い。街までもう少しの辛抱だ。


 〈『500マネー』水代です〉


 画面に映るマネーのマークと一際目立つ色をした文字に、


「うぇあ!?」


 俺の口から変な声が出た。


「これってマジのお金に変えられるやつじゃね。うわ、あざす。500円の水あざす」


 早口でお礼を言い「しゃあ!!」とガッツポーズをした。500円、あのクエストの何倍も稼げるじゃねぇか。ヨシヨシヨシ、とテンションを上げる。

 これを今日の晩飯代にでも充てれば……


 その時不意にゲーム画面の外、現実の肩が叩かれた。


「ちょっと待ってて」


 頭から機材を外し後ろに振り返ると喫煙所にいた長髪の女性が立っていた。


「しー」


 人差し指を立てて子供に諭すように言う。

 周囲を見渡すと数名が俺を睨むようにして見ていた。機材を外し話し合いをしたり、青い顔をしてうなだれている人もいる。少し時間が経って皆、ゲームから距離をとったようだ。


「すいません」


 俺は肩を叩いた女性に向かって軽く頭を下げた。

 それから視聴者に貰った水代の分、ちゃんと水を飲むことにした。


「リアルでも猫を蹴ったりしてる人間だから平気で出来るんでしょ」


 水を飲み蓋を締めている最中、手を震わせながら参加者の1人が呟いた。先ほど俺を睨んできた参加者の1人だ。サイコパスなんだよ、と近くのチームメイトらしき参加者が同調する声が聞こえてくる。


 ため息を吐いた。


 ──どこで躓いたのか知らないが、こいつらは金がいらないのか?


 ここで辞めて100万の借金はどうするんだよ、とイラつきながら俺は機材を耳にあて現実の音を遮断する。

 その間際──


「いっぺん死んだらあいつも分かるよ」


 聞きたくない言葉、厳しい視線、貼られて落ちないレッテル。

 俺はゲームに逃げた。


「なんかうるさかったらしい」


 〈周りに人いるの?〉


「うん。結構いるよ。30人くらいはいる」


 草原の間に出来た細い道を進みながら〈お邪魔します〉のコメントに「いらっしゃい」と軽く返す。あれから視聴者数は10名と少しくらいに落ち着いていた。


 〈え?学校?〉


「いや、会社みたいなところ。バイト先なんだよね」


 いわゆる闇バイト的なやつだろうけど……と指で頬を掻きながら苦笑いする。


 〈やば笑〉


 〈バイト中に大声でゲームてイカれてるww〉


 〈バイトテロじゃん〉


 そうしてしばらく視聴者と会話しつつ歩き城門を抜けて街へと戻ってきた。


「そういえば、この素材とかってどこに保管すればいいの?」


 〈マップの右上の建物〉


「りょーかい」


 建物への道中一つの店の前で俺は立ち止まった。壁には乾燥した草花が掛かっていて、オレンジ色の粉が器に盛られて売られている。

 先ほどの戦闘で回復できる物を切らしたためちょうど回復薬を探していたのだ。


「あのー回復薬を3つ」


 カウンター越しに現れた店員はいかにも王都の町娘といった様相をした。

 頭に青い三角巾を巻いて薄茶色の服を着ている。


「はい。こちら3点で銅貨6枚となります」


 〈それ勝手に取って良いよ。代金分引かれるから〉


 差し出された回復薬を見ていると倫理観の欠けたコメントがきて目を疑った。

 突然右端を見上げて「ええ」と呟いた俺に店員は首を傾げていた。


「あっすいません」


 つい癖で小さく謝り『購入』と書かれたボタンを押す。

 金貨が銀貨に、銀貨が銅貨となって購入された。下の装備欄に新しく3つの回復薬が追加される。

 手持ちの金貨があと3枚。ほとんどが白いカマキリを討伐した時に拾った物だ。1つの金貨で200枚の銅貨となるので回復薬くらいならまだ買えた。


「意外と金……あるなぁ」


 追加で何か買っておこうかと店内を覗く。

 ふと足に何か触れる感触がある。

 見ると黒色の毛をした猫がいた。

 小さな体を俺の足に擦り付けながら黒い猫は「ナー」と鳴く。


「その子、たまにうちで扱ってる香辛料に寄ってくるんですよ」


 俺は「へー」と答えしゃがんで猫の頭を撫でた。手からは確かに毛の滑らかさとその奥にある小さな頭蓋骨の硬さまで感じた。


「お好きなんですか? 猫」


 頭上からカウンター越しに店員の声が聞こえてくる。


「ああ、そうですね。ずっと分かりやすいから」


 もう一度猫の頭を撫でようとする。猫は飽きたのかスイッと俺の手を躱していった。

 俺は猫の揺れる尻尾を見送ってから立ち上がった。


「異世界人の皆さんはあの子が来てもスッと立ち去ってしまうんですよ」


「へー、もったいない」


 俺は猫の曲がっていった路地の入り口を見ながら答えた。

 無料で猫を撫でられる場所なんてそうそうないのにな、と思う。

 店員が「あはっ」と声を出して笑った。店員らしからぬ反応に俺は眉をひそめる。ラフな店員だ。


「ほんと皆さん、もったいないですよね」


 と店員は深く頷いている。


 〈ここってこんなこと喋るんだー〉


「本当にな」


 コメントに答えたつもりが「はい」と声が返ってきて俺は苦笑いを浮かべ、その店を去った。

 頭を掻きながら、


「次から行きづれー……」


 と小さく呟いた。

 それからほとんどの金とアイテムを冒険者ギルドに預け、再び街の外へと出た。足を踏み出すたび疲労感がじんわりと身体にまとわりついてくる。それでも……


「結構かかったな」


 目の前に聳え立つ古城の先を見上げた。レンガ造りの年季の入った古城。所々壁が崩れて木の洞のように暗い穴を見せている。禍々しいという表現が似合う建物だった。


『ワープポイントを解放しました』


 扉の前にある石造りの祭壇のような場所に触れるとメッセージが出てきた。

 マップを開くとダンジョンと書かれたところの前にワープポイントの表示がある。


「これでいつでも移動できるようになったのか……」


 やっと一区切りついて伸びをする。

 道中、何度か戦闘もありそれを1人で全て対処した。死にかけた場面も少なくない。


「帰るか」


 1度ワープを使い街に戻り道中に得た戦利品をしまう。


 〈配信終わる?〉


 何気ないコメントが甘い誘惑に見える。朝から動きっぱなしで腹も空いていた。何より頭がぼーっとする。栄養が足りていないのだろう。


 ──ちょうど良いか……


 目を瞑り力を抜いて頭の重さに身を委ねる。


『事前に100万円分、金利年15パーセントでお貸ししております』


 不意にそんな言葉を思い出し背中に冷や汗が滲む。キュッと心臓を掴まれた気がした。


「くっそ」


 俺はマップを開きダンジョンの前へと戻る。

 そんな金はない。というか明日も視聴者から金が貰えないと生活がヤバいのだ。


「マジで俺、1週間以内に攻略しないといけなくてぇ!!」


 両開きの扉に手をついて押す。ゴゴゴと地鳴りのような音が鳴り地面が僅かに揺れる。

 ダンジョンの内部に入るローディングが挟まった。

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