4.レアモブ戦
〈お邪魔しますー〉
〈素材売って〉
視界の端に目をやると数字は6になっていた。瞬きの間に7に増えた。まだ増えるようだ。
「いらっしゃい。なんかいたからよぉ、1人レアモブ狩りだわ」
剣を大きく振りかぶり白き双剣の狩人に叩きつけた。
ダメージが数字として現れて敵のHPバーを僅かに削る。
俺をようやく敵と認識したらしい白き双剣の狩人は地面につけた4つの細い脚を器用に動かし距離を取ってくる。カサカサと地面の枯れ葉を踏み締める音がリアルで少しゾクッとした。
〈え、2レベ!?〉
〈装備欄に何も入ってないしマジの初心者?〉
〈ラッキーマンだ〉
「装備欄? 何それ?」
首を傾げながら白き双剣の狩人に距離を詰める。
白き双剣の狩人は両手の鎌を高く振り上げ威嚇する。紫色の波動が周囲に飛ぶ。画面上部の端に紫色のマークがつく。砕けた鎧のマークだ。
「俺ラッキーマンなの? ラッキーラッキー、ラッキキー」
歌いながら事前に練習した通りの前転で振り下ろしてくる白い鎌を躱す。
練習には無い風切り音が耳元で聞こえた。
「おお、危ねえ」
腕に鳥肌が立ち心臓もバクバクと動いている。あまりの音のリアルさに体が本当に化け物と戦っていると錯覚したようだ。
〈装備欄は下のUIのバーにアイテムを入れたら出来るよ〉
コメントを見ながら白いカマキリの様子も伺う。
鎌を横に倒し広範囲の薙ぎ払い。
「くっ……」
背を反り体を後ろに大きく倒して顎を引く。
鎌が鼻先を通り過ぎると同時に冷や汗が吹き出した。
〈腹筋凄!!〉
〈いや、椅子の力じゃね?〉
どんな椅子だよ、とコメントに目をやっていた瞬間、白いカマキリの地面についている方の細い脚で踏まれた。キャラクターが大きく後ろに吹き飛ぶ。
「ええええ!?」
HPの8割が無くなりゲーム内のキャラクターはゼェゼェと声を荒げている。
「おい! 足を踏まれただけだぞ!」
〈厳しそー〉
ふと見えた〈逃げたら?〉というコメントにカチンとくる。
「ああ!? こんな金塊を前にして逃げ出す奴があるかよなぁ!!」
一際でかい声が出た。
剣を構えて白いカマキリに距離を詰めていく。
〈やば笑〉
〈死んだら装備全ロスね、頑張ってー〉
なにそれ、と呟きピタリと足が止まる。次の装備を買う金なんて無い。
「モ○ハンの回復薬みたいなのってないの」
というかあるはずだ。
初心者講座では『回復の時には落ち着いて距離を取ろう』と書いてあった。
〈メニューからバッグ開いて消費アイテムの欄のところ〉
「バッグね。ちょっと待って」
白いカマキリは両鎌を振り上げていた。
近づく両方の鎌を視界に捉える。
体でリズムを作りタイミングを合わせる。
クロスに閉じられた鎌の隙間を縫うように潜り抜けていく。
〈うま〉
白いカマキリから距離を取りバッグを開く。
「回復薬。これか」
ゲームのキャラクターが酒のように瓶に入った緑の液体を大きく呷って飲み干す。
「後は装備欄だっけ。これも、覚えているうちに」
回復薬を選び下の空欄に嵌める。これでボタン1つで使えるようになったらしい。
〈そう〉
〈ナイス、立て直し〉
俺はコメントに対し「しゃああああ」と叫び片手で剣を高く掲げた。
「楽しくなってきたなあ! おい!」
剣を振りかぶりながら高く飛び白いカマキリに重力を乗せた剣を叩きつけた。
〈いける!〉
〈マジである〉
白き双剣の狩人の残りHPはあと僅かとなっていた。
「あるある! マジである!」
キャラクターの方もHPはほぼ無く、ずっとゼェゼェと息を切らしている。
回復薬どころか回復できる物は全て使い果たした。
白いカマキリは両方の鎌を交互に振り下ろし迫ってくる。
「ハッハッ……」
白いカマキリに背を向けて全力で走った。その度に手を振って足を上げ動かす。白いカマキリは最後の振り下ろしの後に大きく羽を広げて急停止をした。
何度も見て覚えた攻撃モーション。
「その後隙を待ってたよ!」
地面の枯れ葉を舞い上げながら振り向き様に一閃。
大剣が大きく弧を描く。
白いカマキリのHPバーがついに、消えた。
ドロップ品が辺りに散らばり、金貨の落ちる音が鳴る。
一気にレベルが2つも上がった。
「うおおお!!!」
俺は両手を広げ空に向かって吠える。
心の底から気持ちよかった。
〈きたー!〉
〈ナイス!〉
〈マジかよ!?〉
コメント欄の動きが早い。
視聴者数はいつの間にか10の大台を超えて、
「34人も見てくれてんの!? いやーみんなありがとう。色々教えてくれて」
ゲーム内から時間を確認してみると30分以上動き続けていたらしい。
額に汗をかいていて、息が切れている。それでも疲労感より温かい充実感の方が心に満ちていた。不思議といつも心の底で渦巻く焦燥のようなものも薄れている気がする。
〈素材どうする?〉
「これはねぇ……まぁ一旦保留かな。売りたいけど、街に1回帰って置いてくるよ」
もしかしたら自分で必要になるかもしれない。
その時、再び自分の財布を開き買い直すのは馬鹿らしい。色々と分かった後でも良いだろう。
「で、そのあとダンジョンに行くよ。1週間以内に3層を攻略しないといけないんだよね。俺」
100万の借金があるからとは流石に言えなかった。
〈え?〉
〈3層は無理じゃね?〉
〈3層の攻略した人、今世界でも100人いないと思うよ〉
〈1週間は無理っす。兄貴〉
コメント欄でも否定的な意見が圧倒的に多い。
それでも俺は──
「まあ、やるしかないからさ。見ててよ」
ニッと笑って視聴者たちに答えたのだった。
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