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日給10万の闇バイトに応募したら異世界のダンジョン攻略配信者として閉じ込められた  作者: 夏草枯々


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27.リベンジ

「コワ……サ、ないト」


 蒸気の噴き出す音がする。ロボットが体を起こし、頭を上げる。機械の駆動音と共に画面上部にHPバーが伸びていく。


「リベンジマッチだろ。スチーム・ギア!」


 超大剣を抜き放ち、走って一気に距離を詰める。

 ボスの頭が赤く光る。まずは挨拶がわりのレーザービームか。


 俺とバニィの間に赤い線が伸びて、部屋が揺れた。熱波が背中を焼く。奥歯に力を入れて、さらに走る。

 風切り音がして、俺の背後から飛んできた矢がボスのHPを削った。


「よお」


 目の前に立ち塞がる鉄のロボットを見上げながら背負うようにして縦に超大剣を振りかぶる。

 ボスの両肩から白い煙が吹き出し、鉄の拳が俺の頭めがけて右から迫った。


「おっと、まずいか」


 超大剣から手を離す。

 けたたましい音がして、超大剣が後ろの床に落ちた。

 俺は身軽になった体で超大剣を飛び越えて下がる。まるで電車みたいな迫力の拳が目の前を通過していく。新調した軽めの鎧が風圧に揺れていた。


「いくぞ!」


 ボスは既にもう片方の拳も振り上げていた。

 前に走り込む。左から拳が迫ってくる。


「ぶち抜く」


 足から滑り込んで体を横に倒す。

 床に体が触れた瞬間、止まるだろう。

 俺は滑り込んだ勢いのまま、掬うようにして超大剣を掴む。同時に鉄の拳が耳元を通過していく。

 足でここまでの勢いを全部殺して踏ん張り、持ち上げる力に変える。


「蒸気噴出」


 加速の乗った超大剣に導かれて体は宙に浮く。弧を描いて人型の部分に刃先が届いて、200近いダメージが出た。


「よしっ」


 超大剣を背負ったまま着地した。心臓が吠えるように強く動いている。


「はははっ」


 盛り上がるコメント欄を横目で確認する。


「五式・流星」


 青い光がボス部屋を照らす。


 ──ここまでは順調。


 俺がここから気をつけるべきはまず回復薬の数だ。

 前回はボスのHPが半分切った辺りで7割近い消耗をしていた。それじゃあ後半を戦えない。


 〈ファイトー!〉


 視界の端でコメントを見て「ああ」と答えた。

 こんな社会の落ちこぼれを見てくれる人がいる。


「楽しんでくれよ」


 ボスの右肩から蒸気が上がり、真っ直ぐ俺に向けて拳が突き出される。

 俺は自分自身に「見ろ」と強く言い聞かせた。危険が迫る時、体は勝手に力を入れて衝撃に備えようとする。だが、本当にやるべきことはそもそも当たらないことだ。当たった時の痛みはさらに体を硬くさせ、負のループが始まってしまう。そうなれば終わりだ。


「ぐっ……」


 歯を食いしばり顔を傾けて、すんでのところで躱す。

 うねる風が強く吹いて風圧で肌が後ろに持っていかれそうになった。


「うおっ!?」


 ボスの両肩から蒸気が噴き出す。

 つまり、両手で攻撃がくる。


 蚊を潰すように両方の手のひらが俺に向けて迫っていた。


「くっそ!」


 180度回転して頭から床へ飛び込む。

 プレス機のような音が後ろから聞こえて、血の気がひいた。


「いい感じです。浪井さん!」


 床から顔を上げてバニィの声がした方を見る。床に打ち付けたデコの当たりがジンジン痛んだ。

 バニー姿の人間が自分の背丈ほどある弓をつがえる姿に、


「絵面が強すぎるな」


 そんな感想が思わず出る。


「えへっ」


 バニィは調子良く頬に手を当てポーズをとる。

 俺は苦笑いで答えておいた。


「バニィも配信つけてんのか?」


 ふと俺は新人ライバーランキングのことを思い出す。

 色々考えて頑張っているバニィのランキングがこれ以上下がるところを俺があまり見たくなかった。


「ええ、つけますよ。配信タイトルは浪井さんの工場デート、ハートです」


 配信をつけていることにホッとする気持ちはあったが「ははは」と空笑いで答えておく。


「それを男が書いてると思うとゾッとするな」


「だからー、両方半分ずつですって」


「半分ってことは四捨五入すれば男だろ?」


「……四捨五入すれば女の子でもありますよ」


「まあ確かに」


 丸め込まれたような気もするが、突き出される拳を躱しながら『蒸気噴出』のスキルが戻ってくるのを待った。


 ふいに赤いレーザーポインターが視界にチラつく。

 瞬時に俺は体を前に倒して走りだす。


「なっ」


 想像より近くで爆発が起きた。

 背中を持ち上げるような熱風にバランスが崩れる。

 咄嗟に床に手はついたが、背中から蒸気の噴き出す音がした。俺に覆い被されるように影が伸びる。


「浪井さん!」


 バニィの声がすると同時に俺は床を転がっていた。床が揺れている。最後に見えたのは俺に向けて飛び込むバニィの姿で……


「バニィ!?」


 顔を上げた。

 床から鉄の拳がゆっくりと上がっていく。

 その下、血溜まりの中でバニィが倒れていた。


「おい!」


 俺は回復薬を開けてバニィの背中に注ぐ。

 焼けた鉄の床が凹んでいた。


「リアルだったら、死んでます」


 へへ、と軽く笑いながらバニィが顔を上げて回復薬を取り出した。

 また蒸気の噴き出す音がする。

 後半にも仕事があるバニィにはこれ以上無理をさせられない。


 短く床が揺れる。

 見上げた俺は「なっ」と口を引き攣らせた。

 鉄の巨体が飛んでいた。両手を握り合わせて出来た鉄塊が俺たちの頭上から迫る。


「蒸気噴出」


 咄嗟の行動だった。

 空中で超大剣と鉄の拳がぶつかり火花を散らす。

 僅かな拮抗の後、ボスの攻撃が少しずれた。


「まだだ」


 俺はボスに向かって走り込む。バニィの体力はまだ完全に回復していない。

 ボスが僅かに片足を引く。


「は?」


 危うく正面から蹴られそうになった。初めて見た攻撃だ。上体ばかりがデカい不釣り合いな体躯で無茶をしてくる。


 さらに拳が続いた。

 頭上から片手を振り下ろす攻撃。なんとか拳を視界にとらえながらタイミングを合わせて躱す。


 空気が揺れていた。

 衝撃は左の腕からやってきた。肋骨や背骨がミシッと軋む。体が歪んでいく。視界が回った。


「ガハッ……」


 気づけば壁に叩きつけられていた。口から肺が出ていきそうな衝撃だった。

 そのまま床に崩れ落ちる。辛うじて分かる床の冷たさが救いだった。まだ熱を感じている。


「浪井さん! 浪井さん!」


「大丈夫」


 騒がしいバニィの声がする。俺は手をついて、体を起こす。

 実際、三半規管にダメージをもらい気持ちが悪かったし未だに目も回っていた。バニィの姿もよく見えない。


「生きてるから」


 HPはほぼ無い。

 おそらく新調した防具たちでなければ死んでいた。


 〈あぶない〉


 〈セーフ〉


 体が痺れるように震えている。

 回復薬の瓶の中で液体が波打っていた。


 ──お気をつけて。


 俺は一気に瓶の中身を飲み干す。


 〈やっぱりまだ無理か?〉


 長く吐き出した息が震える。

 俺は目を見開き、歯を食いしばって走り出す。


「五式・流星」


 ボスは両肩から白い蒸気を上げ、手のひらでバニィを蚊を潰すみたいに挟もうとしていた。

 バニィはダメージを優先したようだ。人型の部分で青い光が爆ぜる。


 ──それでいい。


 俺は肩からバニィに突っ込む。突き飛ばされた細い体躯が床を滑っていた。


「ぶん回し」


 円を描いた超大剣の軌跡が左右から押し寄せる手のひらを弾く。

 ボスが僅かにその体勢を崩し膝をつく。


「なーにが微妙なスキルだ! 何がまだ無理だ!」


 超大剣をしまって手を振り上げ走る。


「これで勝ちにいくに決まってんだろ!」


 超大剣を抜き放ち、初撃必殺の効果を載せた一撃。


「見とけ!!」


 俺は吠えた。

 ボスの残りHPが半分を切った。

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