22.ベルトコンベア
「と、啖呵を切ったものの……」
やはりダメージはバニィの弓が頼りなことは変わりない。
俺はバニィとボスの間を陣取りながら攻撃の機会を窺っていた。
ボスが蒸気を噴かせて接近してくる。
蚊を叩くように鉄の壁が左右から迫った。俺は後ろに飛びながら引く。
「くっ」
片足が挟まれた。体が持ち上がり、世界が回転していく。
激しく床に叩きつけられたのち、跳ねた。
「ああ……」
背中からの衝撃が鼻の先まで響く。
それなりの防具を着けているはずだが、HPはもうほぼない。
「大丈夫ですか!?」
バニィが駆け寄ってくる。
軽く頷き、荒い呼吸を整えた。ボスが俺を睨みつけながらその頭部を赤く光らせる。
「次から次にっ!」
床に手をついて立ち上がり、その場から駆け出す。
赤い光が俺を捉えた。
「くっそ!」
床に向けて飛ぶ。
両手で衝撃を受けて前転でさらに距離を取る。
熱風が背中を焼けつけた。
痛みに震え、呼吸が止まる。
「危ねぇ……」
またギリギリの状態に逆戻りだ。
回復する隙も無く、鉄の拳が頭上から降ってくる。
勿体ないな、と歯を食いしばり、
「蒸気噴出」
超大剣と共に距離を取った。
「残り半分切りますよ!」
バニィが弓を構えながら叫ぶ。
ああ、と答え風を裂く矢の音を聞いた──
画面が暗転する。
「いつもの、ですよね?」
そこは寂れた小さな食堂のように見えた。酒も提供しているらしく、作業着の人々はそれぞれの机で酒盛りを始めている。社員食堂かと思ったが一般のお客さんも少しだけ混じっていた。
「ああ、はい。お願いします」
カメラが向けられたのは、あのロボットに張り付けになっていた従業員だった。
1人、席に座り食堂の店員に頷いている。
「お疲れ様です! 部長!」
食堂内で誰かが言う。
この主人公の従業員も同じように顔を上げ「お疲れ様です!」と声を張った。
「いーよ、いーよ。ここではお客さんいるから静かにね」
手で従業員たちを止めた。
部長は腹が出ていて貫禄があった。
「あっ、いたいた」
部長が主人公に近づいてくる。
「食事中に悪いけど、昼に渡した見積書ってどうなってる?」
「デスクにあります」
「あーそう。悪いけど取りに行ってくれないかな。上の商談で現場の人間が欲しいらしくて、朝イチで王都の方に向かうことになったから今見ておきたいんだよね」
主人公は頷き、食堂から出て行く。
木製の小さな家々が点在する村の中に1つだけ城塞のような施設がある。
場違いなそこに向かって主人公は進んでいた。
「あった」
ゴワゴワした布のような紙を従業員は見た。
金額1万枚以上の取り引きの見積書だ。数種類の魔道具の名前と送る数が書かれている。
──相手はどこかの国の軍隊か。
国相手の取り引きらしい。壮大すぎる話だ。
主人公はしばらくその書類を読み込んでから呟いた。
「世界が待ってる……」
視界が再びボスと対峙している部屋に戻ってきた。
「壊せない。アア、壊すことなど、そうだ! 出来ナイ!」
真ん中で従業員が顔を上げて叫ぶ。
ボスが両膝を床につけた。
「システム、再稼働。作業ヲ再開シマス」
天井に白い灯りがつく。
手で光を遮りながら目を細めた。
グォンと機械の作動する音が聞こえて、足元が部屋の中心、ボスのいる所へと動き出す。
「なっ、なっに!?」
俺はベルトコンベアの上にいるらしい。
慌てて立ち上がり反対方向へと走る。だが壁は遠い。
「異物ヲ発見。排除シマス」
赤い光が体の後ろから伸びている。
顔を上げるとチラチラと壁の方に赤い光が見えていた。
避けようと体を引く。
「おわっ!?」
動く床に足を取られてすっ転んだ。
視界の端が赤く光り頬に熱波を浴びた。
「まずい……」
伸びた鉄の腕が倒れた俺の真正面から回ってくる。
──避けられない。
悟って歯を食いしばり目を瞑る。
初めにぶつかった膝が砕けたのが分かった。次に額、一番引っ込めていた腹に当たる頃には、床を激しく転がっていた。
「ああ、あああ」
呻き声を漏らしながら瞼が落ちていく。
体はもう、動かない。
僅かな視界の隙間でこちらに駆け寄るバニィが見えた。
「……ここか」
俺は神殿にいた。
ステンドガラスから色とりどりの光が差し込んでいる。
〈勝てなくね?〉
〈ナイスファイト!〉
〈つええええ〉
座り込んだままコメントを見て汗が引くのを待った。
隣に青い顔をしたバニィが突如、現れる。
「ああー、あのボスっ! ほんっと、弓で勝たせる気ないでしょ!」
バニィが眉間にしわを寄せたまま言う。
開口一番に文句が出るならメンタルの方は折れてないだろう。
「ムキーー!!」
ベンベンベンと机を叩く音が聞こえてくる。
ハハハと俺は浅く笑った。
「……一旦休憩しますか?」
声のトーンから気遣ってくれていると分かる。
いや大丈夫、と首を横に振った。
それから少し言うのを躊躇ったものの俺は、
「あのさ、零式は自分には使えないのか?」
とバニィに聞いた。
「使えますよ。自分で自分に矢を刺します」
「なら」
俺は防御に徹するよと言おうとした俺に被せるようにしてバニィは「でも、浪井さんに使います」と言い切った。
返す言葉が出てこない。
しばらく俺は口を開けたままいた。
「なんで」
言葉をなんとか絞り出して聞く。
バニィは俺よりも強い。
火力という面でもそうだが弓の方が攻撃を当てやすいだろう。
前半は特にだ。
バニィはフッと寂しげに笑う。
「浪井さんはゲームを楽しめる人ですから」
そう言って目を細めた。
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